経営戦略概論: 戦略理論の潮流と体系

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  • 産業能率大学出版部
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  • Amazon.co.jp ・本 (319ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784382057302

感想・レビュー・書評

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  • 【星:5.0】
    経営論の決定版と言っていいんじゃないでしょうか?

    経営戦略を上手い切り口でとても分かり安く説明している。
    この本を読んで、ポーターだとか有名どころの経営戦略のキモみたいなものがよく理解出来たと思う。

    また、著者は経営コンサルタントであるが、実務に偏りすぎず適度に学術的で、でも学者が書くようなゴリゴリに学術的という訳でもなく適度に実務的で、その程度が非常にいい塩梅なのである。

    そして、著者の文章自体もすごくわかりやすいのでスイスイ頭に入る感じ。

    経営学とか経営論とか経営戦略とかに少しでも興味がある方は、是非とも一読して欲しい1冊。

  • 「戦略策定概論」「組織設計概論」の次にこの本を。波頭さんの本は、構造的で読みやすいのと、理論と実務の両面から語られているから、経営者やコンサルにとって読み甲斐がある。

    戦略、組織、リーダー、、経営においては超重要テーマではあるが、特に経営戦略に関しては、何となく色々と部分的には知っていても、全体像が見えていなかったり、ヌケモレ、使い所がイマイチわかってない人も少なくない。

    自分が社会人や経営レベルに関わってない時代の重要テーマの変遷について知らなかっただけに、この本で、80年代が戦略(おおよそ出揃った)の時代、90年代が組織とリソースの時代、00年代がリーダーシップの時代というのをザックリ捉えることができるだけでも有り難いし、もっといえば、
    1900〜1950年代 経営管理(内側)
    1960〜1970年代 経営戦略(外側)
    このあたりの少し細かいことについても面白い。
    テイラーの科学的な管理手法の背景には、労働者は資本家による収奪の対象で、労働者の待遇改善とモチベーションの向上の強い思いがあったとか、テイラー自身は学者でもコンサルでもなく、裕福な家庭に生まれながらも、労働者として現場で働く中から考案された事実など。
    テイラーが現場の側面、同時期にファヨールが経営の側面で、経営学の基礎を確立したと。

    個人的なこの本のポイントは、

    ⚫︎複雑(相反)な経営だからこそ、相反する戦略が活きる
    →4つの相反性とは ①現在と将来 ②一貫性と柔軟性 ③集権と分権 ④資本の本能と組織の本能
    ⚫︎現実は「内外分析⇨大きな戦略⇨アップデート」が王道
    ⚫︎外)クラスター分析(土俵の設定)からポジショニング
    ⚫︎内)「優れたビジョン」と「誰をバスに乗せるか」
    (コリンズのビジョナリーカンパニー2)

    このあたりになるが、体系化されているおかげで、ざっくり把握することはできた。実務においては、結局のところ、状況、事情に合わせて、やれる限りのことをやっていくしかないのだが、複雑であるからこそ、チャンスの可能性も広がっているように思える。


    以下は、読み返し用↓

    ・テイラーの科学的な経営管理手法の背景には、労働者の待遇改善とモチベーションの向上という視点があったのである。

    ・テイラーは学者でもなく、コンサルタントのような経営者のサポート役でもなく、労働者として現場で働く中から考案された工夫が、彼の研究のベースにある。

    ・技術、商業、財務、保全、会計、管理の6つの機能がうまく組み合わせられて初めて合理的な経営ができるとし、それらを体系化したのがファヨールである。

    ・労働環境や労働条件だけでは、生産性をコントロールできないと言うことが報告された。

    ・休憩時間の長さを長くすると、従業員間の交流が増して、精神状態に好影響があるものの、休憩時間そのものは生産性に影響を与えないことを発見した。

    ◎集団心理的なアプローチの結果としては、小グループの方が生産性の向上が見込めると言うことが判明した。

    ・「自分たちは工場長からこの栄誉ある実証研究のメンバーにエースとして選んでいただき、誇りに思いました。ですから、ホーソン工場の名を貶める事のないように必死にがんばりました」と言うものである。要するに、ホーソン実験の結論は、従業員に意欲的に仕事に取り組んでもらうようにすることで、働く側のモチベーションが向上し、結果的に生産性も高まると言うことであった。

    ◎個人のモチベーションや仕事への参画意識、仕事や会社への誇り、勤勉さといった点にスポットが当たるきっかけを作ったのがこのホーソン実験であった。

    ・作業者の自由裁量が大きくなるほど、仕事の満足度が向上する。

    ・作業者同士のやりとりや協力の度合いが高いほどグループの結束が強くなり、生産性も向上する。

    ・仕事の満足度や生産性を左右するのは、物理的な作業条件よりも、作業者の意欲、作業者間の協力、貢献の意識という社会的、組織的条件である。

    ◎人間関係の中での個人の誇りや貢献意欲が物理的条件以上に重要であると言う考え方がメイヨーの「人間関係論」である。

    ・バーナードは組織が有効に機能するためには、以下の3つの条件を満たさなければならないとも指摘している。
    ①目標の共有
    ②コミュニケーションのシステム
    ③インセンティブのシステム

    ・ハーズバーグは、人間の不満と満足の要因は別物であると言うことを示した。環境要因と精神的要因である

    ・マズローの欲求の5段階説における自己実現欲求には、終わりがないことを明らかにした。

    ・チャンドラーは、組織は戦略に従うべきであると提起したのと同時に、事業の多角化を行う場合には、事業部制が有効であることも指摘した。

    ・ドラッカーは、実務家向けの書籍や論文は、数多く記したがその文章や資料の扱いは、アカデミアでのフォームとルールに則ったものではなかった。アカデミアの人たちからは、ドラッカーは学者とは呼べないと評されたりする。

    ・国内市場では、シェアナンバーワン企業だと言うことで、コストリーダーシップ戦略を採用することができるが、グローバル市場では一転して中位グループに入ってしまうので、グローバルのトップグループ企業との競争では、大胆な差別化戦略にしか躍進の可能性がないと言うことも充分あり得るのである。

    ◎ポーターの競争戦略の最も核心をなすポジショニングは、実はこのクラスター分析によって決定されると言っても過言ではない。実際、筆者が行ったこれまでのコンサルティングの中で、目覚ましい成果につながった戦略は、「クラスターのシフト」に基づいて策定されたものが多い。

    ・コトラーの4つの市場地位別戦略は、
    リーダー→シェアナンバーワン
    チャレンジャー→リーダーが真似できない差別化
    フォロワー→開発コストとリスクを回避
    ニッチャー→上位がやりたがらないニッチ分野に特化

    ・ミンツバーグが考える現実的に有効な事業展開とは、まずおおまかな方針だけを決めて、実際に事業の展開運営をやってみて、そのプロセスで直面する課題や困難に対しては、現場のマネージャーが現場で蓄積した経験に基づいて判断し、対処して乗り換えていくべきである。

    ・戦略のコモディティー化が起こり、同じような戦略を採用していても、結果として企業の実行力の格差が勝負を決すると言う競争状況になっていた。

    ・経営資源論と組織論の2点に焦点が当てられるようになった。

    ・バニーのリソースベースドビューとは、企業の競争力の源泉は、リソース(資金、技術、ブランド、チャネルから、人材や組織文化までも含む)にあると言う考え方である(バリオフレームワークとは、価値の源泉であること、希少なこと、模倣できないこと、組織化されていること)

    ◎マッキンゼーの7Sとは、戦略と組織を綿密に関係付けて論じていることが特徴的である。特に重要だとされるのがシェアードバリュー(共有化された価値観)である。

    ・どのような資質や特性を持った人が、リーダーとして成功する可能性が高いかを明らかにする事は、単に学問的関心からだけではなく、国家戦略上の重要な要請でもあった。

    ・リーダーシップに秀でた人物に共通する特別に高い相関性を持つ属性は存在しない

    ・有能なリーダーは、業績への関心と人間への関心を共に強く持ち、「業績達成のための管理行動」と「円滑な人間関係を作るための行動」の双方を積極的に行っている人物であると言うことが明らかにされた。

    ◎フォロワーが望ましい成果を上げるために、リーダーはどのように目標を設定するべきかという目標設定アプローチとして、「具体的な目標」「困難ではあるが達成可能な目標」「納得感ある目標」が重要である

    ・信頼蓄積理論とは、リーダーが従来の仕事のやり方で成果を上げる事を積み重ねる中で、リーダーとフォロワーの間に信頼関係が形成されていれば、リーダーが新しいやり方押ししても、フォロワーはリーダーについていくと言う理論である。

    ◎企業が持続的に高い成果を上げるためのカギは、優れたビジョンよりも、むしろ「誰をバスに乗せるか」にある

    ・適切な人材がそれぞれにふさわしい席に座ったところで初めて、自社が何をすべきか、戦略と組織はどうするのか、どんな技術を開発するのか、等々を決定している。

    ◎コリンズは、単に優秀な人材が企業にとって最も重要なリソースなのではなく、ビジョンと価値観を共有し、真摯で誠実な資質を持った適切な人材こそ、企業にとって最も重要なリソースだと喝破している。

    ・ゲーム理論とは、複数の意思決定主体(プレーヤー)が存在する場合に、それぞれの意思決定が相互に作用する状況(ゲーム)が、どのようなプロセスを取り得るのかについて、高度な数学を使ってモデル化しようとする学問である。

    ・企業の発するシグナリングは相反する2つの役割を持っているとされる。1つは競争相手に自社の意図や状況を示す手がかりとしての役割であり、もう一つは競合を欺き、自社の意図や状況を隠すための見せかけの役割である。

    ・ポーターは、自社と競合との間ででシグナルを有効に交換し、的確に読み取って無益な消耗戦を回避したり、場合によっては、競合を出し抜いたりすることによって、よりレベルの高い競争戦略を展開することができると提唱した

    ・ビジネスの成否を大きく左右する感じ方の少しの違い(例えば、店内の照明)、これが文化の違いなのである。

    ・例えば、すぐにストライキが起こるとか、管理職はスキルを身に付けたら、すぐに転職してしまうとか、その国の人たちの国民性や価値観によって、とるべき事業運営の基本方針が大きく左右されることがわかってきた。

    ・国民性を客観的に評価するための指標や、計測手法を開発しようとする研究が逆になってきている。こうした研究の代表的研究結果として、ホフステッド指数及びグローブ指数とCAGEフレームワークについて紹介する。

    ◎経営戦略の定義→「企業が外部環境と内部事情をすり合わせて立案する最も有利に競合に対抗するための事業展開の方針と施策」

    ・ダイバーシティマネジメントは、多様性、複雑性、変化対応と言うテーマに関する研究であり、ヒューリスティック、ソフト、ダイナミックと言う3つの潮流の特性と完全に符合するものである。

    ◎多様な種によって構成されるエコシステムは、環境変化への対応力と安定性が高い。

    ・事後的に振り返ってみると、見事な戦略のように見えるケースも、実は周到にプランニングされ、トップダウンで一気に達成されたものではなく、現場やミドルマネージャーが地道に判断と工夫を積み上げて成し遂げたものが少なくない。エマージェンス学派。

    ・ポジショニング学派の提唱する有効な戦略の核心が「差別化」であったのに対して、リソースベーストビュー学派の主張する有効な戦略の核心は「模倣困難性」である。

    ・90年代後半以降は、企業の文化や風土、および社員の行動様式といった組織に根ざした、インタンジブルな強みこそが、究極の模倣困難性の根拠となると言う見解を持つようになっている

    ・ゲーム理論学派の主張では、有効な戦略とは、競合の動きや顧客の反応に対して、自社が取る施策を適用させながら形成していくべきものであるとする。

    ・実際の企業経営において、有効な経営戦略のあり方と策定方法を複雑で、難解なものにしているのは「4つの相反性」である
    ①現在と将来の相反
    ②一貫性と柔軟性の相反
    ③集権と分権の相反
    ④資本と組織の相反

    ◎ある戦略を一貫性を持って遂行するべきなのか、状況に応じて柔軟に転換するべきなのかは、もともとの戦略の出来具合がどれくらい適切なものであったかに大きく左右されると言うことである。

    ・実際の企業経営における成功事例を見ても、一貫性を貫いたからこそ、成功を手にすることができたケース(例えばAmazonのネット物流)も柔軟な戦略転換を行ったことが成功の要因となったケース(例えばホンダのスーパーカブ)も、どちらも枚挙に暇がない。

    ◎戦略は一貫して貫く方が良いのか、あるいは柔軟に方針転換をした方が良いのかについては、極めて判断が難しい。

    ・成果が出るようになるまでの一定期間を経るまでには、安易に戦略方針を変更してしまうのは柔軟な対応というよりも戦力を無駄にしてしまう行為だと言わざるを得ない。

    ◎経営戦略における主権と分権のバランスを決定すること自体が重要な戦略的検討事項だと言えるだろう

    ◎現実の企業経営は、相反する意図や相反する利益や相反する法則を重ね合わせ、組み合わせて統合化する行為なのである。短期の利益も大事であるし、長期の発展も重要であり、一貫性を持って戦略方針を貫くことが肝心でありながら、状況に応じて柔軟に戦略を修正する必要もある。そうした複雑な目的を達成するためには、集権的な目標と方針の設定が不可欠であるが、分権によって、各部署の自主性も尊重しなければならないというのが、企業経営の現実である

    ・全く異なる法則や、相反的な主張を持った理論が存在する方が、経営者にとっては、戦略策定の自由度は広がるのである。

    ・極めて複雑な、実際の企業経営においては、状況と事情に合わせていくつかの理論や手法をうまく組み合わせて統合化することが不可欠と言うことである。そして、いくつかの戦略理論や手法を組み合わせて経営戦略を策定することが経営者の主たる役割であり、その能力の多寡が経営者の力量と言うことになるのだ。

  • この体系化はわかりやすい。
    戦略サファリはぶ厚過ぎる、経営戦略全史も項目たくさんありすぎるので、頭に整理できるくらいの分量で経営戦略が体系化されていてGood。

  • 『経営戦略全史』を会社の勉強会で読むということで、副読本として購入。
    波頭史観なのかは浅学なのでわからないが、経営戦略論の潮流とその類型が整理されており、頭の整理に非常に良い。
    戦略策定の方法論軸(プランニングorエマ―ジェンス)と戦略の有効性軸(ポジショニングorRBV)で論を分類し、時代を経るごとに経営戦略論が、システマティックからヒューリスティックへ、ハードからソフトへ、スタティックからダイナミックへと重層的に発展してきたという説明になっている。

    また、経営戦略論と実務というテーマでも紙幅を割いており、実学向けの感もあり使いやすい一冊。

  • 経営学の理論発展を紐解いた1冊。すでに既知の内容も多かったが、最終章の「果たして経営学は本当に有用なのか?」という問いに対する答えが秀逸だった。
    著者曰く、研究とは、
    研究...何かのメカニズムを見つけるために行うものであり、特定の切り口から(つまり一定以上の要素を切り落とした上で)分析を行う行為
    であるのに対し、実務とは、
    実務...相反する理論を内包するシンセシス。「現在vs将来」「一貫性vs柔軟性」「集権vs分権」などのトレードオフを抱えている
    とのこと。つまり、特定の理論で全てを説明することはそもそもが難しく、複数の理論が相互補完的に成り立っていることを理解した上で、経営に生かすことができるのであれば、経営学は有用である、ということになる。これにはすごく納得させられた。

  • ・経営戦略の潮流と、潮流が生まれた歴史的背景がまとまっている名著
    ・内部分析→競争環境分析→ポジショニング学派→RBV学派、それぞれが生まれた歴史的背景と、それらを踏まえて企業運営上の難しさ(=4つの背反性のマキシマムポイントの取り方)が言及されていて、どんなケースでも想定したい論点が山盛り

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著者プロフィール

波頭 亮(はとう・りょう):1957年愛媛県生まれ。東京大学経済学部卒業。マッキンゼーを経て、88年㈱XEEDを設立し独立。戦略系コンサルティングの第一人者として活躍する一方で、明快で斬新なヴィジョンを提起するソシオエコノミストとしても注目される。著書に、『プロフェッショナル原論』『成熟日本への進路』『論理的思考のコアスキル』(以上ちくま新書)、『知識人の裏切り』(西部邁との対談、ちくま文庫)、『経営戦略概論』『戦略策定概論』『組織設計概論』『思考・論理・分析』『リーダーシップ構造論』(以上、産能大学出版部)、『AIとBIはいかに人間を変えるのか』(幻冬舎)ほか多数。

「2021年 『文学部の逆襲』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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