育てられない母親たち (祥伝社新書)

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  • Amazon.co.jp ・本 (312ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784396115968

作品紹介・あらすじ

2018年度、児童相談所への児童虐待の相談件数は15万9850件にのぼり、
前年度から2万6072件増加して、過去最多を更新した(厚生労働省)。
ニュースで虐待死事件が報じられるたびに、人々は親の鬼畜ぶりに怒り、
児童相談所や教育委員会、学校の手落ちを批判する。
しかし私たちは、児童虐待に4種類あることすら知らない(本書16ページを参照)。
なぜ「虐待」や「育児困難」は増えるのか。どうすれば子どもたちを救えるのか。

■「完璧なママ」を演じようとして「虐待ママ」に
■特別養子に出したのは「たぶん、客の子」
■子供とローンだけが残ったシングルマザー
■「この子と一緒に死ぬ」が口癖の女性
■DV連鎖
■毒親の支配――母は覚醒剤の密売人
■児童相談所と「親子再統合」への道のり

市井の人々のドラマを描きつづける著者が、リアルな事案24例を多面的に掘り下げ、
社会病理の構造を浮き彫りにする。

石井光太
ノンフィクション作家、小説家。1977年東京都生まれ。日本大学芸術学部文芸学科卒業。
国内外の貧困、災害、事件などをテーマに取材・執筆活動を行なう。
作品はルポ、小説のほか、児童書、エッセイ、漫画原作など多岐にわたる。
著書に『「鬼畜」の家』(新潮社)、『虐待された少年はなぜ、事件を起こしたのか』(平凡社)などがある。

感想・レビュー・書評

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  • 本書は児童虐待の当事者である母親に主に焦点を当て、虐待が起きた背景を探る。
    複雑化した問題を単純化することなく、地域支援の輪を作り出すことの重要性を主張する。
    本書において、一つだけ注文をつけるなら、父親の存在あるいは父親の責任といったものがあまり見えてこないということ。
    決して育てられない「母」を責めているわけではないし、取材対象が母親であるからだと推測はされる。
    産まざるを得なかった母の苦悩に比べ、「俺は知らない」と逃げる父親や恋人、あるいは、客の無責任たるや。

    代理ミュンヒハウゼン症候群の母親については、
    最近発覚した虐待死事件でも同様の精神疾患によるものと考えられるものがあった。
    その後の報道では母親の生育歴が明らかにされていた。
    子供を手にかけたこと、傷つけたことは許されることではないが、彼女自身も救われるべき「子供」だった。

    生育歴に問題があったことと虐待をすることは決してイコールではない。
    また、知的障害や発達障害等があるから虐待をするわけではない。
    だが、筆者が指摘するように、周囲の無理解や、援助のなさが孤立を招き、一番弱いところに行く。
    決して人ごとではなく、誰しもが当事者たりうる。

    性に対する理解が少ないのなら、学校、家庭、社会で教育・啓発を進めていく必要がある。
    「寝た子を起こすな」の教育方針がどれだけ子供を傷つけるか。
    子供たちに与えるべきは自分を守る術だ。
    子供を守る人が足りないのなら、デジタル技術を最大限取り入れてほしい。
    人が足りないのなら、人がやらなくてもいい作業はやらなくてもいい。
    支援教育の場に向かうのならば、副業も認めてほしい。
    さまざまな理由で子供を助けられる仕事を本業としていない有資格者は多いはずだ。
    私も、自治体の支援センターに助けられた。
    だから今度はその手を別の人につなげたい。
    小さな意見かもしれないが、社会が変わることを、心から望んでいる。

  • たとえば、シングルマザーの彼氏が子どもを虐待して死なせたという事件は多い。
    そのとき世の中は、一様にその事件を非常に分かりやすい構図で捉えようとする。子供のまま親になりきれない女が、ろぐてもない凶暴な男に入れ込んで我が子を犠牲したのだと。シンプルな構図で彼らを糾弾する。
    でも私はそういった事件を見聞きするたび、「どうしてこのような事件が起きたのか」、「どうしてこのような人間ができあがったのか」と考えてしまう。背後に潜む過去について。

    本書は、まさにそこに着眼点を置き、彼女たちの長い人生の中で色んな問題が雪だるま式に膨れ上がり、やがて虐待事件が起きてしまうまでを追ったノンフィクションだ。
    子どもを育てられない母親のほとんどが、かつては親から育児放棄され暴力を振るわれ虐待されて生き延びた子ども自身だった。

    救いがどこにもない負の連鎖に読んでいて苦しかった。
    だからこそ、その中でとある風俗嬢がした発言には強く胸を打たれた。

    「私がこんなふうになったのは、お母さんのせいだと思っています。だからこそ、絶対にお母さんみたいにはなりたくない。最悪ですよ、自分の子供に平気で『産まなきゃ良かった』とか『死ね』とかいう親は。私がそうだったように、そんな親の元で育ったところで不幸にしかならないんです。
     そういう意味では、息子がまだちっちゃい時に手放せたのはよかったんじゃないですかね。医者とかスポーツ選手とか立派な人に育ててもらえたら、幸せになれるんじゃないでしょうか。私ができるのは、自分と同じような人間をつくらないことだと思っています」

    親になれない人間というのはいる。きっとそれはどうしようもなく変えられないことだと痛感した。
    でもそこに新たな命が産まれたときにできることはまだある。子どもを育てる意志のある、親になりたい人間に託すことだ。
    石井光太さんの著作で何度もBabyぽけっとというNPO団体を目にするが、そのたびに希望を感じる。もっと認知されてほしい。活動を応援していきたい。

  • 虐待や育児放棄に至る原因はひとつではない。
    収入の不安定・病気・障害・親も被虐待児だったために問題に対処する能力の欠落など。ゆえに支援しきれない。
    また、施設に入った子の年齢により親に対する思いが違ってくるというのもあるらしい。
    外国籍の親と言葉が通じない、というのもショッキングだった。
    それほどコミュニケーションを取っていないということだ。
    また性行為により誰かに求められる喜びを初めて知りのめりこんでしまい、結果望まぬ妊娠につながることもある。
    避妊手術を受けられる、というのも支援の中にあっていいて思う。

  • 教育者を目指しており、子どもが抱える様々な問題について理解を深めたく、こちらを購入。

    事例を中心に書かれていることから、想像しやすくとても読みやすかった。心が痛み、涙が出た場面もあった。

    虐待は決して許されない。しかし、育てられない親がいるというのは現実かなり多く、ニュースでもよく見かける。
    教育者を目指す上で、そのような環境下の子どもの変化にいち早く気づき、関係機関と連携をとり、子どもを危険から救いたい。

    虐待される子どもがどのような感情を抱き、どれほど傷ついているのか、私は体験していないから分からない点がほとんどだ。でも、子どもの話をよく聞き、寄り添い、自分にできることは全力でしたいと改めて感じた。

    この世に生まれてくる子どもたち全員が安心してのびのび生きていくことのできる環境であってほしいし、救うことのできる日本になってほしいと心から思う。

  • 子どもを育てられず施設に預けた親たちの、生い立ちや生活環境を書いた本。

    そろそろ母親ではなく父親のほうに注目した『認知しない父親たち』『ヤリ逃げする男たち』というタイトルの本を出すライターが出てきてもいいのではないか。

  • 題名そのままの内容の本です。石井光太さんの本はどれもこれも人間を掘っていくような本が殆どですが、これは負の連鎖をとても感じる一冊でした。
    虐待や育児放置によって心や体に傷を負い、その先の人生も上手く行かず虐待の連鎖を発生させてしまう女性たち。どうしても当事者だけを責めたくなってしまいますが、石井氏の冷静な筆致で描かれると、社会全体としてどうするべきなのかと考えざるを得ません。
    何も罪のない子供たちが被害に遭う事は、孫の姿を見ていると悲しくて涙が出てきます。守られるべき存在が、虐待、放置、搾取の対象になるという事が本当に辛いです。
    いつの時代も変わらず一定数いるし、完全に防ぐ事は難しいかもしれませんが、子供たちを保護している機関の人々には頭が下がります。
    保護の遅れなどで亡くなった時に批判にさらされますが、部外者の我々には分からない苦労が山のようにあるはずです。言うだけなら誰でも出来ます。
    世の中の子供たちが心安らかに眠れますように。

  • さまざまなケースが出てくる。でも、暴力や育児放棄をする母親側も問題を抱えていて、子どもへと連鎖していく。
    本では、地域で子どもを育てる必要性を訴えていた。
    でも、もう一つ思ったのが、ここに出てくる話では、男性がすぐ逃げるケースが多い。男性側が逃げてしまえないシステムが欲しい。

  • 石井光太さんの文体がすき。淡々と事実を教えてくれて、人への愛がある感じ。
    この本もしんどいけど、つい手に取ってしまった。今も苦しんでいる子どもがいるかと思うと辛い。

  • いろいろなご家庭の事情が垣間見れる本。
    子どもはどのパターンも被害者でかわいそうに思う。これが現実だと思うと悲しくなる。

    ただ1点、特別養子縁組が最後の砦のような記載がされているが、決してそうではないと思う。

  • 実例が現実感を持って胸に迫ってくる。
    なるほど、こういう背景や事情で…と腑に落ちてしまうのが怖い。
    こういうことが起きているということを知ることができる貴重な資料である。

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著者プロフィール

1977(昭和52)年、東京生れ。国内外の文化、歴史、医療などをテーマに取材、執筆活動を行っている。ノンフィクション作品に『物乞う仏陀』『神の棄てた裸体』『絶対貧困』『遺体』『浮浪児1945-』『「鬼畜」の家』『43回の殺意』『本当の貧困の話をしよう』『こどもホスピスの奇跡』など多数。また、小説や児童書も手掛けている。

「2022年 『ルポ 自助2020-』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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