血と骨 新装版 (下) (幻冬舎文庫)

  • 幻冬舎 (2024年1月12日発売)
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  • 本 ・本 (472ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784344433533

作品紹介・あらすじ

敗戦後の混乱の中、金俊平は自らの蒲鉾工場を立ち上げ、大成功した。妾も作るが、半年間の闘病生活を強いられ、工場を閉鎖し、高利貸しに転身する。金俊平は容赦ない取り立てでさらに大金を得るが、それは絶頂にして、奈落への疾走の始まりだった ……。〝怪物〞と呼ばれた男の業を描き、全選考委員の圧倒的な支持を得た第11回山本周五郎賞受賞作。

感想・レビュー・書評

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  • 梁石日『新装版 血と骨 下』幻冬舎文庫。

    再読。著者の実在の父親をモデルにした全体的にどんよりと澱んだ重たい雰囲気が漂う長編小説。

    昔の父親は家長としての威厳を持ち、その代わりに必死に働き、家族のことを大切にしていた。そして、会社の中で出世を重ね、地位と権力を手に入れる。しかし、男というのは権力を持てば、酒や博奕、女性に走るという残念な生き物なのだ。

    主人公の金俊平の余りにも自己中心的で恐ろしく凶暴な生き様は昔の父親像と重なる部分もありながら、随分と掛け離れた部分もある。朝鮮人と日本人との違いという訳ではないようだ。

    余りにも惨めで、悲しい末路だ。家族を省みることなく、金だけを信じて、やりたい放題し続けた男には悲しい末路が待ち受けていたのだ。


    何とか戦火を乗り越え、闇市で物資を販売しながら子供たちと必死に生きる英姫。相変わらず酒を飲み、たまに家に帰れば家族に乱暴狼藉を働くだけの金俊平だったが、戦後の物資不足に目を付け、蒲鉾工場を立ち上げる。その資金は当然のことのように英姫が苦労して用立てる。

    高信義らかつての蒲鉾職人に声を掛け、娘婿の働きで蒲鉾製造の認可をもらった俊平は蒲鉾工場を操業し、社名を朝日産業にした。蒲鉾工場は作れば作るだけ売れて、金俊平は一財産を作る。しかし、常に我が身のことばかりで、家族を大切にすることなどなく、英姫をはじめとする家族の心は次第に離れていく。特に長男の成漢は父親の俊平に反抗するようになる。

    ある日、俊平の前に息子と名乗る武という男が訪ねて来る。しばらく俊平の家で暮らしていた武は俊平の隠していた金に手を付けようとして、追い出される。その後、武は暴力団の抗争で呆気なく死亡する。

    俊平は再び若い清子を囲い、一緒に暮らすが、謎の奇病で倒れ、半年間入院する。その間に俊平の蒲鉾工場から職人が離れ、工場は閉鎖される。俊平が退院すると清子が脳腫瘍で倒れる。

    俊平は蒲鉾工場で稼いだ大金を元手に金貸を始めるが……

    本体価格790円
    ★★★★★

  • 上巻に続き面白い。執筆されたのが随分前にも関わらず、かなり新鮮な小説(小説というか文学?)。というのも、とにかく話が淡々と進んでいく。「えっ?今のくだりはもう終わったの?」となる感じ。普通こういう進み方をすると退屈になってしまうのが私なのだが、これは全くの逆。起伏もないし大した伏線回収が無いのにここまで惹きつけられるのは、卓越したキャラクター設定のなされる技か。大阪が舞台設定というのも、大阪で生まれ育った私に分かりやすく、尚のこと血と骨の世界に入り込めたのかもしれない。戦前戦後の大阪を、金俊平を通して見ることができてとても良かったと思う。

  • 面白かった。映画で出てきた気持ち悪い料理の場面しっかり出てきてゲテモノ喰いと言われていた。英姫と高信義は人が良すぎる。
    誰が金俊平のことを好きになるんだろう。
    映画では男児だけ無理やり北朝鮮に連れて行ってたような気がしたけど原作は子ども3人と体が不自由な金俊平と行ってた。言葉通じない土地で頼る人もいなくて怖いな。

  • 面白かった。圧倒的な暴力を持って神話化された父親の人格には、胸糞悪い部分も多々あったけれど、それを凌駕する面白さ、力強さがこの小説にはあった。
    ただ、それだけにラストはどうなんだろう。かなり尻すぼみにシュンと終わってしまった感じがある。そういうものだと言われればそうなんだけれど、神話化された父親がどうこの世を全うしたかについては大事なポイントだと思うので、そこにやや不満は残る。
    あと文章がちょっと粗いかな。使われている語彙もそうだけど、ちょっと読みにくさはあった。でも、そんなの些細なことだし、基本的にストーリーが完全に読者を飲み込んでいったからそれには天晴と言うしかない。
    あと女性への性描写がかなり独りよがりなので、そこらへん受け付けない人は無理っぽいかも。

  • 1930年代から戦後にかけて、大阪の在日朝鮮人社会を舞台に描かれた物語。
    なんといっても、物語の中心であり、作者の父親がモデルとなっている金俊平の圧倒的な存在感が凄すぎます。
    酒と性、そしてカネと暴力だけで構成されているかのような怪物には情も理も全く通じません。
    文字通り命懸けで生きている周りの人々の様子は読んでいて辛い部分もありましたが、そんな中で屹立している金俊平から最後まで目が離せませんでした。
    上巻を読み終える頃、作者の梁石日氏が亡くなられました。
    氏の他の作品も読んでみようと思います。

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著者プロフィール

1936年生まれ。『血と骨』『夜を賭けて』など作品多数。

「2020年 『魂の痕(きずあと)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

梁石日の作品

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