ベイジン 上 (幻冬舎文庫 ま 18-1)

著者 :
  • 幻冬舎
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  • Amazon.co.jp ・本 (401ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784344414686

作品紹介・あらすじ

中国の威信を賭けた北京五輪の開幕直前。開会式に中継される"運転開始"を控えた世界最大規模の原子力発電所では、日本人技術顧問の田嶋が、若き中国共産党幹部・〓(とう)に拘束されていた。このままでは未曾有の大惨事に繋がりかねない。最大の危機に田嶋はどう立ち向かうのか-。時代の激流と人間の生き様を描く著者の真髄が結実した大傑作。

感想・レビュー・書評

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  • 舞台は2008年中国。建設中である世界最大級の原子力発電炉は、北京五輪開幕に重ねる形での運開を計画していた。技術顧問として日本から派遣された田嶋は、日本とかけ離れた文化・体質に苦悩しながらも、原子力発電炉の安全運開に向けて奮闘するが…

    福島第一原子力発電所事故を髣髴とさせることから、物語の後半に発生するシビアアクシデントに目を奪われがちですが、あくまで描くのは、中国社会の光と影です。
    光が、物語で頻出する「希望」であるとすれば、影は中国が抱える「現実」といえるでしょうか。この光と影を北京五輪と原子力発電炉を題材に畏れることなく、描ききった著者に賛辞を贈りたいです。

    北京五輪と原子力発電炉を題材にするのは巧妙ですね。
    北京五輪が中国社会を発展に導く希望であるとすれば、世界最大級の原子力発電炉は、現在でこそ福島事故により世論の後退が激しいですが、当時は世界のエネルギー問題を解決する希望であったでしょう。そんな光の強い両者だからこそ、影の部分がより鮮明に写ります。
    そして、この中国社会の影を知ることがとても面白かったです。
    たとえば、「いつ使うか分からないものは、いま必要な者が使う。それが、中国なんだよ、田嶋さん」 これは、度重なる所内の窃盗に対する原子炉運転開始責任者・鄧の見解ですが、なんともリアルな表現ですね。
    また、光と影のそれぞれに二面性を感じます。
    北京五輪も希望といいつつ、結局は中国共産党の面子を保つだけの虚飾であったり、一方の影の部分では、汚職文化に飲み込まれず信念を貫く者がいる。こういった単なる光と影ではなく、それらに深みを持たせる描き方が、より中国を知れるきっかけとなりました。

    さて、賛否両論のラスト。
    物語としては尻切れに終わってますが、あえて描く必要がなかったのでしょう。「希望を勝ち取ってよ」という麗清の言葉を借りるならば、彼らが希望を勝ち得たのか、それは個々人が現実の中国をみて判断せねばなりません。

  • この作品は2008年が舞台なので今から約15年前の設定だが、中国という国の官僚主義、拝金主義、原発の難易度の高さなどはほとんど変わっていないのではないか。変わったのは15年前よりも中国の国際的なステータスが上がった事だろう。
    そういう意味ではこれから先は中国との付き合い方はもっと難しく重要になる。
    この作品はそれらを題材にしながらも、根底には国家を超えた人間同士の信頼関係や絆を築き得るというメッセージが込められている。
    蛇足になるが最後の終わり方は賛否両論あるだろう。私個人はもう少し最後まで書いてほしかった。

  • (上下巻合わせてのレビューです。)

    真山さん久々の文庫本。
    予想通りというか期待通りというか、
    750ページを超える長編なのに
    続きが気になって気になって仕方ない感じ。
    寝る間を惜しんで、あっという間に読みきってしまった。
    特に後半からのラストスパートはお見事!

    話は、原子力発電開発を支える日本人技師と
    中国人エリートの物語。
    中国国内の腐敗の様子や気質等、
    日本では味わえないことがたくさん疑似体験できる。
    改めて、世界の価値観は多様性に富んでいると感じた。

    中国に興味のある人、もっと知りたい人は
    是非読んで下さい。

  • 大作。そして傑作。

    上巻は読み進めることがつらくなるくらい苦しい。
    理解できない文化の違い、と一言で表していいのか躊躇うほど、
    中国という国へ対しての不信感、嫌悪感が掻き立てられていく。
    ほとんどの登場人物を嫌いになるのではないかと思うほど。

    それがだんだんと、
    すでに出来ている文化の在り方や、そこで育まれた人々の性質を
    自分の価値観に照らし合わせてただ厭わしく思うということは、
    知らないものをただ闇雲に恐れているということなのかもしれない、
    という感覚にも似たあいまいな考えが、自然と自分の意識に染み込んでいった。
    この国についてもっと知りたい、好きになりたいとも思った。

    なだれこむようなラスト。
    この先にあったのは、絶望なのか希望なのか。
    できれば後者であって欲しいとひたすら願う力を与えてくれる作品。

    読み終えたあとの興奮は、今までの作品では出会わなかったもの。
    誰かに薦めたくなる作品。

  • まるで、福島第一原発事故を予測していたかのような内容。

    真山さんの社会問題を取り上げて読者に突き付ける書き口は、やっぱり見事だしすごい。

    いろんなことを思うけど、確かなのは、原発の問題はものすごい政治的で、簡単に決められるものではないということ。
    原発大国フランスでも、日本でも、中国でも、同様なのだと思う。

    原発って一国だけの問題じゃないってことを、多くの人が見落としてる。
    途上国はエネルギー不足で原発を建設したい。でも技術がない。そうなれば、原発大国のフランスや日本、そしてアメリカなんかの力を借りることになる。
    原発は巨大な利権施設でもあるわけだから、技術を持ってる国は原発建設したい国と契約を結びたいわけで。
    そこから巨大な利益が生まれるし、国家同士の結びつきになるから、どうしても政治的な話になってくる。
    石油同様、国際的な関係が絡む複雑で繊細な問題だと、個人的には思ってる。

    慎重に議論をして、迅速に決定を下していかなければならないと感じます。

  • さすが真山仁!巨大原子力発電所建設の裏側でうごめく政治的な駆け引きや人間関係を見事に描き切った傑作です。ちょっとだけ残念なのは、なんか途中で終わってしまった感が漂うほど唐突な終わり方と関係者が全員ハッピーエンドじゃないねと思うほど希望のない終わり方だったことですが、全体でみると、さすが真山仁ですね!

  • 20160403読了

    今2つのストーリーが交互に進んで行く 時系列が結構前後する

    今後どうなるってところで上巻は終わった

    中国のあの制度の中で原発を作るのは恐ろしい

    対岸の火事で済まない

  • 北京オリンピックに合わせ運転開始が計画される世界一の規模である原子力発電所建設計画。そこに技術顧問として赴任する田嶋は現地工員と力を合わせ運転準備を進める。
    政治的妨害や権力争い、杜撰な中国人文化を乗り越え無事運転開始を迎えることができるのか。

  • 東日本大震災以前の作品と思うとゾクッとする。
    原発に関しての思いを深くした。

    諦めや絶望からは何も生まれない、希望は努力して奪い取るもの。

  • 日本人らしい日本人と巨大な中国とのせめぎ合いだと思った。

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著者プロフィール

1962年、大阪府生まれ。同志社大学法学部政治学科卒業。新聞記者、フリーライターを経て、2004年、企業買収の壮絶な舞台裏を描いた『ハゲタカ』でデビュー。映像化された「ハゲタカ」シリーズをはじめ、 『売国』『雨に泣いてる』『コラプティオ』「当確師」シリーズ『標的』『シンドローム』『トリガー』『神域』『ロッキード』『墜落』『タングル』など話題作を発表し続けている。

「2023年 『それでも、陽は昇る』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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