大学生に語る 資本主義の200年(祥伝社新書)

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  • 祥伝社
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  • Amazon.co.jp ・本 (281ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784396114022

感想・レビュー・書評

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  •  マルクス経済学者で神奈川大学教授の著者が、自身のゼミで行った連続講義の書籍化。ゆえに語り口調の文章で書かれており、テーマがヘビーなわりには読みやすい。

     「資本主義とは何か? 社会主義・共産主義とは何か?」という、わかったようでじつはよくわかっていない(少なくとも私は)問いに、現代のアクチュアルな問題を随所で例に挙げながら、さまざまな角度から答えていく内容だ。つまり、編年的に資本主義の歴史を追っていく本ではない。

     この著者の本は、前に『一週間de資本論』というのを読んだことがある。
     同じ祥伝社新書で全3巻にわたる『超訳「資本論」』という著書も出しているし(10万部も売れたそうだ)、マルクス経済学を一般人に平明に伝える「インタープリター」として、大活躍である。

     目からウロコが落ちる記述が多数。そのうちの一つを引いてみよう。ロシアがクリミア半島を編入決定したウクライナ問題についてのくだりである。

    《EUと非EUの境界線にある国――それが、「先進的資本主義国の傘下にあるか、そうでないか」の境目でもあるわけです。資本主義は、その搾取の対象となる土地と人民を拡大していくことによってのみ、生きながらえられます。対象となる場所がなくなったら、もう終わりです。
     プーチンが何に怒っているかというと、このような形でどんどん切り崩されていき、その影響がついに自分の国のすぐ隣にまでおよんだからです。かつて、アメリカのすぐ近くに社会主義国家ができたとき(1959年のキューバ革命)、アメリカは激しく不快感を示しましたが、これと同じことがロシアのすぐ近くで繰りひろげられているというわけです。つまりこれは、ロシアにとっての“キューバ問題”です。》

  • 著者はマルクスに関する著書を多数書いている方。3章の「民主主義と個人主義」が読み応えあった。所有権を認めることによって成り立つ資本主義が、キリスト教の思想や秩序を背景としていることが分かりやすかった。

    キリスト教は、聖書をどのように解釈するか、神の真意をどうはかるかを求める経典宗教。文字を読み、史料を批判する行為から西洋合理主義が生まれた。ユダヤ教やイスラム教は、日常生活が信仰の場であったため、学問は生まれなかった。

    ヨーロッパの封建社会では、キリスト教徒は死ぬ直前に財産を教会に寄付して処分していた。ルターの宗教改革によって生まれたプロテスタントは、貯め込んだお金を相続できるようになり、相続されたお金の一部が資本となって資本主義を生み出した(ヴェーバー「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」)。

    17世紀のピューリタン革命において、農民が土地を分割所有することによって個人が確立した。他のヨーロッパでは、土地は共有物で、土地の優劣が偏らないように輪番制で利用していた。土地が固定されたことによって貧富が生まれ、囲い込みによって無産労働者が生まれた。

    フランス革命の後半に登場したロベスピエールが行った恐怖政治は、行き過ぎた経済の自由を規制することが目的だった。王党派を追放すると、キリスト教の改革も進め、政教分離を完成させた。サン・シモンやフーリエは、所有の自由と平等が両立しない問題に対して、社会主義の思想を導いた。プルードンは、所有権を認めたことでフランス革命は失敗したと断じた。

    アジアでは、共同体による直接民主主義の例が多かった。共同体的理念を高度にシステム化したものが、共産主義(コミュニズム:共同体主義)。キリスト教は、個人が分離して神と対立することによって権力と秩序が維持されているため、共同体を認めない。

    レーニンは、資本主義化を一気に進めるための道具としてマルクス主義を利用した。ソ連は、イギリスの囲い込みと同様に、農民たちを搾取して生まれた利益を工業化に移転することを国家が行った。

    小泉政権が登場すると、アメリカは集団的自衛権を強く要求するようになった。アーミテージ国務副長官は、北朝鮮から発射されたミサイルを日本が撃ち落とすことを求めた。田中真紀子外務大臣との喧嘩話に見せて、鈴木宗男や外務省の新ロシア派は排除された。

  • 資本主義は搾取できる地域があるうちは成長し続けることができるが、それが枯渇したら潰れるのだ、ということが書いてあった。
    だから積立NISAにお金をぶち込む気になれないんだよなぁ…。

    資本主義をマルクス研究者の視点から描いた本、になるのかな。
    資本主義も限界が来てると思うけど、一体いつ来るのか、さりとてどうすればいいのか、やっぱわかんないなぁ

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/685936

  • 著者はマルクス主義に関する著作が多い研究者。
    マルクスが『資本論』や『共産党宣言』で描いた資本主義社会とはどのようや社会システムを持つのかであり、別の言葉でいうと資本のあくなき自己増殖の問題とプロレタリアートとブルジョアジーによる階級闘争の問題。
    拡大する市場に対応するうち、より利益を求めて世界を市場とする必然性へと駆り立てられるものととく。今の言葉でいうとグローバリゼーション。
    国際紛争から賃金格差、保護主義などなど取り沙汰されている現代社会の問題を『資本論』の観点から説明する。

  • 詳細な数字や具体的な用語を排しているため、歴史の流れや概要を押さえる「とっかかり」として非常にわかりやすく、おもしろい。

    原作漫画版ナウシカの世界を思い出した。

  • ロシア・ナロードニキの疑問=ロシアは英仏を追いかけているから、いつ革命が起きるかわからない。労働運動をやっていて意味があるか。
    ロシアのミール共同体の存在。なかなか崩壊しない。

    資本がだぶつき、利潤の還元率が下がっている。利潤率の傾向的低落の法則。そのために、経済成長が必要。ゼロ成長ではいずれ回らなくなるのが資本主義。

    契約社員、外国人、男女雇用機会均等法、が正社員の給与水準を下げる。

    延滞すると遠隔操作で運転できなくなる車のローン。


    資本主義とグローバリゼーションは表裏一体。
    資本主義の根っこにあるキリスト教世界観
    ユダヤ人は煉獄の存在を否定したので寄付しなかった=金の亡者と言われた。
    ルターが寄付を不要といったので資本が溜まった。
    資本主義的に生きるためにはマルクスを実践すればよい。資本論は、資本主義のバイブル。
    江戸時代、コメの生産効率が上がったため、コメの価格が下がった=武士の給料の価値が下がった。
    EUは資本主義の枠組みが広がったため大きな規模が必要となって作られた。
    資本主義は利潤率低下の爆弾を抱えている。
    労働賃金の行きつくところはアフリカのマリ。
    安い賃金と高い消費を求めている。
    外国人労働者だけでなく、男女雇用機会均等法も低賃金の原因。
    フランスのATTAC。トービン税を実現しようとした。
    超約「資本論」。
    世界がアメリカ型のグローバリゼーションにあやかっておこぼれにあづかろうとしている。

  • 資本主義は必ず破綻する。様々な面からこれを解説する。大学生に向けた講義録の様な文章でちょっと薄っぺらな印象もあるが分かりやすい。
    一方でソビエトや中国等の国々の社会主義は偽物だとして、真のマルクス主義の復権を願っているが、膨大な人々が血の代償の上に試行錯誤してきた歴史を批判するだけの理想論のような印象も。
    資本主義では資本の集中は避けられないが、社会主義では権力が集中してしまう。利己的であることをやめられない人間が他人と共存して社会を形成するのは難しい。

  • すごい本 現代資本論 講義の内容でわかりやすい面も。

  • マルクス研究者の的場氏が大学生向けに書いた新書。学生向けということで、平易な表現で、ですます調で書かれており、とっつきやすい。「そもそも資本主義と共産主義と社会主義って何が違うの?」なんて人にもおすすめできる。ただ、入門の入門という特性ゆえ、細かい論証は省かれており、一部の論理展開に疑問符が付くところもあった。しかし、全体を通してみればよくまとまってとり、マルクスに留まらず様々な学問に取り組む上での心構えの参考にもなるので、大学生にとっては一読の価値あり。

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著者プロフィール

的場昭弘(まとば・あきひろ)1952年宮崎県生まれ。マルクス学研究者。1984年、慶應義塾大学大学院経済学研究科博士課程修了。経済学博士。一橋大学社会科学古典資料センター助手、東京造形大学助教授を経て現在、神奈川大学教授。マルクス学の提唱者。マルクスの時代を再現し、マルクス理論の真の意味を問い続ける。原資料を使って書いた作品『トリーアの社会史』(未來社、1986年)、『パリの中のマルクス』(御茶の水書房、1995年)、『フランスの中のドイツ人』(御茶の水書房、1995年)をはじめとして、研究書から啓蒙書などさまざまな書物がある。本書には、著者による現在までのマルクス学の成果がすべて込められている。

「2018年 『新装版 新訳 共産党宣言』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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