往復書簡 (幻冬舎文庫)

著者 :
  • 幻冬舎
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  • Amazon.co.jp ・本 (325ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784344419063

作品紹介・あらすじ

高校教師の敦史は、小学校時代の恩師の依頼で、彼女のかつての教え子6人に会いに行く。
6人と先生は20年前の不幸な事故で繋がっていた。
それぞれの空白を手紙で報告する敦史だったが、6人目となかなか会うことができない(「20年後の宿題」)。
過去の「事件」の真相が、手紙のやりとりで明かされる。

感動と驚きに満ちた、書簡形式の連作ミステリ。

感想・レビュー・書評

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  • 表題の通り、手紙のやり取りだけで、語られるミステリー。
    3編の短編+後日譚という構成です。
    手紙でそんなところまで書くか?って思うところはありますが、手紙のやり取りが続く中で明らかになっていく真相という展開です。

    ■十年後の卒業文集
    学生時代の事故の真相、その時の人間関係が徐々に明らかになっていきます。
    手紙を書いている人物は成りすましなのか?

    ■二十年後の宿題
    小学校時代の恩師の依頼でかつての教え子に会いに行き、それを手紙で報告する物語。
    二十年前、先生の夫は川で溺死。その真相とが明らかになっていきます。
    これは、よい感じで終わってよかった。

    ■十五年後の補習
    国際ボランティアとして海外に赴任した男とその彼女の手紙。彼女は過去、ある事件の記憶を失っています。
    その記憶にあった事件の真相は?

    ■一年後の連絡網
    十五年後の補習の二人の後日譚

    二十年後の宿題は映画「北のカナリヤたち」の原案とのこと。
    映画見てみたい!

  • 『この手紙の送り主は本当に悦ちゃんなの?実は一通目から違和感がありました。例えば、書き方が悦ちゃんぽくないな、とか』。手紙やメールが届いたらまずすることはなんでしょうか?恐らく大半の方は差出人を確認するはずです。でも本当にこの手紙は彼女が書いたのだろうか?と疑心暗鬼でいっぱいになって『ねえ、本当に悦ちゃんだよね。浩一くん、じゃないよね。わたし、まだ信じられないところがあるの』、そんな風に改めて考えだすとある意味キリがありません。でも現実には郵便、メールともに差出人を偽った犯罪が後を断たないという現実もあります。また一方で、差出人が正しくても、宛名の人に正しく届くかどうかという問題もあります。日本で書留郵便という制度が導入されたのは1872年のこと。実に150年も前からこのことを不安視する人がいたという事実。でも無事に家に届いたとしても『大概は浩一の方が早く帰ってくるので、浩一が開封するという可能性がないとはいえません』と宛名の本人に読んでもらえるには、さらに家庭内の事情が立ち塞がります。『本人限定受取』などというものが生まれたのも必然の流れなのかもしれません。

    『三十八年間の小学校教員生活の中で、卒業してからも毎年年賀状をくれ、退職祝いまで贈ってくれたのは、大場くんくらいです』という手紙を受け取ったのは高校教師の大場敦史。差出人は今年三月に定年退職をしたかつての恩師・竹沢真智子。手紙には教員生活を振り返り『悔いがないと言いきれるのだろうか』、そして『六人、どうしても気になる子どもたちが出てきました』と書かれていました。さらに『大場くんに、六人に会い、それぞれの今の様子を教えてもらえないでしょうか』という恩師の依頼。『先生のお気持ちは、他人事のように思えません』とこれを引き受ける大場。教えてもらった連絡先に順に連絡を取って六人に会いに行きます。 そこで、大場は、かつて恩師が関わった『あの事故』のことを知ります。真相を求めて図書館で過去を調べた大場は、かつて竹沢が彼女の主人と共に生徒六人を落葉拾いに誘った時の記事を見つけます。『川に落ちて流された良隆くんを助けるために、ご主人が川に飛び込んで一緒に流され、次に飛び込んだ先生は良隆くんを先に救助して、良隆くんは一命を取り留めたが、ご主人は亡くなった』というその記事。そのことを竹沢に伝えると『事故のことを黙っていてごめんなさい。六人が事故のことをどう思っているかではなく、今どのように過ごしているかを知りたかった』という返信を受けます。しかし、二人目、三人目と順に会うにつれ、『あの事故』の裏側に隠されていたまさかの真実を耳にして戸惑うことになります。そして、全く予想もできない結末へ、物語は展開していきます。

    4つの章から構成されるこの作品。一部関連する章が含まれるものの基本的には登場人物も設定もすべて異なる短編集です。ただし、「往復書簡」という書名そのままに、本文一切なしですべて手紙のみで構成されているのは4章とも共通です。せっかくなので手紙の数を数えてみました。(はい、私はマメなのです)
    第一章 24通(悦子宛12通、あずみ宛7通、静香宛5通)
    第二章 18通(竹沢宛9通、大場宛9通)
    第三章 12通(純一宛6通、万里子宛6通)
    第四章 2通(正晴宛1通、亮介宛1通)
    ということで、合計56通の手紙、手紙、すべて手紙をひたすら読み続けることになります。読者は他人宛の手紙を自分宛と思って読み進めることで、やり取りしている人物に隠された過去、繋がりを徐々に知ってゆくことになります。このように手紙(メール含む)だけで一つの作品を描ききった作品というと、三浦しをんさんの「ののはな通信」が思い浮かびます。思えばこの作品でも、私、手紙の数を数えてレビューしていますが、「ののはな」は湊さんのこの作品の3倍以上、なんと179通、しかも2名だけのやり取りという異常なレベルの濃密な作品でした。それに比べるとこの作品は随分シンプルです。というより、湊さんの作品は「告白」に代表されるように第一人称を変えながら独白によって作品を構成していくものが多いので、それが単に、『前略』〜『かしこ』となっているだけとも言え、そういう意味ではとても湊さんらしい構成の作品だと思いました。

    また、これは『超』湊さんらしい!と思ったのが第三章です。『隊員の活動を知るために国際ボランティア隊事務局が発行している月刊紙「ブルースカイ」』、『三親等までの親族について、交通費と宿泊費の八割を負担してくれる「家族訪問ツアー」』、『日本にいる家族や友人に、日本食などを詰めた小包を送ってもらう「愛の玉手箱」』と、青年海外協力隊の国際ボランティア事業のパンフレットを読むがごとくの細かい記述がいきなり登場します。さらには、『一次試験は英語と職種別の筆記試験』と自分は今、小説を読んでいたんだっけ?というくらいに青年海外協力隊の細かいお話が出てきてニンマリします。ご存知の方もいらっしゃると思いますが、湊さんはかつてこの事業で南太平洋に浮かぶトンガ共和国に派遣され、現地の学校で家庭科を教えていらっしゃいました。「絶唱」を読むとさらに濃厚なシーンが出てきますが、小説家になる前のこの貴重な経験が湊さんの中で占めているものの大きさを改めて感じました。湊さんのことを『イヤミスの女王』という言葉で敬遠されていらっしゃる方には、「絶唱」(オススメ)やこの作品を読むと恐らくイメージがゴロッと変わるのではないかと思います。

    手紙だけで一冊を構成するという特徴あるこの作品。短編が故の駆け足感があるのは否めませんが、それぞれの章に隠されたミステリーを手紙のやり取りだけで解き明かしていく手法は独白形式の第一人称回しという湊さんの最も得意とされるところに通じるものがありますし、その人の気持ちになって読み込める分、作品から受けるインパクトはとても大きいと思います。

    『メールでは「あなた」とは呼ばれないだろう。手紙だからできる表現がある』という手紙ならではの表現の潜在力、『手紙を書くという行為は、改めてわたしに、あなたとの正しい距離と時間を認識させてくれます』という手紙ならではの物理的制約、そして『メールを打つときとは違う気分で、自分の気持ちを表現できそうな気がします』という手紙ならではの送り手の心持ちなど、改めて手紙というものが持つコミュニケーションの可能性について、考えを新たにもさせていただきました。なかなかに興味深い作品でした。

    • さてさてさん
      naonaonao16gさん、こんにちは!
      いつもありがとうございます。
      湊さんが青年海外協力隊で派遣されていたことについてはエッセイ「山猫...
      naonaonao16gさん、こんにちは!
      いつもありがとうございます。
      湊さんが青年海外協力隊で派遣されていたことについてはエッセイ「山猫珈琲」で知りました。その後、意識して作品を読んでいると、色んな場面でポロッと協力隊のことが出ていて、湊さんにとって相当大きな部分を占めているんだなと感じています。
      「カケラ」の感想楽しみにしています。
      またよろしくお願いします。
      2020/05/31
    • naonaonao16gさん
      さてさてさん、こんにちは!
      お返事ありがとうございます!また、昨日は「紙の月」、文庫の方の感想にもいいねをくださり、ありがとうございました...
      さてさてさん、こんにちは!
      お返事ありがとうございます!また、昨日は「紙の月」、文庫の方の感想にもいいねをくださり、ありがとうございました。

      「カケラ」読み終わりました。こちらも、青年海外協力隊を彷彿とさせる部分がいくつかありました。この知識がある中読んでよかったです。友人にも、協力隊での活動はものすごく印象に残っているようです。

      またレビューアップしたら見にきてくれたら嬉しいです^^
      2020/06/01
    • さてさてさん
      naonaonao16gさん、「カケラ」の情報ありがとうございました。青年海外協力隊、再びですか!余程なんですね。頭の中が湊さん=青年海外協...
      naonaonao16gさん、「カケラ」の情報ありがとうございました。青年海外協力隊、再びですか!余程なんですね。頭の中が湊さん=青年海外協力隊のうちに、私も早めに読みたいと思います。
      「カケラ」の感想楽しみにしています。
      2020/06/01
  • 湊かなえの圧倒的なスキルの高さを見せつけられた。久しぶりの書簡体小説、①大学の放送部員が卒業後に大怪我したその真相を暴く、②小学教員の夫が溺死した事故、事故と関連した卒業生の立ち直りを知りたい、③男子中学生同士の喧嘩、止めに入った女性がその後に経験する火事の真相を追求する。どの短編も徐々に明らかになる真相と登場人物の深層心理。個人のもつ「陰」の部分が、書簡の中で「陽」の部分を曝け出すことで、さらに闇が深くなる。この本の完成度の高さには賛辞を送りたい。①のイヤミス、最後の千秋の手紙には背筋が凍った。

  • おもしろかった!

    手紙をもとに描かれる3編のミステリー
    「十年後の卒業文集」
    高校生時代の友人の結婚式。お礼の手紙から浮き上がってくる1人の同級生の事件と噂。手紙をやり取りするうちに浮き上がってくる本心と真相。
    ひ~!湊かなえさんの底力を感じるミステリー
    3度読みしてしまったわ~

    「二十年後の宿題」
    入院中の恩師に頼まれて、「6人の教え子たちが今、幸せなのかどうか調べて欲しい」と頼まれた、元教え子で教師の大場くん。調べるうちにその6人はある事件に関わっていた子供たちということがわかり…

    「十五年後の補習」
    国際ボランティアとして海外に赴任することになった彼とその彼女の手紙のやりとり。何気ない手紙のやりとりから、彼女の無くしていた記憶が戻り…ある真実が少しずつ明らかになり…。

    本当に最後の最後までドキドキする3作品。

  • イヤミスの女王、湊かなえさんの連作短編集と言うことで警戒して読んだが、普段の毒気は控えめで優しさや思い遣りに溢れる作品が多かった。
    個人的なベストは「二十年後の宿題」かな?

  • 壮絶なすれ違い。
    ちょっとした見方の違いで、こんなにも解釈や行動が変わるのか…現実でも、いちいち話し合ったりしないから知らないだけで、様々なすれ違いが起きてるんだろうな。難しい。

    今作は、すれ違いはすれど、そこまで不幸感もなく、読みやすかったです。

  • 手紙のやり取りで、隠れていた嘘が顕れてきたり、思い込みが修正されていく。「十五年後の補習」は真実が明らかになるが、二人にはとても重い十字架になる。

  • 手紙のやり取りを通じて過去の事件の真相が明らかになっていくという、書簡形式の連作ミステリです。

    スマホでのメールや電話ではなく、あえてコミュニケーションに時間の掛かる手紙でのやり取りという、時代を感じさせるスタイルで展開されています。
    互いにじっくり考える時間のある事から、読者も一緒に思考を巡らせる事が可能であり推理に遅れを取りません。

    どの章も、登場人物のそれぞれの視点で事件の核心に迫っていきますが、どれも事実が明かされる過程は見事です。湊かなえ作品では珍しいのが、登場人物も癖が強くて「憎たらしい」人物がほとんどおらず、いずれの作品も読後感はすっきりとした気分になるのが心地よかったです。

  • 人の本音を書簡を通じて表現した短編3作品。
    10年後の卒業文集については、私自身、中学時代に友人の自転車に後ろから自転車で突っ込んで怪我をさせてしまったことを想いだす。後ろからだったのでその友人は私がぶつけたことに気づいていなかった。7年後の大学の飲み会で、その友人には真相を明かして笑い話にしてくれた。誰もがそれに近い経験をしているのかもしれない。
    そして、人間は万能じゃない、だから人の言動は本人しかその本当の意味はわからないものである。

    二十年後の宿題は、6人の教え子の近況を知ろうと、元教子の教師に依頼するところから始まる。彼ら7人には共通の出来事があった。そしてそれぞれのその出来事に対する気持ちが明らかになっていく。
    子どもの時の出来事は生徒たちに陰を落としていると先生は思っている。
    知らない方が良い事も多々あるが、本編は知ってよかったのだと思えた。

    15年後の補習では、中学時代から15年付き合っている2人、国際ボランティアの彼との書簡。15年前の事故により、友人を亡くしたが、その真実が語られる。更にその先の真実も明かされる。そして最後は。予想外の展開だった。

    一年後の連絡網、それはこの物語の後日談、全てが収束する。素敵な気持ちにさせられた。

  • それぞれの視点によって、先生の印象が変わることで話がややこしくなっていく。
    見えたものを見えたようにしか話していなくても、見え方が変わると、間違ったことを誰も言っていなくても話が食い違う。
    手紙のやり取りというスタイルも新鮮で良かった。

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著者プロフィール

1973年広島県生まれ。2007年『聖職者』で「小説推理新人賞」を受賞。翌年、同作を収録した『告白』でデビューする。2012年『望郷、海の星』(『望郷』に収録)で、「日本推理作家協会賞」短編部門を受賞する。主な著書は、『ユートピア』『贖罪』『Nのために』『母性』『落日』『カケラ』等。23年、デビュー15周年書き下ろし作『人間標本』を発表する。

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