シューマニアーナ

著者 :
  • 春秋社
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  • Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784393931684

感想・レビュー・書評

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  •  もともとは1983年刊のシューマン本である。

     著者はヨーロッパで活躍する音楽学者で、学術的な著作はドイツ語、ややくだけたものがこうして日本語で出てくる。古くは1960年の文章で、シューマン生誕150年に際して書かれたものである。ここしばらく「レコード芸術」誌に連載をしているエッセイはいささか芝居がかった文章作りに辟易として私はあまり読まないのだが、学者としてはきちんとしたものを持っている方と理解している。なにせ、新シューマン全集編集主幹であり、ショーマンについての造詣は深い。

     本書は主としてNHK交響楽団の機関誌「フィルハーモニー」に掲載された文章を集めており、シューマンといっても管弦楽曲の解説が多い。しかも音楽学的にかなり踏み込んだ解説でお堅いのだが、勉強になるし、シューマンに対する視点が広がる。
     まずは歴史認識。指揮者ハンス・フォン・ビューローがブラームスの第一交響曲をベートーヴェンの第十交響曲と評し、交響曲の歴史がまさにベートーヴェンからブラームスに継承されたというのが今日の歴史観で、シューマンやメンデルスゾーンの交響曲は傍流の扱いだ。しかし、シューマン存命時には、彼こそベートーヴェンの業績を受け継ぐ人とみなされていた。それを裏書きするように著者はシューマンがいかにベートーヴェン的形式をシューマン的な内容で埋めていったかを論証する。
     そしてその観点とも関係するが、シューマンの天才性は初期のピアノ曲に最大に発揮されており、交響曲などの大形式を扱いだしてからは、作品の質は落ちるといった認識を、筆者は否定する。すなわち初期の天才的な音楽の扱い、それはつまりは主題の絶えざる変奏なのだが、それをベートーヴェン的形式に沿いながら、大きな形式を形作ることに利用していく手腕が明らかにされる。
     他方、いかにシューマンが詩人であって、結局は音楽にも表現し得ない詩的な何かを持っていたのだということにも目が配られている。
     初期の習作の《ツウィッカウ交響曲》のヴァージョンが2つだとか、音楽学的に古くなった記載もあるが、今なおシューマンの創作の秘密をこれほど明らかにした本はないのではないか。

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