蜜蜂と遠雷(下) (幻冬舎文庫)

著者 :
  • 幻冬舎
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  • Amazon.co.jp ・本 (508ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784344428539

作品紹介・あらすじ

2次予選での課題曲「春と修羅」。
この現代曲をどう弾くかが3次予選に進めるか否かの分かれ道だった。
マサルの演奏は素晴らしかった。
が、明石は自分の「春と修羅」に自信を持ち、勝算を感じていた……。
12人が残る3次(リサイタル形式)、6人しか選ばれない本選(オーケストラとの協奏曲)に勝ち進むのは誰か。
そして優勝を手にするのは――。

感想・レビュー・書評

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  • 上巻読了後から時間が経っていたけれど、思いのほかすっと作品の世界に入っていけたのは、登場人物が個性的で魅力的に描かれていたからなのだろう。クラッシック音楽、ピアノ演奏に疎い私が、最後まで登場人物の緊張感や場面の緊迫感とともに、作品全体に流れている安らぎを感じながら読み進められた。また、コンテストという設定自体が今まで経験したことがない作品であったこともあり、わくわく感を感じつつ、想像が広がる不思議な感覚で読み進めることができた。

    下巻では、コンテストの2次予選、3次予選、そして本選が舞台であり、独特のピリっとした空気感と個性溢れる登場人物の進化がずっと続いていく。コンテストに参加し重要な人物である風間塵、栄伝亜夜、マサル・カルロス・レヴィ・アナトール、高島明石の個性と背景と人柄が、作者の丁寧な描写により、ピアノ演奏の音となって表現される。読み進めるにつれ、応援したい気持ちとともに登場人物の言動に心が揺れ動かされる。最後の舞台本選は、オーケストラとの演奏場面であった。ピアノ以外の楽器の音色の重なりや、指揮者や演奏者の息づかいや気持ちまで細かく伝わってきて、コンテスト会場にいるかのような臨場感を味わえた。また、音楽を生業としている人の歩んでいる道、そこには個人の情熱だけではなく、影響を受けることとなる様々な人との出会いが不可欠なのだろうと想像が膨らんだ。

    作者の作品づくりにかける熱量が伝わってくる作品に出会えて嬉しかったし、次の展開を期待しながら読み進める楽しさを味わった。音楽が描く世界を味わうことができることが、ホールでのピアノやオーケストラによるクラッシックの生演奏の醍醐味なのだろうと想像する。私にとって今まで身近になかったクラッシック音楽やピアノ演奏を、ホールで時間をかけて味わいたいという思いが膨らむ作品であった。

  • 続きが気になって気になって、、
    私としてはかなりはやく読み終えてしまった。
    主要人物のバランスが良くて、ドラマチック。
    風間塵と栄伝亜夜のお互いに高めあうような関係、マサルとの邂逅など、本当に小説だからこその展開がドラマチックで。とても興奮した。
    そして高島明石の『春と修羅』、実際に聴いてみたいなぁ、、と悶々とした。

  • 上巻の緊張した雰囲気に1秒も待てずに徹夜して読んでしまいました。
    文字で表現してあるのに音楽が鳴り止まない。てか、耳鳴りかも
    あぁ、神に愛されるまでの圧倒的な才能の前では言葉なんていらないですね。非凡な者たちはただただ仰ぎ見るだけ余韻が心地よいです。
    三味線覗き込んでるスリーショットは絶対将来価値上がりますね。

  • 第156回直木賞受賞作品。
    ピアノコンクールでの4人の物語。
    音楽が生み出す世界観が言葉で描かれています。
    音楽家の人たちは、そんな風に音をとらえているのかしら。

    いよいよ下巻です。
    二次予選、三次予選、本選が描かれます。
    やはり、ここでは亜夜です。
    音楽に対する自分自身を取り戻すところが熱くなりました。
    真の主人公は彼女だと思っています。

    そして、本選。
    しかし、ここは、ちょっと不満。
    ページ数残り少ないなぁって思っていたら、多分、これ以上語る必要がないっていうことなんでしょうね。
    あっという間に結果になっちゃった。

    そして、結果は...


    上下巻を通して、漫画の「ピアノの森」を思い出しました。
    さらに、演奏シーンは中山七里の岬洋介シリーズを思い出します。

    これは、ぜひ映像も見てみたい!

    お勧めです。

  • 音楽家の思い、音楽って何?ということについて、「ほおー」とうなづき、付箋を付けたところはいっぱいある。その中でも読んでいる間中、頭の中に残ったのは、養蜂家の息子として旅する天才少年、風間塵がコンクール中滞在させてもらっていた花屋さんの当主兼華道家の男性についての記述。

    (抜粋)
    それは塵にとってはよく知っているタイプの人間だった。農家や園芸家など、自然科学に従事する人たち、特に植物を相手にしている人たちに共通するのは気の遠くなるほどの辛抱強さである。自然界が相手では、人間が出来ることなどたいしたことではない。(中略)
    毎日の暮らしの中で水をやり続ける。それは暮らしの一部であり、生活の行為に組み込まれている。雨の音や風の温度を感じつつ、それに合わせて作業も変わる。
    ある日、思いがけない開花があり、収穫がある。どんな花を咲かせ、実をつけるのかは、誰にも分からない。それは人智を超えたギフトでしかない。
    音楽は行為だ。習慣だ。耳をすませば、そこにいつも音楽が満ちている。

    “生活者の音楽“があってもいいのではないかと考える、サラリーマン・コンテスタントの高島明石にも通じる。

    感動したシーンは沢山あったが、一番感動したのは、第三次審査の後、“帰ってきた元天才少女“栄伝亜夜に第二次予選で落ちた高島明石が「栄伝さん帰ってきてくださってありがとうございました。」と声を掛けた時のこと。何故か亜夜も感極まって二人で抱き合って泣いた後、亜夜が明石に「高島明石さんですよね。わたし、あなたのピアノ好きです。」と言ったこと。
    クラシック音楽は一部の才能と環境に恵まれた人が、人生の大半を防音スタジオのピアノに向かって育てるものではない。生活の中に音楽はある。自然の中で生きて、自然に耳をすませ、それらを拾い集めて、また自然に返すのが音楽。それはクラシックでも他の音楽でも同じなのだと思った。




  • 予選が進むにつれて、変貌していくコンテスタント。一人の天才少年の演奏が、他の異なる才能を覚醒させていく。
    異世界のようで、異空間のようで、そこは、才能とそれを継続できる意思と環境を持った、コンテスタント達の表現の場。
    小説の舞台をコンクール期間に絞り込むことで、緊張感が高まり、コンテスタントそれぞれの個性がより際立ったように思えました。
    東京オペラシティへ、絵画系のイベントで初訪問。コンサートホールは見学できませんでしたが、これから開催される、ピアノやヴァイオリンコンサートのポスターが貼られていました。彼らも、コンクールを勝ち残った一握りなんだろうな、と意識が変わったような気がします。

    • ☆ベルガモット☆さん
      おびのりさん、はじめまして。
      多くのいいね、ありがとうございます。この作品は映画しかみていませんが、おびのりさんのレビューで記憶が呼び起こ...
      おびのりさん、はじめまして。
      多くのいいね、ありがとうございます。この作品は映画しかみていませんが、おびのりさんのレビューで記憶が呼び起こされました。
      東京オペラシティに訪問できるなんて、羨ましいです!
      コンサートホールで演奏できる方々は、数々のコンクールを勝ち進んだ選ばれた一握りの皆さんという言葉にはっとさせられました。
      2023/03/05
    • おびのりさん
      ベルガモットさん、おはようございます。こちらこそ、いいね、フォローありがとうございます。
      私も今はほとんど図書館本を読んでいます。ですので、...
      ベルガモットさん、おはようございます。こちらこそ、いいね、フォローありがとうございます。
      私も今はほとんど図書館本を読んでいます。ですので、皆さんの本棚から数年遅れという感じです。
      オペラシティは、今回、初めて友人に誘われて行ってきました。新宿に近いこんな立地に素敵な建物があるなんて。まだまだ、知らない事ばかり。
      今後ともよろしくお願いします。
      2023/03/06
    • ☆ベルガモット☆さん
      おびのりさん、こんばんは!
      お返事ありがとうございます♪私も図書館取り寄せ派で、人気本は予約して忘れた頃に届いて読んでまーす。
      オペラシ...
      おびのりさん、こんばんは!
      お返事ありがとうございます♪私も図書館取り寄せ派で、人気本は予約して忘れた頃に届いて読んでまーす。
      オペラシティ、地方在住者としては憧れの場所です。
      読了本が共通していたり、読みたい本があったりで魅力的な本棚ですね♪これから時々お邪魔いたしますので、よろしくお願いいたします。
      2023/03/06
  • 次が気になって気になって、速攻で読めましたね。
    途中で、登場人物が弾いてる曲を聴きながら読んだらもっと良いのではと思ってYouTubeで聴きながら読みましたが、これは失敗でした。
    どちらも集中できず……ww

    楽しい本でしたよ!

  • どこまでも
    満ちてくる月の光
    寄せる、うねる
    寄せる、泡立つ
    飛べる
    どこまでも飛べる
    (フライ・トゥー・ザ・ムーン)
    音楽は何処から来たんだろう
     太古では
      ものがたるために
       そして感じたことを
        あらわすために
       物語はほかに代わり
      感じたことは
     朗々とした唄へ
      今は音楽は
       小さな箱の中で
        鳴らされているだけ
         でも作り足りない
          箱はいっぱいにならない
        (音楽を広いところへ連れ出せ)
        音楽をもとのところへ
       人は生まれた時から
      音楽を浴び続ける
    (世界は音楽で溢れてる)
      静かに始まり
      さざなみが
      寄せては返す
      波は高まり
      咆哮する
    (音楽を広いところへ連れ出せ)
     音楽は宇宙の秩序
    叩く、叩く
    叩く、叩くー叩く
    森を通り抜ける風
     いつか新しいクラッシックを
      この手で
     (音楽を広いところへ連れ出せ)
     一瞬は永遠
     永遠は一瞬
    風間塵 世界は広い
    栄伝亜夜 音楽の神様
    マサル  野望の人
    高島明石 修羅の人
    (音楽を広いところへ連れ出せ)
    貴方が世界を鳴らすのよ

  • 音楽で共感的して共鳴して、最後がこれからで。いつでもこれからですよね。

  • 下巻も瞬く間に読んでしまった。
    再読だから、もっとじっくり読もうと思いつつも、「ページをめくる手がとまらない」とはこのことだと思った。
    隙間時間で読むことが多いのだけれど、そのほんの隙間時間に読んでも、物語の中にどっぷりと入り込めて、さらにその物語の中の音楽に浸っていける、本当に心地の良い読書だった。

    三次予選のマサルの演奏、リストのピアノ・ソナタロ短調に対する壮大な物語がすごすぎて、一瞬今私何読んでるの?となって、少しここだけボリュームがあり過ぎた感はあるけれど、一方で、ひとつの曲が(ここではリストのピアノ・ソナタロ短調)、ここまで壮大な物語を弾き手から引き出すという事実を初めて知った、見てしまった、という感じ。後世に残る有名クラシックとなる所以はこういうところなのかと。本選ではさらに、それぞれの演奏の聞き手がファンタジーのように異空間に行く描写が多く、このことを強く感じた。

    亜夜とマサルの昔の出会いと、今回の再会や、亜夜と塵の練習中のセッション、亜夜と明石のつかの間の交流なんかは、あまりにも出来すぎ、キレイすぎ、と思うけれど、それでいい、小説だもの(みつを)と思う。
    ん?ということはやはりこの物語の主人公は亜夜なんだな、亜夜が軸となって物語が広がってるんだな。マサルは「やっぱりアーちゃんはすごい」と思うし、明石にとってはアイドルであり、ファンだったわけだし、塵は「一緒に音楽を外に連れ出せるのはこのお姉さん」と思っている。

    上巻のレビューで明石推しということを書いたけれど、ステージマネージャーの田久保さんも素敵。ちょこちょこっとしか登場してこないのに、「あ、田久保さん出てきた!」とホッとできるし、田久保さんの人となりがこんなにも伝わってくるってすごい。
    審査員の三枝子やナサニエルなどの個性も本当によく設定されている。脇役とは思えない。あ、作者にとっては、脇役じゃないのかも・・・

    そして、あらためて音楽を言葉で表現することの大変さ、それをしてしまった作者の力量に驚愕する。音楽を形容する言葉の羅列に圧倒され、「これって、どんなピアノなのよーーーーー!!」と大変じれったい気持ちになる。これがたまらない。(変態)

    全体を通して、視点がコロコロと変わるところが、なんとなくドキュメンタリーのようで面白いし、これだけの長編でも、間延びしないというか、パキパキと切り替えて読んでいける秘訣なのかなと思った。

    得点がはっきりとわかるスポーツと違って芸術の才能って何なんだろう。コンクールで順位をつけていくことの意義を示しながらも、常にこういう疑念がたくさんの人の中にあるのだろうと思った。明石やジェニファー・チャンと、本選まで進んだマサル、塵や亜夜を隔てるものは何なんだろうか。それについての答えはないけれど、結局私たちは好きなように音楽を聴けば良いのだと思う。例えば、上位入賞者のピアノより、先に敗退したコンテスタントのピアノが心に残ることがあれば、そのコンテスタントにも才能があるんだと、弾けない側からしたら、そう思う。

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著者プロフィール

1964年宮城県生まれ。92年『六番目の小夜子』で、「日本ファンタジーノベル大賞」の最終候補作となり、デビュー。2005年『夜のピクニック』で「吉川英治文学新人賞」および「本屋大賞」、06年『ユージニア』で「日本推理作家協会賞」、07年『中庭の出来事』で「山本周五郎賞」、17年『蜜蜂と遠雷』で「直木賞」「本屋大賞」を受賞する。その他著書に、『ブラック・ベルベット』『なんとかしなくちゃ。青雲編』『鈍色幻視行』等がある。

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