- 本 ・本 (224ページ)
- / ISBN・EAN: 9784344416215
作品紹介・あらすじ
継母と暮らす15歳の優子は、同級生の富田君と初めての恋を経験する。パン屋巡りをしながら心を通わせる二人。そんなある日、意外な人物が優子の前に……。書き下ろし短編「はちみつ」も収録。
感想・レビュー・書評
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あなたは、『好きなものはなんですか?』と、『突然』訊かれた場合、なんと答えるでしょうか?
これは答えられるようでなかなか難しい質問だと思います。その答えは時と場合、そして相手にもよると思います。”好きなこと”でもなく、『好きなもの』という設問が答えを難しくしてもいます。また、『突然』という設定も微妙です。人は慌てると何を口走ってしまうか分かりません。
とは言え、一般的には、その『質問の意図としては趣味・特技あたりが聞きたかったのだ』とは思われますが、確定的なことはその場にいないとなかなか類推も難しいものだと思います。
さてここに、『好きなもの』を訊かれて、『パンです』と答えた一人の女子高生が主人公となる物語があります。『つっこみにくいコメントをしてしまった』ことで、『みんなちょっと困った顔をしているのがわかった』と焦る女子高生が描かれるこの
作品。そんな時、助け船の如く言葉を続ける存在が登場するこの作品。そしてそれは、『パン好き』なあなたに送るどこまでも優しく紡がれる物語です。
『優子ちゃん、そこに座ってちょうだい』、『これじゃわたし、聡子さんに申し訳がたたないわ』と『鎮痛な表情』を浮かべる『ミドリさんの向かいの席に』『おとなしく』『腰かけた』のは主人公の優子。『ミドリさんというのは、わたしの義理の母だ。いわゆる教育ママというわけではないけれど、極度に心配性で過保護』とミドリさんのことを思う優子は、一方で『わたしたちはとても仲がいい』と二人の関係を思います。しかし、今、『深刻そうな表情でわたしの持ち帰った成績表をながめている』ミドリさんを見て、『小さい頃からそうだった。わたしが何か困ったことをしでかすと、ミドリさんはわたしの死んだ母親の名前を持ち出』すとも思います。『正直に言ってしまうと、聡子という固有名詞そのものは、ちっともわたしの心を動かさない』、『生物学上の母親であり、わたしが三歳のときに病死してしまったそのひとのことを、わたしは何ひとつ覚えていないのだ』と思う優子。そんな優子は一方で『聡子はもういないのに、ミドリさんだけがいつまでもその影に縛られている』と、『子供心にも不当なことに思』います。そんな『苦労を』『ミドリさんに』『かける原因となった』優子の『父親は、大手の商社に勤めるサラリーマン』であり、『今年の春から、ロンドンに単身赴任してい』ます。『高校合格が決まった直後に転勤の話が出たので』『絶対に日本に残る、と言い張った』優子。
場面は変わり、『ミドリさんの心労をとりのぞくべく美和ちゃんが我が家に呼ばれたのは、その一週間後』でした。『もちろん』『家庭教師をつけるなんて面倒で気が進まなかった』ものの、『長い夏休みの間中、ミドリさんに聡子攻撃をかけられ続けるのも嫌だった』という優子は、『高校に入って早々にこの成績では、やはり少しまずいかもしれないとも思』います。そして、『こんにちは』と現れた『美和ちゃんは、大学院の二年生だと』自己紹介します。『来年からは博士課程に進むんです』と言う美和は、『物理学』を専攻していることを説明します。そして、スタートした新しい日々のなかで『思ったとおり、美和ちゃんとわたしは気が合った』、『大事なのは、相性』と考える優子は、『学校の授業の百倍くらい分かりやすい。しかも、どんな科目でも教えてくれる』と『美和ちゃんの家庭教師としての腕』を『かなりよかった』と思います。『どうしてこんなわけのわからない数式を解かなきゃいけないの?』、『ていうか、元素記号って意味あんの!?』と優子が『文句を言うたびに』、『頭は使わないとなまっちゃうのよ』、『まだ若いんだから、意義のあることだけに集中するには早すぎるよ』等『きちんと答えてくれる』美和ちゃん。そんな『美和ちゃんには、ミドリさんにはちょっと言えないようなこともすんなり言えた』という優子は、それが『たとえば、富田くんのこと』だと思います。『始まりは、パンだった』と、『第一回目のホームルーム』の『慣れない共学の雰囲気』の『自己紹介』を思い出す優子。順番が回ってきて『立ち上がり、名前と住んでいるところを言い』、入学した理由を説明し、『よろしくお願いします、と言って座ろうとしたそのとき、誰かが突然、「好きなものはなんですか?」』と質問します。『好きなもの?唐突に聞かれ』『頭の中がまっしろになった』優子は、『たぶん質問の意図としては趣味・特技あたりが聞きたかったのだと思』ったものの『とっさに、「パンです」と言ってしま』います。『パン?』と、『教室の空気が少しとどこおる』中、『みんなちょっと困った顔をしているのがわかった』優子は、『しまった、つっこみにくいコメントをしてしまった』と思います。そんな時、『はい!僕もパンが好きでーす』と、『ななめ前の席の男の子が立ち上がって、おおげさな身ぶりで握手を求めてき』ました。『みんな一瞬きょとんとして、そしてどっと笑う』という雰囲気の中、『文化祭は一緒にパン屋やりませんか?』と続ける男の子は『おまえとはやらねーよ、と野次られつつ』、『わたしの手を握ってぶんぶんとふ』ります。『手のひらが熱かった』と思う優子にとって、それが『ふらっときちゃった』瞬間であり、その男の子が富田くんでした。『実際、わたしは本当にパンが好きだ。三食パンでも全然困らない』という優子。そして、『一週間ほどして、帰り道にたまたま富田くんに会った』優子は『で、優子ちゃんはどんなパンが好きなの?』と訊かれます。『唐突に聞かれ』『またしても緊張』する優子ですが、『優子ちゃんって呼んだ、今?』と言葉を振り返ります。そして、『かたくて甘くないパン』と『動揺をなんとか隠しながら答えると、「おれも、おれも」』と、『うれしそうに言う』富田くんに、『パンが好きってほんとだったんだ』と呟く優子。それに『自己紹介で嘘ついたらだめでしょう』と『屈託なく笑う』富田くん。そんな二人はパンの話題でもりあがります。『今からパン買いに行く?』と訊く富田くんに『行く』と返す優子は『並んでみると、富田くんはわたしよりもだいぶ背が高いことに気がつ』きます。『さっき話していたときは、さりげなく身をかがめて、わたしの目線に合わせてくれていた』と気づく優子。そんな優子の高校生としての日々が描かれていきます…という一つ目の短編〈うさぎパン〉。やわらかい文体によって優しく綴られていくれ物語の中にまさかの真実が浮かび上がる好編でした。
“お嬢様学校育ちの優子は、高校生になって同級生の富田君と大好きなパン屋巡りを始める。継母と暮らす優子と両親が離婚した富田君。二人はお互いへの淡い思い、家族への気持ちを深めていく。そんなある日、優子の前に思いがけない女性が現れ…。書き下ろし短編「はちみつ」も加えた、ささやかだけれど眩い青春の日々の物語”と内容紹介にうたわれるこの作品。ダ・ヴィンチ文学賞大賞を受賞した瀧羽麻子さんのデビュー作です。
そんなこの作品をご紹介するのに欠かせないもの、それが『パン』です。そもそも書名が「うさぎパン」というおおよそ小説の書名には思えない名前がつけられているということはありますが、物語本文にも、そんな『パン』の描写が登場します。幾つか見てみましょう。まずは、主人公・優子の『パンの好み』を説明するものです。
『わたしは基本的にシンプルなパンが好きだ。生地もかための素朴なのがいい。小麦粉だけでなく、全粒粉やライ麦粉などのバリエーションもおいしい。プレーンもいいけれど、トッピングとしては、レーズンやいちじくなどのドライフルーツ、チーズ、あとはハーブなども大歓迎』。
書名の「うさぎパン」のイメージとは少し異なり、どちらかと言うと大人びた雰囲気も感じます。いずれにしてもここまでハッキリと説明ができることからも優子が『パン好き』であることには間違いありません。では、そんな優子の前に現れた男の子・富田くんはどうでしょう?
『おれは変にこってる菓子パンってだめ、ごてごていろいろのせちゃってさ』、『やきそばパンとかもね、おかずは別にしてほしい』、『コンビニの袋入りのパンも!あれはパンをばかにしてる!』
こちらはこちらで主張が激しいです。私は『やきそばパン』が大好きなので、この富田くんの意見には同意しかねますが(笑)、いずれにしても二人の相性という点では、ぴったりのようです。『たかがパン、されどパン』という二人。そんな二人が一緒に初めて入ったパン屋さん『アトリエ』に並ぶ『パン』の描写も見てみましょう。『パンのいいにおいがたちこめている』という店内です。
『太さと長さの違うバゲットが何種類か、バスケットにささっている。棚には、ふっくらとしたクロワッサン。ぱりっとした表面の小さな丸いパン。雑穀入りと思われる、ごまのまぶされた細長いパン。りんごののった、つやつやしたデニッシュもある』。
大好きな『パン』に囲まれ『目移り』する優子の姿が描かれていきますが、兎にも角にも美味しそうです。この作品は”食”を前面に出す系の作品では全くありませんが、どこまでもやわらかく描き出されていく物語の中に、この『パン』の描写は極めて親和性が高いものだと思います。恐らくご飯系では全く違った雰囲気になると思われ、『パン』の持つ雰囲気感を上手く活かした作品だと思いました。
では、そんな物語に登場する人物を整理しておきましょう。基本的に以下の五人だけで完結する物語です。
● 「うさぎパン」の登場人物たち
・優子: 主人公。十五歳。高校一年生。中学まで女子校、高校から共学校に通う。『パンが好き』。
・ミドリ: 優子の『義理の母親』。三十八歳。『おだやかで優しいひと』、『ぱっと目立つタイプの美人ではないけれど、品のいい顔立ちと、つややかな黒い髪の持ち主』
・聡子: 優子の『生物学上の母親』、『三歳のときに病死』。優子は『何ひとつ覚えていない』、『お母さんと呼ぶより聡子というほうが』『しっくりくる』
・美和: 優子の『家庭教師』、二十八歳、大学院の二年生(物理学専攻)、『体のつくり全体がほっそりとしていて華奢』、『童顔だから、美人というよりはかわいいという感じかな。高校生と言ってもとおりそう』
・富田くん: 優子のクラスメイト、『パンが好き』。『笑うと犬みたいな顔になる』。優子より『だいぶ背が高い』
物語は、小学校から高等学校までの一貫教育の女子校に通っていたものの『電車とバスを乗りついで二時間もかかる』という通学の負担から、『高校受験』で共学の高等学校に入学した主人公の優子の日常が描かれていきます。物語は終始、優子視点で描かれていきますが『一学期最期の日、大変なことが起こった』という物語の始まりに『義理の母親』であるミドリとの関係性が描かれ、そこに『家庭教師』として美和が現れ、『パンが好き』という共通点から関わり合いを持つようになっていく富田の存在が順に描かれていきます。そして、そんな物語にひとつ特別な位置付けをされているのが、優子の『生物学上の母親』である聡子の存在です。
『これじゃわたし、聡子さんに申し訳がたたないわ』
悪い成績をとった優子にそんな風に詰め寄るミドリ。しかし、当の優子にとってそんな聡子の存在は全く異なります。
『生物学上の母親であり、わたしが三歳のときに病死してしまったそのひとのことを、わたしは何ひとつ覚えていないのだ。お母さんと呼ぶより聡子というほうがわたしにはしっくりくる』
三歳という幼き日に死別するというのはこういう感覚なんだろうと思いますし、これはやむを得ないとも言えます。しかし、自分の母親を『お母さんと呼ぶより聡子というほうがわたしにはしっくりくる』という感覚は若干の違和感を感じます。聡子の存在はこの作品の中で一つのキーになってもいきます。とは言え、これ以上はネタバレになってしまいますので、このレビューではこのくらいにしておきたいと思います。
さて、この作品は兎にも角にも優しく柔らかな雰囲気が満ち溢れる中に展開していきます。瀧羽麻子さんの文体の柔らかさがまず挙げられると思いますが、登場人物の性格、そして優子との関係性も含め、すべてが穏やかに展開する物語は、読んでいて人の優しい心の内面に触れる思いです。
そんな中で”青春”のキュン♡とした思いをくすぐるのが、優子とクラスメイトの富田くんとの関係性でしょう。
『デートというよりも、同好会の課外活動と呼んだほうがしっくりくる。富田くんとわたしは、部活仲間、あるいは(美和ちゃんいわく)同好の士、ということになる』。
そんな風に始まった富田くんとのパン屋さん巡りの日々は、あまりの初々しさ、微笑ましさに、これぞ”キュン♡”な雰囲気感に満たされていきます。そういう意味でもこの雰囲気感はこの作品にはなくてはならないものだと思います。
そして、〈うさぎパン〉に続くこの作品の後半には〈はちみつ〉という短編が書き下ろされています。この〈はちみつ〉の主人公は〈うさぎパン〉で優子の『家庭教師』を務めている美和の幼馴染の桐子という女性視点で描かれるものですが、〈うさぎパン〉と全く同じ世界観の中に描かれ、かつ〈うさぎパン〉の登場人物がさりげなく登場する連作短編を構成しています。こちらも良い味を出してくれる好編であり、この作品は、〈うさぎパン〉と〈はちみつ〉、雰囲気感を共にするこの二編が紡ぎ出してくれる独特な雰囲気に浸る物語、これこそがこの作品の楽しみ方なのだと思いました。
『始まりは、パンだった』。
『パン好き』であることを共通項に関わり合いを深めていく主人公の優子とクラスメイトの富田くんの姿が微笑ましく描かれていくこの作品。そこには優しい雰囲気感の中に描かれる一人の女子高生の日常を描く物語がありました。優子という女の子にどんどん知り合いになっていくかのような感覚で読めるこの作品。美味しそうな『パン』が物語を演出するこの作品。
幅広い年代の読者に幸せな読書の時間を提供してくれる素晴らしい作品でした。 -
高校生の優子と同級生の富田くんは、お互いパン好きだということで、パン屋巡りをしながら交流を深めます。
富田くんが気になり始め、日々の生活の中のちょっとしたことが、嬉しかったり悲しかったりする優子に、私も10代にタイムスリップした気持ちになりました。
私もパンは大好きです。目は赤いゼリービーンズ、鼻はレーズンで口はチョコレートのうさぎパンは可愛くて美味しそうです。
うさぎはパンだけじゃなく、大事な場面でも登場します。
短い小説だったので余韻を感じながらも、もっと読んでいたかったです。
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小、中と女子校で育ち、共学の高校に通い始めた優子は、大好きなパンをきっかけに、富田くんと仲良くなる。
とてもみずみずしくて、ピュアな高校生の、心温まるお話だった。
優子は、義理の母ミドリさんと暮らしているのだけれど、「ままはは」という響きがまったくなく、大学院生の美和ちゃんという家庭教師とも仲良しで、ある日突然、意外な人物も登場して、優子を励まし支えてくれる。
富田くんとのパン屋めぐりや、些細なけんかも、美和ちゃんとの会話も、何もかもがほんとに微笑ましく、優しくてかわいらしいものがいっぱい詰まったおもちゃ箱のようなお話だった。
「はちみつ」は、「うさぎパン」のスピンオフ的な短編。
どちらもほのぼのと癒されます。 -
初初しい高校生の恋愛を楽しめる一冊です。本書では少し非現実的な要素もありますが、そんなことが一切気にならないくらい自然な恋愛を楽しめました。
パンをきっかけに同級生と最初は恋人では無く友人として、そして恋人になり、喧嘩して仲直りして、嬉しいイベントや悲しいイベントを乗り越えるというよりはただ淡々と楽しくもあり悲しくもある日常を過ごす印象でした。
また、書き下ろしのハチミツでは本編とは違う大人の恋愛を楽しめます。
本編と書き下ろしがいい対比になり、二つの恋愛の違いを楽しめました。
もう高校生の頃の恋愛は経験できませんが、それを疑似体験できる。本書を読んで本書自体の魅力も伝わりましたが、小説自体の魅力も再認識できました。 -
☆4
今年の干支ということもあり、新年に読みたかった作品です。
私もパンが大好きなので、新しいパン屋さんや普段は行かない街でパン屋さんを見掛けると思わず入ってしまいます。パンってとても魅力的ですよね(*´˘`*)
作中に美味しそうなパンがたくさん出てくるので、パンを用意して読み始めると更に楽しめると思います♪心温まる素敵な作品です❁⃘*.゚
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【収録作品】うさぎパン/はちみつ
「うさぎパン」 継母と仲が良い優子。家庭教師の美和とも仲良くなり、高校にも馴染み、親友もボーイフレンドもできる。そんな彼女の穏やかで微笑ましい日常が静かに描かれる。
「はちみつ」 美和の幼なじみの桐子の話。美和は相変わらず自分のことはよくわかっていないのか、桐子の世話を焼く。
ちょっぴりファンタジー風味が入った、優しい物語。
美和がいちばんややこしそうで、エールを送りたい。 -
「目は赤いゼリービーンズ、鼻はレーズンで口がチョコレート。」(p121)ツヤツヤもちもちでこんがり健康小麦肌。私の大好きなうさぎ形のパンを大好きな彼が焼いて手渡ししてくれるーーーああなんという事でしょう。想像するだにときめきが押し寄せすぎてわたしの心の内は鳥獣戯画よろしくうさぎの大群が湧き出てきてマツリダワッショイタッタタラリラ状態になってしまった訳であります。
初読み・瀧羽麻子先生のデビュー作(厳密には初書籍化作?)の表題〈うさぎパン〉とそのスピンオフ作〈はちみつ〉の2話収録。パンの美味しさを引き立てるはちみつの付け合わせ。最高です。
〈うさぎパン〉…高校一年生同士の甘酸っぱい…もとい、芳醇で香しいパンがつなぐ青春恋愛物語。主人公である高校生カップルその1〈優子〉と〈富田くん〉と、カップルその2として優子の家庭教師である大学院生〈美和〉と美和が通う大学のゼミの先輩〈村上さん〉というふた組の恋人たちが織りなす成長劇を見守るはなし。
メインとしては優子と富田くんの瑞瑞しい恋模様をニヤニヤしつつ羨ましいなと思いながら眺めていく訳であり、歳上の同性である美和が優子に大きく影響を与えるという王道を踏まえつつ、なんと途中で幽霊まで登場するというちょっと不思議な展開を迎える。正直この辺のくだりに関してはさらっと流される感じなので「なぜ幽霊が?え?」と戸惑いを感じるのは確かだが、「細けえこたぁ良いんだよ!」と押し切れるくらいの絶対的な爽やかさと感動が心地良い短編。
徐々に親しくなってきたけどまだ恋人未満の関係時点、いつもよりちょっとだけ遠出した時に富田くんが優子の事を「隊長」(p52)と呼ぶ距離感とかたまんなく好き。
優子の年齢の割に落ち着いた性格を「ラムレーズン」(p26)を選ぶ女子高生と描写しているのも成る程と思うし(ついでに、優子の友達〈早紀〉の活発で社交的な性格を「マンゴーアイス」(p25)を選ぶ子、と対照しているのも上手いと思う)、「美和ちゃんはわたしのことをゆうこ(なぜか、優しいに子供の子の「優子」ではなくて、ひらがなの「ゆうこ」に聞こえる。そこにどういう違いがあるのか、説明はできないけれど)ちゃんと呼ぶ。」(p16)みたいな絶妙な感覚とか、なんかわかる気がするし、美和の声音とかイメージ出来てきてより物語に没入できる一因になっているのかなと感じた。
〈はちみつ〉…1話目と同じように恋にまつわる話でありながら雰囲気は随分と違う。若さや不思議さといった面に替わり、落ち着きやしっとりさをまとったはなし。もしやと思ったけど幽霊は出ません。優子と富田くんはニアミス出演しますが。
大失恋をしたばかりの美和の友人〈桐子〉が主人公。はじめは食事が喉を通らない状態だったが、美和の働きかけと時間がちょっとずつ桐子を前向きにさせ、やがて再びの恋の予感を醸し出しつつのラスト。
理系研究室の様子や人間像が妙に生々しくリアルに描かれているのもポイント。
元気と滋養を得られる、まさに栄養成分たっぷりの一冊。
しかと堪能を致しました。
22刷
2024.2.3 -
優子と富田君のパン屋巡りは,ほのぼの和む。優子は義母に言えない富田君の話をするほど家庭教師と仲良くなる。まさかの超常現象,死者の意外な告白。自分なら許せない。
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久しぶりに再読。初めて読んだときは学生だったので、「うさぎパン」の高校生たちに感情移入したけれど今回は「はちみつ」が心に残った。ほっこり、あったかい気持ちにさせてもらえる一冊です(*^ ^*)
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図書館で見つけた。
主人公のゆうこは継母のみどりさんと暮らす。
ある日、家庭教師の美和さんがやってきて、意外となつく。
一方、学校では富田くんと急接近のゆうこ。
ときどき美和さんから産みの母親の聡子が顔を出す。(この時点では単なるミステリー。)
美和さんと彼とダブルデートに行くゆうこ。
最後に聡子から出生の秘密を聞いてしまう。
著者プロフィール
瀧羽麻子の作品






なるほど、塩パン美味しそうですね。確かにパン屋さんに入った時に感じる幸せ感は独特だと思います。おっしゃりたいことよくわ...
なるほど、塩パン美味しそうですね。確かにパン屋さんに入った時に感じる幸せ感は独特だと思います。おっしゃりたいことよくわかります。レビューにも書かせていただきましたが、この作品は食を前面に出すタイプではないのでパンの描写もアッサリと終わります。でも「うさぎパン」なんですよね。何か大きなことが起こるでもないとても優しい物語でした。ぜひどうぞ。
「何か大きなことが起こるでもないとても優しい物語」
心が揺さぶられるのはしんどい忙しさで...
「何か大きなことが起こるでもないとても優しい物語」
心が揺さぶられるのはしんどい忙しさで最近疲れ気味の私には有難いです。
さてさてさんのレビューのおかげで出会えた作家さんです。なかなかいいねが押せていないのですが、レビューこれからも楽しみにしています!
おっしゃる通り、読書で心が揺さぶられすぎるのはその時の状況によっては必ずしもどうかということはありますよね。
何もな...
おっしゃる通り、読書で心が揺さぶられすぎるのはその時の状況によっては必ずしもどうかということはありますよね。
何もない日常を淡々と描写する作品の良さというものは確かにあるのだと思います。
こちらこそどうぞよろしくお願いいたします。