金継ぎの家 あたたかなしずくたち (幻冬舎文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (310ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784344429086

作品紹介・あらすじ

高校二年生の真緒と暮らす祖母・千絵の仕事 は、割れた器を修復する「金継ぎ」。進路に 悩みながらもその手伝いを始めた真緒はある 日、引き出しから漆のかんざしを見つける。 それを目にした千絵の困惑と故郷・飛驒高山 への思い。夏休み、二人は千絵の記憶をたど る旅に出る――。選べなかった道、モノにこめ られた命。癒えない傷をつなぐ感動の物語。

感想・レビュー・書評

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  • 良い時間を味わえた、一冊。

    あぁ、なんか良かったな。

    流れるような文章、落ち着いた静かな言葉が溢れているおかげがな。読んでいて自然にざらついた心も滑らかに、次第に凪いでくるようだった。

    受け継がれる伝統、ものを大切にするということはもちろん、割れた器を大切に想う気持ちや金継ぎ、かんざしを通して過去と向き合う祖母の姿に何度もじんわりきた。

    金継ぎって、持ち主の大切な思い出をまたしっかり閉じ込めてくれる…そんな想い、意味、役割もあるのかもしれない。

    束の間の良い時間を味わえた温かな作品。

  • 祖母が孫娘と共に祖母の故郷を訪れる。
    それは祖母の古い記憶を辿る旅でもあった。
    いいな、こういうの。
    私も年老いた時にそんな旅をしてみたい。

    祖母が生業としている金継ぎ。
    器等の欠けた部分を繕うその仕事は、欠けた部分を直して元通りにするだけでなく、敢えて色等も変えて継ぎ目や繕った跡を残し、新たな景色を楽しむものだという。

    人生も同じだ。
    思い通りにいかないからといって無理に繕う必要はない。
    継ぎ足して変えていってもよいではないか。
    目の前に伸びる道を真っ直ぐ進めばよいと思っていたのに、思いがけず予想外の方向へ曲がることもある。
    そんな時は元通りの方向へわざわざ戻らなくてもよいではないか。
    曲がったその先にあるものがその人にとって新たな道標となることもある。
    金継ぎのように、素敵な器に生まれ変われるかもしれない。

    祖母・母・孫と三代の女性の生き方はその時代背景で異なるものとなった。
    幼い頃の思い出にすがりたくなることも時にはあるけれど、各々の行きたい道を手探りで歩む三人の姿はとても清々しかった。
    ほしおさんの物語は柔らかくて優しい気持ちになれる。

  • 真緒は高校二年生。母の結子は金沢のホテルに単身赴任中で、今は祖母の千恵と二人暮らしだ。
    祖母は、漆を使って壊れた器を繕うこと(金継ぎ)を仕事にしているのだが、夏休みに千恵の仕事を間近に見た真緒は、少しずつ金継ぎの作業を手伝い、深い満足感を知るようになっていった。
    ある日、千恵が大切にしてきた紅春慶の簪をきっかけに、ふたりは千恵の生まれ育った故郷・飛騨高山への旅に出ることに。


    千恵、結子、真緒の三代の女性たちが交代で語り手となって、それぞれの時代の制約の中で、自らの思いを胸に、喜びをもって打ち込める仕事を見いだしてゆく過程が清々しい。

    何もかもが壊れてしまった戦後の混乱期や、夫の裏切りに傷ついた時、“美しいもの”に心を支えられてきたという千恵。
    そういうことって確かにあると思う。

    漆の木を育て、木を傷つけて漆を得て、何度も繰り返して仕上げる漆工芸。
    割れてしまった大切な器を繕って、思い出をも再び繕い蘇らせる金継ぎ。
    丁寧な手仕事から生まれる美と、人の手を経てきたものを大切に慈しむ心。
    そういうことを忘れずに日々を過ごせたら…

    …と、この頃、ついつい食洗機OKの素っ気ない器ばかり使ってしまっていることを、少し反省。

  • 金継ぎと漆工をめぐる、3世代の女性の物語。
    金継ぎに漠然とした興味があったので読んでみた。
    物語とは別に、金継ぎや特に漆に関して知らなかった知識を知ることができた。
    章によって語り手が異なるのも面白い。

    「飛騨春慶」が気になって検索してみた。素朴で日常に馴染みそうな漆器もあるんだな。
    漆器が樹木の骨(木材)と血(樹液である漆)から出来ていると書いてあって、すごい表現だと思った。生き物そのものなんだなと、これから漆器を見る目が変わりそう。それと同時に職人が減っていることは残念に思ったけど、自分もそういうものを大切にして購入していかないと、文化は守れないのだなと反省。

  • 漆をめぐって親娘3代の目線でそれぞれの葛藤が描かれている。
    特に将来のことで迷いがあった孫の真緒が、物作りに目覚めていく過程がよかった。
    祖母の金継ぎの手伝いをきっかけに「繕い」の奥深さを知り金継ぎに興味を持ち、高山〜大子の旅で伝統工芸に携わる人々に出会うことで自分のやりたいことがはっきりしていく。その成長の姿がとてもキラキラしていて素敵だった。

  • 金継ぎがどういうものかも知らないで読んだけど、漆のこととか、知らない事をたくさん知れて勉強になったし、面白かった。
    金継ぎをした器を見てみたい!!

  • あたたかな物語だった。それぞれの生きる道、覚悟。千絵さんは「覚悟が足りなかった」とよく言っていたけど最後に納得できてよかった。金継ぎの仕事の素晴らしさのにじみ出る作品だった。
    髙山へ、大子へ行きたくなった。

  • ほしおさなえさんの作品は題材がまず惹かれるものがありますね。これまで大事にされてきたまちの文化や技術や人の気持ちなどなど。
    今回の作品も一度はやってみたいと思っていた金継ぎの話。まずは金継ぎしたいと思うほどに使い込んだお気に入りの器が必要かなぁ。
    三世代の女性たちの生き方や思いとともに、金継ぎについても非常に詳しく解説されていて、読みやすい物語でした。
    結子と真緒の中間にいる自分は、これから仕事と生き方とどうしようか…そんなことも考えさせられました。

  • 物作りって素晴らしい。
    伝統を復活させたり、それを引き継いでいくことは大切。壊れたから捨てるではなく直してそこが新たな景色になるというところが一番印象的だった。

  • なんということないストーリーですが、金継を少しかじっている身としては興味深い内容。高山飛騨春慶塗師の家に育った金継師の祖母から孫が漆の扱いを習う。
    最後には2人で漆の産地、茨城の大子まで旅行に行き漆掻きまで見学する。ネットで調べると、今も漆を植樹して、漆掻き、木地作り、漆塗りまで全て自分でされる木漆工芸家の方が実際に大子にいらっしゃるのですね。漆は一度掻いてしまえば伐採処理しなくてはならないし、新しく植樹しても成長するまでに10年はかかる。たいへんな作業だ。でも日本産漆の伝統を守ってくださる方がいるから、日本の高い技術で質のいい漆器を産み出していけるのだ。感謝です。

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著者プロフィール

1964年東京都生まれ。作家・詩人。95年「影をめくるとき」が第38回群像新人文学賞優秀作受賞。2002年『ヘビイチゴ・サナトリウム』が、第12回鮎川哲也賞最終候補作となる。16年から刊行された「活版印刷三日月堂」シリーズが話題を呼び、第5回静岡書店大賞(映像化したい文庫部門)を受賞するなど人気となる。主な作品に「菓子屋横丁月光荘」シリーズ、『三ノ池植物園標本室(上・下)』など。

「2021年 『東京のぼる坂くだる坂』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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