庭園に死す

著者 :
  • 春秋社
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本棚登録 : 21
レビュー : 3
  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784393741269

感想・レビュー・書評

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  • ワーオ!
    もの凄い本に出会ってしまった。

    著者野田正彰は人間の精神形成を研究してきた精神病理学者であり、いまやその名も高き比較文明論の論客である。そして京都造形芸術大学教授でもある。なぜ芸大教授なのか。この著書あるが故か。
    人間は両親から遺伝子情報を与えられて生まれてくる。そして母親との接触から始まり、多くの人との接触を通じてその社会の文化を受け取り精神形成を行う。
    それでは風景という刺激は精神の形成にとってどんな役割を果たしているのか。
    著者の庭園への関心はここに始まるという。

    その関心は半端ではない。<あとがき>によれば庭園の知識は「造園の歴史」「日本の古庭園}(いずれも岡崎文彬)によって得たというが、前者は上中下3巻(各巻17千円)、後者は上下2巻(58千円)の大冊である。あまりの読み返しに 本は綻びてしまい2代目を購入したという。専門分野・精神病理学の本でもこれほど何度も読んだ本はないという。
    秀才がそれほど打ち込むのだから半端ではない。

    本の内容は大きく4つに分かれる。
    その1は日本庭園である。50以上の庭を訪れる。さすがに京都の庭は自分の庭を歩くが如くである。京都在住のせいかと思ったが、擦り切れるほどに読み込んだ名著の知識にも裏打ちされているのであろう。公開されていない庭園も京都では殆どを巡っている。
    京都だけではない。平泉の毛越寺は言うに及ばず福島、鹿児島、熊本、山口、島根益田、三重、大津、静岡と、庭があると聞けば残さず足を運んでいるようだ。そしてきちっとした歴史観、文明史観の上で論ずるのだからなまじっかな庭巡りの本はとても太刀打ち出来ない。

    その2は現代の都市景観を論ずる。
    山裾に修学院離宮が隠れ幡枝に円通寺が佇む比叡山の山頂にミニ・スキー場があることを嘆く。
    苗場のホテルをすべて川の手前に建てていたら、人と山との対面はすっかり変わっていただろうと説く。
    大阪南港の高架線がこれほどの景色になることを知っていたら、もっと効果的なデザインを考えただろうにと惜しむ。
    ランドスケープデザインの世界である。

    その3は中国庭園である。
    日本文化の源流を意識して中国の庭を見ている。
    10数ヶ所を巡る。日本の庭園研究家でこれほど中国の庭を見て回った人がいるだろうか。

    その4はヨーロッパ・イスラムの庭である。
    約30の庭を紹介する。ヴェルサイユでは周囲5キロの大カナルを半日かけて歩いてまわる。アルハンブラでは宮殿の中の修道院に滞在し4日間を庭鑑賞に費やす。
    景色が人間の精神形成にどう働くかを考える人の庭巡りだから、生半可な庭巡りではない。
    まして好きな世界で著者独特の名文は時に美文に亘る。

    掲載された百数十葉の写真は4-5枚の例外を除いてすべて著者の撮影によるという。構図といい、焦点深度といい、撮影の季節といい、とても素人の写真ではない。
    学者の旅先なのだから特別な機材も持っていないだろうに。
    脱帽するのみである。
     

    この本は90年から92年にかけて産経新聞に連載され、94年に単行本として刊行されたものだという。
    刊行時、どれほどの評判を呼んだのだろうか。不学にして私はこんな本の存在すら知らなかった。
    世の庭園記事、庭園書籍の編集者たちはこの本の存在を知っているのだろうか。
    知っていたら新たな本の編集に絶望するに違いない。

  • 名著だと思った。もともと別の専門分野を修めた著者が、造園学を本格的に勉強して書いた本のようだ。だからか感覚的な文章はかなり少なく、かといってお堅い学者の書き方でもなく、絶妙に中庸を実現している。新しい分野を学ぶのに、自分の専門をひけらかして一方的に断ずる人もいるが、この著者は平身低頭として学ばれたのではないだろうか。

  • 庭園があの世の表現であるという

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著者プロフィール

1944年生まれ。長浜赤十字病院精神科部長などを経て、現在、関西学院大学教授。専攻は比較文化精神医学。1999年2月の広島県立世羅高校・石川敏浩校長の自殺についての検証をきっかけに、君が代強制に苦しむ教師たちの精神医学にかかわる。著書に、『虜囚の記憶』(みすず書房)、『子どもが見ている背中』(岩波書店)、『させられる教育』(同)、『戦争と罪責』(同)、『喪の途上にて』(同、講談社ノンフィクション賞)『コンピュータ新人類の研究』(文藝春秋、大宅壮一ノンフィクション賞)など多数。

「2009年 『教師は二度、教師になる』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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