こっちへお入り (祥伝社文庫)

著者 :
  • 祥伝社
3.56
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本棚登録 : 820
レビュー : 134
  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784396336271

作品紹介・あらすじ

吉田江利、三十三歳独身OL。ちょっと荒んだアラサー女の心を癒してくれたのは往年の噺家たちだった。ひょんなことから始めた素人落語にどんどんのめり込んでいく江利。忘れかけていた他者への優しさや、何かに夢中になる情熱を徐々に取り戻していく。落語は人間の本質を描くゆえに奥深い。まさに人生の指南書だ!涙と笑いで贈る、遅れてやってきた青春の落語成長物語。

感想・レビュー・書評

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  • 少し前のこと、コロナで緊急事態宣言下の東京で、友達がオンライン落語会をやると言う。
    会社員なのにいつの間に落語なんて始めたのかと思えば、友達はあくまで裏方、やるのは本物の落語家さんで、高校時代の友人だとのこと。
    大学時代は落研にいたものの卒業後は出版社に就職したその人は、40にして会社を辞めて本格的に落語の世界に飛び込んだと言う異色の経歴の持ち主で、現在、二つ目なのだそう。

    驚きました。
    それほどまでに、人生を一変させ、安定した世界を振り捨ててまで飛び込もうといい年になった大人に決意させるほどに、落語の世界はその人にとって離れがたい魅力があったのか、と。


    『こっちへお入り』は、落語に魅せられたアラサーOLの江利が主人公です。
    ひょんなことからアマチュアの落語教室に参加することとなり、様々な落語を聞き込んで、自分でも練習するうちに、噺の中の熊さんやら与太郎やお久ちゃんの心情にすっかり入り込み、腹を立てたり自己投影したり、どんどん落語にのめり込んでいきます。

    恋人との慣れきった関係で感じる寂しさ、実家の問題、仕事でのストレスなど、江利自身の様々な感情の変化によって、心に響く噺は違い、同じ噺でも語り手による解釈の違いが気になってくる。
    落語の世界への理解が広がるのと同時に、ちょっとやさぐれ気味だった江利の世界がどんどん感情豊かに色づいていき、最初は理解できなかったり理不尽に思えていた噺の中の住人たちの気持ちがわかってくるにつれ、家族や恋人、職場の使えない新人など周りの人たちの見え方も変わってきます。


    「思い通りに行く人生なんて、ない。誰もが、自分のバカさ加減に泣かされるんです。その繰り返しが人生じゃないですか。だから、噺の世界ではバカが立役者なんです。バカな考え、バカな行い、それゆえの泣き笑い。それがね、小よしさん、僕らがやっている落語なんですよ」
    江利の師匠でアマチュア落語家の楽笑さんのセリフがいい。落語、たしかに魅力的だ。

    物語の中には、落語といえば『笑点』しか知らないような私でも聞き覚えのある有名な噺がいくつも出てきて、読んでいるうちに私も本物の落語が聞きたくなりました。

    異色の落語家さんのオンライン落語会、こちらのオンライン環境が整わずに聞かずじまいに終わったことを後悔しました。

    今も舞台での生の芸を見せる世界で暮らしている落語家さんや舞台俳優さんなどは大変な状況におられると思いますが、こういった文化がずっと守られていくといいな。そんな事も思いました。

  • ずっと読んでみたいと思っていた。岩田書店の店主がよく一万円選書に入れている理由がわかったような気がする。

    アラサ―で仕事命の江利は受け身で平凡な人生に諦めのようなものを感じていた。そんな江利が友人を通して落語と出合う。師匠は楽笑だ。恋愛、病気、仕事、相続などのトラブルは人生にはつきものだ。悩みながらも、力強く前を向いて歩いている登場人物に勇気をもらうことが出来ました。

    そして「落語は本来、人間賛歌」だという楽笑師匠の言葉が温かくてアツいので、思わず数回泣いてしまった…。初めはそのすかした態度が気に入らなかった旬は、「仮定の話をしない」という、クールなポジティブ思考のしっかり者だとわかったし、読み終えて思わず「ふふふ」と顔がほころんでしまった。

    落語は有名なものしかわからないので、ハードルが高い部分もあったけど、江利の真似っこをして、寿限無、寿限無…と声に出して読んでみたら、(家族からは変な人だぁ~と言われたけど)とても気持ちがよかった。スッキリした気分になりました。
    落語を知っていたら、もっともっと楽しむことが出来ると思う。奥深い豊かな世界にふれることが出来た。

    2018年積読本消化24冊目。

  •  これこそ小説だと言ってもいい、見事な小説だった。久々に文句なし掛け値なしの星五つの小説だった。
     初めはなんでもない誘いから「興味」を持ち、はまり込んで「趣味」となって、それが「生活」となってついには「人生」になる。その変わっていく様を鮮やかに描いている。
     趣味とはこうでなくては、とうならせるものだった。何度も落語で身につまされるところはなかなか泣かされた。
     落語が物語を回し、物語られた生活が落語を深める。章ごとに柱となる落語を立てて展開されていくストーリーが本当に快かった。

     名作である。今年読んだ中でも指折りの作品だった。

  • ギャグ? このわたしが、ギャグをやる?
    やれるのか。人を笑わせられるのか。オヤジギャグで人をうんざりさせるアホ上司と大違いの、ちゃんとした笑いをとれるのか。
    平凡なOLだった江利が落語の世界に惹かれ、そして高座に上がるまでの紆余曲折。
    落語好きにはもちろん、そうでない方にもお薦めのエンターテイメント小説。

    落語って本当にすごい。本気でそう思います。
    落語なんて何の興味もなかった江利が、親友の友美が入会している素人落語サークルの高座を付き合いで観に行ったことをきっかけに、落語の深さに触れ、そしてどんどんのめり込んでいくのですが――それを「そんな馬鹿な」と一笑に付すことができないほどのパワーが落語にはあります。

    本作の中では、江利をはじめ、落語サークルの仲間たちや、恋人の旬までもそれぞれの自説を披露し、噺を解釈しようとしますが、落語って演じる人によってこんなに顔の変わるものなんだなーって改めて感心させられます。

    僕も落語が大好きでした。
    でも、落語に一番熱中していたのは小学生の頃だったからあんまり寄席なんかには行けなくて。
    そりゃそうですよね。
    いくら何でもお小遣い貯めて落語聴きに行く小学生がいたら、ヘンです。
    駄菓子とか漫画なんかでお金を遣うのが健全な小学生でしょう。
    ちょっとお金が貯まったら、新しいスパイクやボールが欲しいって思うのが正しい小学生ってもんです。
    ですから、僕の落語体験はもっぱら読書でした。
    図書館や学校の図書室にあった落語の本を厭きもせずに何度も何度も読んでいたのですが……。
    それでは落語の魅力の半分も伝わらない。
    この作品を読んでそう思いました。

    語る口調。所作。ちょっとした目の動きまで。
    噺家さんたちはそれぞれの想いをすべての仕草に込めて、自分だけの物語を演じているのです。
    同じ「芝浜」を演じるのでも、志ん朝の、小三治の、さん喬の演じる女房はそれぞれに違うのです。
    そこまで聴いて、初めて落語の面白さがわかるのでしょう。
    もちろん、ただ何も考えずにワハハと笑っているだけでもいいです。
    落語は人を笑わすためにあるエンターテイメントなのですから、それがもちろん一番です。
    でも、そのちょっと先に踏み込んでみると――落語はもっともっと面白くなるのです。
    本で落語を知った僕はその部分に気がつけなかったし(まあ小学生だし)、そこに気がついてしまった江利は、もう落語の世界から離れられなくなってしまいました。

    落語は庶民の為の、庶民の物語です。
    高みから見下ろす説教でもなく、遠く離れた場所のおとぎ話でもなく、いつだって僕たちの傍にある物語なのです。
    江利は自分を取り巻く境遇と噺を照らし合わせて、時にはそうかそうかと頷き、時には落語から学んだりもしています。
    落語ってそういうことのできるものなんです。
    だって、落語は人が演じる、人の物語なんですもん。

  • 小学校にあがる前くらいかな・・・笑点をよく見ていました。あのテーマソング、日本人で知らない人はいないんじゃないでしょうか。

    きちんと『落語』として聞いたことがなくても「饅頭怖い」「寿限無」あたりは知っている人も多いし、『歌舞伎』や『人形浄瑠璃』『能』『狂言』よりは敷居が低くて身近なイメージもあります。(個人的には『狂言』は面白い。他は色々勉強不足すぎて睡魔に負けてしまった・・・)

    宮藤官九郎さんのドラマ「タイガー&ドラゴン」も面白かったし、朝の連ドラ「ちりとてちん」もハマりました。
    一度、母と春風亭小朝さんの独演会に行ったときのあの衝撃。
    彼が天才と呼ばれるのは納得で。あの玉ねぎヘアまでもが輝いて見えました。

    それなのに、なんとなくそれ以上踏み込めずにいた落語の世界。
    江利の熱い落語解説を読んでいるうちに、古今亭志ん朝さんも、桂米朝さんも、桂枝雀さんも、柳家小三治さんも聞いてみたくなりました。CDもいいけど、存命の噺家さんはやっぱり生で聞きたいなぁ。

    天満天神繁昌亭、来年こそは行ってみますか。

    追記:落語モノなら主人公が男性の「しゃべれどもしゃべれども」(佐藤多佳子さん)も面白いです♪

    • nico314さん
      hetarebooksさん、はじめまして。

      私も「ちりとてちん」はまりました!
      渡瀬さんの「地獄八景亡者の戯れ」(でしたっけ?)大好...
      hetarebooksさん、はじめまして。

      私も「ちりとてちん」はまりました!
      渡瀬さんの「地獄八景亡者の戯れ」(でしたっけ?)大好きでした。
      人間の弱さやずるさ、情けなさを描きつつも人間は愛すべき存在であることを浮かび上がらせて愉快でした。
      2013/01/08
    • hetarebooksさん
      nico314さん
      はじめまして。コメントありがとうございます♥♡

      「ちりとてちん」面白かったですよね!
      「地獄八景亡者の戯れ」、...
      nico314さん
      はじめまして。コメントありがとうございます♥♡

      「ちりとてちん」面白かったですよね!
      「地獄八景亡者の戯れ」、「じごくのそうべえ」という絵本にもなっていて子供の頃に読みましたが滑稽で怖くて、でも楽しい演目ですよね。
      2013/01/09
  • やっぱり落語っていいなぁと心から思う。

    女性ばかりの落語教室に通い始める主人公、吉田江利、33歳。
    最初は興味がなかったのに、寿限無を唱えるのが楽しいことを発見し、柳家小三治のファンになり、どんどん落語を好きになっていく。
    そして落語の登場人物の感情を理解していくことで、自分の周りの人達との関係も変わっていく。

    たくさん聞いているわけではないけど、落語はとても好きで、もっと聞きたい。
    それでも自分が話したいと思ったことはなかった。
    その気持ちは今でも変わらない。
    でもでも、物語の中の落語教室がすごく楽しそうで、この心地よさは味わいたい。
    落語の話で盛り上がれる関係って素敵だ。
    いいなぁ〜‥。

    • MOTOさん
      いいですね~♪

      自分の中にある大好きな事が同じ相手と出会えるなんて!
      その落語教室の心地よい賑やかさって、なんとなく想像出来そうな気がしま...
      いいですね~♪

      自分の中にある大好きな事が同じ相手と出会えるなんて!
      その落語教室の心地よい賑やかさって、なんとなく想像出来そうな気がします^^♪

      落語の事は良くわからないのですが、無いはずのものが見えてくるような3D的なしゃべりに、ついつい引き込まれてしまう所が快感ですね。
      2012/11/04
    • takanatsuさん
      MOTOさん、コメントありがとうございます!
      「無いはずのものが見えてくるような」
      そうなんです!
      目の前にいる人は明らかにふつうのお...
      MOTOさん、コメントありがとうございます!
      「無いはずのものが見えてくるような」
      そうなんです!
      目の前にいる人は明らかにふつうのおじさんなのに、なぜかすごく可愛いおかみさんに見えるとかもありますし‥(笑)
      実はまだ女性の落語を聞いたことはないんですが、この小説を読んで聞きたくなりました。
      2012/11/04
  • いわた書店さんの「一万円選書」で選んでもらった中の一冊。

    落語が出てくる話は、今までに「しゃべれどもしゃべれども」と、あと「円紫さんと私」シリーズを読んだくらいかなあと記憶しているのですが、これが一番おもしろかったです。

    落語にまったく馴染みがなくても、これを読むと少しわかった気になるというか、用語の解説も小よしさんがしてくれるのでわかりやすい。

    落語のこともだけど、江利の私生活(実家のこととか旬とのこと)も興味深くてあっという間に読み終えました。

    前から落語に少し興味はあったけど、また「聞いてみようかな」という気になってきました。
    せっかく「こっちへお入り」って言ってくれてるんだしね。

  • くすぶるアラサーOL・江利が「素人落語」にのめり込んでいく様子を描いた物語。仕事やプライベートで気が立っても、彼女は落語に救われて立ち直ります。
    印象的なのは、好きなタイプを「落語頭(あたま)がある人がいいかも」と話す場面。江利は「思考回路が落語モードで、噺の中に入り込む想像力と共感力を持っている人」と説明します。私自身、日々の生活ではイライラすることや人とぶつかってしまうことばかりです。でも、少しでも彼女たちの言う「落語頭」を身に付ければ、もう少しうまくやっていけるかもしれないと感じました。
    派手な仕掛けがある物語ではありません。でも、癒しが必要な人にはしっくり来そうな気がします。落語好きにもオススメ。
    サンキュー、落語大明神。

  • え、落語って私たちぐらいの年代でも面白いの?
    聴いてみるべき…?ドキドキ。

    って、ドキドキしてきた。
    そのドキドキを忘れないうちに、何か一本。

    落語の世界に入った主人公が、人生ガラリと変わったー!
    なんて派手な話ではない。

    周りから見たら、趣味の道楽がひとつ増えたらしいとしか映ってないのかもしれない。

    でも、「気持ち次第」って主人公は言ってる。
    人生は辛い。だから、笑いがある。
    辛い中でも笑いを探す。

    他人の愚行を攻撃するのではなく、バッカだなぁと笑い飛ばす。

    バカだけど憎めない。そんな余裕を持ちたいものですね。

  • 落語がテーマですが、主人公も初心者なだけに、何も知らなくても読めるようになっています。有名どころの噺も分かるし、豆知識コーナーもあって、親切設計。

    33歳の独身OL・江利は、ひょんなことから落語の世界に引き込まれ、のめり込んでいく。
    一つの話につき、江利が興味を持った噺が一つ二つあり、その奥深さを解釈していくうちに、自分の人生をも見直すきっかけになっていきます。
    結婚の気配がなくだらだら付き合っている彼氏。家を継ぐと決めた弟とその嫁と、両親。仕事。
    このくらいの年になると嫌でも出てくる問題があり、やはり江利もそれと向き合うことになる。
    落語の噺を解釈しているうちに、何故自分はそう思うのか、心の裡を見つめる形になる江利。

    出てくる噺は落語初心者の私でもよく知っている話ばかり。有名な噺家がどう演じ分けているかも書かれていて、江利は自分がどっちが好きだとか、この解釈は厭だとか、ああだこうだ考えている。
    最初は全く落語に気興味がなかったのに、気が付くと成真剣になっているわけです。

    人が何かに打ち込む様は美しい。
    何歳でも新しいものと出会えるし、打ち込める。
    読み終えて、勇気や元気をもらえました。

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