- Amazon.co.jp ・本 (245ページ)
- / ISBN・EAN: 9784344984165
作品紹介・あらすじ
バター不足が続いている。農水省は、その理由を原料となる生乳の生産量が落ちたうえ、多くを飲用牛乳向けに供給したせいだと説明した。だがこれはうわべの事情に過ぎない。実際は、バターをつくる過程で同時に生成される、あの脱脂粉乳が強い影響力を持っていた。使い道が少なくなった脱脂粉乳が、生乳の価格、酪農経営、そしてバターの生産量をも左右していたのだ。これまで外部にさらされることのなかった酪農をめぐる利益構造と、既得権益者たちの思惑。隠された暗部をえぐる。
感想・レビュー・書評
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酪農家は朝夕は忙しいが昼間は暇。地元の役職が多い。
牛乳には低温保持殺菌と超高温瞬間殺菌がある。
牛乳は生乳からつくられるものだけ。乳脂肪分3%以上。
低脂肪は0.5~1.5%、無脂肪は0.5%未満。
成分調整牛乳とは、成分の一部を除いたもの、という規定があるだけ。
加工乳はバターと脱脂粉乳など乳製品からつくられる。生乳以外の乳製品が入れば加工乳。
生乳の価格は飲料向けと生クリーム等向けでは違う。
牛乳をバターと脱脂粉乳に加工したのち、水を加えると牛乳に戻る=加工乳。
以前は生乳の3.2%以上の脂肪からバターを作っていた。
その後乳脂肪の基準が3.5%になり濃厚になったため売れ行きが延びた。
バターの関税率は300%。エシレバターが高い理由。
不足しても輸入されない。
牛乳や乳製品は、製造は安定しているが消費が天候に左右される。直接消費者には流通しない。多様な乳製品がある。国の政策に左右される。生乳の価格はいくつもある。
脱脂粉乳が雪印事件で人気が落ちたため、バターの生産量も落ちた。余った脱脂粉乳から加工乳が作られるため脱脂粉乳の需要に合わせてバターを作ることになる。
TPPでホエイの関税が撤廃されると脱脂粉乳の需要がさらに減る=バターの生産がさらに減る可能性がある。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
ダノンにいたときから酪農業界は大きな政治力を持っていると思っていたが、その成り立ちと現状がよくわかる。バターと脱脂粉乳をから加工乳を作ることができ、バターだけ輸入自由化するのは間接的に生乳生産に打撃を与えてしまうというのは想像を超えた話だった。
専門的すぎるきらいがあるが、長年酪農政に携わってきた筆者の提言は納得のいくもの。 -
うーん、むずい。
脱脂粉乳とバターのどっちかがあまるとこまるし、乳価格を下げると酪農家が困る、から? -
一時期、バターが市場に行き渡らずに話題になったことを思い出して読んでみましたが、農政も絡んだかなり複雑な状況だということが分かりました。高関税と減反政策により高どまりしたままの米価により、国民が不必要な出費をしている現実。酪農や畜産についての認識も改めねばならないと切に思いました。
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解っているようで解っていない、日本の農政。農家の保護のため、いろいろな施策がなされているのはわかるがその実態はわかっていなかった。米とは違う、酪農の世界。
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一昨年に顕在化したバター不足は、ローカル紙の記者である私も何度か取材しました。
スーパーへ足を運ぶと、バターの棚だけがスカスカ。
店長にインタビューすると、「こんなことは初めて」と、困惑していたのを覚えています。
当時、各紙は、バター不足の理由として概ね次のように報道しました。
「原料となる生乳の生産量が落ちたうえ、多くを飲用牛乳向けに供給したため」
しかし、これは誤りで、本当の理由は別の所にある―というのが本書の主張。
実際にバター不足を現場で取材した私は、本書を新聞の読書欄で知り、早速アマゾンで購入して興味深く読みました。
バター不足を読み解くカギは、「脱脂粉乳」にあります。
生乳からバターと脱脂粉乳は同時に生産されます。
原料となる生乳が少なくなることがバター不足の原因なら、バターだけでなく脱脂粉乳も不足しなければなりません。
しかし、そんな情報は聞きません。
では何故でしょうか。
ここから話は少し込み入ってきますが、現在は過剰生産の恐れがある脱脂粉乳に合わせて生乳生産を行い、不足するバターを輸入しています。
今回のようにバターが不足すれば輸入すればいいものですが、バターは高関税によって民間の輸入は事実上禁止されています。
国の機関(農畜産業振興機構alic)に輸入を指示する農林水産省は、なかなか輸入しようとしないし、輸入する場合でも抑制された最小限の量しか輸入しません。
何故なら、輸入で国内の牛乳・乳製品需給が緩和すると、酪農団体と乳業メーカーとの入荷交渉に影響を与えるからです。
酪農団体のポジションが悪くなると、その原因を作った農水省の責任が問われ、自民党農林族からの評価が下がり、省内の出世に響くというわけです。
2011、2012年度もバター不足が起きる可能性がありましたが、このころは酪農や牛乳・乳製品政策に詳しい議員の少ない民主党政権下でした。
このため、農水省もそれほど気兼ねすることなく輸入することが出来ました。
しかし、酪農団体の日本酪農政治連盟(酪政連)に対応する酪政会という議員集団を党内に持ち、農林族も強固な自民党は違います。
その自民党は2012年末に政権復帰したのでした。
著者は「農林水産省が国民や消費者でなく自民党の農林族を向いて仕事をしていることは事実である。」と述べています。
ちなみに著者は東大法卒後に農林省(当時)に入省、同省ガット室長や農村振興局次長などを務めたレッキとした元農水省キャリア官僚です。
それにしても、生乳の仕組みは素人には複雑怪奇。
もっとも、本書に書かれている内容の一部は「酪農家さえ知らない」というのですから、無理もありません。
一読して理解が出来ず、戻って読み直すということが何度かありました。
それでも、一読の価値はあります。
今の歪んだ農政の根本原因を考えるためにも有益な一冊でした。 -
農林水産省出身で農業・食品に関する鋭い分析と斬新なアイディアを様々なメディアで発信している著者については、前から関心を持っていたが、著書を読むのは初めて。データに基づく合理的思考で、マスメディアが流す「専門家」の主張を覆していくとともに、その「専門家」がそのような主張をする背景・立ち位置まで明らかにしていく。著者自身がインサイダーだったときの経験も踏まえ、農業保護がいかに日本の農業をダメにしていったかがよくわかる。今後も同じような農政が続くのだろうかと思うと、暗い気持ちにもなる。