- Amazon.co.jp ・本 (370ページ)
- / ISBN・EAN: 9784384042764
作品紹介・あらすじ
チャウシェスク独裁政権下のルーマニアを舞台に家宅侵入、尾行、盗聴。つきまとう秘密警察の影に怯える日々。そうしたなかで、ひとりの女が愛にすべてを賭ける。しかしそれには、親友との友情を引き裂くものだった…ノーベル文学賞受賞!祖国を追われた女性作家ヘルタ・ミュラーが描くチャウシェスク独裁政権下のルーマニアを舞台に繰り広げられるあまりに切ない物語。
感想・レビュー・書評
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3.5/104
内容(「BOOK」データベースより)
『チャウシェスク独裁政権下のルーマニアを舞台に家宅侵入、尾行、盗聴。つきまとう秘密警察の影に怯える日々。そうしたなかで、ひとりの女が愛にすべてを賭ける。しかしそれには、親友との友情を引き裂くものだった…ノーベル文学賞受賞!祖国を追われた女性作家ヘルタ・ミュラーが描くチャウシェスク独裁政権下のルーマニアを舞台に繰り広げられるあまりに切ない物語。』
原書名 : 『Der Fuchs war damals schon der Jäger』
著者 : ヘルタ・ミュラー
訳者 : 山本 浩司
出版社 : 三修社
ハードカバー : 370ページ -
2009年ノーベル文学賞受賞作家の作品。最後の一文「ただ古いコートが新しいコートに変わっただけなのだ。」にすべてが語られる。器は変わっても中身のすべてが変わることは難しい。日本の現状もしかり。
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些細な仕事上の反目から、秘密警察にマークされることとなった女性。ルーマニア革命以前の、息詰まる市民生活が描かれる。
ありとあらゆる身の回りのものが密告に加担している気配が全編をつつむ。草木や風、川の流れや石畳など、ヘルタ・ミュラーの描写にかかると、すべて不穏に満ちる、その筆力に唸らせられる。
特権階級の横暴と、支配にあたって理を尽くさない搾取の様子も描かれるが、このあたりは不条理を超えて笑いの要素も色濃い。
骨太の一冊。いつ何時、今生きる社会がヘルタ・ミュラーの描く黒い笑いの世界に裏返るか知れない、そんな胸騒ぎを覚える。 -
断片的で、詩のような言葉が閉塞感やそこはかとない恐怖を際立たせている。
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【新歓企画】ブックリスト:「大学1年生のときに読んでおきたい本たち」
ルーマニア、独裁政権下、監視社会の中、秘密警察に追われ、生きる人々の物語。「見られる」ことの恐怖を、主人公たちが「見る」ものを克明に、おどろおどろしく描写することで示している。とか何とか、どうとでも語れる小説ですけど、とにかく凄いのは、文章すべてがどや顔なんですよ。風景描写も、台詞もすべて。普通の人が、小説を書く際に、カッコイイ一文を入れちゃうときの、ほんの恥じらいみたいなものが、全くないのです。だから強い。そしてそのバッキバキにキマった文だけで読ませるのではなく、きちんと質量のある物語も語ってくれる。文体だけじゃない、物語だけじゃない。二つに気を遣って、丁寧に書かれている。こういうの書きたいですよね。あと、読み終わった後に、本当はジョージ・オーウェルの「1984年」をイメージした歌らしいのですが、平沢進の「big brother」を聴くとヘヴン状態になりますよ。【M.K.】 -
読書期間6月10日-6月17日
原著『Der Fuchs war damals schon der Jäger』
人間同士の感情とか行為、生物の表現が生々しい。
生物に関しては正直ここまでは知りたくなかった。
表現技法が本当に巧みで、読んでいる途中で気分が悪くなっても読みたいと惹き込ませられました。
読了した後は、何故2009年度ノーベル文学賞を受賞したのかが疑問でしたが、時間が経つにつれて、1国の当時の情勢を織り交ぜながら描いた事が受賞に繋がったんだと、成程なと得心しました。
この作品は、私が小さい時の1989年。
チャウシェスク政権時の「ローマ人の土地」を意味するルーマニア国内の情勢を描いています。
大統領や富裕層でなく一般人の目線で物語が紡がれています。
大統領が食糧輸出を強行。その影響で国民は監視警察で言論統制、食糧制限され生活水準が降下。不満が除々に募り噴出。
チャウシェスク夫妻の最期は世界中を駆け巡り、特に欧州各国を震撼させました。
余談ですが、原著がドイツ語なのは作者はルーマニア人ですが、
ドイツ語を母語とする少数民族の出だからです。 -
2009年ノーベル文学賞受賞作家。
舞台はルーマニア、時はチャウシェスク独裁政権の晩年。警察国家の民衆の日々を描き出す長編小説。
物語は、独裁政権下での民衆の生活の一場面を短く切り取って、それを並べていくようなスタイルで語られるため、最初は連作短編かと思った。登場人物は極めて一般的な民衆と、抑圧側の代表としての秘密警察であり、語られる舞台は学校や工場での日々である。
が、平凡であるはずの日常は全く平凡ではない。人々はつねに弾圧の恐怖にさらされている。あらゆるところから、あらゆるものが自分を監視しているという意識のもとで送られる日々は、灰色である。断片的に語られる抑圧の日々が、重苦しさを逆によく表現している。全てを率直に語ることは許されないのだ。
読んでいてなかなか疲れる小説である。それはつまり、それだけ当時のルーマニアの重苦しさが伝わってくる小説であるということである。 -
2010.01.24 朝日新聞に掲載されました。