作家の収支 (幻冬舎新書)

著者 :
  • 幻冬舎
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  • Amazon.co.jp ・本 (204ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784344984028

作品紹介・あらすじ

1996年38歳のとき僕は小説家になった。作家になる前は国立大学の工学部助教授で、月々の手取りは45万円だった。以来19年間に280冊の本を出したが、いまだミリオンセラの経験はなく一番売れたデビュー作『すべてがFになる』でさえ累計78万部だ。ベストセラ作家と呼ばれたこともあるが、これといった大ヒット作もないから本来ひじょうにマイナな作家である-総発行部数1400万部、総収入15億円。人気作家が印税、原稿料から原作料、その他雑収入まで客観的事実のみを作品ごと赤裸々に明示した、掟破りで驚愕かつ究極の、作家自身による経営学。

感想・レビュー・書評

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  • 誰もが気になるお金の話。特に作家という一般人からは謎めいた特殊な職業の(森先生の)収入や支出について数字をもとに発表したある種タブーに触れた内容となっている。自分の主義によって作品を作っているだろう森先生であるから書かれている内容が本当だと信用できる。あとがきからの引用→すべての仕事を通して、僕が最も意識していることは「新しさ」である。新しさを生み出すこと、新しさを見せること、それが創作者の使命である。「使命」というと格好が良いが、もう少しわかりやすく表現すれば「意地」だ。それが、それだけが、プライドを支えるもの、アイデンティティなのである。/したがって、小説家になるためにはこれこれこうしなさい、といった既存の「ノウハウ」に惑わされてはいけない。とにかく自分の作品を書けば良い。「手法」はどうでも良い。「どう書くか」ではなく、「書くか」なのである。自分の勘を信じること。自由であり続けること。その場かぎりでも良いから、自分が考えた理屈に縋って、「正しさ」そして「美しさ」を目指して進むこと。あとは、とにかく「勤勉」を自分に課すこと。これくらいしか、僕にアドバイスできることはない。最適の健闘を!また別の森先生の本も読もう。

  • やっぱり森博嗣さんくらいになると、このくらい稼ぐんだぁ、と思わず感嘆の溜め息をつきました。
    作家は一体どれくらい稼ぐのか―。
    作家志望者ならずとも気になる疑問に答えたのが本書。
    人気作家(だった?)の森さんが、自身の収支を余すところなく公開しており興味深く読みました。
    たとえば、デビュー作「すべてがFになる」はノベルス版で第24刷まで出て累計13万9600部、文庫版が第60刷まで出ていて累計63万9300部。
    この1作で印税を「合計6000万円以上いただいている」と明かしています。
    印税だけでなく、作家にはたとえば原稿料(小説雑誌で原稿用紙1枚当たり4000~6000円が相場とか)、講演会の出演料、さらに漫画化やドラマ化、ゲーム化された際の印税、あまり知られていないところでは入試問題に使われた際の著作権使用料といった収入があるそうです。
    では、支出はというと、これがほとんどないに等しい。
    特に、森さんの場合は、資料をそろえたり取材をしたりするといった手法を採らず、「すべて自分の頭から出したままを書いている」そうです。
    自身いわく人付き合いが悪いそうなので、交際費も必要ありません。
    つまり、支出はほとんどゼロに近く、売れれば収入が大きいというわけです。
    あくまで売れればということですが。
    ただし、作家が不安定な職業であることも事実のよう。
    森さんは元名古屋大助教授で、デビュー後も10年くらいは勤務していました。
    後年売れっ子作家になって助教授時代より何倍も稼ぐようになっても、クレジットカードやローンの審査が通るのは難しい。
    病気になれば収入は途絶えますし、1作が当たっても「次が当たるとは限らない」。
    ちなみに、森さん自身は小説に特に強い愛着があるわけではなく、お小遣い欲しさに小説を書いて投稿し、編集者の目に留まってデビューと相成ったそう。
    ですから、かなりドライです。
    「スランプに陥らないためには?」の項で、こんなことを書いています。
    「スランプというものを経験したことがない。どうしてかといえば、僕は小説の執筆が好きではない。いつも仕事だからしかたなく嫌々書いている。小説を読む趣味もない。この仕事がさほど好きではないし、人に自慢できる価値があるとも認識していない。スランプにならないのは、このためだと思われる。」
    だから、量産できたのでしょうね。
    何と言っても森さんは多作で知られ、デビュー以来19年の間になななんと278冊を上梓しました。
    総部数は約1400万部、これらの本が稼いだ総額は実に約15億円、1冊あたり約5万部が売れ、約540万円を稼いだ計算になります。
    すご……。
    作家は口を開けば、「大変な商売」「割に合わない」なんてことを云いますが、森さんは「割のいい商売」とさらりと云ってのけます。
    森さんだから云えるのかもしれません。
    最後の「これからの出版」の章では、先細る一方の出版界で作家はこれからどう身を処していくべきかを提言しています。
    メディアがますます多様化するので、やはり森さんのように「多作であることが有利」といいます。
    先程、森さんのことを「ドライ」と書きましたが、「あとがき」ではこんなことを書いていて瞠目しました。
    「デビュー以来、すべての仕事を通して、僕が最も意識していることは『新しさ』である。新しさを生み出すこと、新しさを見せること、それが創作者の使命である。『使命』というと格好が良いが、もう少しわかりやすく表現すれば、『意地』だ。それが、それだけが、プライドを支えるもの、アイデンティティである。」
    森さんの熱い一面を見る思いで読みました。

  • なかなか公開したがらない人が多い作家の収支を実データと共に公開。ここ人の論理的なものの考えた方と分かり易い文章はとても好感が持てます(全てがFになる、は正直苦手でしたが)。

    ミステリィは純文学よりもビジネスに徹する事が出来る分野なのかな、と思いました(それでも時代を捉える嗅覚みたいなものは必須とは想いますが)。

    何よりも書き続ける事、人がやらない事をやる事。それによって過去作の価値も上がるのだな、と学びました。

  • 森先生らしい、歯切れのよい文体で一気に読みました。
    小説家を職業とは捉えてなかったのですが(どちらかというと芸術に近いと思っているので)、仕事として考えて、金銭面で真面目に紹介しているのが面白いです。
    自分のセンスや考えを文章にして売るという活動が、商業ベースに乗るとどのような金額になるのか、シビアな世界であることは数字で見ると一目瞭然。
    本のおかげで楽しませてもらっている読者としては、きちんと新刊買わなきゃなと思わせてくれる一冊でもありました。

  • 目に留まり、興味本位で読んだのですが、予想以上に楽しめました。

    売れ方が別格であることは承知していたので、数字に驚くはずではなかったのですが、のっけからびびりました。
    印税や部数ではなく。
    1時間で6000字――1時間で6000字? =20枚。
    二度見どころではなく五度読みくらいしてしまった。
    速!

    辛辣と感じるまでにドライな書きぶりは、以前にエッセイを読んでいたので問題なく馴染めました。
    そんな中にも(だからこそ?)笑ってしまったり和む記述もちらほら。
    メフィスト賞のホームズ像や、テレビ関連グッズ「マグカップとお菓子(ゼリィ)」の印税が数百円振り込まれた件、特典というか役得の話も楽しかったです。

    出版やメディア、小説家という職業に対する意見は、フラットで、説得力があります。
    また、説得力以上のエネルギーで働きかけてくることも書いてあって、読んで良かったと思いました。

  • 「人気作家の森博嗣に印税をあげたくないから」と彼の本のほとんどを中古で買い集めているのだが、そんな些末なことどうでもいいわ、とばかりに稼いでいて、何やら恥ずかしいばかり。

    しかも本作を読むと、「この本買っちゃおうかなぁ……」とか「森博嗣って意外と親しみやすい人?(あくまで人格の話)」とか思わされてしまい、まんまと戦略にはまっている気がしてならない。

    特に前半の「作家の収入という漠然としたイメージ」にはっきり数字を与えてくれる部分は嬉しく、目を覚まされる面白さがある。大変興味深い内容だった。

  • 作家 森博嗣がこれまでに稼いだ収入を包み隠さず公開する。人気小説家ともなるとその時給は100万円にもなるのか。

  • 書籍だけで15億。その他収入を合わせれば、20億は稼いでいるだろう。で、引退を決意し、田舎暮らしで隠遁生活していたら、社会への感謝の気持ちを抱き、社会と関わりを維持していこうという気になったらしい。なら使い切れないカネを寄付するとか慈善活動でもすればよいと思うのだが、やはり職業作家としての承認欲求が捨てきれないかなという印象を受けた。一見淡白と思える著者ですらそうなのだから、人間の引き際って難しいな。

  • 著者の本はこれが初めてで、「すべてがFになる」は映像化されていたので知っていたけれど著者自身については何も知らなかった。
    作家という職業の内実をついてここまで公開している人もいないのではないか。
    著作権は外国に比べ日本は期間が短い、作家は普通は赤字にならない、印税率は作家と出版社との契約で通常は10%、など知らなかった事が色々と分かり本が好きな人にはとても興味深く読める内容。

  • テレビドラマの原作料を面白く思ったが,そこらに引っ掛かった編集者もいるんだね~原稿料:小説雑誌4,000~6,000円(単位は400字詰原稿用紙)→50枚の短篇だと20万~30万。漫画の場合は6,000~15,000円/枚(中には50,000円あり)。新聞のエッセィ20,000~50,000円/作。新聞連載小説50,000円/回。400~600枚の長編は200~300万円。印税8~14%。普通は10~12%。未発表(書き下ろし)が12%で,雑誌掲載後や文庫化で10%。計算は印刷された時点で,出版社が著作権を利用したという筋道。単行本が出て約3年後に人気のあるものが文庫になる。値段は半額。3年が単行本の賞味期間で,ファンは多少高くても買うというのが日本のマーケッティング。単行本の6倍以上文庫が売れる場合は,文庫書き下ろしとして文庫で12%を貰った方が作家は得。森の累計部数:単150万2000ノ403万1700文791万3700新45万2500絵12万3000。1000円の本を1万部作り,印税が100万円,制作費300万円,取次等のマージンで出荷価格は700円程度になり1万部売って出版社の利益は300万円,6割しか売れなかったら売上420万円で利益20万円。実は多くの書籍が赤字。日常的に小説を読むのは数十万人と少ない。森の印税収入ピークは2008年で1億1222万円,1996~2014累計11億9087万円だが,電子書籍の印税は15~30%,もっと高くても良いと思う。印税だけが収入ではない。講演は40万円/時間と決めていた。テレビの原作料50万/時。コカコーラの依頼で書いた「カクレカラクリ」の執筆は1000万円。教科書にエッセイが載って年間50万円くらい。支出の方は…人件費も掛からず殆どなし。印刷出版した本は278冊,総部数1400万部,稼いだ総額は約15億円,1冊当り約5万部売れ540万円を稼いだ計算。2008年引退後,収入も半減したのは仕事量に比例する~ライトノベルズって成る程,イラストがついてナンボって奴で,2%の印税がイラストレーターに入る!「…在庫は処分されることになる。在庫は課税対象になるからだ。処分するくらいならば,新古書店などに安く出荷する方が良い気もするのだが,そういうことは,表向きにはできない(裏の事情は知らない)。」(p37)森はメフィスト賞に応募せず受賞し(突如創設),賞金なしで本になることが報酬,小さなホームズ像はロンドンのシャーロックホームズ博物館の土産で£10

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著者プロフィール

工学博士。1996年『すべてがFになる』で第1回メフィスト賞を受賞しデビュー。怜悧で知的な作風で人気を博する。「S&Mシリーズ」「Vシリーズ」(ともに講談社文庫)などのミステリィのほか「Wシリーズ」(講談社タイガ)や『スカイ・クロラ』(中公文庫)などのSF作品、エッセィ、新書も多数刊行。

「2023年 『馬鹿と嘘の弓 Fool Lie Bow』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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