- Amazon.co.jp ・本 (203ページ)
- / ISBN・EAN: 9784396321451
感想・レビュー・書評
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読始:2010.05.28
読了:2010.05.28
表題作含め四話収録
・素敵なコーディネート
・透明なジェラシー
・シャネルが似合う恋
・雨のプールサイド
全てに共通する要素の一つは三人の恋愛という点
これは三角関係を描いたという意味ではない。
恋愛という偏った状態に三人目の登場でバランスを取っている
またバランスをとっているだけでなく、三人という恋愛においてはアンバランスに見える数だからこそ、みんなが素をさらけ出す
よくも悪くも恋愛では嘘を付き合う部分があるが、三人ということでその嘘の部分もはっきり見える
ただ、ぎすぎすした感じではなく、奥底にある優しさ・思慮などを描いており読んでいて憧れる
共通する要素二つ目は登場する女性(1人ないし2人)が皆、“自分”を持っている
また持っているだけでなくその信念・信条にしたがって強く生きているし(またはそれをみつけていく)、行動している
男性側もそれを理解し、お互いのよさを尊重している
今作で感じたのは男性にしろ女性にしろ 『素敵』 という言葉がよく似合う
『素敵』 になるのは中々難しい
だが、考え方一つ、何気ない気付き一つで人は変わる
恋愛を付き合って勝ち、別れて負けといある種のゲームとして捉えるのではなく、恋愛を通して自身の生き方を見つめなおす、自分相手のいいところ(いい思考)を見つける機会と捉えたい
少なくとも今作ではそんな男女が描かれている
一番好きな作品は「透明なジェラシー」
ほんとキレイ…こんな男性は理想論だと言われかねないが俺は好き
それに女性も決して高慢ではない
男性二人とそれにつりあう女性…現実では見ないだろう関係だからこそ いいなと憧れてしまうのかも
以下 何か感じた部分を本文から引用してレビューを終わります
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///////////////////////////////////ネタバレ含む////////////////////////////////////////////
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■素敵なコーディネート■
「ええ、哀しいけど。そもそも私が彼を好きになったのは、私とは違うってことからだったわ。恋人のときはそれでけっこううまくいっていた。でも生活を一緒にするとなると、私が好きになった理由は障害になったわ。私は仕事が面白くなってきたときだった――。もっといろいろなことがやりたくなっていたわ」
「でも、むずかしいものね。素敵な男の人に会えばどうしたっていつも一緒にいたいし、独り占めしたくなってしまうわ」
……(中略)……
「きっと“私だけのもの”ということにこだわっていれば、その人は素敵ではなくなってしまうのかもしれないわね」
■透明なジェラシー■
「そろそろ、僕は諦めているからね」
「何を」
「君から卒業することをさ」
「あなたに待たせられるのも、もうすっかり馴れてしまいましたよ」
「いいことだわ、それは」
「おかげで気の短いこの僕が、待つ時間の楽しみというのをいくらかは理解できるようになった。僕は君にありがとうと言うべきだろうね」
背後から明彦が言う。
「悪い女はいつだって男を哲学者にしてしまうんですよ」
真吾は頷き、
「気をつけなればね、僕はあまり若いうちから哲学者になりたくない」
「僕も同意権ですね」
まだ紹介もすんでいないうちから男たちは、早くも私に対して共同戦線を張り巡らせていた。
でも、それはうわべだけのことだ。
「妹の章子ですね、ちょっとお待ち下さい」
どうやら明彦は、相手を思って気を利かせたようだった。
「僕は彼女との生活の中で、とても大切なことを学んだよ。それはね、愛情ってものは強要できないものなんだってことさ」
「一番、大切なのはね、いとおしいって思える人がいるってことさ」
「ジェラシーはないの」
「彼に対してはジェラシーはあるだろう。でも、自分が謙虚でありさえすれば、それはとても澄んだ感情になりうる」
「僕は傷つくかもしれない。でもそれは、仕方のないことなんだよ。だって悲しいけど、人は傷つくことなしにはなかなか自分を変えることなんてできないものだからね」
真吾は首を左右に振って、言う。
「つかの間のことなんかじゃないさ、ずうっとこのままさ。だって愛をしていて、こんなに幸せだったことはないもの」
明彦もこともなげに言う。
「いや、いつもつかの間だし、いつも今があるだけさ」
「そう。つかの間の、夢のようなことを続ければいいのさ」
シャンパンが開けられる。
■シャネルが似合う恋■
索漠たる思い
猥雑な感じのする店
「女の人はいつも間違えてしまうから気をつけることね。誰かを愛し、愛されることは、お互いのすべてを知り合うことだなどとは、考えないことよ。もし、その人にずぅっと愛されたいと思うなら、少なくとも三十パーセントぐらいはわからない部分を持ち続けるように努力するのね。そのほうがはるかにあなたを魅力的にみせるものなのよ」
「恋はとても自由な風のような感情よ。もし、その恋が本当のものなら、それはもっとあなたを自由にしてくれるはずよ。自分の気持ちを無理に殺したり、相手を縛ったりするような関係は本当の恋とは言い難いわ。そのことをあなたは知る必要がありそうね」
「秘密は、あなたを精神的に自立させることにきっと役立つはずよ。どんなにその人を愛していても、その人も自分もまた、それぞれ違った問題や夢を持っている人間なのだということをいつも感じ続けることが、むしろ恋を長続きさせることになるのよ」
「静香は自分というものをしっかり持っている女性だって感じるんだ。どんなに僕のことが好きでも、静香には静香の、僕が踏み込めない領域を持っている。でも、だからこそ僕は僕の領域を保ち続けることができるんだろうと思うんだ」
「でもね、もう一度言うけど、恋愛というのは、その人をとても自由にしてくれるものなの。人はそのことがよくわかっているはずなのに、つい間違ってしまうの。愛は、束縛したり束縛されることをお互いに許すものだってね」
■雨のプールサイド■
「そうなんだ。こんなときはやっぱり、ほっとさせてくれる恋人がいい」
「どうすれば、あなたがほっとするの?」
「たとえば約束してくれること」
「どんな約束?」
「僕一人のものになってくれる?」
「きっと、その約束は、ほっとはさせてくれないでしょうね。でも、そうしたら恋しいという気持ちを失ってしまうんじゃないかしら」
「なぜ」
「自由であることと、恋しいという気持ちは切り離せないものだからよ」
そもそも、別れるということは、それほど悪いことではなかった。
別離は確かに悲しいものだ。けれど、それは次の新たな出会いの準備なのだから。
悪いのは、終わったことを知りながら、優しさを装い続けることだった。
彼女の恋愛のルール。
それは、人は誰とでも自由に愛し合うものだし、そこでは約束は成り立たないということだった。
どちらかが終わりにしようといえば、それで終わるのだ。
始まるときには二人の心が一つにならなければ始まらないが、終わらせることについては、一方の申し出で十分なのだった。詳細をみるコメント0件をすべて表示