バウルの歌を探しに バングラデシュの喧騒に紛れ込んだ彷徨の記録 (幻冬舎文庫)

著者 :
  • 幻冬舎
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本棚登録 : 136
レビュー : 17
  • Amazon.co.jp ・本 (358ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784344423466

作品紹介・あらすじ

何百年もの間、ベンガル地方で歌い継がれ、今日も誰かが口すざむバウルの歌。宗教なのか、哲学なのか、それとも??譜面にも残されていないその歌を追いかけて、バングラデシュの喧噪に紛れ込んだ。音色に導かれるかのように聖者廟、聖地、祭、ガンジス河を転々とした先に見つけたものとは。12日間の彷徨の記録。第33回新田次郎文学賞受賞作。

感想・レビュー・書評

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  • 解説で高野秀行さんが、「酸欠になった肺に新鮮な空気がいっぱい入ってくるような爽快感」と書いている、まさにその通りの読後感だった。これ見よがしの感じが全くない自然な書きぶりが好感度大。お気に入りの一冊になりそうだ。

    「パリの国連で夢を食う」を読んだとき、この方のスーパーな経歴や、それをまたあっさり捨ててしまう度胸の良さに驚いたものだが、この本で書かれている旅も「普通」からはほど遠い。観光地とはとても言えないバングラデシュに、ちょっと興味を持った「バウル」を探しに行く。連れは男性の友だち(川内さんには夫もいるのだが)。

    本当におもしろいと思うのは、そういうことをなんでもないようにごく自然に行動する著者のスタイルだ。肩肘張らないとはこのことで、読んでいてとても気持ちいい。悪路をオンボロバスに何時間も揺られたり、寝袋で車中泊したりしながら、探し求めるのは、なかなかはっきりした姿をとらえられないバウルの歌。読み進めるうちに、いつの間にかその不思議な魅力にひかれて、著者とともに探索の旅をしているような気になる。

    連れである写真家の中川さんも飄々としていていい感じだ。さらに、現地通訳のアラムさんがまたいい。アラムさんは日本に住んでいたことがあるのだが、その経緯はバングラデシュの厳しい歴史を物語るものだ。旅をともにするうちに打ち解けた彼が、そうした事情を語り、「日本のおかげで生きのびることができた」と言う場面では胸が熱くなる。

    ほかにも、行く先々で忘れがたい出会いがある。これは川内さんたちの人柄だろう。また、ベンガル人は困った人を放っておけないのだとアラムさんは言う。人なつこいという感じではないが、優しい心を持った人たちなのだなあと思い、ほとんど知らなかったバングラデシュという国が少し身近に感じられたような気がする。

    それにしても実に不思議な国だ。すし詰めの列車のなかで、著者に懇願された男性がバウルの歌を歌い出すと、皆熱心に聞く。それだけでなく、その歌詞の解釈について乗客同士で熱い議論が始まるのだ。アラムさんが「ベンガル人はテツガクとか宗教の話が大好きなんですよ」「ショウバイの話よりまずはテツガクなんですから」と言っていたそうだ。「アジア最貧国」バングラデシュの別の姿がそこにある。

    「パリの国連で~」で詳しく書かれていたが、ここでも亡くなったお父さんについて触れたくだりがある。ここはちょっとしんみりする。子どもの頃からずっと、自由にさせてくれ、いつも応援してできる限りのことをしてくれた、とある。著者ののびのびした個性はそういう環境で育まれたのだろう。また、アメリカ留学時代、コスタリカを訪れたときに出会った女性とのエピソードも強く印象に残る。バウルの歌を探すなかで川内さんが見いだすのは、「人はココロに導かれて生きていく」ということ。その「ココロ」は人との関わりが作るのだろうと思う。

  • すごくよかった。まるで旅する気分になれる文章も素敵だが最後はよくわからないけど涙が出てくる結末へ

  • バングラデシュで言い伝えられている伝説の吟遊詩人・「バウル」を求めに旅に出た著者の話。

    記録もない。歴史的資料もほぼない。口伝で伝わる世界無形文化遺産であるバウルの歌。「本物のバウルの歌」を聞くためにバングラデシュの街から村、祭りや聖者廊をカメラマンの友人と、現地の仲間と旅をする。旅をする中で、バウルはただ歌い手なのではなく、その裏の哲学を伝える人であることに気づいていく。

    文面からバングラデシュの喧騒、香り、ほこりっぽさ、カレーの味などが事細かに伝わってくるリアルさに取り憑かれて、一気に読み進められた。「バウルはどんな人たちなの?」「なぜ子供を作らないの?」など色々な疑問をひとつずつ解決していくストーリー、その道中で知らない人との会話から生まれるほんの一瞬の出来事も、目に浮かぶほど細やか。何より、バウルの考えが、何百年前から人が考え続けている「自分は何者なのか」という問いに行き着くところも面白い。結局答えは死ぬほんの少し前にわかるのかもしれないけれども、その問いが宗教も、世の中の流行も、時も、国も全て超えた究極の不思議なのかもしれない。

    ガイドブックには書かれていない世界を求めて旅をする、というコンセプト自体が新鮮で、読んでいて旅をしたくなった。

  • 単行本の時も 五つ★だったはず
    その本が 文庫で再販されると
    ついつい 手に入れてしまう

    そして また読み始める
    すっかり忘れていたところもあり
    ぼんやり そうだった
    と思い起こすところもあり
    それでも やはり
    川内有緒さんの紡ぎ出す
    ノンフィクションの海に
    心地良く漕ぎいだしてしまう
    どきどき するところも
    はらはら するところも
    ふーむ なるほどの ところも
    確実に 増えている

    バウルの魅力も さることながら
    川内さんの存在そのものが
    バウルと同化してくるようだ

    きっとまた手に取ってしまう
    一冊が増えました

    文庫の解説が
    高野秀行さんであるのも
    いかにも 似つかわしい

  • 報告書ばかり書く仕事に疑問を感じてポーンと国連の仕事を辞めて、バングラデシュ出張の時にちらり聞いた、世界無形遺産にも指定されているバウルという人の歌を聞きに行こうという思いつきで、カメラマンの中川さんも誘って、いざバングラデシュへ飛ぶ川内さん。その思い切りとフットワークの軽さ、好奇心に感嘆。ただ調べていくうちに、貴重な保護すべき文化、人生を変えるといったものから、たいしたことない、超然、アンタッチャブルなど、それぞれの触れたバウルによるのかそれぞれの立場、感性によるのか様々な評価。ミュージシャン、修行者、"本物のバウル"の三種がいるという話。バウルの歌には表面的な意味と表に出てこない含意があると言う示唆。バウルとは宗教ではなく哲学。子供を作らない、というのは、安く作るな、優れた子供を作れないくらいなら作るな、という意味合い。そして中国とも通じそうな房中術の数々。大切なのは自分を知ること、と言う書くと月並みなことも、バウルを訪ねて旅してきた中でさまざまな話を聞いた後では、あのことだったのか、と腹に落ちる感覚。/軍事政権によってラウル廟から文字通り叩き出されたバウルたち。/アッサラームアライクム、ファキルなど、ベンガル語にはアラビア語の語彙が多く含まれているのだろうか。/祭りの熱狂と気さくで真摯な多くのバングラデシュ人。案内人のアラムさんの最後に真顔で、私と友達になってくれますか、にはぐっときてしまった。

  • バウルの歌を探すという旅。バウルとは何なのか。こういう精神性に触れた話が好き。バウルは見つかるのか、答えがわかるのかもワクワクしながら読めた。

  • バウルのことをこの本で初めて知った。バングラデシュの歴史も。バウルの歌を聴いてみたいと思った。

  • 掘り出し物。バングラデシュの伝説の唄を求める旅

  • 「バウル」はバングラディッシュの修行者にして吟遊詩人。といってもはっきりとした定義があるわけでなし、実際にはそれほど単純なものでもない。全然有名ではないし、話を聞いただけでは正直なんだかよくわからない。というか、話を聞ける人がいない。
    と言われるとなんだそれ、と思うのは人のさがだけど、なんだそれで済まないで、情報を辿り、人のつてを探し、バングラディッシュまでバウルを見に行っちゃう人はそうはいないだろう。バウルに特別な興味があるわけではない。よくわからないから見たい、知りたい、というだけで。

    そういう旅は観光旅行にはなりえない。快適とは言い難く、楽ちんでもないけれど、豊かな体験に彩られた旅になる。知り合った大勢の名もない人々と、著者の中に残る「バウルの歌」。忘れられない、たった十数日の旅。

    こういう体験は、バングラディッシュならでは、バウルでこそ、というものではないのだろう。それは一つのキーワードにすぎない。短期間の旅行をきっかけにその土地にハマってしまい、繰り返し訪れたり、長期逗留したり、しまいに住んでしまうという話を時々聞くけれど、そういう人はきっとこういう旅をしたんだろうな、思う。

    同じ日程、同じコースを辿っても、そこから得るものはひとによって全然違う。それは旅に限った話ではない。ちょっと考えてしまった。

  • この本を読んで少しでも感動した時点で、本当の自分を知りたいとか全ての事象にもっと寛容になりたいとか余裕を持ちたいとか、何ならバウルの様に生きてみたいとか、今の自分からは到底辿り着けないものを望んでるのは確かなんだと思った。だってそんな思いにふけっていたら今の日本での豊かな生活は不可能だし、もし両立させたとしたらそれは多くの矛盾を孕むから。
    読みながら内面の旅へ誘ってくれる本で、いつの間にか読むのを止めて何か考え事をしてる事が時折あった。この本を読んで小さいけど確実な変化は、今後の人生は今自分が望むものと生活の矛盾と葛藤しながら生きる修行が始まったと言う事だろう。

    ちなみに元国連職員として様々報告書を書くのに追われていたというご本人のキャリアからなのか、文化や宗教に関しても分かりやすい解説でさらにバウルへの理解が深まる助けにもなってとても良かった。

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著者プロフィール

川内 有緒/ノンフィクション作家。1972年、東京都生まれ。日本大学藝術学部卒業後、米国ジョージタウン大学で修士号を取得。米国企業、日本のシンクタンク、仏の国連機関などに勤務後、ライターに転身。『空をゆく巨人』(集英社)で第16回開高健ノンフィクション賞を受賞。著書に『パリでメシを食う。』(幻冬舎)、『パリの国連で夢を食う。』(同)、『晴れたら空に骨まいて』(ポプラ社/講談社文庫)など。https://www.ariokawauchi.com

「2020年 『バウルを探して〈完全版〉』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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