モルヒネ (祥伝社文庫 あ 24-1)

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  • Amazon.co.jp ・本 (255ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784396332983

感想・レビュー・書評

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  • ●労働者のルーティンを表現した文章が面白い!→労働者は、まずカフェインでよれよれの脳細胞を叩き起こして、蓄積した疲労をごまかし、あとは当座のエネルギーになる食物をとにかく胃に納め、小走りで駆け出す。仕事から戻ればアルコールで高ぶった神経を鈍らせ眠る。
    冷めるまで待てないコーヒーを一口すするごと、一枚ずつ衣服を身につけ、すっかり支度が済んでから、ふやけてしまったシリアルを事務的に口へ運ぶ。味覚はほとんど無視されている。

    勉強になった文章たち。
    ●硬膜下血腫
    もろい脳組織と、それをしっかり包んでいる硬膜という白い膜の間に、転倒の衝撃で切れた血管から流れ出る血が貯留する。血の塊は、硬い頭蓋骨が制限する容積の中でも徐々に大きくなり、柔らかな脳を圧迫し始める。
    ※開頭手術…頭蓋骨を一部切り取る事で脳を窮屈さから解放し、滞っていた血液の流れを回復させる。硬膜を切り開き、溜まった血を綺麗に取り去る。

    ●リンデロン…腫瘍の周囲に起こった脳の腫れをステロイドが鎮めてくれる。有効なのは長くて3ヶ月。

    「彼は何処へ?」
    「さぁ…きっと、彼のあるべきところへ」
    どう生きるかを選ぶのは、個人の自由意志です。

    ◯老いれば、誰しも病気になる。身体が弱るとね、どんなに強かった人間も、ようやく、弱い立場を思いやれるようになる。
    ◯三盆糖を使ったこしあんの饅頭とコーヒーはよく合う。砂糖とミルクは入れずに飲む場合に限るけど。
    ◯寝たきりでも、心は自由だ。排泄を人の手にゆだねて何が悪い?見えなくても、聞こえなくても、しゃべれなくても、たとえ脳の機能が衰え、痴呆症状を呈するようになったって、意識すらなくしていても、それも、健康な頃と変わらぬ自分の、1つのやり方だ。障害?病気?何があろうと、胸を張っている。生きていたいと望む意志は尊い。

    この本の中で、病気になって麻痺や体がうまく動かないことへの描写が描かれていて、健康であることのありがたみが身に染みてわかる。ホスピスの話とか出てくるけれど、いざ病気になって先が見えた時、どう過ごしたいのか。本人の意思も大切だよね。

    一度命を落とした姉が二度と死ぬ事は無い。
    →たしかに。人魚の眠る家でも、人は2度は死なないって言ってたもんね。

    思ったよりみんなのレビューは評価低くてびっくり。
    死に方は自分で選びたい。だけど、死ぬことよりも、どう生きたいかを考えちゃう。まだ死にたくないから。

  • 読んだのは3度目ですが、やっぱり好きですこの小説。
    ただ3度読んでも、恋愛小説といえるほど恋愛が主題になっているとは思えない(笑)

    どちらかといえば、尊厳死や安楽死について考えさせられる話だと認識しています。
    わたしもあんな風に、毅然とした態度で人を看取ることができればと思うけど、きっと愛する人にはどんな形でも長生きしてほしいと延命措置を望むのだろうなあと毎回考えてしまう。

  • 切ないという言葉の意味を理解できた。

  • 夢中になって連続して読みました。
    何と表現していいか…?
    胸が苦しくなって、涙が止まりませんでした。
    恋愛小説なんて、くくってほしくありません。


  • 痺れます。

  • だいぶ前に読んだのだけど。

    恋愛小説を読んで泣きそうになったのは初めてかもしれない。

    主人公の元恋人の男性は末期癌にかかり、余命は三ヶ月。

    二人の恋愛に未来はないけれど、終わりに向かって歩む……。



    あぁ、そうか。

    物語全体に「しめやか」さが漂っているんだ。

    この感じ、源氏物語の宇治十帖に似てる。

  • 実父の虐待によって、姉を失った過去を持つ真紀。
    在宅医療の医者として働く彼女の前に、七年前に突然姿を消した元恋人克秀が現れる。彼がいた場所は、ホスピス。克秀の病はグリーオマ……末期癌であった。

    −−−

     一見すると不幸を題材にしたお涙頂戴の娯楽小説に思えてしまう。しかし美しい文体と病の緻密な描写、そして主人公の細やかな心の動きがそれを許さない。
     『死』というテーマを正面から向き合った小説なのにそれほど重さを感じなかった。登場人物はみんな聡明で魅力的だ。現実に打ちひしがれるのではなく、受け止めるのでもなく、巻き込まれて流されていく真紀。それが一層現実的で、悲しみを深めていると思う。

    (以下ネタバレ)
     姉の死後、『取り残されてしまった』と感じる真紀は、消極的に死を求めている。この『消極的に』という部分に心を打たれた。
     生きることをうち消すために、患者の為にくたくたになるまで働く。日常を少しでも短くして、人生を縮めている。
     向き合う必要のない男と婚約し、なぜ自分は生きているのだろうと自問する生活。こんな悲しい自殺があっていいのだろうか。
     それに対して元恋人のヒデ(克秀)は、真紀に決して同情しない。それでいて、真紀の全てを受け止め、理解している。そして最期の見送る人間を妻ではなく真紀を選んだ。
     恋愛小説のカテゴリに分類したが、正確には恋愛ではないかもしれない。ヒデと真紀の繋がりは、恋愛よりも深い理解者としての方が強い。
     パートナーが必ずしも自分を一番理解してくれているとは限らない。自分が死ぬ時、私は誰を選ぶだろうか。そんなことを考えた。

  • 生きていることへの絶えることなき罪悪感。
    宙ぶらりんのまま、それでも立ち止まることの許されない悲しみ。
    諦めと期待のはざまの現実。
    私、という存在。
    この、手にしえないその理由。
    どこへ向かうのか。

    なんだ、これは。
    鮮やかに痛い。

  • 余命を宣告された男性。 昔の彼女。
    「死」について考えさせられます。

  • 婚約者のいる女性が余命わずかな元彼の突然の出現に戸惑い、死を意識した毎日を過ごす物語。賛否両論ある本ですが、私は好きです。末期がんに侵されたピアニストであり元恋人である男性がある日、医療者である自分の目の前に現れたら… まず普通ではありえない状況だからこそ、小説として楽しめた本でした。

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