お金から見た幕末維新――財政破綻と円の誕生(祥伝社新書219)

著者 :
  • 祥伝社
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  • Amazon.co.jp ・本 (216ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784396112196

作品紹介・あらすじ

幕府から政権を奪ったものの金はなく、明治政府は財政破綻からのスタートだった。同じ日本でありながら東国は金貨、西国は銀貨が流通し、それぞれの品質も違えば交換相場も日々変わる。おまけに各藩が発行した藩札の処理。近代国家を目指す新政府にとって、焦眉の急は、単位が統一された通貨制度の確立にあった。だが、その道は困難を極め、財政的な綱渡りを繰り返していく。「円」は明治四年になってやっと生まれ、日本銀行は十五年に誕生。初めての紙幣が発行されたとき、明治はすでに十八年になっていた。新政府の財政を立て直し、国の根幹をなす貨幣制度を作りだした、大隈重信、渋沢栄一、松方正義ら、経済官僚たちの創意工夫と苦闘を描く、もう一つの幕末維新史。

感想・レビュー・書評

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  • これを読むと幕末維新からの明治政府の経済面での苦境がよく分かる。
    そもそも新政府と幕府が対立していた時点から資金が不足しているのが、当時の日本の追い詰められっぷりがよく分かる話だ。明治政府成立後も江戸時代からの負の遺産の処分や諸外国との貿易の為の新通貨の作成、金融機関の設立と苦闘がよく伺え、面白かった。
    現代を生きる人間としては銀行が独自の紙幣を発行していた事が驚愕の事実であったし、歴史の授業で学んだ松方正義の緊縮財政が国民に与えた影響の大きさを始めて知る事ができた。
    そして相当な無理を通していく明治政府の指導者達には途轍もなく偉大であると感じたよ。

  • <目次>
    第一章 幕末の財政破綻ー戊辰戦争の軍資金は、いかにして調達されたか
    第二章 新政府、苦肉の財政立て直しー三岡八郎の登場と太政官札の発行
    第三章 「円」は、いかにして生まれたかー大判小判の世界から、新貨幣の世界へ
    第四章 日本初の貨幣鋳造工場ー近代化への産みの苦しみと、大隈重信の執念
    第五章 藩札、太政官札の退場ー函館戦争の終結、中央集権体制の確立へ
    第六章 「明治通宝」札の登場ー初の「円」紙幣発行、通貨統合の完成
    第七章 「国立銀行」誕生の怪ーなぜ、150種を超える銀行紙幣が発行されたのか
    第八章 最初の肖像は神功皇后ー悲願の国産紙幣が印刷機にかかるまで
    第九章 松方財政と日銀の誕生ー20年かけて完成した通貨流通体制

    <メモ>
    銀貨に占める銀の含有量
     慶長銀:800/1000
     元禄銀:640/1000
     宝永銀:500,400,320,200/1000
     元文銀:460/1000
     文政銀:360/1000
     天保銀:260/1000
     安政丁銀:135/1000(政字銀)
    金貨に金の含有量
     享保小判:金851/1000、銀139/1000
     天保金100両=万延金396両
     重量:天保金300匁、万延金88匁(金49匁、銀38匁)

    明治2年5月26日の布告:太政官札を「正貨(兌換紙幣)ではなく不換紙幣である新紙幣と交換する」(112)

    藩札の値踏み(12-125)
    摂津尼崎藩:1両金札=新貨1円
    飛騨郡上藩:1両金札=66銭
    津軽弘前藩:1両金札=53銭3厘
    薩摩藩:5両金札=1円61銭、銀札10匁=13銭2厘
    長州藩:銀札10匁=13銭
    土佐藩:5両金札=1円66銭7厘
    佐賀藩:1両金札=1円、銀札20匁=26銭7厘

    太政官札と明治通宝札との交換(126)
    太政官札の製造高:4800万両
    交換後:4566万円、95%回収
    明治11年9月末まで

    明治13年の国家予算:6336万8200円(154)
    国立銀行発行の禅紙幣:34億4768万8000円
    →インフレ

    2012.8.4 読書開始
    2012.8.5 読了

  • 2010年刊。著者は明治期の貨幣・大蔵省関連の小説を執筆している作家。幕府の財政破綻、様々な紙幣の発行と円成立。さらには、日本銀行券の成立までを、時の財政政策と絡めつつ解説。新書で網羅するのは難しい分野だが、幕末維新を貨幣・財政の面から一覧可。財政・政治的実力等が絡み合い、利用者に信用される通貨となるかが一義的なのは仄かに伝わってくる。が、なぜ、当該通貨が信用されるのか、例えば、太政官札を拒否し、明治通宝札が受け入れられたのか。このあたりの理由はもう少し明快に説明してもらいたかった。勿論、端緒として有益。
    本書からは、円、さらには日本銀行券の成立までは、かなり薄氷を踏みながら展開しているように思えるところ。その舵取りの中核の相当部分を担った大隈重信の手腕には驚かざるを得ない。

  • 江戸は金、大阪は銀
    明治政府は戦費調達に困っており、三井が貸していた。
    慶応4年から明治2年ごろにかけて、贋二分金が、広島藩等で作られて、繭を作る農民や、渡された外国人が激怒。
    太政官札、藩札、
    明治4年ごろに、円が漸く制定(金本位制?銀本位制?→金本位制に)
    最初、日本の紙幣は海外(ドイツやアメリカ)で作られていたが、品質が今ひとつ。国産の紙幣を作ることも重要な課題だった。
    松方正義〜日銀創設、当時153の国立銀行が発行した紙幣を整理(償却)する必要があった。

  • 明治維新が人物や事象中心に語られる書籍の多い中、財政面で書かれた貴重な資料でした。平成の現在関西から「日本維新の会」が旗揚げしつつありますが、結党から中央政界進出に至る過程で、新聞にも週刊誌にも書かれない財政的裏面がきっといつの日にか明らかになるような気がします。

  • 江戸幕府が倒れて明治政府ができた頃、幕府は現在の日本と同様に財政が破綻していて、そればかりか各藩が発行した藩札も出回っていたと聞いたことがあります。

    この財政危機を立て直して新しい貨幣制度(円)を作り上げた人達の活動について書かれた幕末から明治にかけての歴史を金融の観点から書かれた本です。

    特に印象に残ったのは、最初に導入された1円=1ドルであったことや、明治10年の1円の価値は、現在の8431円である(p151)ということでした。

    なお、この本の著者である渡辺氏は小説も書かれているようなので、後ほど読んでみようと思いました。

    以下は気になったポイントです。

    ・万延小判(小型で金含有量の少ない小判)は海外に持ち出して銀貨に交換しても儲けが出ないので、この小判の発行(1860年)により日本からの小判の流出は収まった(p3)

    ・藩ぐるみの贋金づくりに対しては、明治2年の5月(函館で幕府軍が降伏したとき)までに終わっていれば不問とした(p23)

    ・贋金をつかまされた日本人に対して、政府は明らかに外国人とは異なる対応をした、外国人には金貨と引き換えたが、日本人には紙幣(太政官札)と交換した(p30)

    ・東京が金、大阪で銀が出回っていたのは、現代風には、日本国内で「円」と「ドル」が流通していて、日々、換算率が異なっていたようなもの(p38)

    ・旧金貨銀貨の通用が禁止されたのは、維新から7年後の明治7年(1874年)9月5日、9月9日から政府は旧金貨銀貨の価格を円表記で公表した(p47)

    ・明治天皇の肖像画が貨幣に使われなかったのは、機先を問わず日常的に汚れた手で触れる貨幣に、尊い天皇の肖像が刻まれるのは耐え難いということから(p82)

    ・1円金貨が、アメリカ金貨1ドルに交換されるものとして、国際通貨「円」が「金本位制」のもとに、明治4年5月に生まれた(p87)

    ・戊辰戦争の2年を通じての戦費は、円換算でおよそ479億円(明治元年の年間歳出額の11%)であった(p96)

    ・明治4年7月(廃藩置県)の時点で、藩札を発行していた藩は244(全体の8割)、銀札、銭札、金札が発行されていた(p100)

    ・民間であるのに国立銀行といわれたのは、「国法に基づくもの」という意味(p137)

    ・明治10年の米相場から考えると、1円=8431円ほどになる(p151)

    ・新貨条例では金本位制がうたわれたが、開港地では銀貨も通用する金銀複本位制であった(p186)

    ・日清戦争勝利で、金貨による多額の賠償金を得て、明治30年(1897)に貨幣法を交付して、金本位制に移行した、これにより発行紙幣は金貨と引き換えることが可能になった(p198)

    2011/5/2作成

  • 現在、“日本銀行券”は或る程度広く外国でも受容れられる…そのまま持って行って両替出来る…一定の信用を獲得している…が、それの登場はなかなかに難産だった…本書はその、概ね15年以上に亘る経過が詳しく学べる…なかなかに愉しい!!

  • 明治政府の国内で統一された、且つ海外にも信用ある通貨を創設する涙ぐましい努力、熱意を読み取ることができる。
    欧米諸国からの技術の導入について、富国強兵の観点からは良く知られているが、新たな貨幣を導入するに際して、外国の技術、人材をプライオリティ高く受け入れていることは、あまり知られていないのではないか。

    トレビアな知識も得ることができる。
    例えば、銭はアメリカのセントが由来である等々。

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