宇宙の秘密を解き明かす24のスゴい数式 (幻冬舎新書 た 25-1)

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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784344986503

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    高水裕一
    一九八〇年東京生まれ。早稲田大学理工学部物理学科卒業。早稲田大学大学院博士課程修了、理学博士。東京大学大学院理学系研究科ビッグバンセンター特任研究員、京都大学基礎物理学研究所PD学振特別研究員を経て、二〇一三年より英国ケンブリッジ大学応用数学・理論物理学科理論宇宙論センターに所属し、所長を務めるスティーヴン・ホーキング博士に師事。現在、筑波大学計算科学研究センター研究員を務める。専門は宇宙論。近年は機械学習を用いた医学物理学の研究にも取り組んでいる。著書に『知らなきゃよかった宇宙の話』(主婦の友社)、『時間は逆戻りするのか』『宇宙人と出会う前に読む本』(ともに講談社ブルーバックス)、『物理学者、SF映画にハマる』(光文社新書)。


    数式のすばらしさは、見た目のシンプルさと奥深さにあります。本書で登場するアインシュタイン方程式は、宇宙を支配している数式の代表例です。たった1行のこの文字列の中に、ブラックホール、重力波、さらに宇宙全体のことまで実にさまざまな対象が含まれ、数式自体がそれらの豊富な情報を、まるで語り部のように我々に「語りかけて」くれます。2章のルイ・ド・ブロイという学者の数式では、たった3文字で自然界の真理を語っている。

    さて、このフリードマン方程式と似たような宇宙膨張を表す数式として、レイチャウデューリ方程式があります(図1-2-2)。すごい名前ですが、インドの物理学者の名前です。

    この式の名前、ポアソンは、フランスの数学者・物理学者のシメオン・ドニ・ポアソン博士に由来します。父には医学の道を勧められましたが、不器用であったことから数学の道に進んだといわれています。惑星の運動などに強い関心があったようです。ここでは重力に関するポアソン方程式だけでしたが、電磁気学におけるポアソン方程式もあります。ほかにも流体を扱う流体力学でも重要な意味をもっている広いクラスの一般式の名称です。

    このテーマは、量子論の確率解釈という、現在も最終的には解決されていない謎を含んでいます。量子論に精通した物理学者であっても、このような深い量子論の神髄を最終的に理解している人はいないといっていいと思います。  現在は、数式にしたがってどのように計算すれば、素粒子のふるまいが説明できるという仕組みがあるだけで、このステージの裏でいったい、本当は何が起こっているのか、究極的にはブラックボックスの部分が残っているということです。  理解できるようでいて、量子論の本当の奥深い不思議さと神秘性が、依然として消えないことだけ頭に入れてもらえれば十分です。直感で理解しようとすればするほどドツボにはまっていく、そんな世界なのです。

    そんな革命的な式によって量子論の世界を切り開いたシュレディンガーですが、私生活でも実に興味深いものがあります。ネットで写真を調べてみると、一見めちゃくちゃハンサムというわけではありませんが、シュッとした顔立ちと少しアンニュイで魅惑的な瞳をしています。

     物理以外にも、東洋哲学にも強い関心をもっており、ヒンズー教のヴェーダーンタ哲学にも強い影響を受け、量子力学の根底にもこのような東洋哲学の諸原理が見受けられると『精神と物質』で語っています。ほかにも『生命とは何か』という本では生物と物理という遠い世界をつないでみるなど、実にその好奇心は幅広く、人間的魅力にあふれています。

    かのアインシュタインも実にお盛んであったという噂があったり、リチャード・ファインマンというアメリカのノーベル賞受賞物理学者も、毎週のように別の彼女がいたという色を好む性格だったようです。科学者とは善なる人という教育的側面があるので、あまりこういった面を掘り下げるような資料がありませんが、考えてみれば、好奇心の固まりである彼らが、数式以外に心が惹かれないわけがないでしょう。むしろ人間味があって、私はかっこいいとも思ってしまいます。実に魅力的なシュレディンガー、興味がわいた方は、ぜひ彼の写真をもう一度眺めてみています。

    なぜそのような形にすることにこだわったのかというと、学術的理由もあるのですが、彼の美的センスも大きかったように思うのです。彼の座右の銘として、「法則は数学的に美しくなければならない」というものがあります。

     結果的に、この方程式から自然にスピンが導かれ、さらにおまけとして、負のエネルギーをもつ反粒子も出てきます。またこの反粒子が時間を逆向きに進むと解釈できることが後にわかります。ディラックはこの負のエネルギーをもつ粒子がこの世に存在していないことの理由として、「ディラックの海」という概念を導入します。真空がこの負のエネルギーをもつ粒子で満たされているという考えです。 「ディラックの海」は「エヴァンゲリオン」シリーズにも、主人公が捕らわれた空間として登場します。現在では、このディラックの海は、概念として用いられておらず、場の量子論の完成によって過去のものになっています。

     しかしこの反粒子は、のちに陽電子として見つかることになります。勝手に式から出てきたものが、実在の世界に突如現れたのです。それは式の発見者、ディラックさえ全く予想しない形で。数式が、発見者の意図も超えて世の新たな真理を勝手に語っているさまが、垣間見えたでしょう。

    物理学と数学も関わりは、常に相補的です。ときには先行している新しい数学を使って、物理学の理論体系の基礎に用いる場合、またあるときは物理学が先にある概念を提唱し、その数学的整備のために後づけで理論体系を強化するときに用いる場合があります。今回は、まさに後者に近い立ち位置です。

    似たような数学と物理の例が、量子論にもあります。  量子論も概念が先行し、基礎方程式ができあがりますが、あとからそれを展開する数学的空間が整備されました。それが、「ヒルベルト空間」というものです。今度はヒルベルトの手づくりチョコ告白か! と期待しますが、少し状況が違いです。

    相対論の父はもちろんアインシュタインですが、相対論の母くらいに貢献した人物です。あのアインシュタインに、「彼は私個人にとって、これまで人生で出会った、もっとも重要な人物です」と言わせてしまう人、それがローレンツなのです。  電磁気、相対論以外にも、彼は流体力学、固体物理学、熱力学と実に幅広く研究を行っていました。これを機会に、左手であの形をとるときにはフレミングだけでなく、ぜひローレンツの名前をあわせて思い出してあげてください。

    マクスウェル博士の研究は実に多岐にわたります。電磁気で有名な彼ですが、熱力学でも「マクスウェルの悪魔」や、気体の分子運動論の「マクスウェル・ボルツマン分布」でも有名です。また虹の研究も熱心に行っており、はては土星の環の研究までと、興味の幅の広さがすさまじいです。  これほど偉大な物理学者でしたが、ノーベル賞は受賞していません。というのも、ノーベルの遺言によりこの賞が設立されたのは1901年のこと。彼が亡くなった1879年のもう少しあとだからです。  アルフレッド・ノーベルが亡くなったのが1896年なので、同時期といったところでしょうか。ノーベル賞があと少しでも早くはじまっていたら、間違いなく彼が第1号であったはずです。ちなみに第1号の物理学賞は、レントゲンで有名なヴィルヘルム・レントゲン博士です。第2号が、あのローレンツ博士とその弟子ゼーマンでした。

    私も教員として実際に学生に熱力学を教える立場になって、自分で再度この分野の学習をしたことで初めてその真意の深さを味わい、奥深さを痛感しました。勉強とは、まさに何度も読むべき小説のような味わいがあります。

    この数式に限らず、数学者ガウスの発見のドラマは、数冊の書物にできるほど膨大です。1人の人物がいくつの業績を人生で成し遂げられたかのランキングをつけたとしたら、おそらく彼がトップ5に入るのは間違いないでしょう。  改めて、本名、ヨハン・カール・フリードリヒ・ガウスの人生における業績をざっくりと振り返ってみましょう。ドイツで1777年に生まれたガウスは、年少の頃から並外れた神童っぷりを発揮しています。  言葉をきちんと話す年齢になる前に、すでに誰から学ぶことなく計算を行っていたということです。家業はレンガ職人であり、両親とも学問とは無縁であったので、まさに数学の神様が送り込んだ神童といえます。

    15 歳の頃の逸話として、彼は素数に強い関心をもち、その出現確率を求めました。素数とは、それ自身と1以外で割ることができない数です。2、3、5、7と続き、100までの素数は全部で 25 個です。さらに1000までの素数となると、その個数は168個しかありません。  彼は、素数がどのような分布をしているかに非常に関心があったということです。これは100年後に証明される素数定理になっています。中学生くらいの少年が100年後の数論の難問を立ててしまうスケールのデカさに驚かされます。

    ガウス自身が生涯の自分の業績の中で、もっとも関心が高かったのは、この数論であったと語っています。 24 歳のとき、天文台で働いていた彼は、計算によって軌道から小惑星ケレスを見つけ出します。

    そんな彼の輝かしい業績の歴史ですが、本当に幸運だったのは、彼が 77 歳という当時として十分すぎるほど長生きができたことです。多くの天才が若くして亡くなっていることを思うと、彼のような大天才が1秒でも長くこの世にいてくれたことが、のちの人類にとってラッキーであったといえます。数学の申し子のような天才のドラマに興味があれば、ぜひ別の本でご覧になってます。

    数学に携わる研究者が、1つだけ好きな数式を選んでくださいと聞かれたら、おそらくランキング1位になるであろう数式です。「自然科学において、もっとも美しい数式」と称されています。

    数学界の2大巨頭が、 19 世紀のガウスと、 18 世紀のこのオイラーであるというお話をしました。彼は数学者であり、天文学者、物理学者でもあります。幅広さは、ガウスに引けをとりません。  もっとも驚くべきは、 76 歳までの生涯に残した業績の多さです。解析学、幾何学、整数論をはじめ、多くの分野で業績を残しその数が群を抜いている偉人です。晩年は右目が見えなくなっても、脳内で執筆した論文を口述筆記によって世に残していました。「どこかのドラマで見たことのある、空中に数式を描くガリレオ先生さながら」

    数学史上もっとも業績を残した人物として有名なエピソードとして、没後100年以上経った1911年に彼の全集が刊行されましたが、刊行開始後100年以上たった現在でも、それがいまだに完結されていないというとんでもない状況です。  今も日々、オイラーの論文から新しい発見がなされており、考古学ならエジプトのピラミッドさながらの偉大さです。

    彼はおそらく人類史上、もっとも異質な天才だからです。  それは神様にお祈りをささげることで、数式を脳内に描くことができる能力者だからです。もはや、科学の視点で書く本で扱ういい方ではない気がしますが、事実だから仕方ありません。インドに生まれた彼は、熱心なヒンズー教徒であるとともに、数式の魅力にとりつかれていました。美しい数式を見つけては、それを地面に書き記し眺めていました。  彼の波乱のドラマは、映像としてぜひ映画『奇蹟がくれた数式』をご覧になることをお勧めします。いくつも美しい数式をノートいっぱいに書き連ねて、それをイギリス・ケンブリッジ大学に送ります。  ここで注目すべきは、彼は自分が見出した数式を、自分で一切証明することができないという奇妙さです。ふつう、数学を研究している人なら当然知っているべき証明方法を彼は知らなかったのです。自分で示すことができて初めて意味のある数式が完成します。しかし彼の場合は、神様が教えてくれることで先に答えがふってくるのです。なんじゃそりゃと突っ込みたくなりますが、それほどぶっ飛んだ天才だということです。  この本で紹介している、「美しい数式を書いて眺めてみよう」を地で行い、地球上で唯一神様に選ばれ、ご利益を授かっていた人物なのです。  そんなただの落書きと同じ数式なんて、ふつうは誰も見向きもしません。しかしこれも運命的なもので、ケンブリッジ大学の数学者ハーディ教授の目にだけは、強烈な光を放って輝いて見えたのです。「これはただ者ではないぞ」と瞬時に感じとってしまいます。

    神様がこの宇宙を創造し支配しているとすれば、数式とは、森羅万象をもっとも正確に記述することができる、まさに神様の言語といえます。人類がいかに優れた知性をもっていたとしても、この先それら数式を完全な形で1つの数式にまとめ上げることはできないでしょう。本書で登場する数式も、それぞれさまざまな現象を記述できる圧倒的な力をもっていますが、1つが表現できるのは、自然現象のあくまで一部だけだからです。

    実は数式アイドルの魅力を語るための本を書くにあたって、乃木坂 46 さんの番組を視聴しはじめました。すると不思議なことに、重力なら古典的な力だから昔からいる人、ブラックホールなら万能で安定感のある人、量子論ならミステリアスな人と、具体的に一人一人に数式が当てはまっていきました。

  • Audibleで聞いていたが聞くより読む方が合う書籍で途中でというか冒頭で聞くのをやめた。

    数字が苦手なために読みたいと思ったがそういう人向けの書籍ではなかった。

  • タイトルの通り、宇宙に関連する数式24個を一個づつ提示し、その数式の意味に加えて発見者のエピソードを紹介している。
    ユニークなのは数式の下にその読み方が示されていること。おかげでミュー、ニュー、ローといったギリシャ文字や、ラプラシアン、ナブラといった演算子が自信をもって言えるようになった。

    難点
    月の重力の計算で、小数点以下の0がひとつ多いようで、重力が1/60になっているのがご愛想。唯一、計算が出てきた箇所なのに、校閲も気づかない?

    難点2
    最後に出てくる無限級数の和はゼータ関数の有効条件外で無理矢理出しているので明らかに間違い。これを摩訶不思議と言われても困る。

    難点3
    筆者ご満悦の数式アイドルというフォーマット自体が面白くない。幻冬舎自体のターゲットとも合わないのではないか。

  • 東2法経図・6F開架:B1/11/648/K

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著者プロフィール

高水 裕一(たかみず・ゆういち):1980年東京生まれ。早稲田大学理工学部物理学科卒業。東京大学大学院、京都大学大学院を経て、英国ケンブリッジ大学理論宇宙センターに所属し、スティーブン・ホーキング博士に師事。現在、筑波大学計算科学研究センター研究員を務める。専門は宇宙論。主な著書に『時間は逆戻りするのか』『宇宙人と出会う前に読む本』(講談社ブルーバックス)『ウルトラマンと学ぶ 宇宙と生命体』(講談社)、『物理学者、SF映画にハマる』(光文社新書)、『宇宙の秘密を解き明かす24のスゴい数式』(幻冬舎新書)、『面白くて眠れなくなる宇宙』(PHP研究所)などがある。

「2023年 『宇宙最強物質決定戦』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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