新しい音を恐れるな 現代音楽、複数の肖像

  • 春秋社
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  • Amazon.co.jp ・本 (258ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784393935477

作品紹介・あらすじ

いま最も熱い指揮者が語る「現代音楽」入門。作曲家との交流、演奏現場での体験もまじえ、未聴の世界へと誘う語りの妙味。新鮮な発見、思わず曲が聴きたくなる。

感想・レビュー・書評

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  •  インゴ・メッツマッハーのCD、初めて買ったのは、ケージの《16のダンス》だったか、リームの《メキシコの征服》だったか。
     現代音楽を専業とするアンサンブル・モデルンのピアニストとして参入し、その指揮者として頭角を現し、歌劇場の指揮者になった。最初は現代音楽の専門家のようだったが、「普通の」指揮者としても現代の音楽をよく指揮することで知られている。ハンブルク・フィルでは大晦日コンサートで「Who is afraid of 20th century music?」(これは「狼なんか怖くない」、そして「ヴァージニア・ウルフなんか怖くない」のもじりだから、「20世紀音楽なんか怖くない」と訳したい)と称して、20世紀の小品を伝統的な書法から前衛的な書法のものまでとにかく面白いものを並べて楽しませてくれた。

     そんなメッツマッハーの本には新しい音楽への愛情が満ちている。たぶん普通の音楽教育のなかで行き詰まっていたのだと思う。シェーンベルクの曲を弾くことで新しい世界が開けたさまが、そしてそれがアンサンブル・モデルンへの参加、そして指揮者のキャリアを拓いたことが書かれている。
     しかし本書はまず、チェリストだった彼の父親のことから始まる。これも波瀾万丈の物語というわけでもない。ただ伝わってくるのは父親の音楽への愛情である。そしてその愛情を息子は20世紀の音楽に向けるのだ。次に、思春期の頃、作曲家プラーテと知り合って聞いた、作曲の現場の世界が語られ、メッツマッハーの愛する作曲家たちへの言及と繋がっていく。

     コンサートの定番となっている20世紀音楽(マーラー、ドビュッシー、ストラヴィンスキー)、レコーディングは多いがいまだ一般の音楽ファンには敬遠されがちな20世紀の代表的作曲家(アイヴズ、シェーンベルク、ヴァレーズ、メシアン)、そしてメッツマッハー自身がともに仕事をした大作曲家(ケージ、シュトックハウゼン、ノーノ)、それから彼の父の世代で過小評価されており、彼がその交響曲全集を録音したハルトマンがとりあげられ、その作品がいくつか解説される。これが実にうまい。帯にもあるが「思わず曲が聴きたくなる」。じっさい思わずCDを取り出して来てしまった。

     そして作曲家について述べる合間に「時間」「色彩」「自然」「ノイズ」「静寂」「告白」「遊び」と20世紀音楽の一般的パラダイムが紹介され、そこで他の作曲家にも言及がある。訳者によれば、メッツマッハーの文章は凝った修辞を用いず、短文で畳みかけてくるという。その訳もとても気の置けない感じでいい。もっとも訳業に多少の瑕疵はあって、「20世紀音楽を恐れるのは誰だ」はいただけないし、ノーノの《進むべき道はない、だが進まねばならない》に合唱があるというのはたぶん誤訳だが。
     とりわけ感銘深いのがノーノとのコラボレーションと、「ドイツが生んだ、手本として仰げるような人物」ハルトマンの章。最後は「旅の途中で」、自身の歩みが述べられる。ドイツ語の副題は「音楽の世界のある旅」。「シューベルトとノーノ、ベートーヴェンとシェーンベルク、モーツァルトとストラヴィンスキーは、その精神において極めて近いとぼくは確信している」なんていう台詞は意外だけれど、なるほどと思わせるところもある。
     私としてはあまたある音楽書のなかでも最良のものと思う。

  • イイネ!

  • コンサートシリーズ "Who is afraid of 20th century music?" で20世紀音楽の多様性を世に知らしめた指揮者メッツマッハーの著書.回想を綴った最初の2節以外はほぼすべて20世紀の音楽の紹介に当てられている.作曲家の簡単な紹介の後,饒舌に音楽を実況中継している.知らない曲も多いので,そのまま音楽が聞こえてくるわけでもないが,指揮者の演奏中の心の中の動きをみるような面白さがある.ただ通して読むと,単調に感じられてきて,退屈してしまった部分もあった.

  • メッツマッハー。現代音楽。楽譜も音符も一切使わずに曲が紹介される様子は、まるで文章で演奏しているかのよう。短くて明晰な文章で、彼自身の解釈を織り交ぜながら、繊細に力強く演奏されている。すばらしい

  • 先日新日本フィルハーモニー交響楽団の第485回定期演奏会に出かけた。その時の指揮者がこの本の作者である。プログラムは、ブラームスの交響曲第1番とシェーンベルクの管弦楽曲、それと同じくシェーンベルクが編曲したバッハの「前奏曲とフーガ」変ホ長調だった。面白く指揮者の存在感が濃厚な演奏会だった。

    この本は、メッツマッハー氏の経験から来る作曲家、とりわけ現代音楽の分野の作曲家についての印象と音楽に共通するいくつかのテーマについての小文がまとめられている。アイブス、ノーノ、シュトックハウゼン、ケージ、今まであまり作品に触れたことのない作曲家ばかりだが、どのエピソードを読んでも音楽が聞きたくなった。

    余談だが、12音技法で書かれたシェーンベルクの作品を聞いてアーヴィングの書いたウィーンの風景を思い出した。「ホテルニューハンプシャー」だったと思う。

  • ティーレマンなどと同じ中堅世代で好きな指揮者の一人であるメッツマッハーの現代音楽論。話しぶりがうまく一気に読ませる。アンサンブル・モデルンにいて、シュトックハウゼンらと親交があっただけに実体験としての現代音楽を語るところがいいのかも。オペラについての著作もあるので邦訳を期待する。

  • アンサンブル・モデルンのピアニストで指揮者である、インゴ・メッツマッハーによるエッセイ風の──自由で堅苦しくなく、そして共感に満ちた──「現代音楽」への誘い。

    ”ほんとうはすべてが同時に起こっていて、現象に対するわれわれの認識のしかたが、それを前後関係としてとらえなおしているにすぎない、という理論もある。超簡単時間論(タイム・イン・ア・ナットシェル)。
    ベルント・アロイス・ツィンマーマンは『ある若き詩人のためのレクイエム』において、関連があると感じたすべてのものを、狭い空間の中に詰め込んでいる。言葉の意味に関するヴィトゲンシュタインの考察が、ジェームズ・ジョイスの『ユリシーズ』とぶつかる。1968年8月ソ連侵攻の際、チェコのアレクサンドル・ドゥプチェク書記長が国民にあてた演説と、第二バチカン公会議での教皇ヨハネ二十三世の声明とが衝突する。──p.31-32”

  • インゴ・メッツマッハーという指揮者のことを私は知らなかった。ただし、彼が現代音楽の作曲家たちに対して感じている思いを綴った本著は、現代音楽を聴いてみたいという気にさせてくれた。何よりも本のタイトル「新しい音を恐れるな」というのがいい。音楽は無限であってこれが正解というものはない。自分もそう思う。

  • すばらしい本!図書館で借りて読んだけど、手元に置いておきたくなったので自分で買う。

    近現代の作曲家の横顔と曲が、エピソード的に細切れに紹介されていく。

    楽譜と音符を一切使わずに、曲と演奏についてこんなに魅力的に語れるなんて。。。短くて明晰な文章の積み重ねで、自分の解釈を織り交ぜながら、繊細に力強く演奏されていくかのよう。読みながら、その曲の世界にぐいぐい引き込まれる。

    指揮者の視点による曲解釈を知れるようでおもしろかったし、とっつきにくいと思っていた現代音楽も、エピソードを読むうちに興味がわいて聴いてみたいと思ってしまう。

    訳の日本語もすばらしかった。この訳だから、この本をここまで楽しめたと思う。訳者は小山田豊さん。この人も指揮者らしい。

  • 2010.04.25 日本経済新聞に紹介されました。

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