芥川賞受賞作家、高橋三千綱さんの本は初めて。家族の本棚にあり、もらった本。年末整理のため読み始めた。
というわけで帯以外何も事前情報なしに読んだのだが、読んでいる最中にどこか違和感があり、その違和感は読了後もあった。で、検索して気づく。
……これは「株式会社染めQテクノロジー」のほとんど社史のような小説だった。
登場人物描写についてなど、多少はフィクションもあるだろうが、ほとんど事実なのかなと思う。創業者である菱木貞夫の生い立ちから起業、転落、再生の様子を妹である恵美子の目を通して描いている。
人物描写としてはまず兄妹の母の描写がかなりの「鬼婆」、というよりあまりにも情緒不安定な女性に描かれているのだが、その回収やそうなった背景の説明なども特にされなかったのは「小説」としては不完全燃焼な感じがした。(お母さま……子どもたちにこんな感じで描かれてますけど……それでいいんか……?)
また、物語といえばいかに親を乗り越えるかが主要テーマのひとつだと思っていたので、てっきりそういう展開もされるのかな〜と思い読み進めていたら特にそんなことはなく、ただただヤバい母親で終わる。この母親の人物像が強烈なので、会社の起業、上昇、転落、再生のストーリーよりもそっちの方が印象に残ってしまった。笑
あと、妹の恵美子の良く言えば素直なお嬢様っぷり、悪く言えば何も知らない様子にもひたすらもどかしさを覚えた…笑
【ちょっと言いたいこと】
事実をベースにしたほぼ社史の物語だとわかって読んでいればふ〜ん、へ〜、という感じの読書体験だったのだろうが、帯にも商品説明にもそんなこと書いていないし、デカデカと書いてあったのは
「アノ家は貧乏だからよ。貧乏すぎるからよ」
のセリフ。これ、読み終えた者としては「かなり違和感を感じた」と指摘したい。
これだけ見たら貧乏な家族のお話なのかな?と思うのではないだろうか。しかしこのセリフは恵美子の母(例の鬼婆)が恵美子に結婚を取りやめるようヒスった場面のセリフ。
貧乏なのは恵美子の結婚相手の家のことである。(しかもその結婚相手もなんだかんだで東大卒、そして都庁に勤める公務員なのである。)
(というか、この物語には貧乏すぎる人など出てきません…。)
この物語の本質をな〜〜んにも捉えてない抜き出しの帯文。これに関しては、読後、なんでこの文を帯文に?という疑問を抱いたし、「こういう売り出し方でいいのか?幻冬舎メディアコンサルティングさんよ!」という感想と(結構な)不信感を抱いた。
意図的なミスリード?”三丁目の夕日”的な郷愁を感じさせる物語だと思わせたかったか?多分家族もそれで買っちゃったのかな…。
それともただ単にセンスがない?
つまらなかったとしても別にいいので、こういう騙すようなのはちょっとどうかと…。
(というわけもあり星2つです…)
【おすすめポイント】
日本経済が列島改造論〜バブル期〜そしてバブル崩壊…と劇的に変化を遂げていく様子が兄・貞夫と妹・恵美子の周辺の人々と共に描かれている物語なので、その辺りは帯の文の通り「生々しく」感じられて面白いかもしれない。また、
・「株式会社染めQテクノロジー」の今に至るまでの歴史が知りたい人
・社長/専務を知りたい人
・社長の転んでも立ち上がるスピリットに励まされたい人
にはおすすめ。