骨を彩る (幻冬舎文庫)

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著者 : 彩瀬まる
  • 幻冬舎 (2017年2月7日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (261ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784344425699

骨を彩る (幻冬舎文庫)の感想・レビュー・書評

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  • 悲しいけれど、やるせないけれど、温かい。人が持つ傷から目を逸らさないで、痛々しいほどに抉りだすけれど、けして見捨てないで寄り添う。
    読んでいてそういう感覚を味わった。著者がそういう人なのかもしれない、と勝手に考えたりした。

    10年前に妻を失うも、最近心揺れる女性に出会った津村。しかし罪悪感で喪失からの一歩を踏み出せずにいた。
    そんな中、妻が遺した手帳に「だれもわかってくれない」という言葉を見つける。

    5つからなる短編集で、全てが細く繋がっている、というつくり。1つ目の物語で脇役だった人物が、5つ目の物語で主役になっていたり、という風に。
    普段はみんな普通に仕事や主婦業や学生生活をしていて、そこには大きな問題はないように見える。だけど表には出さない部分に闇のようなものを抱えていたりする。
    きっとそれは現実にもよくあることで、何ひとつ悩みや暗い部分を持っていない人なんてそうそういない。
    笑顔の裏側にある想い。そういう感情にスポットを当てて、深く抉っていく。

    全部それぞれに痛々しくて残るものがあったのだけど、最後に収録されている「やわらかい骨」がいちばん印象に残った。
    中学生の小春のクラスに転校生がやって来るのだけど、彼女は何かの新興宗教に入信していて、それを隠さなかった(そこにも事情がある)ことによってクラスから省かれていく、というお話。
    小春は、堂々とは出来ないけれどその転校生と友だちになって、だけど複雑な想いを抱えてしまって…というところに、思春期ならではの瑞々しさを感じて、学生の時の青い痛みのようなものを思い出した。
    あんなにも上手く生きられなかった10代の私は、30代になってそれなりに生きている。あの頃よりは、まだ上手く生きられるようになったかもしれない。
    本当なら誇らしく思ってもいいことが、なぜだか少し悪いような気がした。

    人間は、顔かたちや体型によって見た目の違いを認識するけれど、1枚皮を剥がしてしまえば皆、似たような肉に包まれ、その下に似たような骨がある。
    成分やつくりも大して変わらない骨…その人生を彩るものとは、一体何なのだろう。それぞれが抱える痛みや悲しみさえも、もしかしたらそれを彩るものなのかもしれない。
    「骨って、真っ白なんだな」。大切な人を亡くして、その骨を初めて見た時にふと感じたことを、不意に思い出した。

  • 心の中に喪失感を覚える人たちの繊細な機微を描く連作小説。それぞれの登場人物は特殊な状況ながら、決して他人事ではない。
    普通に社会生活を過ごす私たちも、これまでの人生が平穏無事だった訳ではない。消し去りたい過去や、拭いきれない屈辱や後悔などを経て、時には偽りの笑顔を見せている。本作の登場人物たちの、客観的には健気に見える姿も、実は私たち自身の投影である。小春が流した涙は、私たちが流した涙である。

  • 連作短編小説。とても繊細で愛おしい。感情の揺らぎを表現するのがうまい作家さんだ。最初と最後の作品に出てくる森林公園のイチョウの木が、一斉に雨を降らせるかのように散る光景が美しくて、私もそんな場面に遭遇してみたいと思った。

  • ああ。すごく良かった。
    言葉がていねいで、染み込んだ。
    小説は、やっぱり人なんだと思った。
    以下、ネタバレも含みながらなので、読む際には注意してください。




    連作短篇集なのに、一人一人にしっかりとスポットが当てられていて、驚く。
    人と上手く折り合うことの出来ない、澱のような病みが表現されていて、明るくはない。
    それをカラッと青空のようなお助けキャラが解決してくれるわけでもなくて、皆が皆、どこか中身を傷ませながら、音を重ねようとしている。

    ああ、人ってこういう、伝えようのないしんどさがあって、いいよなぁって思う。

    「指のたより」「古生代のバームロール」と、光恵の千代紙にまつわる停滞感が強くて、でもそこを抜けた「ばらばら」が優等生玲子の話だったことに驚いた。
    自分の身を守る術。内側から痛みを漏らさないように、グッと噛み締めてきた彼女を見てきて。
    114ページで、『俺もそういうのは、わかる』という「夫」の言葉に至ったとき。
    なんだろう、自分の固まっていた部分に、その言葉が被せられて、泣きそうになった。
    「夫」と表記される、この人が側にいれば、そっと救われるような気がした。
    こんなにハッとした一文は久しぶりだった。

    「ハライソ」で少しゆるうくなってからの「やわらかい骨」も良かった。
    食事前のお祈りをすることで、クラスメイトからは敬遠される、隔たった存在、葵。
    彼女を隔たった存在と知りながら接するのは、冒頭「指のたより」の娘、小春。
    異質であることを疎んじる小春と、異質でなければいけない葵。
    けれど、どちらにも紛らわせようのない憤りがあって、面倒くささとか、重苦しさとか、投げやりな気持ちなど、ぐるぐると回る感情の中で、二人が寄り添える地点に辿り着く。

    その刹那が、いいな、と思って。
    学生時代だからこその距離感で、通じ合える一点を見つけた二人が、爽やかで嬉しかった。

    名前は知っていたけれど、彩瀬まるの作品を初めて読んで、とても好きになった。
    次は何を読もう。わくわくする。

  • うっすらと漂う、怖さのようなものがある。
    すこし傾いた人たちは、その「傾きそのもの」は人間らしいものであって、完璧な人などいないということを裏付けてくれるはずなのに、人格をともなって描かれると、なんとなく世界から外れているような印象を持ってしまう。
    自分の普通さを確認したくなるような。
    上から見下ろして安心したくなるような。
    歪んだ感情を抱かせる描写。
    自分の裏側を見るようで、それが怖さの一因かもしれない。
    でもなんだか癖になりそうな作家さんだ。

    5つに話は分かれているけれど、登場人物が少しずつ重なる連作のようになっている。読み進むに従い作中の時間も進む。

    最終話「やわらかい骨」は、はっとする言葉や場面がいくつもあった。
    早くに母を亡くした小春が、自分の境遇について思いを巡らせるとき、奥底に潜む「黒いしみ」に気づいてしまう。
    「友人の母親はとても親切だけど、彼女たちが私の世話を焼くのは当たり前のことではない。――当たり前という言葉は、まるで高い壁みたいだ。」

    そこから、少しずつ、体験と内省を経て心のありようが変化していく。

    「言わなきゃいいこと、言ったり・・・とれない、心の癖みたいなものが・・・いやで」

    「私を取り巻く大人たちは、――その途方もない理不尽について、私が気づくよりも先に知っていたのだ。」

    「ずっとその物事の中で生きてきた人の言葉は強い。親しければ親しいほど鋭く頬を打ち、お前は何も知らない、と胸を衝く力を持っている。」

    ひとつひとつ、なにかに気付いていくことができるって、素晴らしいことだなと思う。若く、未知のことが多いからこそ上っていけるステップ。

    最後まで読むと表紙の絵がとても・・・切なく、痛々しく、でも美しく、見える。
    骨を彩る銀杏の黄金色と、春の桜色。ずっと励ましてくれるだろう、さまざまな思い出の色。

  • 『骨を彩る』(著:彩瀬まる)

    いわた書店さんの「一万円選書」の1冊(5/11)
    今年の3月、キャンセル待ちに当選して、届いたカルテに記入し、待ちに待った本が届きました

    カルテに書いた私の希望は「小説が読みたい」
    選ばれた11冊の本はどれも素晴らしく
    しばらく小説を読んでいなかった私の胸のスポンジに
    たくさんの感情の雨を降らしてくれました

    また一万円選書をお願いしたいけど、大人気で再度は無理のよう・・・
    いわた書店さんに選んで頂いた本から、自分で新たな世界を広げていきたいと思います
    いわた書店さん、小説の素晴らしさをまた思い出させていただいて
    ありがとうございました!

    11冊の中には、テンポ良く読み進めてしまって付箋すらつけずにいたものもあります。
    付箋が付いている本は付箋部分を紹介
    付いていない本は備忘録としてタイトルのみご紹介します。


    ・愛した相手が皮膚の内側へ溜めていたもの、お前は善い人間ではないと糾弾するものは、おぞましい(p39)

    ・彼女は男女問わずたくさんの人に好かれ、同じだけ、陰で強烈に憎まれた(p92)

    ・自分の夢くらい自分で叶えろよ、人に頼ってんじゃねえよ、そういう中途半端な覚悟だからうまくいかねえんだよ
     と頭の中のキーボードに打ち込む(p152)

    ・悠都が放つ、透明で清々しい素直さが好きだ。周囲の人を信じていて、眩しい。とても大切なもののように感じる。
     それは、自分の黒々とした骨の染みからもっとも縁遠いものだ。遠いままで、いて欲しい(p236)

    ・「強く、強く、なんのうたがいもなく怒ったり、責めたり出来る、のは、その物事に関わりがない人」(p248)

    ・傷つかないための諦め癖とか、傷つけないための誤魔化し癖がいつの間にか身に付いてしまう(p255)

    ・自分とも他者とも世間とも社会とも、生きるということにも死ぬこととも、うまく距離が取れず、折り合いがつけれられず
     ぶつかって、ぶつかって、砕けていたわたしだ(p257)

    ・生きることはきれいごとではない。「生きろ」と叫ぶのは、もっときれいごとではない。口先だけの覚悟も責任も負わない
     「生きろ」の一言は、薄汚い。紛いものの薄汚さだ。そんなものは、誰にも、どこにも届かない。当たり前だけれど(p259)

  • しっとりした話の短編集。

  • この人は、ほしいところにほしい言葉を置いてくれる。
    「いつか足りる。この変な状況が終わるって、ずっと思っているのに、終わらないの」

  • 彩瀬まるさんの本は初読。優しい文章を書く人ですね。

  • 知らないはずのあの風景はいつの間にか自分を救ってくれる。
    本当は覚えておきたい朝子の記憶も、最期の頃のできたら思い出したくない記憶も同じ所にあって、気づかない内に蓋をしてしまっている。
    つぎはぎだらけの朝子から離れた時に、記憶の外にある風景の中で津村と朝子と小春は繋がっている。
    同じような不足感や不安感を救ってくれるのは、夫の無骨な優しさや隣にいてくれた岳志の父性だと思う。
    何も欠けていないあの記憶があればいくら失敗しても救われる気がする。

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