世界残酷紀行 死体に目が眩んで (幻冬舎アウトロー文庫)

著者 :
  • 幻冬舎
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感想 : 10
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  • Amazon.co.jp ・本 (259ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784344417618

作品紹介・あらすじ

タイ、コロンビア、ロシア、メキシコ、ブラジル、そして日本。世界各国を渡り歩き死体を撮り続けた著者が綴る、未だかつてないノンフィクション。交通事故死、溺死、銃殺、薬物過剰摂取…命の躍動を停止させた人体が、なぜにかくも美しいのか。危険地帯を覆う不穏な空気が、なぜ人を魅了するのか。日本の良識に揺さぶりをかける、鮮烈なる非常識。

感想・レビュー・書評

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  • 私は『Burst』ではなくアトリエサードの『トーキングヘッズ叢書』の読者だった。
    つまり死体がゴアにしてアングラな状況は知らず、ポップ文化の片隅に、それこそ球体関節人形の一ジャンルとして場を確立しようとしている、その現場に立ち会ったと、言ってしまいたい。

    俺はアーチストだと叫ぶ中には痛い人も多いが、どうせキッチュで下品だろうと切り捨てられかねない状況にいれば、俺はアーチストだと大上段に構えなければならないのかもしれない。
    どれだけ自分の活動に誇りを持てるかということ。
    死体芸術家と煽情的に自称しなければアーティストとして確率できない、ドキュメンタリー作家として下手に見られたり発表を圧殺されたりする状況があるのかも。
    ドキュメンタリー作家としてあらゆる表現が可能な国であれば、彼のように特異な位置を占める必然性は、ない。
    それこそ彼がタイやコロンビアで持った友達のように。
    しかし日本では特異でサブカルとして認知されなければ発表の機会が得られない。
    そういうことではないのだろうか。

    読んでよかったのは、どの国にも死生観が文化としてあり、若者特有のスピードや麻薬やセックスやゴア親和性やと折り合いをつけながら、大衆に向けてメディア発信していると、ケース事例に多く触れられたこと。
    生と死への接し方は一様ではないし、各国それぞれグローバライゼーションの中で抑制や封殺の傾向がある中、いまもエログロへの嗜好は存続している、あるいは各国それぞれエログロ志向が確かに存在していた、という文化的記録としても、本書は貴重。
    思えば20年以上昔の記事なのだ。
    願わくは、野卑で下品な人間の品性感性が、権力と結びついたメディアの自主規制の結果、なかったこととして扱われないことを。
    人は死体やグロ画像をも愉しみうるのだ。それが人間なのだ。

    ところで本書は、活劇としても面白い(死体運びは功徳を積む目的だが、実はスピード狂でもある、とか)が、芸術論としてもぴかいち。
    ……死体を撮り続けるうちに、スピリチュアルな見方は消え、ひたすら死体は淡々と死体。芸術のためなら何をしてもいい。表現はどんなに反社会的であろうと人を傷つけようと絶対に規制を受けてはならない。ただこれだけは言える。僕は死体に目が眩んでいるのだ。僕だけではない。人は皆死体に目が眩んでいるからこそ、目を背けるのだ。死体というだけで絶対という光芒の中で何らかの聖なるものを獲得したい。表現者としては反則であり邪道であり異端であり、一種呪術のような方法論に身を任せている。それがどうした。タイ、メキシコと地球の両端で独自に発展した文化を、ダイナミックにつなぐのは日本人の俺だ。

  • 「人の死体」専門のスチールカメラマンによる各国紀行文。著者の思い入れが強いのだろうタイとコロンビアが主で、あとはロシアとメキシコ、ブラジル、そして日本が申し訳程度に。日本社会においてわざわざ「人の死体」なんてアウトローなものを被写体に選ぶのだから、どんなにか自我も癖も強かろうと覚悟して読み始めたのに、あまりに抒情的な文章に繊細ささえ垣間見え度肝を抜かれる形になった。各国文化や死体をあくまで客観的に捉える試みは、自己や文章に溢れる自意識にも向けられていて、理解し手元で支配しようとする格闘の跡が、アーティストらしい独りよがりな繊細さを感じさせるのだろう、と終盤の死体論というか芸術論を読んで「そうかこの人はアーティストなんだな」と思った時に腑に落ちた。あとなんかカタカナが多くて読みにくかった。30年前の本だからか?インディヘンテとかガミンとか一回じゃ覚えられない。注釈欲しい。

    死体が主役なので内容も相当物騒。「文化の違い」なんてお綺麗な言葉じゃ片付けられない程度に本当に物騒。それとも社会の成熟度なのだろうか?人間が残酷で下品な動物であることを忘れていくのが社会が成熟するということ?華やかに咲いた死体文化の中で死体に一喜一憂し、エロともグロともつかない刺激を堂々と享受するそのあっけらかんとした風潮は、棺桶の中で静かに横たわるお綺麗な死体にしか接することのなかった私の目には、失われてしまっては寂しいと自分勝手に思えてしまうほど明るくて罪悪感のないものに映った。まあでも、夜な夜な新しい棺を掘り起こして死体に火を付けたり屍姦することが悪ガキの所業である、なんて文化圏では絶ッッッ対に生きたくないけれども。それでも、治安の安定、社会の発展、教育の充実、生活水準の上昇によって失われる文化は確かにあるのだなと、無責任だと分かっていても一抹の寂しさを感じてしまう。

    タイの敬虔な仏教観に根差す死体文化や、キリスト教圏におけるエンバーマーという仕事、ロシアの死体売買、そして各国の経済や治安の状況(30年前のものだけど)に、死体に関わる歴史。それぞれが日本の価値観とかけ離れていて興味深い。加えて、著者に描かれる人々ーータイ人は素直でチャーミングだし、オロスコはいぶし銀でかっこよく、コロンビアのアルバロもメキシコのアルバロも仕事熱心でプライドがあるーーは皆それぞれ魅力的だ。合わせて、著者のアーティスト(ジャーナリストではなくアーティスト)としてのこだわり、覚悟、死体との向き合い方、激しい情熱を確かに感じるのに押し付けがましくない芸術論が好印象で面白い。表現の自由は勿論大事だが、どんなに反社会的で人を傷付けようとも守られるべきだと、私は思えない。だけど、死体写真を撮ることに死体損壊の罪を感じるほど死体に魅せられたアーティストなら、そのくらいの気概がなくては、とも思う。

    小さい頃に見入った地獄絵のように、確かに死体は魅力的で、残酷なものほど人を惹きつける。死体の隠された清潔な日本社会で、思わずこんな本を手に取らせる程度には力がある。それが何故なのか矛盾から逃げずに考える機会を与え、かつ死体さえもエンタメとして消費する自分を自覚させる点において、本書は優れていると言えるだろう。兎も角、価値観も文化もかけ離れていて絶対に相容れないであろう本書の彼らと私は、それでも同じ人間なんだなということを強く感じるのみである。

  • 報道写真とかではなくあくまでこの写真は芸術。戦場カメラマンみたいに死体専門カメラマンがいるとは思わなかったです。奥が深い。死体というものは隠されるほど見たくなってしまうものなのかもしれない

  • 今は思想的にアレな感じだけどこの時の文章はよかった

  • すごかった。最初は死体写真への興味から読み始めたけれど、そんな薄っぺらい内容ではなく、著者の淡々と死体を求める姿や人間模様、国ごとの死生観の違いなど読み応えがあった。それでいてユーモアもあり。
    何しろ死体写真家の本なので図版は過激なものもあるけれど、そういうものが苦手な人にも是非とも文章は読んでみてほしいと思う。不思議と心が豊かになった気がする。

  • 死体写真を見て対象の死体の感想を言うようなアートとかけ離れたことはしないだろう。

  • グロイ話は少ないです。あくまでもカメラマンが綴るコロンビアやタイのルポルタージュといった感じ。
    「V&R」や「デスファイル」を知ってる人にとっては思わずニヤリとするエピソードも

  • 淡々とした描写で描かれているので、内容は全然グロくないです。
    カラー写真と、本文の合間に挟まれる死体の写真は苦手な人はダメでしょう。アートとして切り分けて見れる人には、どこか不思議な心地がするかと思います。

    宗教と死体の関係、国柄による死生観がすごく面白い。
    特にタイ。
    死体を弔えば弔うほど徳が高くなるなんて、日本じゃ考えられない話だと思う。
    日本では死はどちらかというと、忌み嫌われ、秘匿する対象な感じがするけど、国によって本当に考え方が違うのはすごく面白い。

  • 1000体以上の死体をタイ、コロンビア、ロシア、メキシコ、ブラジルで撮影してきた写真家のエッセイ。世界で死体ジャーナリズムがあること。レスキュー隊と共に行動し、警察がくる前に撮影をすること。驚きの連続。興味深く読んだ。

  •  死体写真家である著者が、死体をカメラに収めるまでを綴ったノンフィクション。
     タイ、コロンビア、ロシア、メキシコで、現地のジャーナリストなどとともに、死体を求めて殺人・事故現場に駆けつける。
     クールな視点で書かれる残酷描写と現地人の死体への感性は、我が邦の常識に疑念を抱かせるものであり、それを実感させる文体はなかなかに絶妙であります。

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著者プロフィール

写真家・映画監督・文筆家。昭和41年年富山県生まれ。慶應義塾大学文学部卒。学生時代から自主映画制作、文筆活動に従事し、AV監督を経て平成6年から写真家として活動開始。ヒトの死体を被写体にタイ、コロンビア、メキシコ、パレスチナ、ウクライナなど世界各国の無法地帯、紛争地域を取材してきた。

「2023年 『THE LIVING』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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