ここは退屈迎えに来て (幻冬舎文庫)

著者 :
  • 幻冬舎
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レビュー : 129
  • Amazon.co.jp ・本 (259ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784344421882

作品紹介・あらすじ

そばにいても離れていても、私の心はいつも君を呼んでいる-。都会からUターンした30歳、結婚相談所に駆け込む親友同士、売れ残りの男子としぶしぶ寝る23歳、処女喪失に奔走する女子高生…ありふれた地方都市で、どこまでも続く日常を生きる8人の女の子。居場所を求める繊細な心模様を、クールな筆致で鮮やかに描いた心潤う連作小説。

感想・レビュー・書評

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  • 大傑作。地方の若者のやるせなさが見事に描かれている。ここまで身に迫る共感と痛感は、なかなか体験できません。

    地方には現実がある。「ファスト風土」だ。幹線道路沿いに、同じようなショッピングセンターやチェーン店が林立する、あの風景です。いつでもどこでも(!)同じ現実が、郊外には広がっている。この平べったさに違和感を感じる人びと、適応しきれない人びと、それが本作にはたくさん登場する。
    彼らからすると、現実の風景はあまりにもつまらない。つまらないけど、世界を変えられるわけでもない。地方に順応するか、逃避するか、反抗するか、あるいは昇華するか...?どのような手段をとるかは、もちろん人によって違う。でも、どれも共感できる。
    それと男性への視点も絶妙だ。本作はどの話も女性が主人公ということになっている。男性は、ダメ男かオヤジ(=地方に順応した労働者)しか出てこない。悲しいことに、私はダメ男の心理・行動がすごく分かる。俺かよ!ってくらい。だからこそ、女性側の視線がひどく痛い。もう、読んでて何度心を痛めたことか。

  • 何度家出を繰り返しただろう。
    親に捨てられ児童養護施設で育った僕は
    中学から親戚の家に預けられ、
    『ここではないどこかへ』をいつも夢見ている子供だった。

    16歳の夏、Bruce Springsteenの歴史的名盤『Born To Run 明日なき暴走』や
    地方に暮らす10代の若者たちをコンセプトに作られた浜田省吾のブレイク前夜のアルバム『Down by the Mainstreet』を聴いて、
    アルバイトで貯めた4万ほどを握りしめ、意気揚々と東京に向かった。
    親戚の叔父さんに見つかり連れ戻されるまで歳をごまかし、
    一ヶ月ほど旅館の住み込みで働いた。
    その後も好きな女の子と駆け落ちしたり、
    高校生の身でありながら、ふらりと旅に出たり、
    とにかくこの町を出れば何かが変わると
    なんの根拠もなく、『ただ』思っていたのだ。


    ここではないどこかを希求する人たちは
    映画や物語の中にも沢山いた。

    『真夜中のカーボーイ』のジョーとラッツォ、
    『ギルバート・グレイプ』のギルバート、
    『ヴァージン・スーサイズ』の五人姉妹、
    『SOMEWHERE』の映画スターのジョニー、
    『ロシュフォールの恋人たち』の美人姉妹、
    『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』の典道となずな、
    『子猫をお願い』の夢見がちな少女テヒ、
    『ミッドナイト・イン・パリ』の脚本家ギル、
    『キッズ・リターン』の落ちこぼれ高校生のマサルとシンジ、
    ドラマ化も映画化もされた角田光代原作の『紙の月』の梨花、
    『ケンタとジュンとカヨちゃんの国』のケンタとジュン、
    『マッドマックス 怒りのデス・ロード』のフュリオサ、
    そしてアニメでは記憶に新しい
    『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』のオルガ・イツカ率いる鉄華団の若者たち。

    そしてこの小説の主人公たちも同じく。

    まず、『ここは退屈迎えに来て』
    という、
    吸引力に優れたタイトルが秀逸だ。

    第1話、『私たちがすごかった栄光の話』の冒頭、
    東京から都落ちした二人の会話を読んだだけで、 
    「ああ〜この小説、絶対好きなやつだ」 
    と感じた直感は見事に的中した。
    (本当に好きな小説は自分がこの物語にハマっていくことが1ページ目から分かるのだ)

    ありふれた地方都市で、どこまでも続く日常を生きる8人の女の子。
    自分の町を愛せずに『ここではないどこか』を夢見てもがき苦しみながら
    大都会へ出て行くことに憧れと希望を抱いている。
    ただそれだけの話なのに 
    どうしてこんなにもほろ苦く胸を打つのだろう。

    それなりに彼女も友達もいた。
    バンドを組んでライブハウスにも出ていた。
    でも満たされない心があった。
    誰とも分かち合えない趣味や夢。
    はじめからマイナスの自分の境遇。
    教室には本当の居場所なんてない。
    何もかもがセンチメンタルな、ないない尽くしの青春の日々。

    だからこそ、本が好きだった。映画や音楽に救われた。
    『ここではない、どこか』を夢見たのだ。

    そんな気持ちに共鳴する人たちには
    たまらない小説だと思う。

    歯切れのいいリズミカルな文体で綴られていく
    各話ごとに登場する女子たちが
    とにかくリアルで、
    電車の中で知らない女子たちの相談事を盗み聞きしたような
    気恥ずかしさと好奇心でページをめくる手が止められない。

    そして、閉塞感で窒息しそうな、不器用な女子たちの うまく生きられない焦りが 
    同じような学生生活を送った自分の胸の深いところに 
    とにかく突き刺さって、どっぷり共感してしまう。 

    全話に唯一共通して登場する
    スポーツ万能、サッカー部のエースでコミュニケーション能力にも長けた『できすぎ君』、椎名の存在が生きていたし、
    章が進むにしたがって、椎名がどんどん若返り煌めきを増していく仕掛けや、
    地方都市から出ていき、何者かになりたい彼女たちと
    地元に馴染み、そこになんの疑問も感じない椎名との対比が何より上手い。
    読了後は誰もが自分にとっての椎名を思い出すことだろう。
    (川上弘美の『ニシノユキヒコ』が思い浮かんだ)


    ここではないどこかを探し続ける旅も
    いつか終わりがくる。
    そんな場所はもう存在しないことに気づいて
    誰もがまた生まれた町に戻っていく。

    だとしても、
    家出して、飛び乗った電車の窓から見た 
    冷たく尖った夜の月を
    僕は生涯忘れることはないだろう。

    あの頃に戻りたいとは死んでも思わないけど、
    忘れたくない記憶があるから
    人は生きていけるのだ。

    ここは退屈だと思っていた故郷が
    いつかかけがえのない場所だったと気づくその日まで、
    はみ出し者たちの戦いは続く。
    この小説もまた
    諦めの悪い挑戦者たちに読み継がれていくのだ。


    監督は『ヴァイブレータ』『さよなら歌舞伎町』の廣木隆一、
    主演、橋本愛、門脇麦、成田凌で
    2018年秋に全国公開される映画版も気になるところ。


    ★映画『ここは退屈迎えに来て』予告編

    https://youtu.be/DBO20HCe10o

  • 田舎。とそこで暮らす人々。
    そこから離れた人、戻って来た人。
    一話ずつが切り離されているようで、
    実は共通の人物がいる。
    読み進めるうちにタイトルが良いなと気づく。

    もっと読みたい!と思うし、
    時系列が秀逸 :)

  • 椎名くんってそんなに魅力的な人かな。
    なんて思いながら読んでいたけど、椎名くんみたいな男の子がいたらきっと私も好きになっちゃうんだろうなあ。笑

    椎名くん自身の心理描写が少ないから、あの時あの瞬間、彼がどんな事を考えていたのか分からなくて、どうしてこんな事をするのか掴めなくて、でもそんな事はぜんぜん重要じゃなくって、誰かの心に忘れられない思い出として残っているということ。
    自分の人生と彼の人生が少しだけ重なっていた瞬間。何もかもがキラキラして見えたあの日々と彼のこと。

    私も誰かにとっての椎名くんになれているのかな、そんな風に思った。

  • なんか映画観たい…→これタイトル惹かれるけど評価そこまででもないな…お、小説あるやん、で出会った一冊。結果、その巡り会いに感謝したくなるほど自分好みの作品だった。
    田舎の「退屈」から抜け出したくて都会に憧れる年頃の女の子達の物語。思春期というもの自体が好物ってのもさることながら、山内マリコさんの文体もまた好みであっという間に読み終えてしまった。シンプルなんだけど引き寄せられる表現力というか、瑞々しいんだけど適度に濁っているところがたまらんのです。
    同じクラスにいる他の誰とも違う「特別」でありたいという願望を胸に秘めつつ、その期待を東京に、都会に重ねる少女達。生まれも育ちも神奈川県だった自分には一生味わえない感覚を、小説を読むことで追体験できたような気がした。ちょっと生々しさもあるけどだからこそ生きている人を描いている作品になっていて、青春が好きで思春期が好きな自分にとっては、この方向性をもっと糧にしていきたい気持ちがあるので他の作品も是非読んでみたい。
    若干ネタバレ気味になるけど、3話目「地方都市のタラ・リピンスキー」は久しぶりにハッとさせられた。この手の作品は読んでる途中で「こうくるんだろうな」みたいな予想を意識しちゃうんだけど、無防備の後頭部をガツンとやられた気がして、残りの話数も一気に楽しみになった。あとこれきっとマジアカでしょ、マジアカだ。間違いない


  • 免許合宿で田舎のほうにひとりで行ったときに
    まさに''ここは退屈迎えに来て''な気分で読んだ思い出の一冊。
    どのエピソードにもでてくる田舎のイケてる男、椎名くんが自動車学校の教官だったりで田舎の車ライフの描写がたくさん出てくるので、免許合宿にひとりで行くかたに全力でおすすめしたい。
    どこにいても退屈な女の子たちがどれも自分に重なって、とにかく愛おしかった。
    それに対するどこにいてもちょっとイケてるの部類に入れる椎名みたいなひと、いるいるってなります。
    そしてエピソードが進む度に今度は椎名どこに出てくるんだと探しているわたしがいた。笑
    空き時間に山内マリコさんの本を読みまくった合宿も終わり車を買いました。
    どこにでも行けるような気がしています。

  • 最近ではマイルドヤンキーが生息していそうな、地方都市が舞台の短編連作。
    小説というより、ルポ新書を読んでいるような気分になりました。
    地方の退屈感や、それをそこまで退屈と捉えていないけれど何か物足りなさを感じている若者たちの様子が、あるある過ぎてもう…。
    都会でうまくいかなくて帰って来たり、周りをひがんだり、サブカルに被れて「あなたとは違うんです」オーラを出してみたりとか、とにかく痛々しい。
    地方住みの人は、読むのが辛いのでは?

    ただの地方都市小説で終わるかと思ったら、後半は意外な切り口に。
    全編に何かしらの形で登場する「椎名くん」がいい味出ていました。こういう人、学校に1人は居るよなぁ。

  • すんなり馴染める小説にあまり巡り合えないけど、これは良かった。短編集だから一編読んで一息つけるのが良い。ひとつひとつの短編が有機的に繋がって読めるのも良かった。地方都市に住む女子の鬱屈にリアリティを感じる。

    えっ?と思うようなところでLGBTネタ入れてきてその描写に唸ったし、喘ぎ方講座のビー・シャイ!モア・センシティブ!に笑った。男子高校生に負けないくらいバカな女子高生もおもしろかった。

    幸か不幸か、生まれも育ちも住んでるのも東京だけど、地方都市に生まれ育ったらどうだったんだろう?自分の性格を考えると、鬱屈しつつも東京に出るエネルギーはなかったんじゃないかなと思う。東京に住んでいてうんざりする気持ちもあるけど、うっかり昔の誰かとすれ違ってしまう確率が低い、薄情な東京も悪くないと思えた。誰でもない自分でいられるのは大都市の特権だろう。とはいえ、東京は夢も金もないロンリーなおっさんの居場所じゃない。じゃあどこに居場所はあるのか?知るかボケ。

    居場所があるのではない。居場所にするのである。なんてな。

  • つらすぎたのだけど一気に読んでしまった。わたしと氏は同郷。ゆえになおさらしんどい。この、田舎ではすごい速さで年を取っていく感覚、どんなに抗っても収まるところに収まってしまうことへの諦めまみれの絶望、かつては確かに尖っていたはずの何者かであった自分とあの子、気付けばただの、何者でもないただの凡人になっていたことへの、これまた諦めまみれの悲しみ、わかる。それよ。そうなのよ。田舎というのはそうなのよ。

    同郷であることも少なからず影響してると思うんだけど以前から親和性高いなと思いつつちゃんと小説読んでなかったんだけどもう瀕死になった。くだけた文章なのに上手い 。椎名の使い方が好みすぎる。他も買ってこよう。

  • 今年読んだ本で1番

    ある程度大人になって、自分はどこへも行けないのだと悟ってしまった人へお勧め

    非リアの自負心と言うか、負け犬の遠吠えと言うか、この微妙な感覚は自分だけだと思ってたけど、実際はどこにでもある、それこそ毛嫌いしていたロードサイドの風景と一緒だったと気づかされる。

    憧れの仕事が向いてなかったって言う今の気分に一番合ってる。

    これを中途半端な田舎住み目線、非リア目線で読んで閉塞感に共感して面白かったって人の書評を参考にしたい。
    仲良くはなれないと思うけどw

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著者プロフィール

山内 マリコ(やまうち まりこ)
1980年富山県生まれ。大阪芸術大学映像学科卒業後、京都でのライター生活を経て上京。
2008年「女による女のためのR-18文学賞」読者賞を受賞し、12年8月連作短編集『ここは退屈迎えに来て』でデビュー。同作は2016年映画化された。ほか映画化された作品に『アズミ・ハルコは行方不明』。ほか、著作に『メガネと放蕩娘』『選んだ孤独はよい孤独』など。

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