自由の条件I ハイエク全集 1-5 【新版】

  • 春秋社
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784393621752

作品紹介・あらすじ

西洋における自由の思想の変遷を俯瞰し自由が文明の進歩にとっていかに重要かを論じたノーベル賞に輝く思想家の代表作。

感想・レビュー・書評

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  • まだ第二次世界対戦が終結する以前に隷従への道を説き、自由社会が損なわれる全体主義の危険性を説いたハイエクによる一書。

    人間はその本質において誤りに陥りやすい存在である。人間社会は「斬進的な発展し改良・進歩」が期待されるものであり、もしデカルト的な理性を乱用し「革命的な進歩」を目指した場合、文明そのものを破壊する。

    道徳規則の形成も人間の社会における実践的な営みの経験の中で成長したものであり、人間の理性による意識的な発明ではない。秩序も「自制的秩序」であり自由社会を不可分の関係にある「法の支配」と市場経済(自由主義リバタリズム)の二大原則の確立にほかならない。計画経済、集産主義、社会主義、共産主義、ファシズムとは決定的に異なる。

    アダムスミスに由来する自由主義政治理論を原題において確立することを目指した。
    文明の発展には自由な創意工夫の活力が必要であり、これを支配服従に基づく制度では実現できない。
    優れた諸制度とは自由社会において自由に発展した諸制度であり、立法府の無制限な権力の利用を法の支配によって規定する。

    自由主義とは法の性質や役割を規定する教義
    民主主義とは立法されるかどうかを決める教義

  • ハイエクの代表作であり、国家の取り組みの中における自由についての考えが詳細に述べられている。翻訳が悪いためか、表現が難しく理解できない箇所があるのが残念。
    「われわれの無知が避けがたいのは、確率的なものや偶然の出来事を主として取りあつかわなくてはならないことを意味する」p47
    「散在した多くの知識を利用することにより、ある一個人が洞察できる以上のことが達成可能となる。自由とは個人の努力に対する直接的統制の放棄を意味するからこそ、自由社会はもっとも賢明な支配者の頭脳が包含するよりもはるかに多くの知識を利用することができるのである」p48
    「アダム・スミスの次の言葉が正しかったことにはほとんど疑念の余地はない。すなわち「働く貧民の状態、つまり人民の大多数の者の状態が、もっとも幸福でもっとも快適であるように思われるのは社会が富のすべてを獲得してしまったときよりも、むしろ社会がその獲得に向かって前進している進歩的な状態にあるときである。社会が停滞的な状態にあるときには、働く貧民の状態は耐えがたく、またそれが衰退的な状態にあるときは惨めである」p63
    「先頭に立つ者の進歩を妨げることがやがて後続の全部ににわたって進歩を妨げることになる」p75
    「(ダーウィンの考えを応用して)生物学から考え方のいくつかを逆輸入して、「自然選択」「生存競争」「適者生存」などのような概念をもちこんだが、それは社会科学の領域では適切なものではない。というのは、社会的進化における決定的な要素は個人の物理的そして遺伝的な属性の淘汰ではなく、成功している制度や習慣の模倣による淘汰だからである。あらわれてくるものは個人の遺伝的な属性ではなく、考え方と技術、要するに学習と模倣によって伝えられる文化遺産全体なのである」p86
    「自由は個人が選択の機会と負担との両方をもつことを意味するだけでなく、それはまた個人が自分の行動の結果を引き受けなければならず、その結果に対して賞賛と非難とを受け入れることを意味する。自由と責任は不可分である」p102
    「個人の自由に対する信念が固かったときには、この個人的責任の信念もつねに強固であったが、自由に対する尊重の念と一緒に著しく衰退した」p103
    「自由社会が提供しなければならないものは適切な地位を求める機会だけである」p117
    「もしも事件が多数の人の責任とされ、しかも同時に共同の同意行動の義務を課されることがないとすれば、その結果は通常、誰も実際に責任を負わないことになる。すべての人の財産は事実上、誰の財産でもないのと等しく、すべての人の責任は誰の責任でもない」p119
    「法と行為に関する一般的規則の平等こそが自由のために役立つ唯一の平等であり、また自由を破壊せず確保することのできる唯一の平等である」p121
    「われわれが反対するのは、ある恣意的に選択された分配の型を社会に押し付けようとするあらゆる企てに対してである」p124
    「経済的不平等はその強制手段として差別的強制あるいは特権に訴えることを正当化する悪の一つではない」p125
    「才能に途は開かれる」p131
    「(多数決)全員の努力が多数者の意見によって指導されるべきであるとか、あるいは社会が多数者の水準に従う方がよりよいものになるという考え方は、実は文明を発達させた原理と正反対のものである。それを一般的に受け入れれば、おそらく文明は崩壊はしないにせよ停滞することとなろう」p155
    「民主主義が全能であると公言し、どのような特定の時点においても多数者の望むものをすべて支持する人々は、民主主義の崩壊のために働いていることになる。民主主義を永続させるためには、民主主義は自身が公正の源泉ではないことを認め、またあらゆる特定の問題において必ずしも通俗的な見解として現れることのない公正の概念を認識する必要があることを認めなければならない」p164
    「被雇用者は意思決定を行わずに生活できるし、またそうしなければならない理由がわからず、生活に滅多に生じない行動機会に対してほとんど重要性を認めない」p168
    「もしわれわれが嫌うものをすべて妨げてしまうとすれば予測できない良いこともまた妨げられるわけで、そのほうがたぶん悪いことより多いだろうということである。多数者がその好まないものすべての出現を妨げることのできる社会は、停滞したおそらく衰えゆく世界であろう」p183

  • 政治思想家としてのハイエクの代表作。

    原題は、"The Constitution of Liberty"で、直訳すれば、「自由の憲法」?

    ハンナ・アーレントが好きなわたしは、「自由の創設」と訳したいところ。

    3部構成からなる大著で、1部は「自由の価値」という理論部分、2部は「自由と法」ということで社会的思想史、3部は「福祉国家における自由」で政策提言という構成。

    全体主義批判の「隷属への道」は、単にナティズムやスターリニズムを批判するだけでなく、西欧諸国にもある社会主義的な傾向、知性主義の傲慢さへの痛烈な批判を含んでいて、説得力を感じるとともに、居心地の悪さを感じる本であった。

    この「自由の条件」は、全体主義的な傾向が退潮した1960年で出版されたもので、「隷属の道」での居心地の悪い感じの議論を論理的に展開したものといえる。

    ハイエクの本のなかでは、具体的な話が多く、比較的分かりやすい感じかな?

    「自由」ということについて、かなり徹底的に考えることができた。

    とくに、第2部の議論は、説得力がある。

    政治哲学の世界では、個人の自由と自分の行動が他の人の自由に与える影響との関係は、つねにホットなテーマだと思うが、「法の前の平等」「法治国家」というのが、自由を守るために最重要であるということが議論されている。

    そして、そういう「自由」、「法の前の平等」の概念が、だんだん曖昧に、恣意的になっていって、法学もその方向に理論的根拠を与えて行って、それが20世紀前半の全体主義になだれ込んでいくという思想史的な流れはかなり説得力がある。

    第3部は、そういう議論を踏まえたうえでの政策論。ハイエクは、ここでは、一応、「福祉国家」という当時の「現状」を受け止めた上で、現実的?な政策提言をおこなっていく。

    が、その内容は、相当にラジカル。。。。

    ハイエクの議論は、フリードマンなど、いわゆる新自由主義とはちょっと質感が違うものなのだが、政策提言レベルでは相当に「小さな政府」論だな。

    この議論をどこまで受け入れるかは議論が多そうだが、さまざまな社会的な問題に関心が高まるなかで、単純な平等主義的な発想がいかに人間の自由、社会の発展を制限するものでありうるかを考える視点になる。

    また、善意でやっていることが、より問題を悪化させてしまうというシステム論的な視点もある。

    ハイエクは、一見、古いリベラリズムにみえて、実は、複雑系、自己組織化、つながりの思想家でもある。

    新自由主義的な考えの人ではなくて、むしろ、ネットワーク的な生き方を志向する「自由人」にこそ読んでもらいたいな。

    ハイエクが求めているのは、「人間の個性が豊かな多様性において発展すること」で、かれの自由主義は、「生命」をベースとするものなのだから。

  •  
    ── ハイエク/気賀 健三&古賀 勝次郎/西山 千明&矢島 鈞次・訳
    《自由の条件 I 1960 200708‥ 春秋社》ハイエク全集 1-5 【新版】
    http://booklog.jp/users/awalibrary/archives/1/4393621751
     
    (20160926)
     

  • 了。

  • 『ぼくらの頭脳の鍛え方』
    書斎の本棚から百冊(立花隆選)65
    政治学・法学
    新自由主義を考える上で必須。

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著者プロフィール

1899~1992。ミーゼスとともにオーストリア学派の資本理論を展開。景気研究所の所長を務め、『貨幣理論と景気循環論』『価格と生産』を出版。市場制度擁護の論陣を張り、計画経済・ケインズ主義・福祉主義を批判。第二次世界大戦後に渡米。シカゴ大学で『自由の条件』を出版。法思想家・心理学者の顔も持つ。後に帰欧。

「2021年 『自由の条件Ⅲ 福祉国家における自由』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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