孤独の価値 (幻冬舎新書)

著者 :
  • 幻冬舎
3.63
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本棚登録 : 1714
感想 : 169
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  • Amazon.co.jp ・本 (182ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784344983670

作品紹介・あらすじ

孤独の価値は森博嗣さんが人生論について書いた作品です。人はなぜ孤独を怖れるのか、誰もが思う孤独が寂しいといった価値観を違った見方で捉えています。人間を寂しいといった感情にしてしまう得体のしれない孤独感を少しでも和らげるための画期的な人生論です。社会と共生しながらも自分の思い描いた自由を生きることが重要だと感じさせてくれる作品です。

感想・レビュー・書評

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  • 海外で大学院生活を送った中で、「孤独」と戦ってきた経験と学びを書き残しておこう、とおもってブログ記事を書いているなかで、少し参考になる本はないか、と思って探した一つである。

    結論からいうと、賛成できる部分が3割ぐらいという感触だった。あまりに「孤独」のネガティブなイメージを再定義しようとして、多くの孤独に苦しんでいる人を引き付けられない内容になっている印象を受ける。

    著者が冒頭で宣言している通り、「孤独というものは、それほどひどい状況ではない」という主旨が一貫して展開されるエッセイなのであるが、本当に孤独に苦しみ、そして向き合って乗り越えた経験を踏まえると、本当に孤独の中でもがき苦しんでいる状況では、そんな「考え方の転換」は非常に難しい。

    違和感だったのは、「孤独を感じること」が間違ったように論じられている点だ。孤独が仲間のぬくもりとか、友達と交わる楽しさといったものを失うことで、喪失感となって孤独感を引き起こすとしている。しかし、それは実は人と仲良くしないといけない、仲間に認められ、みんなでなにかを成し遂げることが善だという「刷り込み」があるだけで、そもそもそれが善であるわけではない、と指摘する。

    なるほど、それもそうだと思う。一人でいることが悪いわけではないし、一人でいることを好む人を「あいつは寂しいやつだ」とジャッジするのは間違っていると思う。例えば「一般的ではないだろうけど、たとえば、天体観測に一生を捧げる人生だってある。数学の問題を解くことが、なにより大事だという人生だってある。仏像を彫るために、命を懸ける人生だってある。」という部分は納得だ。「友達や家族に裏切られても、自分一人で楽しく生きていける道があると教えることがあるだろうか」という部分もまさしくそのとおりだ。孤独が悪いものと決めつける風潮がおかしいという点には同意できる。

    しかし、自分が一人でいて寂しいと感じるその感情は否定してはいけないと思う。一人でいて、周りには自分を理解してくれる人がいない。自分の苦しみをわかってくれる人がいない。その気持ちを受け入れて、消化することが重要なのであって、そんな感情は間違っている、という論には個人的には賛同はできない。私が書こうとしているのは、これをどう受け入れて、消化したかである。

    しかし、本当に孤独に苦しむ経験を得ることで、孤独の価値を理解することもまた事実だ。多くの仲間や友達に囲まれていたときとは違う自分を見つけるプロセスでもある。それもまた、孤独の辛さを受け入れるプロセスで見えてくるものである。そういう意味では、本書はすでにその境地に至った視点からのコメントととも受け取れる。

    この辺りの表現だと、私は池田晶子の言葉好きだ。孤独を味わうという文脈の中で、子供の頃しつけのために押入れに入れられていたのを実は好んでいたという。「空間的に閉じこもることによって、逆に内に開ける」という表現は、そこに至れば孤独を味わうと言える境地だということをうまく表している。(池田晶子『暮らしの哲学』)

  • それは本当に欲しいものなのか考えないといけない。考えるには孤独は最適である。流されやすい私はもっと孤独の価値を上げ、考えることで、数々の悩みを解決出来るのでは?と思わせてくれた。

  • 【Before】
    元々自分一人の時間は大好きである。孤独を悪いものとも思っていない。
    しかし本当にそうなのか?孤独が好きということは単なる自分の強がりではないか?
    【気付き】
    ・「寂しい」におけるマイナスイメージは、マスコミが作り上げた虚構である
    ・孤独=「寂しさ」とも言えるが、寂しい時間があればその分「楽しい」時間が待っている。寂しさと楽しさはブランコのようなもの。振れ幅は一緒である
    ・ただし、受信オンリーな人間が孤独に陥ると危険である。常に助けを自身の外に求めているから、その立場が危うくなった時のダメージが大きい。
    ・自身が「創作」したものと向き合うことでそこに逃げ道を見出すことができる。
    【Todo】
    ・孤独の価値は計り知れない。迷うことなく自分のやりたいことに時間を使おう
    ・孤独な時間をアウトプットにつなげよう
    【まとめ】
    人は一人では生きていけないが、必要以上に他人に期待する必要もない。一番大事なのは「自分」なのだから、孤独な時間をもっと自信を持って楽しむ自分になりたい。

  • 森博嗣の小説は好きだけど,これはあまりグッと来なかった.自分がターゲット層ではないのかもしれない.

    全体としてずっと感じた違和感は,「孤独」の定義.孤独を一人でいる時間と定義すれば,本書の主張に反論はない.
    でも,一般に「孤独」って,他者とのつながりを完全に絶たれた状態で,言わば山に篭った仙人のようなことを指すのではないだろうか.
    その点,森氏は確かに友人・親戚とはあまり直接的に会う機会がないのかもしれないけれど,メールのやり取りは日常的にしてる訳だし,何より家族(奥様)と同居している.
    これは孤独ではなく,「一人の時間が長い」だけだ.完全に社会から孤立した真の意味での孤独ではない.

    ああ,確かにこうして文章にすると,まさにこの1点のせいで文書を読み進められなかったのだと感じる.

    一人の時間が大切というのは全面的に同意する.

  • 孤独、の概念から説く一冊。人間だから感情も含めて相対的なものだというところから始まるのだけど、きちんと理に叶っていてやっぱり森さんは理系だな。
    商業的ないろいろに乗った孤独=悪を別の見方で説明。自分自身と子どもに当てはめても肯くことばかり。
    単なる自己啓発マニュアルではない良書。
    真理を突きすぎていると思うし、ぼんやり浮かぶ事柄がきちんと明文化されている。
    思考停止せず、きちんと自分のやりたいことを突き詰めて考えることが必要だと痛感。

  • ・創作
    ・美の発見
    ・高尚な虚しさ

  • どうやら著者は、「孤独」というものを「チームプレーができないこと」「近代資本主義が要求する共同幻想に対し抵抗感を感じながらも、これに否応なく流されていること」だと定義しているようだ。そしてこれらに対置する形で「個人だけで目的を探求することの素晴らしさ」つまり個人プレーを挙げその素晴らしさを説く。

    僭越ながら僕の考えでは全く違う。個人プレーである程度自己実現できている人はそもそも孤独感など抱いてはいまい。現代人の抱える孤独とは、「チームプレーも個人プレーも両方できなかった」人の抱える絶望感だ。共同幻想か個人的な探求か、どちらかは果たせるだろうと生きながらも、二つとも指の間からこぼれ落ちていった者の遣る瀬無さだ。「近代資本主義が要求する共同幻想」の虚構性になどとうの昔に気づきつつも、これに代わる価値観をいまだ見出せないことの閉塞感なのだ。このことが、個人としてすでに一定の成功を収めているとみえる著者に根本的に理解できていないのだと思う。

    連帯感をやたらと鼓舞するマスコミへの反感は理解できるが、ではなぜマスコミの行動様式がそのようなものであるのかについてはほとんど考察されていない。儲かるから?ではなぜ連帯感を謳うとマスコミは儲かるのか? 単純に「孤独」を「個人プレー」に矮小化してしまっているため、本質的な問題に全く答えられず薄っぺらな内容になってしまっている。

    あと、全く本筋からは外れるが「オーバ 」「マイナ」のように、すでに日本語化している外来語が、わざわざ本来の発音(と著者が考えるもの)に置き換えて表記されているのがいちいち引っかかって読みにくい。「マイナ」なんて一瞬マイナスの意味かと思った。表記に整合性を取るなら「声でそれをカバーする」というくだりも「カバする」と表記すべきだと思うが。

  • f.①2015/1/5
    p.2014/12/24

  • 寂しさの感覚はその瞬間の何かに感じるのではなく、その後の努力や対応への力が必要で嫌な予感からきている。
    サインカーブを微分する考え方は面白いアプローチだった。

  • 7年ぶりの再読。幸福観、人生観、価値観、世界観なんて、テレビやありきたりのマスコミに教え込まれたものじゃないのか?本当に自分はそう思うのか、本当にそれを選ぶのか、それを自覚するには一人の時間が必要だ。仲間同士同じ方向に歩くのは楽しい。でも自分が行くべき道なのか、ひとりで、こまめに確かめたほうがいい。孤独は成熟の賜物だし、また成熟も孤独の賜物なんだ。

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著者プロフィール

工学博士。1996年『すべてがFになる』で第1回メフィスト賞を受賞しデビュー。怜悧で知的な作風で人気を博する。「S&Mシリーズ」「Vシリーズ」(ともに講談社文庫)などのミステリィのほか「Wシリーズ」(講談社タイガ)や『スカイ・クロラ』(中公文庫)などのSF作品、エッセィ、新書も多数刊行。

「2023年 『馬鹿と嘘の弓 Fool Lie Bow』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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