ゴッホのあしあと 日本に憧れ続けた画家の生涯 (幻冬舎新書)

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  • 幻冬舎
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レビュー : 55
  • Amazon.co.jp ・本 (157ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784344985032

感想・レビュー・書評

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  • パリ市の標語から拝借されたという「たゆたえども沈まず」という小説のタイトル。パリが持っている強い運命。フランス革命以降、ヒトラーの脅威に至るまで何度も瀕した危機にも屈せず、苦難を乗り越えてきたそんな想いをゴッホの画家として苦難と被せて表現している。本作はそんな作者の想いが伝わってくる執筆にまつわる軌跡である。

    生前一枚しか絵が売れず、日本に憧れ続け、浮世絵の技法が取り入れられた作品を生み出す。孤独との戦いに苦労の絶えなかったその人生の中で本当に伝えたかったことは…
    「心を病んで耳を切って自殺した人」という私たちの印象を超えて、フィンセット・ウィレム・ファン・ゴッホがその生前に伝えたかった想いを作者は「たゆたえども沈まず」にて、ゴッホに変わって伝えているように感じるゴッホという画家を知るための解説本のような感じで読み終えた。

    寂しさを味わいに転化するテクニック。それ故にゴッホはミレーのような暗さ、寂しさを感じる画家に傾倒したのでないだろうか。
    ゴッホを含め当時のジャポニズムブームに影響をうけた人たち。その中には、その技法に影響をうけた画家、ブームに乗って浮世絵を集めるコレクター。
    ゴッホの目から見た浮世絵と、当時のジャパニズブームに乗って浮世絵集めるような人の目に写る浮世絵は違っていた。だから、ゴッホの描く絵は、コレクターにとっても、一般の人にとっても、そしてアカデミーの会員たちにとっても、浮世絵でもなく、アカデミーの会員の描く神話の絵画でもなく、印象派と言われる絵画とも違った作品としてしか捉えることができなかったのではないかと思う。

    「パリ大改造」の結果、新しい家がたくさん増え、その家に窓から見える風景に変わる明るい窓のような絵が求められたが、ゴッホの絵はゴッホ自身の目から見た景色であり、彼らが欲する風景ではない。
    明るい色で描かれているのでもなく、描かれた作品のモデルに影すらもない。そこにあるのは飲み込まれそうにる迫力と寂しさだけである。それは彼らが求めている絵画と、ゴッホの描く絵が違うということを意味するだけであるように感じる。

    ゴッホがようやく自分が憧れている土地に行くが、その土地に受け入れてもらえない。さらに「切り裂きジャック」などとそこに住む人に横を向かれる。そんな寂しさの中でそれでも画家として絵を残し続けるのは、執念という以外、他に言葉が見つからない。

    レイ医師にサン=レミの近くの町の修道院の付属の療養所に行くことを勧められた時、作者はゴッホが新しい希望を見出そうという一歩であると説明をしているが、私はこの提案に自分の居場所がもうアルルにはないと言われたように感じたのではないかと思ってしまう。さらにアルルに住む人たちにもアルルに住むべき人間ではないと思われているかもしれないと感じたのではないかと思った。

    だから、ゴッホがアイリスを見たとき、「ようこそ」と迎い入れられたと感じたというより、懸命に咲きほこるアイリスに命の力強さを感じ、それを自分の境遇と夢に置き換えたのではないかという思いがしてならない。素人の私の目には、群生するアイリスに力強さと群生しなければならない寂しさを自分に重ね、懸命に生きようとする生命の力に希望の光を見出したのかと思ってしまう。

    「たゆたえども沈まず」の登場人物で林忠正という日本美術をヨーロッパで輸入販売していた人物がいる。「たゆたえども沈まず」を読んでいる時に、林忠正について少し調べた。調べたのは、林忠正という人物が実在していたか、そしてどんな経歴か、ゴッホと関係があったのかである。「明治時代に活躍した日本の美術商。越中国高岡出身。 1878年に渡仏。多くの芸術的天才を生んだ19世紀末のパリに本拠を置き、オランダ、ベルギー、ドイツ、イギリス、アメリカ合衆国、中国などを巡って、日本美術品を売り捌いた。 (Wikipedia より)」
    西洋で日本美術品を商った初めての日本人で明治という時代にフランス語を習得し、1878(明治10)年のパリ万国博覧会を機に通訳として渡仏している。ヨーロッパでのジャポニズムに貢献した人物として、とても関心をもった。また、この同年代で「美しきおろかものたちのタブロー」の松方幸次郎と同時代で西洋美術品を集めている。さらに本作で林忠正が、「パリで一定の成功をおさめた後、1890年ごろにから自らのコレクションをスタート。自分で印象派やモダンアートの作品を購入し、40代で500点もの作品を持ち帰り、日本に美術館を、作ろうと考えていました。」とあり、日本に美術館を作るという夢も松方幸次郎と同じであったことを知り、松方幸次郎と林忠正の縁を感じずにはいられない。

    「たゆたえども沈まず」の読後に勧めしたい作品であった。

  • やっぱりマハさんの解説を通して画家の足跡を辿るのは非常に楽しい。キュレーターとしての見方、絵を愛する者が故の考え方、そして小説化する上で考えたこと、自分なりの解釈、込めた思いをとても分かりやすく理解できました。「たゆたえども沈まず」の著作への想い、フィクション部分へ込めた思い、とても素敵でした。

    ゴッホ兄弟の前に、やはり特筆すべきは、林忠正という人物に脚光を浴びせた事ではないかと思います。モネもゴッホも日本を愛した。浮世絵というものに衝撃を受け、少なからず彼等の画風へ影響を与えていった、その土台をつくったのは、やはり林忠正のような浮世絵をどんどん売りさばく画商が必要だったと思います。この方、やはりとんでもない偉業をなされたと思います。なにせ、印象派・後期印象派に直接影響を与えたムーブメントを作り出した張本人なわけですから。世界の宝を生み出した源泉みたいな人だなと思いました。そんな彼が、不当にも、国内の宝を散逸させた国賊として失意の中生涯を閉じたなんて悲しすぎます。マハさんが、「たゆたえども沈まず」で一見、林忠正の物語かと思うほど頁を割いている理由がよくわかりました。

    ゴッホとテオの物語はなんとも切ないですが、それぞれの地で、マハさんがどのように取材し、どのように思いを込めてフィクションに入れ込んで行ったかとても分かりやすかったですね。

    先日行った国立西洋美術館の松方コレクション展より、「アルルの寝室」「ばら」はポストカードとA4ポスターで今飾っています。ゴッホとテオの物語を心に想いながら、130年後の今、ここにいま見つめている自分がいる不思議を感じます。

    マハさんには是非とも、さらなる画家や、林忠正・松方幸次郎のような日本人で貢献した人物に着目した書籍を今後も期待したいです。まだまだ候補があるようですので、楽しみにしています。

    • goya626さん
      こんな人がいたんですね。再評価したいです。
      こんな人がいたんですね。再評価したいです。
      2020/03/11
  • 「狂気と情熱の画家」というフレーズ。

    「心を病んで耳を切って自殺した人」という評価。

    ゴッホに対するこの短絡的なイメージを払拭したいとの強い思いから、小説「たゆたえども沈まず」は生まれたという。

    ゴッホは、オランダ人でありながら、正確で美しいフランス語で膨大な数の書簡を残している。

    ラテン語にも精通し、聖書も隅々まで知り尽くしていた彼は、インテリであり知性の人でもあった。


    そしてもう一人。

    歴史の中に埋もれてしまった日本人画商。

    フランスで活躍した林忠正の復権もこの小説のテーマだ。

    ゴッホや、彼の弟テオがその死後、世界中に名を轟かせているのに対して、林の功績は全く知られていない。国賊との評価まであるという。

    19世紀後半、パリにジャポニズム旋風を巻き起こした中心人物の一人に、作者は温かな光を当てていく。


    小説の中では作者と共に我々読者は、「星月夜」が描かれる瞬間に立ち会うことが出来る。

    「たゆたえども沈まず」を読まれた方は、是非とも必読。

  • 浮世絵が西洋美術に与えた影響、ゴッホと日本の関係。もしかすると、同じときにパリで美術商として活躍した林忠正は、ゴッホと親交があったのではないか。ゴッホは本当に孤独な最期だったのか。

    原田マハさんの頭の中を覗いているようで面白い。

    アートの入り口。面白すぎる。オススメ。

  •  不遇の孤高、狂気に走った天才――。
     殊更センセーショナルに煽られて語られやすい画家、フィンセント・ファン・ゴッホの軌跡を辿る紀行エッセイ。
     ゴッホの絵の変遷に丁寧に寄り添いながら、その死の真相を考察している。
     むやみに彼を神格化せず、あくまで一人の人間と見、絵に向かう心の動きを追うように、真摯に実像を解き明かそうとしているのが好感を持てる。
     日本人画商・林忠正への着目など、ゴッホを題材にした小説『たゆたえども沈まず』の裏話も交えて、終始、軽快に綴られている。

  • 原田マハさんのまだ読んでいない小説の「たゆたえども沈まず」の解説本のような内容らしい。先に「たゆたえども沈まず」を読んでからの方がより思入れが出来たんだろうと思いますが、これはこれでゴッホの基礎知識を得る為と思えば、私のようなゴッホ素人には勉強になりました。
    来週に箱根のポーラ美術館に行く予定で、ゴッホの絵も3点展示されているらしいので、予備知識を得て今から観るのを楽しみにしています。勿論アンリ・ルソーやピカソの絵も観れるはずなので、「楽園のカンヴァス」や「暗幕のゲルニカ」にも想いを馳せて、楽しみです。

  • ちょっと前に”たゆたえども沈まず”を読みましたが
    その関連本みたいです。
    ゴッホの世界をうまく表現していて面白いですが
    小説だけでいいのではないかと思います。
    解説本を出すことは特にないのではと思ってしまいます。
    絵画の世界に引き込まれる感じはとても心地よくて
    好きなのですが。

  • 「たゆたえども沈まず」の著者自身による解説本(攻略本?)と言っても過言ではないでしょう。ですので「たゆたえども沈まず」未読の方にはオススメしません。しかしここまで自作を語ってしまっては小説の奥行を逆に狭めるように思います。マハさん喋りすぎ。なので辛めの評価3にしました。ゴッホやゴッホの作品等をある程度知ってから読んでみると面白い本かもしれません。

  • この本と「たゆたども沈まず」とゴッホの画集を
    3冊並行して読むと、より楽しめますね。
    浮世絵などの日本文化を海外に広めた林忠正さんの事も、
    もっと皆さんに知ってもらいたいです。
    美術についてのマハさんの膨大な知識のおかげで、
    読者は興味深い事をたくさん教えてもらえます。
    小説にはフィクションも書かれているけれども、
    こういう思いがあってのこのフィクションなんだなぁ、
    と気づく事も多かったです。

  • 『たゆたえども沈まず』を読んだ後に読み始めましたが、中断して、今回やっと読了。
    単行本で読んだ『たゆたえども沈まず』が、文庫本になってしまいました…

    またちょうど、ロンドンナショナルギャラリー展が公開されたこともあって再度読み始めた。
    原田マハさんのゴッホに対する愛が詰まった一冊。

    ロンドンナショナルギャラリー展では『ひまわり』が展示されていて、黒い背景に暖色のライトがあたり、黄色が強調されていた。

    原田マハさんの祈りもこもった半フィクションな物語と言えど、きちんとゴッホについて研究された上で描かれてるので、絵を見ながら、原田マハさんの見るゴッホ、テオ、林忠政さんが本当にそうやって生きてきたのではと思わされる。

    有名なゴッホについてはもちろん、テオや林忠政さんについてももっと知りたくなった。
    タンギー爺さんといい、原田マハさんの作品はいつも、有名画家の周囲の人にも愛があふれている。

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著者プロフィール

原田マハ(はらだ まは)
1962年東京都生まれ。小6から高校卒業まで岡山で育つ。関西学院大学文学部、早稲田大学第二文学部美術史学専修卒業。馬里邑美術館、伊藤忠商事株式会社、森美術館設立準備室、ニューヨーク近代美術館での勤務を経て、2002年よりフリーのキュレーターとなる。2005年小説化デビュー作の『カフーを待ちわびて』で第1回日本ラブストーリー大賞を受賞。2012年『楽園のカンヴァス』で第25回山本周五郎賞、『キネマの神様』で第8回酒飲み書店員大賞をそれぞれ受賞。2013年には『ジヴェルニーの食卓』で第149回直木賞候補、2016年『暗幕のゲルニカ』で第155回直木賞候補となる。2017年『リーチ先生』で第36回新田次郎文学賞受賞。2019年『美しき愚かものたちのタブロー』で第161回直木賞候補に。

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