黒死館殺人事件 (現代教養文庫 886 小栗虫太郎傑作選 1)

著者 :
  • 社会思想社
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  • Amazon.co.jp ・本 (547ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784390108867

感想・レビュー・書評

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  • 衒学的文飾の大伽藍

  • 法水麟太郎シリーズ

    1月28日の朝、グレーテ・ダンネベルグ夫人が毒殺されたとの一報。過去、黒死館で発生した3度の動機なき変死事件。算哲の弟夫婦の死と算哲自身の死。現場の部屋へ。遺体が発光しており、両こめかみに紋章の文身が。死因はオレンジに混入された青酸カリ。現場は施錠された密室だった。"テレーズ"と記されたメモ。ダイイングメッセージ?自動人形の部屋(鍵が紛失している。薬物室のも)の調査。死体のある部屋に戻る。川那部易介が失踪。久我鎭子談・昨夜の出来事。交霊会でのタンネンベルク夫人の「算哲」という言葉の謎。現場は過去の変死事件により、開かずの間だった。なにかに怯え、この部屋に避難した被害者。異様な神意審問会。
    算哲が6人の殺人方法の予言を描いた黙示図川那部易介が甲冑から窒息死体で発見される。時計室へ。押鐘津多子が倒れている。機械仕掛けのテレーズの幻影。火術弩でクリヴォフ夫人が狙撃される。算哲・ディグスビイ・テレーズの関係。事件の動機。伸子が中毒で倒れる。演奏会中、クリヴォフ夫人が刺殺される。殯室へ。レヴェズが首を吊っている。
    広間へ。ディグスビイと久我鎭子に関する報告。図書室へ。久我鎭子の訊問。カルテットの秘密。ダンネベルグの部屋へ。算哲の影が。礼拝堂へ。旗太郎、セレナ、伸子の訊問。事件解決。翌日の午後。伸子が射殺されてしまう。

  • 読み始めると知の迷宮世界にはまり込んで抜け出すことが出来ない、極上なブルゴーニュワインのような作品。
    黒死館の所有者、降矢木家の始祖は、天正遣欧少年使節の一人、千々石ミゲルとメディチ家のビアンカとの間に生まれた女性と設定されている。すると、直ぐに若桑みどりの<クアトロ•ラガッツイ>を取り出して、本書のつぎに読まなければならなくなる。
    1.奇書
    本書は、言わずと知れたミステリー三大奇書の一つ。
    しかし、<奇書>とは、その本に拒絶された者の恨み節の呼称に過ぎない。
    本は読者を選ぶし、読者は本を選ぶことが出来る。
    本に選ばれなかった者は、素知らぬ顔をして、本の前を通り過ぎれば良いのだ。
    本書を読むための条件(下記)をクリアできない者は、決して本書を開いてはならない。
    この条件をクリアした者にとってだけ、本書は魅惑に満ちた絢爛たる迷宮世界を開示してくれるのだ。
    <本書を読むための必要条件>
    (1)エドガー•アラン•ポーの<アッシャー家の崩壊>をこよなく愛する 
    (2)ホームズ、ポワロよりも、ファイロ•ヴァンス、エラリー•クイーンを愛する 
    (3)澁澤龍彦をこよなく愛する 
    (4)横溝正史の<犬神家の一族><八つ墓村>をこよなく愛する 
    (5)ウンベルト•エーコの<薔薇の名前>をこよなく愛する 
    <本書を読むための十分条件>
    (1)漢字に対する偏愛 
    (2)英語、独逸語、仏蘭西語に対する素養 
    (3)ヨーロッパに対する興味 
    (4)黒魔術に対する興味 
    (5)知ることに対するあくなき好奇心

    2.未完の小説
    発表から90年近くミステリーの傑作とされてきた本書を未完の小説と呼んだ批評を読んだことがない。
    しかし、三度目の読了で、思ったのは、<この事件は解決していない。これは未完の小説だ>というものだった。
    本書の連続殺人を実行したのは勿論犯人であるが、事件を迷宮化させたのは、探偵法水その人である。 
    降矢木家の館を黒死館という迷宮となし、犯行一つ一つに途轍もない魔術的意味付けを行ったのは、観念連合という中世的思考方法を駆使する探偵法水にほかならない。
    法水は事件の合理的解決など目指していない。彼が目指しているのは、犯行を魔術的に荘厳化し、犯人に鎮魂歌を捧げることである。
    作者小栗、そして探偵法水が描き出したストーリーは、メディチ家の妖婦ビアンカ•カペルロを始祖とした降矢木家は、その末裔である妖婦の死を持って崩壊した、というものであった。
    しかし、ここで、<待てよ>と言わなければならない。
    悉く犯人の特定に失敗し、次々と被害者を拡大させたのは、誰あろう探偵法水ではないか。
    その魔術的中世的推理を得意とする法水が最後の最後に犯人の特定に成功したと信じる根拠はどこにあるのだろうか?
    そんなものはどこにもない。
    法水は最後も<逸した>と見做すのが、最も正当な読み方ではないのだろうか?
    作者小栗は、この小説をヴァン•ダインの<グリーン家殺人事件>をモデルとして書いている。
    その意味では、犯人はかくあるべしという結末を迎えている。
    しかし、作者も探偵も、<グリーン家殺人事件>によってミスリードされたとしたら。
    降矢木家の直系の家系は絶えたが、遺産相続人は生き残っている。犯人と目された者は、法水の魔術的中世的思考によって自殺と断定されたが、彼の牽強付会論理を取り払うと、他殺であってもおかしくない。
    作者と探偵が<グリーン家殺人事件>で決着を付けようとしたため、最後も犯人特定を誤ったのだ、と考えたい。
    実は、この奇書は<未完>だったのだ。
    犯人は他にいる! 

  • 推理小説をあまり読まないけれど、なんとなく読んでみた。登場人物の知識量が凄まじく、読んでいて見知らぬ言葉の土石流状態。それでも何故だか妙なことに抗う気も抜け出す気にもならず流されながら読み終えた。何度かゾクリとする場面もあり、奇妙な何かが遺った。面白かったと思う。7割ほどよくわからなかったような気もするけれど。

  • 『ドグラ・マグラ』と並ぶ三大奇書とのことで昔購入してやっと読了だが
    衒学に全くついていけずかつストーリーも分からない
    と思ったら衒学のところ著者の適当なの?

    解題

    難解語彙・事項のかなりの部分が、苦し紛れの捏造と、観念連合の過敏性に基く錯誤の産物と推定されることである。これは、虫太郎の知識が、背後に体系を有する深遠なものでなく、蚕の蝕む桑の葉のように薄いものであったことを示唆する。

    えっ、えっ、そうなの?

    『虚無への供物』『ドグラ・マグラ』とも大興奮で読んだのに本書は残念

  • 手に入れてからいったい何年(下手したら十年)積ん読状態だったんだろう。
    奇書といわれる本書。江戸川乱歩も夢野久作も好きだし(『ドグラ・マグラ』は若い頃読了)ゴシック趣味も好物。でもなんとなく手付かず。

    この度入院でベッドから動けないのを幸い、逃げられない状態で読み始める。まずその圧倒的な情報量に話の筋を見失い、読み流しつつも読了にまるまる1日かかる。
    結局、細かいトリックだのは文字に埋もれて希薄になり、探偵と関係者達との会話も芝居がかったやりとりばかりで結局何が言いたいのか浅学の身にはわからず。
    舞台装置のみならなかなか魅力的というか、怪しい洋館に曰くありげな一族と一定のファンがいるジャンルなんだけれど。
    自分は活字中毒だ、ミステリーマニアだと自負する方は読んでみては。

  • 20世紀に読了。現代教養文庫で小栗虫太郎傑作選全4巻を揃えて読んだ。
    桃源社の全集も当時古書店にあったが、他の作家を入手するのに元手がかかり、文庫で我慢することになったが充分堪能できた。
    後日、東京創元社の日本探偵小説全集や二十世紀鉄仮面を購入して虫太郎ワールドを楽しんだ。

  • 最近、河出文庫で出たもので読み直していたのだが、読めない漢字でルビのふっていないものがけっこうあるので閉口していたところ、たまたま立ち寄った古本屋さんでこの版を見つけて購入し、そのまま並行して読み終えた。
    やはり創元推理文庫の「小栗虫太郎集」とこれが二大決定版なのではないか。巻末の正誤対照表や編者の解説も含めてとても貴重なもので、これがいま新刊で入手できないのはとても残念なことに思う。
    意外と本の外装や挿絵は重要で、黒っぽい創元推理文庫版で読むとかなり陰気な雰囲気になるし、白っぽいこの版だとこの館にも昼間がある(実際、意外と日中のシーンは多い)ことに気づかされるようにもっとニュートラルに読める。このイメージそのままにどこかの文庫で復活されないかなぁ。

  • 「黒死館殺人事件」小栗虫太郎◆歴史、呪術、暗号、宗教、科学、医学、文学、心理学ありとあらゆる知識をぶち込んで熟成させた怪物じみたミステリ。知識の誤りもあるそうですが、ここまでくると多分飾り立てること自体に意味があるんだろうなぁと、理解できないなりにその徹底ぶりに圧倒された。

  • 先月松山俊太郎氏が亡くなられたとのことなので、氏といえば真っ先に思い出すこの本を再読。

    わからない言葉があると調べずにはいられないような人には一生かかっても読了することはできない本で、このような本にパラノイアックともいえる校訂を加えた教養文庫版は驚嘆の一言。
    よく難解と言われもするが、基本的には全部を理解しようとはせずに、バカミスと言われても仕方ない法水の推理に「何訳分かんないこと言ってんの」とか「そんなアホな」とツッコミを入れていくのが一番楽しい読み方のはず。何が何だかわからないけれど、とにかくすごいものを読んでいると読者に思わせることのできる作品というのは滅多にない。
    実際のところ、ジャンルこそ違うものの埴谷雄高の 「死霊」の方がよっほど難解。

    それにしても松山氏による完全版はもう幻になってしまったのかと思うと本当に残念だ。

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著者プロフィール

小説家。1901年東京生まれ。本名、小栗栄次郎。1927 年、「或る検事の遺書」を、「探偵趣味」10月号に発表(織田清七名義)。1933年、「完全犯罪」を「新青年」7月号に発表。「新青年」10月号に掲載された「後光殺人事件」に法水麟太郎が初めて登場する。1934年、『黒死館殺人事件』を「新青年」4~12月号に連載。他の著書に、『オフェリヤ殺し』、『白蟻』、『二十世紀鉄仮面』、『地中海』、『爆撃鑑査写真七号』、『紅殻駱駝の秘密』、『有尾人』、『成層圏の遺書』、『女人果』、『海螺斎沿海州先占記』などがある。1946年没。

「2017年 『【「新青年」版】黒死館殺人事件』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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