サイレント・ブレス 看取りのカルテ (幻冬舎文庫)

著者 :
  • 幻冬舎
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  • Amazon.co.jp ・本 (407ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784344427761

感想・レビュー・書評

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  • 2023.12.19 読了 ☆9.5/10.0



    本書は、以前読んだことのある『いのちの停車場』の作者、南杏子さんのデビュー作です。


    デビュー作とは知らずに読んで解説でそれを知りました。
    南杏子さん自身が本書のテーマである終末期医療(看取りの医療)に携わっている現役の医師であるからこそ、確かなディテールが作中の細部に宿っていて、リアリティに溢れています。


    人生の最期を看取る在宅医療が本書の各物語の共通テーマなので、患者さんが次々と最期を迎えていくのですが、穏やかに死を迎える患者さんの姿、それを優しく看取る親族の姿には、悲しみよりも安らぎを感じました。


    病気の原因をいち早く突き止め、適切な治療を施し、完治させることが「医者の存在意義」だと教わり、それを信じていた主人公の倫子は、自分を訪問クリニックに異動させた上司である大河内教授から、医師の存在意義の“もうひとつの側面”を教わるのです。



    “「治療を受けないで死ぬのは、いけないことかな?医師は二種類いる。わかるか?
    死ぬ患者に関心のある医師と、そうでない医師だよ。医師にとって、死ぬ患者は負けだ。だから嫌なもんだよ。だがよく考えてごらん。人は必ず死ぬ。いまの僕らには負けを負けと思わない医師が必要なんだ。死ぬ患者も愛してあげてよ」

    「死ぬ人をね、愛してあげようよ。治すことしか考えない医師は、治らないと知った瞬間、その患者に関心を失う。だけど患者を放り出すわけにもいかないから、ずるずると中途半端に治療を続けて、結局、病院のベッドで苦しめるばかりになる。これって、患者にとっても、家族にとっても、不幸なことだよね。
    死ぬ患者を最後まで愛し続ける。
    水戸くん(主人公・倫子)には、そんな医療をしてもらいたい」”



    教授からのそんな言葉や思いを知り、学び、だんだんと患者さんの意思を尊重し、彼らが穏やかに死を迎えられるように心を砕く医師へと成長していく倫子の姿勢にも強く共感し心を動かされました。




    “救うことだけを考える医療には限界がある。今は看取りの医療がとても大切なことに思える”


    “延命治療によって生き続けるのも、自然に看取られるのも、どちらも間違いではない。一番大切にしたいのは、患者自身の気持ちだ”


    “苦しみに耐える延命よりも、心地よさを優先する医療もある、と知った。穏やかで安らぎに満ちた、いわばサイレント・ブレスを守る医療が求められている。どんな最後を迎えたいのか、患者の思いに愚直に寄り添うのが、看取り医である自分の仕事だ”




    こんな言葉からも窺えるように、主人公の倫子が医者として患者さんに寄り添おうとする姿勢に目頭が熱くなりました。




    “死は「負け」ではなく「ゴール」なのです”




    印象に残ったこの言葉から、自分にとっての幸せなゴールとは何か、つまり自分の人生の終末を考えるきっかけとなる作品になりました。
    次は、自らが読む彼女の三作目である『ディア・ペイシェント』を読みます。

  • 大学病院から訪問診療クリニックへの異動を命じられる主人公の女医。最初は戸惑いながらも、様々な患者との出会いと通じて、意識の変化と成長が描かれた連作医療ドキュメンタリー。

    著者自身が現職医師ということもあり、終末期医療の実態をリアルに描写されている。

    先般、中山祐次郎著者の『泣くな研修医』『逃げるな新人外科医』を読了、レビューにも記したが、患者を【救うため】に懸命に命と向き合う姿に感動した。

    本作は同じ医療がテーマでも、患者を【看取るため】に懸命に命と向き合う姿が描かれていて、こちらも兎角深く感動した。

    最後の章では、主人公が自身の父親を看取る物語が描かれているのだが、16年前に亡くなった私の母親を看取った時の記憶が鮮やかなまでに蘇り、描かれていた最期の姿と寸分違わず重なったのには驚かされた。


    本作品は連作の物語があらゆるケーススタディをもって、読者へ暗黙の問いを投げかけてくる。

    決して重たい文体ではないので、今一度死することに感慨する機会として、お薦めしたい一冊である。

    • チロさん
      私を初めてフォローしてくださった方がこんなに素晴らしい感想を書かれる方だったなんて恥ずかしいような嬉しい気持ちです。勉強になりました。私もも...
      私を初めてフォローしてくださった方がこんなに素晴らしい感想を書かれる方だったなんて恥ずかしいような嬉しい気持ちです。勉強になりました。私ももう少しちゃんとした感想を書きたいと思います。
      サイレントブレスや泣くな研修医などぜひ読んでみたいです!
      2021/08/23
    • akodamさん
      清水妙子さん
      コメント、ありがとうございます。
      私の自己語りでしかないレビューに、そのように仰っていただいて光栄です。ありがとうございます。...
      清水妙子さん
      コメント、ありがとうございます。
      私の自己語りでしかないレビューに、そのように仰っていただいて光栄です。ありがとうございます。

      本作品や中山裕次郎著書の作品も、命と向き合う直向きな人物たちに、きっと感情が揺さぶられるのではないかと思います。是非機会がありましたら、ご一読ください。

      今後ともよろしくお願いいたします。
      2021/08/23
  • 終末期の在宅医療…たぶんここに描かれているよりも現実はもっと厳しいことが沢山あるのだと思う。死に直面すると、それまでの生き方、家族との関係性がはっきりと現れてくることに気づかされた。

  • 南 杏子氏の「サイレント ブレス 看取りのカルテ」という本を読みました。
    南氏は現役の医師。
    25歳で結婚をした夫がイギリスに転勤。
    イギリスで出産、子育てをしている間に医学に興味を持ち、帰国後33歳で医学部に学士編入したという経歴を持っています。
    終末期医療に携わりながら、55歳でこの本でデビュー。

    この本は6編の連作でなっていますが、どの編も読みごたえがあります。
    死は「負け」ではなく「ゴール」。
    読後感のとてもよい本でした。

    他の本も出版されているようなので、読んでみたいと思いました。

  • 終末期医療をテーマに描かれた作品。
    重い作品なのではないかと思い何となく読み始められませんでしたが、読み始めると手が止まりませんでした。

    時には力を抜いてクスッと笑える場面があったことも、作品としてとても良かったと思います。

    自分の祖母が亡くなった時はただ悲しくて、穏やかに寝ているような顔でさえ見るのが辛かった。
    しかし今思うと、とてもきれいで穏やかな死だったんだと思います。
    親戚全員に看取られて、祖母も安心して最期を迎えたのではないかと。

    「死」=負けではない。
    患者が穏やかに死ねないことこそが、医師としての「敗北」。

    当人の意思を一番に尊重し、「死」というゴールに一緒に進んでいく。
    それが医師や周りの家族にできること、やらなければいけないことなのだと思いました。



  • 久しぶりの満点作品、単行本で読んだけど真剣に読める医療小説です♪ 六つの物語はそれぞれに非常に興味深い事例になっている。某大学病院で懸命に従事していた医師 水戸倫子は傍系の訪問クリニックに異動させられ、失意のうちに赴く。だがそこで出くわす様々な医療現場や患者や家族に接し看取るうちに、命を長らえる為にあらゆる手を尽くすのだけが医師の仕事ではないことに揺さぶられて行く。45歳の乳癌女性、17歳の筋ジス若者、84歳の老女、10歳くらいの心筋症らしき女児、72歳の膵臓癌の名医、78歳の寝たきりになった倫子の父、どれもがとても示唆に富んだ物語です。
    そして専門的な事柄や環境や状況が皆 腑に落ちる内容ばかりでした♪ 重い題材の作品ですけど脇役の面々が魅力的な役柄を見事に果たしていて素敵な読後感をもたらしてくれました!

    • いるかさん
      私もこの作品には特別なものを感じました。
      すごくいい作品だと思います。
      多くの人に読んでいただきたいですね。
      私もこの作品には特別なものを感じました。
      すごくいい作品だと思います。
      多くの人に読んでいただきたいですね。
      2020/03/07
    • ありが亭めんべいさん
      dolphin43さん、いつもありがとうございます♪ 身近な経験がいくつかあるので、尚更によく解る描写で、臨場感や緊迫感が他人事ではありませ...
      dolphin43さん、いつもありがとうございます♪ 身近な経験がいくつかあるので、尚更によく解る描写で、臨場感や緊迫感が他人事ではありませんでした。とてもよく描かれた作品でした。
      2020/03/07
  • 大学病院から在宅医療で看取りの仕事に異動になった女性医師のお話。
    すごく良かったです。

    看取りのお仕事となると重いイメージですが、物語にはユーモアと謎もあるので、楽しく読みすすめることができました。

    シリーズとして読み続けたいくらい好みでした。

  • 大学病院に勤める医師水戸倫子が、訪問クリニックに異動を命じられる。訪問診療を行う中で積極的な治療を求めない患者に出会い、彼らを看取っていく。
    末期乳癌のジャーナリスト、ネグレクトの母と暮らす筋ジストロフィーの青年、息子の都合で望まぬ延命治療をざるを得ない84歳の女性、人身売買に巻き込まれた少女、癌治療に尽力を注ぎ自身膵臓癌で余命3ヶ月となった恩師。
    そして、2度の脳梗塞で寝たきりとなっていた父を看取る決心をする。
    著者が終末期医療に携わる医師のため、読んでいるうちにフィクションなのかノンフィクションなのかわからなくなるくらい引き込まれる。

    <苦しみに耐える延命よりも、心地よさを優先する医療もある。穏やかで安らぎに満ちた
    いわばサイレント・ブレスを守る医療が求められている>
    <死は負けではなくゴールなのです>

  • 在宅ケアをテーマにした作品です。
    ともかく泣けます。
    いろんなことを教えてくれて
    いろいろなことを考えさせられました。
    感動しました。

  • 命の最後は本人の意思によって決められるのが理想だけれど、最後の時間は本当は本人だけのものではなくて、亡くなる人を想う周りの人々にとっても大切な時間だと思う

    基本的には本人の望まない延命は反対なのだけれど、場合によっては…これからも生きていかなくてはならない人にとっては必要な時間ならば延命も必要だなと感じている

    そんなことも含めていろいろな最期の時が記されていて、たくさんの人に読んでもらいたいなと思った作品でした

    • ベル  さん
      読みます!さっそくポチりました。
      読みます!さっそくポチりました。
      2020/03/31
    • moon-miさん
      ベルさん!
      はい(^^)
      ベルさんの感想も楽しみにしています!
      ベルさん!
      はい(^^)
      ベルさんの感想も楽しみにしています!
      2020/03/31

著者プロフィール

1961年徳島県生まれ。日本女子大学卒。出版社勤務を経て、東海大学医学部に学士編入。卒業後、慶応大学病院老年内科などで勤務したのち、スイスへ転居。スイス医療福祉互助会顧問医などを務める。帰国後、都内の高齢者向け病院に内科医として勤務するかたわら『サイレント・ブレス』で作家デビュー。『いのちの停車場』は吉永小百合主演で映画化され話題となった。他の著書に『ヴァイタル・サイン』『ディア・ペイシェント』などがある。


「2022年 『アルツ村』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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