日輪の賦 (幻冬舎時代小説文庫)

著者 :
  • 幻冬舎
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  • Amazon.co.jp ・本 (556ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784344424906

作品紹介・あらすじ

七世紀終わり。国は強大化する唐と新羅の脅威にさらされていた。危機に立ち向かうべく、女王・讃良は強力な中央集権国家づくりに邁進する。しかし権益に固執する王族・豪族たちは、それに反発。やがて恐ろしい謀略が動き始める-壮大なスケールで「日本誕生」を描き歴史エンターテインメントの新たな扉を開けた傑作。

感想・レビュー・書評

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  •  持統天皇の書き方が「恋ふらむ鳥は」と比べると面白い。持統天皇が統治者となる必然の道筋が「恋ふらむ鳥は」にはあり、この二冊で姉妹編とも言えるだろう。にしても、長い。とにかく長く、丁寧である。中央集権を目指し、強い国家を目指す持統天皇とその抵抗勢力の争いを扱ったものだが、「律令作り合戦」がメインだろう。国としてのルール作りで日本にあうもの、あわないもの、それが多くあり、微調整のために、あらゆる文献にあたる。その法律の学問の困難さが臨場感ある筆致で書かれてある。明治憲法の制定にも似たものだろう。主人公の活躍も色々とあるが、しかし本著は「律令小説」であり、そのまわりに、天皇や従者らがいるかたちだ。天皇もルールの下に機能する。それを表現しようとした作品だと思う。ある意味、著者のイメージは明治にあるだろう。明治の憲法制定のドラマを書いても、同じような形で執筆していると思う。
    以下、メモ。

    牟婁評
    新益京
    丹比道。白石敷きの幅三間。
    難波津
    良民
    家人
    官奴婢
    私奴婢
    外薬官
    仕丁(つかえのよぼろ)
    部曲(地方豪族の私有民)の廃止
    封戸の管理権の取り上げ
    把頭に虎の頭を象嵌した銀装の大刀
    廟堂
    納言、法官、理官、大蔵、兵政官、刑官、民官
    縫腋の黒袍に白袴、頭に漆紗の冠。朱の長帯。
    庶民は黄衣、奴婢は皁衣。
    宮城の官吏。最下位は浅縹色。
    街衢
    官服。轡。
    国衙。瓦が葺かれている。官衙。
    宮城内は小路で区切られ大小の曹司がいる。官人や宮人(女性官吏)、深縹色の官服の下級官吏。緋色や深緑色の官服姿もある。
    碧色の玉鐸。
    須恵器。蔬菜。
    幞頭姿の使部。
    肆(いちくら)
    黒作大刀、鞘や把に黒漆。純金製の冑金や石突、佩緒を通す山形金具。鍔。縁金。
    皁莢(さいかち)。
    黒漆塗の鞘と把の黒鮫皮。五色の平緒。長さ五尺余り。黄金製の冑金や櫓金に獅子が彫り出され、紅と碧の玉が散らされている。
    帳簿。官衙。法令殿。殿舎。
    手燭。長屋。寝台。下級官吏。
    長室。僧房。経蔵。
    椀。小壺。陰陽官。火舎(ほや)。
    黒貂の皮の温衣。御影石の火舎。巡監使。評督。
    襖に袴の資人姿。
    櫛。
    黄檗の樹皮の煮汁で染めた紙。

  • 律令を完成させることで、日本が唐や新羅と渡り合えるような中央集権国家となることを目指した、人々の物語。
    持統天皇が主人公かと思ったが、彼女は大きな骨組みとして存在し、実際には兄が殺されたことが遠因で法令殿で反対派の動きを探ることになった廣手を中心に、世捨て人のふりをしつつ持統天皇を支える葛野王や、百済から亡命してきた渡来人、男装の女官人など、様々な人の想いが律令という目標に向かって収束していく。
    終盤、火事が起こり、律令を持ち出そうとする場面が好き。特に宝然と廣手のやりとりが胸熱。
    そして律令は完成し、持統天皇は累代の大王が守り継いできた権力を打ち砕き、律令の網の中に押し込んだ。国号も倭から日本となり、新しい世が始まる。その希望と胸の高鳴りを一緒に体感するようなラストだった。

  • この時代の歴史小説は久しぶりで、作者も初読みでしたがとても面白かった。日本と天皇の始まりはこういう事だったのかと納得した。ストーリーや人物描写も入り込めるところがよく脇役として歌人も登場し彩りが加わった。この作者の他の作品も読んでみたいと思った。

  • 誰も悪役に決めつけない著者の優しい視点が心地よい。
    最後の「大王」持統天皇、その意味は大王支配から官僚制への大転換。官僚制から転換するこれからの世界を想像すると、その困難さにハッとした。
    女を捨てた、人間を捨てたと揶揄される持統天皇の独白に共感。
    不比等の馬面髭面不細工描写に気を取られたが、今回は準主役というより脇役だったので、気になる存在になった。
    太政大臣(おおいまつりごとのおおおみ)大納言(おおいものもうすつかさ)など和訓読みが美しく感じた。

    中央公論新・日本の歴史3記述「対馬から金は出なかった」が五瀨の逸話に発展していて、さすがだなあと思った。

  • 持統天皇の治世、律令制の確立に奔走する者たちを描いた壮大な物語。概略だけを見れば地味なテーマではあるが、過去の遺産を捨てきれない古い勢力による反抗により話は国家を揺るがす大きな事件を生み出す。

    主人公の廣手たちの行動が律令国家の未来への希望を原動力としている点が非常に気持ち良い。制度は作るだけでは不十分であり、その中で動く人間がよく理解し、柔軟に対応してこそ本当の価値を生み出す(413p)。今に通じるものもある。

    ハイライトは廣手が兄の仇である大麻呂と対峙するシーン。諦観と後悔から自分を殺してみろと挑発する大麻呂に対し、廣手は兄の首を取るより国家に尽くすよう懇願する道を選ぶ(p403)。その上の首謀者である大伴御行や丹比嶋に対しても、律に照らした処分を望む(p490)この行動の一貫性と真っ直ぐな心持ちに爽快感を覚えさせられた。その点でも大河小説でありながら青春小説の側面が強いと感じた。これはこれまで読んだ澤田先生の作品に共通して見られると思う。

  • 持統天皇が大宝律令を制定するが、その際の既得権益を持っていた豪族との争いを描いた話である。

    なぜ律令がいるか、それは、中央集権国家を目指すためで、百済のような亡国にならないよう、国力をあげるためだった。また、その中には、日本という言葉が記され、これまでの、倭国という、蔑まれた国名ではダメだという、日本人の強い思いがひめられていた。

    法律がなければ、人びとは、己の欲の欲するままに行動し、国は乱れ、まとまらず、国力は落ちる。律令で天皇すらもその元にあるという、おもいだったとこの小説ではいう。天皇という言葉も大宝律令で出てきて、それまでの天皇の呼称 大王から変わるが、この、大宝律令の制定は、これまでの豪族中心の国家から、近代国家に生まれ変わる外国にたいしての決意表明のようなものであったのではないかと思う。

    ただ、本書は敵ですらも最後にはきれいに死なせてしまうように描いているので、それはいらないかなと思ってしまった。

    でも、中々、著者の作品は面白い。

  • 歴史初心者には、とても難しかったですが、とても興味深く面白く読めました。

    遥か昔から、平安に生きることを願いながら、大きな流れの中で自分のできる事に命を燃やしてきた人の思いが、少しずつ繋がって今ここにあるのかもしれないと、感じます。

    ずっと、続けていくことや、継承していくことはとても難しいことですが、今出来る自分を懸命に生きられたら良いなと思いました。

  • 「7世紀の終わり頃から8世紀に切り替わるような頃」というのは、日本史では「持統天皇から文武天皇の時代」というようなことになる。現在の奈良市に在った平城京に遷都する前の、現在の橿原市に在った藤原京、読んだばかりの小説では推定される当時の呼称の新益京(あらましのみやこ)が築かれて日が浅い頃のことである。
    本作の主要視点人物は、阿古志連廣手(あこしのむらじひろて)(=作中では主に「廣手」)である。一部は讃良大王(さららのおおきみ)(=作中では主に「讃良」)となっている。
    因みに讃良大王(さららのおおきみ)というのは女帝の持統天皇である。現在でも知られている「〇〇天皇」というのは「諡号」というもので没後に冠せられる呼称である。存命中は、漠とした天皇に対する敬称で呼ばれるか、皇族の中での名で呼ばれることになる。そしてこの讃良の「大王」(おおきみ)という尊称だが、彼女の時代、後継の文武天皇(=作中では珂瑠(かる)王子または珂瑠(かる)大王)の頃に律令が定められたことを契機に「天皇」(すめらみこと)となって行く。
    本作はその「天皇」(すめらみこと)という呼称、「日本」(ひのもと)という国号が創出されて行ったという経過を背景とするような物語が、若者の成長譚というような色合いで、時代モノらしい謀略や冒険や戦いという要素も加えて紡がれている。
    廣手が新益京(あらましのみやこ)を目指して旅をしているという辺りから物語が起こる。紀伊国の牟婁(むろ)に在る地方豪族の次男である廣手は、新益京(あらましのみやこ)で仕事を始めようというのだった。
    廣手には八束(やつか)という異母兄が在った。文武に優れ、周囲の人達に慕われていた兄を廣手自身も敬愛していたのだった。その兄の八束は仕事をするために郷里を離れていて、新益京(あらましのみやこ)で不慮の事故によって他界していた。その兄を追って、新益京(あらましのみやこ)で働くことになる。
    本作では、廣手が色々な出来事に出くわす中、「天皇」(すめらみこと)という呼称、「日本」(ひのもと)という国号が創出されて行ったという経過にまで関わることとなり、兄の「不慮の事故」の真相にも迫るというような物語が展開する。
    一口に語りきれないような、多彩な要素を含む、なかなかに興味深い作品である。本作に出くわすことが出来て善かった!!

  • 主人公をはじめとした何人かの架空の人物、および『日本書紀』、『続日本紀』、『万葉集』、『懐風藻』に登場する(多分)実在の多数の人物(ただし、それらに名前しか出てこない人物も多い)が登場し(架空の人物もそれぞれの出自が史実や古代史の説などに基づいてます)、書紀や続紀などに記された史実を巧みに読み替えて想像した(つまり、史実の裏に別の真実があったという、史書のトリックを大胆に想像してます)、非常によくできた飛鳥時代末期が舞台の物語で、史実にはほとんど表れていない、ある3極の対立構造を想定して手に汗握る展開に持ち込みます(飛鳥時代にかなり知識がある方は「そうきたか!」とちょっと唸るかも)。

    この作者の作品は初めて読みましたが(ちなみに母親は時代小説作家の澤田ふじ子)、著者の3作目の小説で36歳の頃(2013年)に発表されたようですが、古代史や仏像に関する造詣が非常に深く、また古代の官制や用語の知識、歴史小説的な言い回し・語彙の豊富さなど、非常に達者な筆力のある作家さんだと思いました。

    ちなみに、歴史ものの小説がお好きな方であれば、大化の改新、白村江の戦い、大宝律令くらいのキーワードの知識しかなくても、主人公の青年、阿古志連廣手(あこしのむらじひろて)の純真さや熱き心に感動して引き込まれ(廣手のビルドゥングスロマン(成長小説)でもある。他にも他の登場人物の背景や過去が想像力豊かに描かれているので、感動的な場面がいくつもあります)、かつまた飛鳥時代の歴史も学べて、十二分に楽しめる小説になってると思います。

  • 「7世紀末。迫り来る唐・新羅に立ち向かう女王がいた。」という帯に惹かれ手に取った。なるほど歴史の教科書に何度も出てきた大化の改新や大宝律令等も、このような深遠な意味があったのかと驚いた。しかも、令和で一躍脚光を浴びた梅花の宴の作者で万葉集の編集に大きく関わった大伴旅人・家持親子が、「倭国」「大王」に代わる「日本」「天皇」という表現を使い始めたという。天智・天武からの改革を受け継ぎ外敵に立ち向かえる日本国の礎を完成に導いた持統天皇と腹心の忍裳という二人の女性の真摯な生き方にスポットを当て、遥か遠い古代日本の壮大なロマンが描かれていて楽しい1冊でした。この一連の事件こそが所謂「大国主の国譲り」「日本国誕生物語」ではないかとの見方もあり一層魅力的でした。

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著者プロフィール

1977年京都府生まれ。2011年デビュー作『孤鷹の天』で中山義秀文学賞、’13年『満つる月の如し 仏師・定朝』で本屋が選ぶ時代小説大賞、新田次郎文学賞、’16年『若冲』で親鸞賞、歴史時代作家クラブ賞作品賞、’20年『駆け入りの寺』で舟橋聖一文学賞、’21年『星落ちて、なお』で直木賞を受賞。近著に『漆花ひとつ』『恋ふらむ鳥は』『吼えろ道真 大宰府の詩』がある。

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