- 本 ・本 (344ページ)
- / ISBN・EAN: 9784344414754
感想・レビュー・書評
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主人公•神山啓人は高校2年生。五つ歳上の兄と同じ県立大宮本田高校に通っている。兄が活躍した文化祭「田高マニア」に魅せられて入部した軽音楽部だったが、先輩達のしでかした不祥事のせいで廃部の危機に追い込まれてしまい…。
青くて眩しい青春グラフィティ。一人一人集まってくる仲間たち。顧問になってくれる教師を探す苦労。同級生から向けられる白い目。そして、分かり合えたときの喜びと共感。
何もかもがベタで甘々で予定調和。だが、そこがいい(笑)日本の高校生には、この自由を謳歌する世界を未来永劫続けていってほしい。そう願う。
…ベース担当の伸太郎が"ひらがな"で口ずさむKISSの名曲の数々。わかる、オッさんにはわかるぞ。全部歌えるぞ(笑)詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
いやはや、まさか
これほどまでに胸が熱くなるとは…
悲しい物語では決してないにもかかわらず
クライマックスのライブシーンには
アラフォー男の目からも
とめどない水が…( >_<)
(いやいや、一応断っておくけど決してお涙頂戴の話ではないので
そこは期待しないよう…汗)
廃部寸前の軽音楽部を建て直すため奔走する高校生たちを描いた
純度200パーセントの青春学園ストーリーだけど、
実は物語終盤まで劇的な展開は何もない。
淡々と過ぎる日常や
部室も与えられず
薄暗く蒸し暑い学校の階段での練習場面や
メンバー集めにも四苦八苦する中
悶々と過ごす少年たちの
むしろ地味目な日々の描写が続く。
しかーし!
その淡々とした描写の積み重ねこそが物語の芯を作り
共感を呼ぶリアリティを生んでるし、
上手くいかない雌伏の時をキッチリと描いてるからこそ
最後の最後に読者は
「読んで良かった」という
最高のカタルシスを得られるのだろう。
(山下敦弘監督の傑作青春映画『リンダリンダリンダ』の手法を思い出したけど、クールな『リンダリンダリンダ』に比べて、熱さでは断然コチラが上です笑)
主人公はロックな兄に憧れ軽音楽部に入部した
少し優柔不断な高校二年生、神山啓人(かみやま・けいと)。
チビだけど猪突猛進の熱血漢で
ハードロックバンド、KISS命の
ベーシスト、九十九伸太郎(つくも)。
卓越した演奏技術を持ち、いつも女子生徒に囲まれている
イケメンギタリストの嶋本勇作。
高圧的な顧問のやり方に嫌気が差し
吹奏楽部をドロップアウトした
初心者ドラマーの岡崎徹。
この4人のバンドメンバーがみな
一癖もふた癖もあって面白いんだけど、
越谷さんは脇役陣の造形にも決して手を抜かない。
いつもヨレヨレの白衣姿に
ビートルズのようなマッシュルームカット、
無口で存在感0なのに
ここぞという時に意外と頼りになる(笑)
国語教師で
軽音楽部顧問の加藤先生(カトセン)。
啓人が淡い恋心を抱くクラスメートで
女子水泳部に所属する
明るくて大食いで
ショートヘアのボーイッシュな女子高生、大野亜季。
軽音楽部の宿敵であり、女子水泳部顧問の鬼教師、森淑美(よしみ)など、
魅力的で血の通った登場人物たちの効果なのか
読んでいると自然と映像が浮かび上がるのだ。
そしてそして
青春小説でもあり優れた音楽小説でもあるこの作品には、
KISSやラモーンズ、T.レックス、クイーン、ガンズ・アンド・ローゼズ、グリーン・デイ、オフスプリングなど
たっくさんの心躍るロックの名曲が満載なので
洋楽ロック好きなら
曲名を目にするだけで
もうニヤニヤが止まらなくなること請け合い(笑)
何を隠そうこの僕自身も
16歳でローリング・ストーンズと出会いバンドを組み
文化祭での初ライブの快感に味を占めて以来、
実に23年
今も同じバンドで活動している。
だからこそ、やり場のない怒りや正体不明の不安に揺れる思春期に
ロックという表現方法に惹かれた彼らの気持ちが僕には痛いほど解るし、
そんな彼らが初ライブを行うまでの紆余曲折の物語は
どうしようもなくリアルに胸を射抜くのだ。
(練習後にファーストフード店ではなく駄菓子屋にたむろするシーンなんて、我が高校時代を思い出して頷きまくったし笑)
人は誰も記憶の曖昧さからは逃れることはできない。
かけがえのない思春期の頃の記憶も
いつの日か儚く消え去ってゆく。
だからこそ抗うために
僕は何度となくこの小説を読もう。
バカでアホで無軌道で
無駄に熱かったあの頃の思いを
せめて忘れないよう。 -
「ばでぃよらぼーいめいかびっのーいぷれいんだすとぅりーごなびあびっまーんさむでい・ ゆがっまどーんよふぇいすっ・よびっでぃすぐれいすっ・ききんよーきゃーんのーおばだぷれいす・しんぎんっ」
兄の時代には黄金期だった軽音部、啓人くんの時代は暗黒期。
先輩の不祥事で廃部に追い込まれそうになりながら文化祭田高マニアで演奏するために奮闘する、汗と涙、友情と努力、恋とロックンルールの青春小説。
困難に立ち向かう若人たち。いやーいいですねぇ♪( ´▽`)
最後演奏するときは読みながら音楽が聴こえるような感じに没入してました。
でも、ぶっちゃけWe Will Rock Youしか知らなかったので読み終わった後、YouTubeで他の曲Check‼︎
で、も1回最後の所読みました(笑)
この本を紹介くださったポプラ並木さん、ありがとーございました(๑˃̵ᴗ˂̵)
とても面白かったです。
うぃー・うぃーる・うぃー・うぃーる・ろっく・ゆー♪ -
冒頭───
洟がとまらない。
拭っても拭っても、鼻水はしつこく唇の上を濡らす。
バッグの底で潰れていたポケットティッシュはすぐに底をついてしまい、足元のダンボール箱の中から古びたクリーニング・クロスをひっぱり出すと、神山啓人はおもいきり洟をかんだ。もったいないとはおもわなかった。どうせ捨ててしまうのだ。
『新潮』『角川』『集英社』の夏フェス100冊に対抗し、本の雑誌9月号が独自で100冊を選出しようという企画があり、それに選ばれた一冊。
まさに『ザ・青春小説』。
高校の軽音楽部廃止の危機に瀕し、啓人、伸太郎、勇作、徹ら四人の若者が立ち上がり、文化祭でのステージ演奏を成功させようとする。
廃止にされかかった理由は、やる気のなかった軽音楽部上級生による覚せい剤所持による逮捕という事件。
存続のために学校側から厳しい条件を付けられるが、厳しい環境のなか、部員の腕前は着実に上達していく。
遠巻きに避けられていた周りの生徒たちからも認められ、文化祭に向けて徐々に期待が高まるが、直前で思いもかけぬアクシデント発生。
軽音楽部存続最大の危機が訪れる。
それでも、望みを捨てずに出場を決意する四人。
迎えた文化祭当日。
そこには驚きの舞台が待っていた。
”青春=熱い”という単純な構図がぴったり当てはまる実に爽快な小説だ。
夏の眩しい日差しが目に浮かび、ロックミュージックの音楽が耳にこだまする物語。
クイーンの「うぃー・うぃる・うぃー・うぃる・ろっくゆー!」が耳の中で何度もリフレインした。
遥か昔の自分の高校時代の文化祭を思い出した。
良かったなあ、あの頃は------。
越谷オサム『陽だまりの彼女』は甘すぎてイマイチ乗り切れなかった私だが、この作品はツボにはまった。 -
いいですねぇ、これぞ青春小説、という感じで。ものすごく気分が爽快になりましたよ、ワタシは。
越谷さんは『陽だまりの彼女』を読んだ時にも感じたのだけれど、登場人物のキャラ設定がものすごく魅力的ですねぇ。まあこれはある意味小説家が持っているあたりまえの資質なのかもしれませんが、そういう個性的な人物たちが好き勝手騒いでいく不協和音がいつしかきれいで美しいハーモニーになる、という瞬間が実に見事。うわ、うまいな!と思わず膝を叩いてしまう感じ。
こういうエンターティナーの才能は素晴らしいと思いますね、物語を紡ぎ出すテクニックというか構成の巧みさも含めて大好きな作家さんです。
こう突き抜ける爽快感というのかな、写真で言うと「ヌケの良い描写」みたいな、青空がスキッと広がっているさまをそのイメージ通りに描写できるというのはじつはスゴイことなんですよね。そういう性能を持つレンズって実はそんなには無いんだよね、意外なことに。
読み進めながらそういう印象を受けました。
この本を読んでいる間はずっと、最近はもっぱらミュージックプレイヤーと化している感のあるGalaxy S2 LTEに詰め込んだ
Green Day
The Ramones
Offspring
KISS
Queen
などを何度も何度も繰り返し再生していた。
いいねロックは。やっぱ人生ロックしてロールしなきゃなぁ、と。
ガバガバヘイガバガバヘイというとRamonesのPINHEADなんだけれど、どっかでこのガバガバヘイをしつこく描写している小説があったよな、と思って記憶をたどると伊坂幸太郎さんの『砂漠』でした。あの作品も大好き。 -
まさに青春小説!である。
多少御都合主義的な点は見受けられるが、それもまたいい。 -
いやあ面白かったなあ。これも「夏の100冊」からなのだけど、そのラインナップをなんであんまり読んでなかったか、その理由を思いついた。「青春小説」というのも、「家族小説」と同様、避けて通ってきたからなのだ。自分が若かった頃の記憶が生々しい頃って、かえって「青春小説」というヤツを読まない天の邪鬼は、私だけじゃないと思うのだが、どうだろう。
だって、書かれているのが、キラキラした「飛び出せ青春!」みたいなのだったら「あーそー」って気になるし、屈折した暗ーい心情だったりしたら、そういうのは現実で十分です、と思うだろうし。そういう明暗、光と影、希望と絶望、あれこれひっくるめて、みんなかけがえのないものだったと振り返ることができるのは、十分年月がたってからじゃないだろうか。少なくとも私はそうだ。
青春小説とはいっても、中年になってから振り返る形で書かれたものが好きなのは、きっと作者のそういう気持ちを共有できるからだろう。「ブラバン」や「舟に乗れ!」なんかそうだ。それに対して、本作は高校生男子の視点で書かれている。これはこれで、その一生懸命さがストレートに伝わってきて、温かい気持ちで読むことができた。
気が弱くてさえない主人公、喧嘩っ早いその友達、ギターがうまいチャラチャラした奴、元気な美少女、生徒から軽んじられてる顧問の先生。まあ、類型的だとは思う。ありそうな展開でもある。そういう意味で、新鮮さはないけれど、そんなものなくてもいい小説にはなるっていうことだ。
なにより、ページから音が聞こえてくるようなのが、いい。廃部の危機を乗り越えた軽音楽部のバンドが、やっとたどり着いた文化祭のステージで演奏する「バスケット・ケース」(これは主人公の啓人にとって特別な曲なのだ)の出だしは、次のように書かれている。「どぅーゆはう゛だだい・とぅーりっすんとぅみーぅわいん」「さむたいずあいぎう゛まいせざーあーくりーぷす・さむたいずまいまいんぷれいずとりっくすのーおーんみー・…」
このひらがな書きがなんとも、高校生バンドの、すごくうまいわけではないけれど熱気に満ちたパワーを、これ以上ない形で伝えていると思った。
著者プロフィール
越谷オサムの作品





