鍵の掛かった男 (幻冬舎文庫)

著者 :
  • 幻冬舎
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感想 : 70
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  • Amazon.co.jp ・本 (736ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784344426511

感想・レビュー・書評

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  • レンガ本。
    持ち歩くのが、重かった・・・。

    今回は火村先生ではなく、有栖さんがメインで活躍。ホテルで暮らせるなんてなんて贅沢なんだろうと思ったが梨田の生活を見てみると色々考えさせられる。まぁ、梨田の場合は御祓の意味も含むからちょっと違うかもしれないけど。
    ただ、最後一番強く感じたのは男性と女性の見た目の変容。気づければこんなことにならなかったのに。

  • ホテル暮らしの老人が亡くなった。
    自殺か殺人か…それを調べるためにアリスが単独で調査を開始する。
    後半で火村先生が合流するまで、秘密に包まれた男の謎をかなり調べあげたアリスがすごい!
    ちょっとずつベールを剥がされていく過程で、驚く事実が分かったりしていくけれど、なかなか自殺か殺人か分からないのが焦れったい。
    どちらかが分かるのは終盤になってから。
    長編なので読み応えがあった。
    謎解きだけでなく老人やホテルの人たちのドラマがあり、とっても面白かった。

  • 死者をひたすらに、深く、深く探っていく。いつもは事件が起こり警察の要請を受けてから動く、火村・アリスコンビが、今回はいつもと少し違った捜査方法で、事件の真相に迫っていきます。

    アリスは面識のない大物作家、影浦浪子の招待を受け、文壇のパーティーに出席する。影浦がアリスを招待した目的は、ホテルで自殺したとされる梨田稔という男の、死の真相を探ってほしいというものだった。
    生前、5年近くホテルのスイートルームに住み、ホテルの支配人夫婦や常連客とも馴染みの深かった彼は何者だったのか。興味を持ったアリスは火村と共に調査を開始しようとするが、折りしも火村は大学の試験監督のため身体を空けられず、アリスは単身、調査を開始する。

    いつもは切っても切れない火村とアリスの名コンビ。しかし今回は、小説の半分以上。400ページ近くアリス単独の調査で進みます。

    ひたすら足と聞き込みで、梨田の人生を追っていくアリス。
    「鍵が掛かった男」梨田の秘められた過去が、アリスの粘り強い調査で少しずつ明らかになってくる。

    この調査の過程はとにかく地味で、そしてなかなかの長さもあるものの、シリーズファンなら、いつもと違う調査といつも通りのアリスの語り口で、自然と読んでしまうのではないかと思います。

    火村から『お前は本当によくがんばったよ』という言葉(この発言、女性火村ファンはクラっとしそう)を引き出すアリスの調査は少しずつ、封印された梨田の過去と罪を明らかにしていきます。そして真打ち火村が後半に満を持して登場。梨田の過去と事件の真相をめぐる物語は、佳境へと向かう。

    アリスの調査と火村の推理で、徐々に梨田の人生が形作られていきますが、彼の数奇な運命と、人生の要所で迫られた究極の選択、そして孤独と救いは、ある意味では事件の真相以上にドラマチックに映ります。
    梨田の死亡事件については、有栖川作品らしくロジックで解き明かされるのだけど、単にロジックだけでは割りきれない、被害者の人生もこの『鍵の掛かった男』では描かれ、二重の意味で面白く読めました。

    そして梨田の人生の最期を知る人物の複雑な感情も、改めて人生の数奇さと、人の感情の割りきれなさを映すようで印象に残ります。

    現場となったホテルのある中之島の風景も読みどころの一つ。自分は国際美術館や、朝日放送、朝日新聞なんかに行ったことがあるので、自然と土地の様子や雰囲気も思い浮かぶのだけど、中之島や淀屋橋回りの川や橋の風景の描写も、風情が感じられました。土地勘がある人なら、より楽しめそうな作品。

    本格ミステリとは関係の薄い、被害者の人生にひたすら焦点を当てるこの『鍵の掛かった男』。
    有栖川さんの作品では、やや異色ではありますが、いつもの有栖川さんと一味違った本格ミステリが楽しめたと思います。

    2016年版このミステリーがすごい! 8位

  • こんなに分厚い有栖川作品初めてかも!
    しかも火村シリーズと位置付けてるけど、434ページまで火村が登場しないという、、。
    本格ミステリには珍しい、謎の多かった故人の過去を調べることにスポットライトが当たる。
    今回は有栖川有栖の探偵ぶりが発揮される作品(本人無自覚)。

    ホテルの一室で首を吊った人が自殺であるとは信じがたい。
    独自に火村と調査してくれと、同じホテルに泊まっていた大御所作家から依頼された有栖は、入試シーズンで忙しい火村の代わりに一人で調査を開始する。
    5年もホテルに滞在し続けて過去を話さず、余生をボランティアと美術館鑑賞で静かに過ごしていた男の自殺の原因は一体何か、黙して語らなかった男の過去に何があったのか、本当に自殺だったのか。調べていっても梨田の本人像が中々見えてこない。
    ホテルのスイートルームに自腹で10日も泊まって調査した有栖に良くやったと言いたくなるよー。
    大御所が調査料は出すって言ってるのに、高潔な精神ですね…。

    途中、怪しいなと思ったけど理由がわからず、火村の質問を受けてる様子から、あれ違ったかな…?と思ったところだったので、最後答え合わせで説明された事でなるほどーと思った。
    火村がヘマ(動揺した態度を犯人に見られた)をしたことで犯人が行動した事で逆に墓穴を掘ったという流れだけど、いやぁ難しかった。
    残念ながら一回行ったきりの自分にはあまりイメージが湧かなかったけど、大御所が書いた淀殿の話や中之島の地理的な話も具体的で、大阪ゆかりの人なら読んでて聖地?巡りの散歩したくなるかも。


    梨田さんの数奇で悲劇的な運命もまさになんでこのタイミング!みたいなことの連続で、梨田さんが生前言った、こちらが何もしてなくても悪意を向けられることもある。というキーワードを表したような作品だった。

    読みごたえがあって人間ストーリーがあって、この作品が火村シリーズでは一番好きかも。

  • 面白かったー!分厚いのでむしろのんびり読み進めようと思ったけど止まらない。じっくりゆっくりのめり込める充実感のあるミステリーでした。登場する有栖川のキャラクターも好印象で、緊張感もあれば独り言のツッコミも面白くて。

    初、有栖川有栖で、ベテラン本格ミステリーの印象に躊躇していたけれど、読みやすかった。そして、火村英生シリーズとは知らなかったので、他のも読んでみたい。

  • 梨田稔の謎がだんだん明らかになっていくのは面白かった。謎が解明されて達成感があったが、事件の本質である犯人あてはここからだった。1冊で2度美味しい本だった。

  • 火村シリーズ、今回はアリスが頑張ってた。
    ホテルで亡くなった男は自殺か、他殺か、そこから不明なため男性、梨田さんの生い立ちや、ホテルで過ごした5年など、様々なことを様々なひとから聞くうちに段々と謎の多い梨田さんの人物像がわかっていく。
    そして段々と真実に近づいていく様子が、アリスと一緒にこちらも一緒に肉薄している気がして楽しめた。

    梨田さんが孫を抱くことを楽しみにしていたのはこちらも目頭が熱くなった。
    我が子は抱けなかったけど、孫が抱けるかもしれない、なんて、そんな楽しみで幸せなことはない。
    それが叶わなかったのは悲しかった。

    犯人の動機はなんとも自己中な気がするけど、人間は多面的な生き物だから。作中でも触れられてたけど、犯人だってその日いろいろな事情が重なって、どうしても快く目の前の老人に席を譲りたくなかったのかもしれない。その行動がまさか、結婚という幸せが手から滑り落ちる原因になるとは思わないだろう。
    逆恨みだって言われるだろうけど本人としてはやるせ無いよなあ。

    物凄く盛り上がりのある作品ではなかったけど、個人的はとても好きな一作。

    火村先生のイケメン設定がなかなかしっくりこない笑

  • 電子書籍でダウンロードして、さくっと読もうと思ったらまさかの大長編だった。

    いつも役に立たない(失礼)助手役の有栖が1人で情報収集に当たっているのがとてもよかった。火村先生にも褒めてもらえて、よかったね。

    少しずつ明かされていく謎が面白かった。
    二転三転する「鍵のかかった男」の秘密。
    ぜひじっくり読んで、有栖といっしょに謎をといてほしい。

  • 分厚すぎ!と思って読み始めたが、話が進むにつれおもしろくて一気に読んでしまった。見た目通り長いので、散りばめられた伏線は綺麗に回収するし、「鍵の掛かった男」の何重にも掛かった鍵も最後にカチッと回されて開かれる。とてもすっきり。
    なので、見た目に反してすぐ読んでしまった。

    今回は半分以上アリスの単独捜査で、真実に肉薄していくのがとても良い。いつもは奇想天外なトリックをぽんぽん言って火村にバカにされがちだけど、今回は違う。地味ーな捜査ながら、足を使って様々な人から少しずつ被害者の話を聞き出し、人物像を形作っていく。読者も同じ情報から、大体アリスと同じような結論に至るので読んでいてとてもわくわくした。
    そして満を持して火村先生のご登場。
    アリスに「お前は本当によく頑張ったよ」と言う火村先生にきゅんときた(笑)
    火村先生により、アリスが拾ったパズルのピースがどんどんとはめられていき、最後にかちっと鍵が開いた。
    禍福は糾える縄の如し、とは鍵の掛かった男の一生を言ったようなもの。最後は孫を抱いて幸せな気分で逝きたかったろうに。

    長い話だけあって、殺人、被害者の人生、そしてホテルへの愛が何重にも絡まったいい話でした。
    いつになっても34歳のアリスと火村先生と、大体共有する時事ネタが一緒になってきて違和感(笑)
    読み始めたの高校生の頃だったんだけどなぁ…

  • 単行本版を既読。そういえば文庫版を買っていなかったな、というのと分厚い本が読みたいな、というので購入した。単行本を読んだのは5年近くまえ。細部を覚えていたりいなかったりしたが『鍵の掛かった男』の死の真相はまったく覚えておらず、初見のように読めた。そしてシリーズのファンならよく知るアリスの取り扱いが他作品とはひとあじ違うという点でも、本書は読みごたえがあるだろう。緊張感を程よく持続させながらぐんぐん読ませるので、700ページがあっという間であった。こんなアプローチをされるから、ミステリから離れられないのだ。

  • 密室ものかと思ったら、素性の知れない男の話だった。
    なるほどこれは面白そうだと読んでみたら、ある男の一生を探る人間ドラマだった。
    700ページがあっという間。
    真相は「やるせない」の一言に尽きる。
    幸せな未来が消えたのは間違いない。
    だけど、そのやりきれない思いを救う最後の一行で泣いた。
    中之島に行ったことがあるので「ああ、あそこね」となる場面がいくつも出てきて楽しい。

  • 20190926読了
    めちゃくちゃ面白かった。
    かなりの長編なのに1日で読んでしまった。引き込まれる。面白い。
    一般的な長編ものは大抵事件が起こる前の導入から始まるものだけれど、それもなく、事件も他殺か自殺かわからないものを調べるというもにで、場合によっては冗長で退屈なものになりかねないと思うけれど、本当に面白かった。

    一人の男の人生を丹念に辿ろうと思えば、この鍵の掛かった男の人生が特に波乱万丈であったことを考えても、やはりこのくらいのボリュームにはなるのかもしれない。
    優しく温かく上品な筆致で、悲しく切ない人生を描かれ、特に最後の遺書のくだりなどは泣いてしまった。

    アリスの探偵業もとてもよかった。いつも「お前ならできる」とかなんとかからかわれながら、神経衰弱の間違い札をめくる役割のアリスが「お前は本当によくがんばったよ」ときたもんだ。
    軽口を叩き会うのが男性同士の友情なのかな、と女性である私はよく思うけれども、そういう関係の中でのこういうてらいない声かけが、本心で大事な友人だと言い表してるようでグッときてしまった。
    大阪中之島への興味も尽きない。大阪、ほとんど知らない土地だけれどいつかいってみたいな。

    2020013再読
    初読の時も思ったんだけど、男性はこの梨田さんの苦境?のようなものに対してどういう感想を持つのだろう。
    山田夏子の気持ちはなんとなくわかるけど、
    梨田さんについてはわかんない如何にもこうにも気になる。

  • 優しいお話だった。
    これぞ長編というしっかりした長編は久しぶりだったが、読みやすい文章で、長さが気にならない。有栖川有栖の文はやっぱり好きだなぁと再認識。
    プチホテル銀星ホテルで5年以上も暮らしていた老人が縊死で見つかる。そもそも彼の死は自殺か他殺か。疑問を感じた宿泊客の一人が、アリス&火村先生に調査を依頼してくるのが発端。
    前半3分の2まで、火村先生は大学の入試シーズンで手一杯、アリスが一人で大活躍する。
    私は断然火村先生ファンだと思っていたが、今回認識を改めた。アリスの優しさ溢れる真摯なところはとてもステキだ!ホテルの人たちも、アリスだからこそ心を開いてくれた(もしくは油断した)のだと思う。
    そしていい加減後半になって、登場したと思ったら20分で他殺と看破する火村先生。やっぱりかっこいい‼
    この二人がコンビを組んでるからこそ、大好きなシリーズなのだなぁ。
    密室マニアな有栖川作品なのに、物理的な密室は出てこず、被害者の人となりが今回の密室。それをこじ開けるにしても、表現の仕方が優しいと感じた。あと、中之島という区域に対するオマージュにもなっていて、いろいろな蘊蓄も面白かった。

    文庫版の表紙がムードがあってとてもステキだった。ハードカバーの時よりいいかも?

  • とにかく分厚い力作!
    有栖川有栖は、個人的には話もしたことのない大作家・影浦浪子(かげうら なみこ)から、警察が自殺と断定しようとしているある男の死の真相を、火村とともに究明してほしいとの依頼を受ける。
    火村は、勤務する大学の入試の監督業務に当たるため、有栖が先行して調査に当たることになった。

    前半は有栖の地道な聞き込み調査、後半は火村が登場して怒涛の解決編!

    梨田稔(なしだ みのる)は、大阪中之島の「銀星ホテル」に5年前から滞在していた。
    ホテルで一番良いスイートを利用し、死後に二億円入った預金通帳が発見される。
    クレジットカードも携帯電話も持たず、身寄りもなかった。
    これだけで、何か身を隠すような訳ありの人物なのだろうと思う。
    梨田が自殺でなく他殺であるとすれば、支配人夫妻を含む当日宿泊していた人物たちと従業員が容疑者となる。
    すでに警察の聞き込みは済んでいるのだが・・・
    常連たちが語る梨田の印象は、生活のほとんどをボランティア活動に費やし、節度を持った人付き合いをする穏やかな人物。
    彼らは梨田の自殺の原因を、寂しかったのだろう、孤独だったのだろうと口を揃えて言う。

    有栖が話を聞いている間は「家族的なホテルのスタッフと常連さんたち」に思えていた人々が、火村が登場した途端に「容疑者」の顔に見えてくるのが不思議。
    しかし、この流れでは他殺なんだろうなと思っても、誰が怪しいのかということさえ全く分からなかった。
    ミステリ物の小説やドラマにおいては、こいつはまあ殺されても仕方ないな、むしろ死んでよかったじゃないのなどと思うこともある。
    しかし、なんでそんなくだらない理由で殺すの?と思う時、犯人は刑務所から出てまた生きていくのだということがたまらなく理不尽に思えてくるのだ。

    梨田稔は、「事故多発型」の人生だった。
    その挙げ句の最後には、石ころに蹴つまずいた程度の犯人のくだらない理由で殺されてしまう。
    しかし、死後には、救いがあったのだろうか。
    少なくとも報いはあったと信じたい。

  • ホテルにずっと住み続けた男の正体を探る話。
    ちょっと偶然によるところが多い気も…

  • 再読。作家アリスシリーズ長編。再読なので犯人は覚えていたのだがそれがどうやって明かされるのかまでは覚えていなかった。今作では探偵役たる火村先生が事件現場に到着するのはだいぶ後になってからで、ワトスン役であるアリス先生が事件の主な捜査を担っていく。そういう意味でアリス先生がこれだけ活躍する長編というのは珍しい。そして死者に対してここまで向き合った小説というのも有栖川作品の中では同じように珍しいような気がする。

  • 「鍵のかかった…」に惹かれて手に取りました。

    波乱万丈な梨田さんの人生でしたが、終章では家族や周囲に見届けられ、漸くカコちゃんと再会出来たのかと感じ、泣きそうになりました。
    犯人の動機において、本人にとっては重要な事かもしれませんが、どうしても自業自得としか思えませんでしたね。
    終盤で探偵と2人の作家が答え合わせをしていく場面がオシャレでお気に入りです…頭が固いので、私は一切推理をせず答えを早く知りたすぎてそのまま読み進めましたが(笑)

    なんと、シリーズ作品だったんですね。
    他作品も読みます!

  • 今年は、昔よく読んでいた有栖川有栖作品をふたたび読み始めた。最後に読んだのが「乱鴉の島」なので、15年以上も読んでいなかった…⁉ 久しぶりに読む有栖川有栖作品は、人間描写に深みが増し、円熟味が感じられた。好きだった作家さんが良い作品を書き続けていたことが嬉しくて、最初から最後までじっくり味わった。

  • いつもは殺人事件が起こってから動く二人ですが、今回はまず自殺なのか他殺なのか分からない状態から話が始まりました。

    5年間ホテルで暮らし続け、自殺したと思われる男の過去を、有栖川有栖が紐解いていきます。
    今回の有栖の活躍はホントに凄い!!

  • 中之島のホテルで首を吊って死んでいた男。彼は5年に渡りホテルに滞在していた。彼の死に疑問を抱いた作家より彼の死は果たして自殺か否かを調査するように頼まれたアリスは、男の素性を調べ始めるのだった。
    提示される謎はシンプルです。まずは自殺か他殺か? つまり事件としてまだ成り立っていない箇所からのスタートになります。謎としては地味かもしれません。しかしそこを魅力的に見せてしまうのはさすがと言うべきでしょうか。調査もホテルの支配人や従業人、そして当日ホテルに滞在していた人々から話を聞くこと。薄皮を一枚一枚剥がすように男の真相に近付いていく様も地道の一言です。読みながらいつもの有栖川有栖の作品とは違うものを味わっていました。地道な調査による事実を重ねる手法は宮部みゆきなどの社会派の手法も思わせました。この題材を作家アリスシリーズ(火村シリーズ)という「本格ミステリ」で書いた意味はどこにあるのだろうとの思いも抱きました。しかし明らかにされる事実と事実が繋がり合う偶然、そして偶然と偶然が繋がり合って必然となった時に、本格ミステリの快感がありました。そしてラストにそこしかないという着地点に至る道筋の美しさ、本格ミステリの魅力を充分に堪能しました。
    有栖川有栖は以前より東京により戯画化された大阪でない大阪の魅力を伝えてくれていますが、今回もまた中之島を通して大阪の魅力も語られています。大阪小説としての魅力も大きくあるでしょう。中之島が好きな身としては嬉しいですね。

  • 大部分が冒頭で既に亡くなっている「鍵の掛かった男」の秘密や人生を追う内容になっている。長々と追いかけた分、男の真相にはグッとくるものがあって、久々に良質なヒューマンドラマを読んだ気分。ミステリ部分についても、安定のロジックで個人的には有栖川作品でも上位にくる作品。

  • 同シリーズは初めて読みましたが、
    特段問題なく読み進められました。

    被害者の人物像、過去を追っていく、
    というスタイルが新鮮で面白く読めました。
    宮部みゆきの火車は犯人を登場させずに、犯人の人物像、過去を追っていく作品であり、それに似た面白さを感じました。

  • 好きな作家さんであるおなじみの有栖川先生。
    いつも通り読みやすかったけど…
    犯人の動機がどうにも逆恨みもいいところであまりにもひどすぎて…後味が悪かったです。
    (2023/10/8、他の読書管理サイトからお引越し。レビューは読了当時の記録。)

  • 1人の人生を追求することはそのまま物語になる。

    作中の印象的なアリスのセリフに『文学は答のない謎をあつかいますけど、ミステリは答えのある謎を扱うてるんです』というのがある。確かにそれは推理作家”有栖川有栖”としてのある種の自負なのかもしれないが、この小説には確かに文学的としか言いようがない情緒がある。ミステリとして答えのある問いは見事に解決しているが、読後にはなんとも言えないやりきれなさが残る。
    それは関係者の波乱と不運な偶然に満ちた人生が文学的であるというだけでなく、犯人はどうして殺人を犯さなくてはならなかったのか、犯人は絶対的な悪なのかという答えのない問いが浮かんだからだ。これは作者の人物描写の緻密さによるものに他ならない。私は被害者の人生と実らなかった宿願が感に入ると同時に、犯人の不幸な巡り合わせにも同情してしまう。できる事なら私もアリスと同じように神のような存在の天罰に縋りたい。だからこそそれを厳しく諭す火村の存在が頼もしく感じる。バランスの取れた良い小説だった。 

  • この本を持って大阪へ行き、中之島を歩きたいです。地図も載っているし。

  • 火村シリーズでも最長の長編。密室などのいわゆるミステリの代名詞という謎は出てこないが、自殺か他殺かわからない謎の人物を徐々に調べて明らかにしていく。鍵の掛かっているのは部屋ではなく人自身。新たなミステリの境地であった。

  • 有栖がんばってるよ〜
    火村早く合流して〜
    ってなった。

    今回は推理というか人間ドラマな感じで新鮮でした。

  • 長年生活していたホテルで命を絶ったと見られる男性。
    物語は主人公の小説家「有栖川」が、この事件が自殺でないことを証明してほしい、と依頼を受けるところから始まる。

    ホテルという空間、登場人物のキャラクターなど魅力に溢れている。

    捜査を進めるにつれひっかかる部分はきちんと伏線回収されているので「よく出来た推理モノ」だと思うし、読んでいて純粋に楽しい。
    謎解き要素をきちんとメモして自分で推理するのも楽しいと思う。

    作中の有栖川が披露する小説論で、「苦くシニカルな結末をつけた小説というのはお涙頂戴に匹敵するほど書くのが容易で、それでいて作者が馬鹿に見えにくいという利点を持っている。」と語っている。
    本作はちゃんと有栖川さんの美学を実践している気がした。
    つまり、きちんとオチがあって読み手に優しい。
    オチのない物語が最近は多いけど、文学ぶらないミステリとして好感が持てる。

  • 火村シリーズで初めて「犯人は誰なんや…」と気になってページをめくりました。
    長かったけど面白かった。

    このシリーズ、有栖の察しの悪さや頓珍漢な発言やらに嘘やろ?と本気でスン…となって現実に戻されることが毎度あるんですがこれは敢えてなのかなんなのか…それさえなければもっと作品のこと好きになれるのにな。

  • キレがないかな

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著者プロフィール

1959年大阪生まれ。同志社大学法学部卒業。89年「月光ゲーム」でデビュー。「マレー鉄道の謎」で日本推理作家協会賞を受賞。「本格ミステリ作家クラブ」初代会長。著書に「暗い宿」「ジュリエットの悲鳴」「朱色の研究」「絶叫城殺人事件」など多数。

「2023年 『濱地健三郎の幽たる事件簿』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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