大本営発表 改竄・隠蔽・捏造の太平洋戦争 (幻冬舎新書)

著者 :
  • 幻冬舎
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  • Amazon.co.jp ・本 (281ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784344984257

感想・レビュー・書評

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  • デタラメの代名詞とも言われる「大本営発表」。
    近現代史研究者の辻田氏はこの大本営発表にスポットを当て、その始まり(1937年の日中戦争時)から、最後(第二次大戦終了時)までを追いかける。
    最初はデタラメとは言えず、そこそこ正確に戦況を伝えていた大本営発表が、一体いつ頃から綻び始めるのか。勿論、日本の劣勢を隠すためではあるのだが、なぜ当時のマスコミはその発表に隠された大きな嘘をそのまま報道したのか。
    そこには陸海軍の対立と、国とマスコミの間の対立と癒着が深く関係していたことを丁寧に掘り起こしている。
    戦時統制で新聞に使う紙が統制の対象になり、群に逆らえば新聞が印刷出来なくなると言う国に急所を掴まれた状態の新聞社。関係構築のために軍の報道部門を接待する新聞社。本来は権力の監視者であるべきマスコミと軍の緊張関係が崩れ、大本営発表を無批判に流し続けたことが大本営をデタラメなものにした背景の一つだと辻田氏は述べる。
    この軍と新聞社の関係には既視感がある。
    放送法を倫理(努力目標)ではなく法規であると解釈を変えて違反した社は停波の罰則を課すと政府から脅されたテレビ局。政権に批判的とされた番組キャスターやコメンテーターを降板させたテレビ局。
    今の状況と恐ろしいほど似ている。
    既に一部のマスコミは国民の信頼を失いつつあるし、メディアの中立性と、権力の監視という公益性を無視して政府がメディアに介入し、メディアを変えるべきだという本末転倒な主張まで出始めている。
    本書はまさに今に対する警鐘だと感じる。

  • 米国の犯罪学者Donald R.Cresseyによれば、不正行為は機会、動機、正当化の3要素が揃った時に起こると言う。戦況報告で噓をつくのも、情報独占がもたらす「機会」、戦況をよく見せたい「動機」、下からの情報を無碍にできないという「正当化」、すべての要素が揃っている。本来報道機関がその矛盾をついて情報の正しさを吟味する責任があるはずだが、部数を売ることを優先し、自ら翼賛的な報道姿勢を選択した事で「大本営発表」を支えた。戦後一部の新聞は権力と対峙することが使命と勘違いし、未だに部数/視聴率第一のセンセーショナリズムを繰り返すだけで真実や本質を掘り下げようとしない。それに記者クラブは警察を含む権力とズブズブで、戦中の軍との関係と何ら変わる所はない。疑惑の追及も結構だが、本来彼らが果たすべき第一の使命は正しい情報の発信である。誰もが情報の発信者になれる現代、そんな「発表ジャーナリズム」では先は暗いだろう。今ほど正確性を担保するメディアが望まれている時代もないのだが。

  • 国民必読でしょ。無茶苦茶になったのは政府と報道が一体化した結果であった。
    日本人は第二次世界大戦の総括が不十分だと言われるのは、総括されるとマスコミの暗部が明らかになってしまうから、なのではないかね。
    そういった意味でも、マスコミの自分の隠蔽体質は当時の軍部と大差ないのではないかね。

    いやー、ファクトに基づいた良い本でした。勉強になりました。

  • ・大本営発表とは、日中戦争〜太平洋戦争にかけて軍部から発表されていた戦果報告のこと。
    ・今やデタラメな発表の代名詞として使われる「大本営発表」。これが実際どれだけデタラメだったか、何故そうなったか、そして教訓について詳細に、かつ分かりやすく書いた本。右寄りでも左寄りでも無くフラットなのがいい。
    ・これを読んで何故日本が負けたかと、今日本の製造業がダメになってるのか、凄く近いのではと感じた。
    ・勝ってる時は、正しい報告をすりゃ良かった。しかし、戦局が変わってから、戦意高揚という大義名分の元、水増ししたりしていた。後で帳尻合わせすればいいやと思っていたところもある。
    ・ベテランの兵士が次々戦死した結果、戦地から上がってくる情報の信憑性が悪くなった。煙があがっただけなのに沈没させた、など。それを現地で戦っている人間からの情報を訂正するとは何事か、という謎理論で修正しなかった。
    ・海軍と陸軍が完全に縦割りで、報道部も完全に分かれていた。互いのメンツを立てることに終始した結果、過剰な報告をしまくった。このままではヤバイと統合されたのは何と1945年。これでは救えない。
    ・結局、自分達が作った偽情報に惑わされて有用な作戦が立てられなくなってしまった。
    ・どっかの会社で聞いた話に近いな...

  • ↓利用状況はこちらから↓
    https://mlib3.nit.ac.jp/webopac/BB00555708

  • 大本営発表の変遷とその背景を網羅的に辿る名著。太平洋戦争の変遷も同時に辿れる。史実と筆者の評価が絶妙なバランスで混ぜられており、学びと面白さが両立している。

    空母にして73隻もの戦果報告の改竄は呆れるばかりだが、一度ついた嘘の辻褄が合わなくなって嘘をつき続けることしかできなくなった陸海軍の悲哀たるや。

    国民を騙すこと自体が大きな罪だが、戦果の誤認や改竄が誤った戦略を生んだことも特筆すべき事態。

    現代はメディアの質と、メディアの独立性で揺れ動いているところかなと思うが、少なくとも、くれぐれも報道機関と政府は適切な緊張感を保ってほしいと願うばかりである。

  • 古い組織は、その組織や部署の存続がなににも勝る目的であって、蓄積された(ほかでは全く役に立たない)前例によく通じていて、大量の情報を処理して、組織が望む形に整理できる人が偉くなっていく。そうなると、大事な変化のサインに気づける人が駆逐され、知らぬ間に老朽化していく。その最たる例だな。うちも同じ気はある。また、なんでも二元論で処理して、「一致団結だ。やるか、やられるかだろう。じゃあわきめもふらずやるしかないだろう」的な暴論は、上り調子の時はいいけど、分が悪くなると坂を転げ落ちるように悪化していくってことも良くわかった。

  • 純粋な日本史の本です。教養を高めたい人にオススメです。
    概要ならばWikipediaで拾える範囲で十分だと思います。詳細を学びたい人にはオススメです。

  • 何年か前にラジオで聴いて、気になってた本。ようやく読んだ。

    戦時中の「大本営発表」って実際にどういうものなのかを、ちゃんと理解してなくても、「大本営発表」という言葉に「信用ならない」というイメージだけは、しっかり共有されてる。

    で、本書を読んでみると、想像以上にエグかった。想像以上に信用できない代物だった。

    ホントに大本営発表のままに戦況が推移してたら、間違いなく日本勝ってる。「大本営発表」によると、太平洋戦争で日本軍は連合軍の戦艦43隻、空母84隻を沈めたことになってるそうだが、実際には戦艦4隻、空母11隻だったらしい。。。

    バカみたいな話なんだけど、当時の状況の中に身を置いたと想像してみると、もしかしたら報道に煽られて、目にするものや耳にすることを、コントロールされてたらと思うと、しっかり熱狂してたかも知れない。

    現代の日本だって、必ずしもその状況と無縁かと言えば、そうとも言い切れないのが怖いところ。

  • これぞ欺瞞の美学

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著者プロフィール

辻田真佐憲(つじた・まさのり)
1984年大阪府生まれ。文筆家、近現代史研究者。慶應義塾大学文学部卒業。同大学大学院文学研究科中退。
2011年より執筆活動を開始し、現在、政治・戦争と文化芸術の関わりを研究テーマとしている。著書に『日本の軍歌 国民的音楽の歴史』、『ふしぎな君が代』『大本営発表』『天皇のお言葉 明治・大正・昭和・平成』(以上、幻冬舎新書)、『空気の検閲~大日本帝国の表現規制~』(光文社新書)『愛国とレコード 幻の大名古屋軍歌とアサヒ蓄音器商会』(えにし書房)、『たのしいプロパガンダ』(イースト新書Q)などがある。歴史資料の復刻にも取り組んでおり、監修CDに『日本の軍歌アーカイブス』(ビクターエンタテインメント)、『出征兵士を送る歌 これが軍歌だ!』(キングレコード)、『日本の軍歌・軍国歌謡全集』(ぐらもくらぶ)、『古関裕而の昭和史 国民を背負った作曲家』 (文春新書) などがある。

「2021年 『新プロパガンダ論』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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