ダークツーリズム 悲しみの記憶を巡る旅 (幻冬舎新書 506)

  • 幻冬舎
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  • 本 ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784344985070

感想・レビュー・書評

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  • 井出明『ダークツーリズム 悲しみの記憶を巡る旅』幻冬舎新書。

    ブクログ献本企画で久し振りに当選。

    人類の悲劇の記憶を巡る旅である『ダークツーリズム』の定義と著者が実際に日本やアジアのダークサイドを巡った際のルポルタージュとポイントの紹介をまとめた作品。

    旅には様々な形や目的があるが、本書では『ダークツーリズム』というある意味での特殊領域の旅だけをカテゴライズしたことに意義があると感じた。

    堅苦しく述べれば、過去に起きた戦争や公害、災害、事故などの悲劇の跡をモニュメントとして遺して後世に悲劇の記憶を伝えることと、それらを学ぶことは全くの対極にありながら、両者のバランスを保つことの重要性を強く認識した。心構えとしては軽いノリの怖いもの見たさの物見遊山ではなく、過去の悲劇に真面目に正面から向かい合う真摯な姿勢が必要となるのだろう。

  • よく人が集まったり(観光だったり)または実際、今現在も普通にそこに住んでいる場所
    明るい観光地(と言っていいのか)の裏側の負の部分。
    あぁこういうのが正にダークツーリズムなんだなと思った
    自分が実際行ったことのある場所だったり観光地だったり、一見すれば分からないマイナスイメージだったり
    そこにある悲しい歴史だったりを巡っている内容。
    もっと読みたい!他にもぜひ!と思ってしまった。
    先日東日本大震災で被害の大きかった石巻に初めて行き、現地に住んでいる友人の案内で様々な場所を巡ってきた。
    仮に、では今後この本に登場するようなダークツーリズムな観光地として現地の経済を潤すこともできるのかもしれない。
    だけど、実際亡くなった方や行方不明の方のことやご親族の方々を考えると
    果たしてそれでいいのかとか凄く葛藤する。
    非常にナイーブな題材でもあるなと考えさせられた。

  • ブクログさんより献本いただき読破。
    ダークツーリズムという言葉は知っていたけれど、日本にどれくらいのダークツーリズムポイントがあるのか?なんて考えてみたこともなかった。悲しみの歴史は知識として知ってはいても、いざそこを訪れてみようと思ってもみなかった。しかしながら、今まで気になっていたり調べてみたりした史実について、実際に訪ねてみるという行為はものすごい経験と財産になるんだろう。深く学ぶために訪れてみるのでも、あくまで観光メインて訪れるのでも、感じるものはあるのだろう。旅のポイントやテクニック、アクセスについても書いてくれている本書は、読んで損はない一冊。旅に行きたくなる。

  • 歴史の暗黒面を刻んだ観光地を訪れることを、「ダークツーリズム」と呼ぶのだそうです。普段、観光について取材する機会が多いにも関わらず、恥ずかしながら本書を手に取るまで知りませんでした。
    もっとも、ダークツーリズムという言葉が世に出て来たのはごく最近のこと。何でも、世界的に人気になっている旅の一形態なのだそうです。本書は、日本のダークツーリズム研究の第一人者が、世界各地の「負の遺産」を訪ね、観光の新潮流の行方を展望したものです。
    著者が訪れた場所を章ごとに順に紹介すると、小樽、オホーツク、西表島、熊本、長野、栃木・群馬、インドネシア、韓国・ベトナム―です。トップを飾った小樽でダークツーリズムとは意外でしたが、小林多喜二を生んだ地ということに光を当てれば、たしかに頷けます。小樽では、陸軍の特攻艇マルレが隠されていた事実も明らかになりつつあるといいます。
    エコツーリズムの聖地として知られる西表島は、実は「疫病と搾取」という悲しい歴史を持つ島でもす。詐欺同然で集められた炭鉱労働者が島から逃走しないよう、地域通貨で賃金が支払われていたという事実には衝撃を受けました。
    熊本では、水俣病やハンセン病、炭鉱労働の記憶、栃木・群馬の旅では、日本初の公害事件と呼ばれる足尾鉱毒事件の跡をたどります。
    インドネシアではバンダアチェを訪ね、WHOのまとめで22万4千人もの人が亡くなったというインド洋津波の現場を見ることで災害復興について考えました。
    いずれも物見遊山では得られない価値のある旅でしょう。ただし、ダークツーリズムの旗色は、必ずしも良いというわけではないようです。足尾鉱毒事件の現場となった渡良瀬川を含む一帯は現在、ラムサール条約にも登録された湿地となっていますが、ダークサイドから掘り下げる紹介は、市の当局から拒まれたといいます。観光の持つ明るさを強調したい観光学系の学会からも煙たがられているそうです。
    しかし、歴史に負の部分はつきものです。悲しみの記憶をしっかりと受け継ぐことが、明るい未来を築くことにもつながるのではないでしょうか。本書でも触れられていますが、多喜二は愛する田口タキに送った恋文で、「闇があるから光がある」と書きました。秋の行楽シーズンには、ダークツーリズムで歴史の暗部に目を凝らしたいものです。

  • 「読もう…」と思い付いて何冊かの本が拙宅に置かれていて、その中の一冊だった。比較的最近になって手にすることが叶った。2018年に第1刷で、2023年に第2刷である。そして紐解き始めると、頁を繰る手が停め難くなり、素早く読了に至った。
    「新書」というのは、専門的な事柄等も含めて、色々な知識を一般読者に解り易いように説くような種類の本であると観ている。本書は正しくそういう「新書」の特徴を有した一冊だ。
    「ダークツーリズム」というような用語は、或る程度普及しているような、マダマダ目新しいような存在感の用語のように思う。本書は、その「ダークツーリズム」という概念に着目し、問題提起等を積極的に進めている著者による一冊だ。
    極々個人的な、感覚的な感想のような事柄かもしれないが、伝わっている歴史の中、「華々しい栄光」と「やや暗い記憶」とでは多分後者の方が多いような気がする。更に言えば「華々しい栄光」というようなモノの中にも「暗い部分」がやや多目に潜んでいるかもしれない。そういうような「暗い記憶」または「暗い部分」に「眼を向けようではありませんか」というのが「ダークツーリズム」であると理解した。
    多分、知らなかったことを知る、または中途半端に知っていたことの仔細を知って行くというような事柄、知ったことに基いて、または知ったことを加味して考えるということが合わさって「学ぶ」というような営為になるのだと思う。「ダークツーリズム」とは、旅行という営為(=ツーリズム)の中で、「暗い記憶」または「暗い部分」(=ダーク)に眼を向けて「学ぶ」という営為を「採り入れてみませんか」ということになるのだと思う。
    本書では、著者が「ダークツーリズム」という概念に注目し、研究活動に邁進するようになっていった経過を含めた「総論」が冒頭部に掲げられるが、以降は「ダークツーリズム」という観点を加味した旅をしてみる紀行的な内容になっている。加えて、末尾に「纏め」が入っている。
    紀行的な内容は8篇に及んでいる。これらは実際に現地を訪ねた様子に依拠しながら、「ダークツーリズム」という観点で注目すべき場所、注目する事由等を綴り、取上げた地域を訪ねる場合の交通手段等の一寸したアドバイスを各篇の末尾に添えている。
    各々の色々な事由で著者が注目した「暗い記憶」または「暗い部分」、それを追う紀行は何れも興味深い。個人的には、小樽や稚内というような事情に明るい場所の件が興味深かった。同時に、訪ねた経過が在る地域の中でも訪ねていない場所、未踏の地域のことも興味深く読んだ。
    気付かされるのは、「観光学の研究者」ということになっている著者が綴った本書が提起するテーマの「幅」が広いこと、そして「社会」や「文化」の根源にも関わるかのようなこと迄も含んでいるかもしれないということだ。
    或いは「ダークツーリズム」という概念は、「地域の歴史の伝え方」、「地域の歴史との向き合い方」、「訪ねた先での見聞との付き合い方」というような事柄を考える材料で、それらが「社会」や「文化」を創る重要な素材になって行くというようなモノであるというように感じた。そしてそれは、災害のような事柄を伝えて行く場面に至っては「哲学」というような問題にもなるような気がする。
    こうした大きく拡がるようなことに留まらず、もう少し細かい―と同時に重要―事柄も本書の中に多々散りばめられている。
    「観る場所が余り無い」と紹介されている地域に関しても、調べてみると現代史の重大な出来事の舞台になっているような史跡が多いことや、他地域との意外に深い関係が見える場合が在るというような事柄が挙がっていた。そういうように考えると、「訪ねてみるべき場所」というモノの選択肢も拡がる訳だ。
    そして訪ねる場所での「ガイド」というような事柄、過不足無く興味深い事柄を伝え、強過ぎる思い入れを押し出すのでもなく、聴く側に考えて頂くような「専門的な仕事をこなす人」が要るという話しである。これは本当に「ダークツーリズム」というようなことに限らず、観光全般で大切であると思う。(実は「〇〇事業」と称して、少しばかりの資金を投じて如何こう出来るのでもない、こういう事柄が各地の観光振興というような問題意識の中で最も重要であるような気がする。「〇〇事業」と称するモノの多くが、「事業そのもの」が「目的?」になって、然程成果は挙がっていないような気がする場合も在る。)
    最初から最後迄、色々と気付かせてくれる事柄が多かった本書である。是非、著者と共に「ダークツーリズム」の旅を試してみるべく、本書を広く御薦めしたい。

  • 観光学者 井出明氏によるダークツーリズムの解説書。第1章と第10章ではダークツーリズムについて学問の基礎的な説明や展望について展開し、第2章から第9章までは著者が実際に歩いた各地のダークツーリズムの実際をまとめてあります。紀行文みたいなので読みやすいです。まずは実践してみて、どういうものかを体感してみようということかな。日本には、ここで紹介されているような場所を観光で訪れようとすること「不謹慎」という言葉ですべて否定したがる風潮がありますが、やはり光と闇をきちんと知ることが重要だと思いました。

  • 本書で扱う「ダークツーリズム」とは、「人類の悲劇を巡る旅」と定義される。ヨーロッパで1990年代に発表され、世界的には人気があるそうである。しかし、初めてダークツーリズムという言葉を耳にする人も多いだろう。日本では未だそうした考えには賛否両論が多い。災害、病気、差別、公害といった影のある地域を観光するのは抵抗感が強いかもしれない。だが、本当に怖いのはその影の記憶を忘れてしまうことだ。そこで著者はダークツーリズムには地域に新しい価値を生み出す力があると考え、日本各地の悲しみの記憶を巡る旅に出た。本書では九つの事例を旅のアドバイスと共に紹介している。
     私自身も以前から、煌びやかな観光地よりも何か負の面を持ち合わせた観光地を巡るのが好きであった。そのため、本書を読むことによって自分の観光に対する考えが新しい分野として世界で既に広まっていることがわかり、ダークツーリズムの考えをさらに広げていきたいと思った。好奇心が強い人にぜひおすすめしたい本である。

  • 「ダークツーリズム」とは何かという解説から筆者の実際に体験した旅の様子まで掲載されているので、ダークツーリズムについて未知の私にもよく分かった一冊でした。本書を通じてもっと興味が出てきたのでダークツーリズムについて調べてみたいです。

  • 旅人目線、というよりは、観光地目線で読むと面白いなと思いました。
    ダークツーリズムという言葉に興味を持ち、思わず読み始めましたが、学術としてのツーリズムを過去の悲しい事実と組み合わせる考え方は新しいようで昔からあるものなのだなと思いました。

  • ★3.5
    ブクログ献本。"ダークツーリズム"という言葉を本書で初めて知ったけれど、著者の言いたいことやその意義はとてもよく分かる。災害、病気、差別、公害等に見舞われたことは不幸なことではあるものの、その全てを忘れて次に進むのは少し違う気がする。例え痛みが伴っても、負の記憶を継承していくことは大切なことだと思った。ただ、それは部外者だから言えること、と言われてしまうと返す言葉がないのだけれど。本書に紹介された小樽に数年前に行った時、運河と食ばかりを楽しんでしまったので、勿体無いことをしてしまったな、という気持ちになった。

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著者プロフィール

井出 明(いで あきら)
1968年長野県生まれの研究者。現在、金沢大学国際基幹教育院准教授。京都大学経済学部卒、同大学院法学研究科修士課程修了、同大学院情報学研究科博士後期課程指導認定退学。博士(情報学)。近畿大学助教授、首都大学東京准教授、追手門学院大学教授などを経て、現職。
人類の悲劇を巡る旅「ダークツーリズム」と情報学の手法を通じ、観光学者として東日本大震災後の観光の現状と復興に関する研究を行う。
主著に『ダークツーリズム 悲しみの記憶を巡る旅』、そして『ダークツーリズム拡張―近代の再構築』。

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