パリでメシを食う。 (幻冬舎文庫 か 32-1)

著者 :
  • 幻冬舎
4.10
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感想 : 260
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  • Amazon.co.jp ・本 (334ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784344415034

作品紹介・あらすじ

三つ星レストランの厨房で働く料理人、オペラ座に漫画喫茶を開いた若夫婦、パリコレで活躍するスタイリスト。その他アーティスト、カメラマン、花屋、国連職員…パリにいつのまにか住み着いた日本人10人の軌跡。時にセーヌ川のほとりで、時にワインを片手に、彼らが語る軽やかでマイペースなパリでの暮らしぶりに、思わず肩の力がふっと抜ける好著。

感想・レビュー・書評

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  • パリは、アートに満ち溢れた煌びやかで上品な世界というイメージが払拭しきれないけれど、やっぱり現実は人間が衣食住をしている訳で、その為に命を懸けて仕事を求め、がむしゃらに出来ることを追求している。

    「パリでメシを食う。」という題名は、一見パリでおいしいフランス料理を巡るようなストーリーに思えるけれど、全くそうではない。
    パリという、甘くも冷たくも思える厳しい土地で、その日1日を食いつなぐ為に必死に夢を追い生きる人たちの、日常を描くストーリーだった。

    個人的には5区のカメラマンのストーリーが最も衝撃的で、何度も胸に刺さる言葉に出合えた。

    ユリオの無垢な好奇心と個性、知性。
    父親の覚悟と愛情。

    「言葉はアイデンティティであり、思考の道具であり、文化や知識の入り口である。」

    「僕は経済的なものは残してやれない。父親として残してやれるものは、記憶と経験だけです」

    「子どもが最後にしがみつける場所、安心できる場所は家庭じゃないですか。そういう場所をユリオに絶対に作ってあげたかった」

    「この国では、家族とは概念的な存在で、そこに必要なのは愛だけなのかもしれない」

    「日常とは決して平凡という意味ではない」



  • フランスに好感を抱く日本人は多い。一度も訪れたことが無いにもかかわらず、何となくパリに憧れている人もたくさんいる。何故なのかと私なりに考えてみたが、それは、パリには日本が無くしてしまった「郷愁の念を感じられる生活」が今も存在しているからではないだろうか。

    パリに行ってみると分かるが、パリでは上を向いて歩かない。建物の高さがせいぜい5、6階程度しかなく、アジアのお店のように軒先に大きな看板を吊るしてもいない。上を見上げながら歩く必要がないため、目線は自然と地面に対して水平になる。

    パリの足許には人々の生活が息づいている。通りには昔なじみの商店がひしめき、カフェに入れば石畳に沿うようにテラス席が並ぶ。週末にはマルシェと呼ばれる市場があちらこちらに立ち、公園では画家やミュージシャンが自らの活動に勤しむ。目が下を向けば、そうした街角での暮らしぶりをありありと感じることができる。
    日々の生活と歴史が融合する街があり、ここに暮らせば誰もが歴史の一部となって暮らしていける。そうした、過去と現在が溶け合うゆったりとした雰囲気に、日本がいつの間にか無くしてしまったノスタルジーさを覚え、好感を抱くのかもしれない。

    一方、東京では上を向いて暮らすことが多い。上とはそのまま「高いところ」という意味もあるが、「先・未来」という意味でもある。
    日本人は未来のことを気にする民族だなぁと、働いていてつくづく思う。
    「今やりたいこと」よりも「将来やりたいこと」を考える。今の生活よりも将来の生活に気を揉む。仕事においても同じで、この先起こりそうな懸案事項を精査し、代替案を2・3個用意しておくのが日本流の働きかただ。それは、日本ではスケジュール管理がきちんとしており、今という一瞬が無事平穏に流れることが保証されているからなのだと思う。もちろん、そうした一瞬一瞬の安全性・安定性の高さが日本の評価につながっている。

    しかし、本書に登場する人々は、そうした日本の規則正しい生活に何となく馴染めなかった人である。この「何となく」というのが特徴的で、パリに強く目標を定めて準備していたわけではなく、軽いノリで行き当たりばったりに渡仏し、そのまま根付いてしまったという人が多数を占めている。
    とは言っても実際住んでみると、当初の憧れは結構裏切られる。電車は予定通りに来ないわ、働き方は適当だわ、店のサービスは悪いわ、外国人に対して差別的だわと中々ボロボロだ。まぁこれは「観光するにはいいが住みたくはない国」の典型例であり、日本も含め世界中の国のほとんどに当てはまるから、仕方ないと言えば仕方ない。

    ただ、彼らがそれでも異邦人としてパリに住み続ける理由は、パリがそうした行動力を歓迎し、向こう見ずで飛んでしまった人にもチャンスを与えてくれる都市だからなのかもしれない。彼らのほとんどは「パリは居心地がいい」と話している。それは日本と違う暮らしぶりでも受け入れられ、第二の選択肢で生きていくことを許してもらえる寛容性に支えられているがゆえの感想なのだと思った。

    本書を読むと、世界には色んな生き方があるんだなあということを実感させてくれる。日本には日本なりの快適さが、フランスにはフランスなりの快適さがある。世界は地理的には狭いが、生き方としては途方もなく広い。そんな世界の中で、特にパリに魅せられた人の体験談を是非味わってみてほしい。

  • 「すごく良かった!」がストレートな感想です。
    最初から予定していたわけでなく、決して順調ではなく、計画されたタスクをこなして居る訳ではなく、そんな10人の「アート思考」で自分を駆動し続ける人たちの物語。
    苦しんで、悩んで辿り着いた先に、「自分だけの何か?」を答えに持っている人たちだと思う。
    すごいのは著者の川内さんが、彼ら(彼女ら)の心の底にある「分かって欲しい部分」を掬い取って言語化していること。

    10人の人たちに10通りの努力があり、拘りがあり、岐路があり、時には後悔があり、でもそれがあるから「今の自分」に辿り着いているんだと思います。
    これから何度か読み返したときに、自分の心理や状況で見えるもの(理解できるもの)が違ってくるんだろうな、、と思い、ずっと大切にしたい好きな本になりました。
    久々に自分の娘に勧めて「いつか、貴方もこんな人になりなさい」と、言葉を掛けてあげたいと気持ちです。

  • 美味しいパリのご飯の本だと思って買ったら、パリで生活してご飯を食べている人達の話で騙された、と少し読んで何年も放置していた。いつもなら軽く内容を確かめてから買うのに、その時の自分は凄く疲れていたらしい。パリで生活していけるだけのパワーがある人にも妬みしか感じられない時期だった。

    久しぶりに読み始めたら、今度は受け入れる事が出来た。登場人物達も必ずしもパワーに溢れた、というわけじゃないのに気がついたから。
    登場人物には、私が放置している間に亡くなった人もいる。きっと今は違う仕事をしている人もいるだろう。

  • ここで紹介されてる10名の行動力とパワーがすごい。目の前にあるチャンスを躊躇なく掴み取る勇気と情熱を持ち合わせてる。

    筆者も魅力的で優しい人柄だからこそ、取材された
    10人も心を開いて、話をしてくれたと思う。

    パリやフランスの文化、生活も垣間見え、予想以上に楽しんで読めました。

  • 「パリの国連で夢を食う。」が時々ランキングにあるのを見て、同じ作者のその前の本から読もうと思った次第。

    日本人にとっても、ビジネスにとっても、やさしくない街パリに住みついて、それぞれの分野で活躍する日本人、みんな凄いな。
    だけど、この本を読んで背中を押されたり、『思わず肩の力がふっと抜ける』(裏表紙)人が羨ましい。
    私は、そのアクティブなところとか、それをサラっと普通と言うところとか、ちょっと苦手な感じなので、凄いと思いつつ腰が引けてしまった(メガネのスタイリストはとてもうざったかったし、国連の人なんて出来過ぎで息が詰まる)。

    苦手と言えば、この作者の文章も苦手。
    『そう気づいたら、突然にパッと視界が開けて、全く違う景色が見えた』『こんな風に生きていいんだと、胸がすっと軽くなった』『開き直ったとたん、仕事が舞い込み始めた』『すると不思議なことに、喪失していた自信も少しずつ甦ってきた』…、この本の中の人にはきっとそうだったのだろうけど、私はこんなに簡単に世界が変わって見えたら世話ないよと思うほう。
    『気がつけば、かなり多忙になっていた』とか、やたら『気がつけば』『気がついたら』『気づいたら』物事が好転していたことが多いことも同様。
    ここに書かれた人たちの現在が簡単に成ったわけではないことは容易に理解できるだけに、よしんば本人が言ったとしても(言いそうだな)、こういう表現は安易に使って欲しくないと思う。
    『私たちは一瞬で打ち解けた』『モザイクようなイメージは、生身の人に取って代わった』『三姉妹の末っ子なのだと聞いて納得した』『夜八時は、郵便配達人みたいに何気なくやってきた』みたいに、気が利いてるつもりの陳腐な表現も多いし。

    というわけで、「パリの国連で夢を食う。」には行きません。

  • 共通しているのは〝自分流〟ということだろうか。
    山あり谷あり、それでも諦めずにパリで頑張っている人たち。
    パリという街の好きなところと嫌いなところをわかっていて、それを含めた上で〝好き〟と言える。

    いつかパリに行きたい!

  • とてもよかった。それは、もうとってもとってもよかった。

    パリで働く人たちの今までの道のりを著者が丁寧にインタビューをし、まとめた本。と言うと簡単だけれども、読んでいると著者の感じるインタビュイーの印象がどうやって作られたのか、どうやって人間性が形成されていったのかというのが読んでいて伝わってくるのがとても面白い。そして各話を読み終えた時にはインタビュイーのことがとても魅力的に感じられる。そんな本だった。それは、思わずそれぞれの今を調べたくなるくらい(初版が約10年前だったので)。あとはパリに住んでみたくなってしまうくらい。笑

    最近、自分のことが嫌になる日が多かったけど、この本を読んで、それぞれからちょっとずつエネルギーをもらった感じ。アーティストのエツツが言っていたように、いい方向に向かうと思ってこれから行動していきたい。

  • とても刺激をもらった一冊になった。
    たまたま自分が転職をした時期に読んで、自分はパリとか海外にという訳ではないし、登場する方々と同じ職業でも年でもないけれど、共感できる部分が多かった。そして私も自分に素直に生きていこうと思った。

  • 人生って自由なんだなあ、、と大げさかもしれないけど目から鱗の落ちた気分。ここに出てくる人たちは、自分と向き合って、厳しさも受け入れて、その対価として好きなもの、自分の居場所を手に入れている。自分にとっての「何か」を見つけたくなる本!

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著者プロフィール

川内 有緒/ノンフィクション作家。1972年、東京都生まれ。日本大学藝術学部卒業後、米国ジョージタウン大学で修士号を取得。米国企業、日本のシンクタンク、仏の国連機関などに勤務後、ライターに転身。『空をゆく巨人』(集英社)で第16回開高健ノンフィクション賞を受賞。著書に『パリでメシを食う。』(幻冬舎)、『パリの国連で夢を食う。』(同)、『晴れたら空に骨まいて』(ポプラ社/講談社文庫)など。https://www.ariokawauchi.com

「2020年 『バウルを探して〈完全版〉』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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