人生の秋に ホイヴェルス随想選集

制作 : 林 幹雄 
  • 春秋社
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本棚登録 : 42
感想 : 2
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784393216170

作品紹介・あらすじ

人生の「稔り」の時を迎えた人々に贈る、癒しと慈愛のこころに満ちた、珠玉の「いのちのエッセイ」。

感想・レビュー・書評

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  • 映画「ツナグ」(2012)を観た。

    八千草薫が優しく微笑んで「あなたは優しい子だから」と言ってくれるのを見たら、ホントに死んだ母親が今宵だけ現れた気になった(若干、八千草さんに似てるんですよ)。

    樹木希林が最後に呪文のように何かを唱える。これが「ツナグ」になるための秘密の呪文なのか?劇中で紹介はなかった。しかし、違った。最後のエンドロールで紹介があったのである。これは原作にはない「詩の朗読」である。脚本・監督 平川雄一郎はそういうこともやってのける。樹木希林は、もう存在そのもので「ツナグ」を体現していた。

    それは神父の友人の作だという「最上のわざ」という詩の一節であった。というわけで、それが載っているという本を取り寄せた。

    神父は旧約聖書の言葉を引いて、歳をとることは様々な機能が衰えることだと述べて、昨年故郷ドイツに帰った折に、こんな詩をもらったと書く(75p)。

    この世の最上のわざは何?

    老人の心構えを10行に渡って述べたあとに樹木希林の呟きの一節がでてくる。

    老いの重荷は神の賜物、
    古びた心に、これで最後のみがきをかける。
    まことのふるさとへ行くために。
    おのれをこの世につなぐくさりを少しずつはずしていくのは、
    真にえらい仕事。
    こうして何もできなくなれば、
    それを謙虚に承諾するのだ。

    そして詩は、敬虔な信者の世界にはいってゆく。老いるのは決して怖いことでも、苦しいことでもないんだよ、と言ってるかのよう。神父さんはヨーロッパでも日本でも幸福そうな老人にだいぶ会ってきたそうだ。その人たちは言ったという。
    「人生の秋がこんなに楽しいとは思わなかった」

    ヘルマン・ホイヴェルスさんは1923年に来日、以来ずっと日本に居て地域の司祭や大学の学長などを歴任した。1977年東京没。

    驚いたことに、来日早々ホイヴェルスさん関東大震災に遭い、岡山に流れている。岡山市から倉敷市水島の福田、高梁川を渡って玉島、そして笠岡の方まで巡回ミサを回っている。福田村の農家の中の仮聖堂のような部屋。昭和になる直前、ここまで我が郷土に小さな信仰が広まっている事にびっくりした。

    「人生の秋がこんなに楽しいとは思わなかった」
    こんな心持ちになるような人生を歩んでいきたいと思う。

  • 【この世の最上のわざは何?
     楽しい心で年をとり、
      働きたいけれども休み、
     しゃべりたいけれども黙り、
      失望しそうなときに希望し、
      従順に、平静に、おのれの十字架をになう。

      若者が元気いっぱいで神の道を歩むのを見ても、ねたまず、
      人のために働くよりも、
      謙虚に人の世話になり、
      弱って、もはや人のために役だたずとも、
      親切で柔和であること。
            (「最上のわざ」より一部抜粋) 】

    以下、もっと続くのだがレビューの都合上ここで割愛。
    「ツナグ」という映画の中で、この詩が紹介されているらしい。
    樹木希林さん演じる主人公の祖母が朗読するこの詩に問い合わせが殺到したため、この詩を収録した本書にも注目が集まったようだ。
    かく言う私も、とあるサイトでこの詩を知り、心震える思いをしたひとり。
    「第二の青春」だのと言いはやされたり、「アンチ・エイジング」だのと外見をつくろうことに労力を注いだりと、この世はなんと騒がしいことだろう。
    この詩で一石を投じられた心は、今も静かにさざなみを立て続けている。

    この本の著者であるヘルマン・ホイヴェルス神父は、1890年生まれのドイツ人で、33歳で来日。
    昭和52年に87歳で天寿を全うされるまで、日本で活動を続けた宣教師だ。
    上智大学の教授としてご存じの方も、歌舞伎化もされた戯曲「細川ガラシア夫人」の作者としてご存じの方もいるかもしれない。
    「イエズス会」というとあまり良くないイメージもあるが、そんな先入観はすべて払拭されてしまう、実に清廉な随想集だ。

    8月30日に来日し、翌々日の9月1日に関東大震災に見舞われたという日本での生活は、決して穏やかな時ばかりではなかったことだろう。
    自然について、東西文化の違いについて、信仰について、生きていく上での困難なあれこれについて綴られる穏やかな語り口が、しみじみと心にしみいる。
    読むたびに敬虔な思いにうたれ、何度も読み返したくなる一冊。
    【最上のわざ】を、果たして私は習得できるのだろうか・・・遠い遠い道のりだ。

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ヘルマン・ホイヴェルスの作品

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