こっちへお入り (祥伝社文庫)

著者 :
  • 祥伝社
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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784396336271

作品紹介・あらすじ

吉田江利、三十三歳独身OL。ちょっと荒んだアラサー女の心を癒してくれたのは往年の噺家たちだった。ひょんなことから始めた素人落語にどんどんのめり込んでいく江利。忘れかけていた他者への優しさや、何かに夢中になる情熱を徐々に取り戻していく。落語は人間の本質を描くゆえに奥深い。まさに人生の指南書だ!涙と笑いで贈る、遅れてやってきた青春の落語成長物語。

感想・レビュー・書評

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  • 少し前のこと、コロナで緊急事態宣言下の東京で、友達がオンライン落語会をやると言う。
    会社員なのにいつの間に落語なんて始めたのかと思えば、友達はあくまで裏方、やるのは本物の落語家さんで、高校時代の友人だとのこと。
    大学時代は落研にいたものの卒業後は出版社に就職したその人は、40にして会社を辞めて本格的に落語の世界に飛び込んだと言う異色の経歴の持ち主で、現在、二つ目なのだそう。

    驚きました。
    それほどまでに、人生を一変させ、安定した世界を振り捨ててまで飛び込もうといい年になった大人に決意させるほどに、落語の世界はその人にとって離れがたい魅力があったのか、と。


    『こっちへお入り』は、落語に魅せられたアラサーOLの江利が主人公です。
    ひょんなことからアマチュアの落語教室に参加することとなり、様々な落語を聞き込んで、自分でも練習するうちに、噺の中の熊さんやら与太郎やお久ちゃんの心情にすっかり入り込み、腹を立てたり自己投影したり、どんどん落語にのめり込んでいきます。

    恋人との慣れきった関係で感じる寂しさ、実家の問題、仕事でのストレスなど、江利自身の様々な感情の変化によって、心に響く噺は違い、同じ噺でも語り手による解釈の違いが気になってくる。
    落語の世界への理解が広がるのと同時に、ちょっとやさぐれ気味だった江利の世界がどんどん感情豊かに色づいていき、最初は理解できなかったり理不尽に思えていた噺の中の住人たちの気持ちがわかってくるにつれ、家族や恋人、職場の使えない新人など周りの人たちの見え方も変わってきます。


    「思い通りに行く人生なんて、ない。誰もが、自分のバカさ加減に泣かされるんです。その繰り返しが人生じゃないですか。だから、噺の世界ではバカが立役者なんです。バカな考え、バカな行い、それゆえの泣き笑い。それがね、小よしさん、僕らがやっている落語なんですよ」
    江利の師匠でアマチュア落語家の楽笑さんのセリフがいい。落語、たしかに魅力的だ。

    物語の中には、落語といえば『笑点』しか知らないような私でも聞き覚えのある有名な噺がいくつも出てきて、読んでいるうちに私も本物の落語が聞きたくなりました。

    異色の落語家さんのオンライン落語会、こちらのオンライン環境が整わずに聞かずじまいに終わったことを後悔しました。

    今も舞台での生の芸を見せる世界で暮らしている落語家さんや舞台俳優さんなどは大変な状況におられると思いますが、こういった文化がずっと守られていくといいな。そんな事も思いました。

  •  これこそ小説だと言ってもいい、見事な小説だった。久々に文句なし掛け値なしの星五つの小説だった。
     初めはなんでもない誘いから「興味」を持ち、はまり込んで「趣味」となって、それが「生活」となってついには「人生」になる。その変わっていく様を鮮やかに描いている。
     趣味とはこうでなくては、とうならせるものだった。何度も落語で身につまされるところはなかなか泣かされた。
     落語が物語を回し、物語られた生活が落語を深める。章ごとに柱となる落語を立てて展開されていくストーリーが本当に快かった。

     名作である。今年読んだ中でも指折りの作品だった。

  • 小学校にあがる前くらいかな・・・笑点をよく見ていました。あのテーマソング、日本人で知らない人はいないんじゃないでしょうか。

    きちんと『落語』として聞いたことがなくても「饅頭怖い」「寿限無」あたりは知っている人も多いし、『歌舞伎』や『人形浄瑠璃』『能』『狂言』よりは敷居が低くて身近なイメージもあります。(個人的には『狂言』は面白い。他は色々勉強不足すぎて睡魔に負けてしまった・・・)

    宮藤官九郎さんのドラマ「タイガー&ドラゴン」も面白かったし、朝の連ドラ「ちりとてちん」もハマりました。
    一度、母と春風亭小朝さんの独演会に行ったときのあの衝撃。
    彼が天才と呼ばれるのは納得で。あの玉ねぎヘアまでもが輝いて見えました。

    それなのに、なんとなくそれ以上踏み込めずにいた落語の世界。
    江利の熱い落語解説を読んでいるうちに、古今亭志ん朝さんも、桂米朝さんも、桂枝雀さんも、柳家小三治さんも聞いてみたくなりました。CDもいいけど、存命の噺家さんはやっぱり生で聞きたいなぁ。

    天満天神繁昌亭、来年こそは行ってみますか。

    追記:落語モノなら主人公が男性の「しゃべれどもしゃべれども」(佐藤多佳子さん)も面白いです♪

    • nico314さん
      hetarebooksさん、はじめまして。

      私も「ちりとてちん」はまりました!
      渡瀬さんの「地獄八景亡者の戯れ」(でしたっけ?)大好...
      hetarebooksさん、はじめまして。

      私も「ちりとてちん」はまりました!
      渡瀬さんの「地獄八景亡者の戯れ」(でしたっけ?)大好きでした。
      人間の弱さやずるさ、情けなさを描きつつも人間は愛すべき存在であることを浮かび上がらせて愉快でした。
      2013/01/08
    • hetarebooksさん
      nico314さん
      はじめまして。コメントありがとうございます♥♡

      「ちりとてちん」面白かったですよね!
      「地獄八景亡者の戯れ」、...
      nico314さん
      はじめまして。コメントありがとうございます♥♡

      「ちりとてちん」面白かったですよね!
      「地獄八景亡者の戯れ」、「じごくのそうべえ」という絵本にもなっていて子供の頃に読みましたが滑稽で怖くて、でも楽しい演目ですよね。
      2013/01/09
  • やっぱり落語っていいなぁと心から思う。

    女性ばかりの落語教室に通い始める主人公、吉田江利、33歳。
    最初は興味がなかったのに、寿限無を唱えるのが楽しいことを発見し、柳家小三治のファンになり、どんどん落語を好きになっていく。
    そして落語の登場人物の感情を理解していくことで、自分の周りの人達との関係も変わっていく。

    たくさん聞いているわけではないけど、落語はとても好きで、もっと聞きたい。
    それでも自分が話したいと思ったことはなかった。
    その気持ちは今でも変わらない。
    でもでも、物語の中の落語教室がすごく楽しそうで、この心地よさは味わいたい。
    落語の話で盛り上がれる関係って素敵だ。
    いいなぁ〜‥。

    • MOTOさん
      いいですね~♪

      自分の中にある大好きな事が同じ相手と出会えるなんて!
      その落語教室の心地よい賑やかさって、なんとなく想像出来そうな気がしま...
      いいですね~♪

      自分の中にある大好きな事が同じ相手と出会えるなんて!
      その落語教室の心地よい賑やかさって、なんとなく想像出来そうな気がします^^♪

      落語の事は良くわからないのですが、無いはずのものが見えてくるような3D的なしゃべりに、ついつい引き込まれてしまう所が快感ですね。
      2012/11/04
    • takanatsuさん
      MOTOさん、コメントありがとうございます!
      「無いはずのものが見えてくるような」
      そうなんです!
      目の前にいる人は明らかにふつうのお...
      MOTOさん、コメントありがとうございます!
      「無いはずのものが見えてくるような」
      そうなんです!
      目の前にいる人は明らかにふつうのおじさんなのに、なぜかすごく可愛いおかみさんに見えるとかもありますし‥(笑)
      実はまだ女性の落語を聞いたことはないんですが、この小説を読んで聞きたくなりました。
      2012/11/04
  • 落語って難しそうあんまり興味が湧かないなと思いつつ、紹介されたので読んでみた

    作者さんはこの本から落語を通して、自分の幅が広がるわくわくを伝えてくれる。
    大人になってあらゆる刺激に慣れていき、人生がマンネリ化していくからこそ、自分を解放する体験は貴重であり、積極的に自分で見つけていく必要があると思った。その一つの提案が落語。

    主人公今まで趣味を持たなかった普通のOLでだんだん落語にのめり込んでいくところが好き。どんな魅力があるんだろうと興味を掻き立ててくれる。

    落語脳を持っていると、物事のあらゆる側面の面白い部分を見つける癖がつく、また、落語は対局の相手が現れるから逆の立場の意見も知ろうと思う気持ちが芽生えるらしい。知らないことばかりで読んでよかった本だった。

  • いわた書店さんの「一万円選書」で選んでもらった中の一冊。

    落語が出てくる話は、今までに「しゃべれどもしゃべれども」と、あと「円紫さんと私」シリーズを読んだくらいかなあと記憶しているのですが、これが一番おもしろかったです。

    落語にまったく馴染みがなくても、これを読むと少しわかった気になるというか、用語の解説も小よしさんがしてくれるのでわかりやすい。

    落語のこともだけど、江利の私生活(実家のこととか旬とのこと)も興味深くてあっという間に読み終えました。

    前から落語に少し興味はあったけど、また「聞いてみようかな」という気になってきました。
    せっかく「こっちへお入り」って言ってくれてるんだしね。

  • くすぶるアラサーOL・江利が「素人落語」にのめり込んでいく様子を描いた物語。仕事やプライベートで気が立っても、彼女は落語に救われて立ち直ります。
    印象的なのは、好きなタイプを「落語頭(あたま)がある人がいいかも」と話す場面。江利は「思考回路が落語モードで、噺の中に入り込む想像力と共感力を持っている人」と説明します。私自身、日々の生活ではイライラすることや人とぶつかってしまうことばかりです。でも、少しでも彼女たちの言う「落語頭」を身に付ければ、もう少しうまくやっていけるかもしれないと感じました。
    派手な仕掛けがある物語ではありません。でも、癒しが必要な人にはしっくり来そうな気がします。落語好きにもオススメ。
    サンキュー、落語大明神。

  • え、落語って私たちぐらいの年代でも面白いの?
    聴いてみるべき…?ドキドキ。

    って、ドキドキしてきた。
    そのドキドキを忘れないうちに、何か一本。

    落語の世界に入った主人公が、人生ガラリと変わったー!
    なんて派手な話ではない。

    周りから見たら、趣味の道楽がひとつ増えたらしいとしか映ってないのかもしれない。

    でも、「気持ち次第」って主人公は言ってる。
    人生は辛い。だから、笑いがある。
    辛い中でも笑いを探す。

    他人の愚行を攻撃するのではなく、バッカだなぁと笑い飛ばす。

    バカだけど憎めない。そんな余裕を持ちたいものですね。

  • 素人落語に挑戦するアラサー女性の話。
    趣味の範疇といえど人前で落語の実演はレベルが高いよぉ、と読みながら主人公たちにひたすら感心した。
    人間の業を肯定するのが落語。自分の中の汚さに直面し、向き合い、呑み込む。腹に落ちるかどうかはともかく。
    落語は地方住まいではなかなか接する機会がありません。本でばかり知識を増やしているので、いつか寄席に行ってみたい。

    北海道のいわた書店さんの「一万円選書」でご縁のあった本。

  • 落語に興味を持ったのは情熱大陸で立川談志をみたときだった。談志師匠の晩年、声が出ず、話が思い出せず、だけど天才と言われた噺家は負けを認めない。周囲が立てて、煽ててなんとか一席落語をしてもらう。そんな風に扱われる立川談志は偉大な人だったんだろうと想像出来たし、それ故に同情されたり、出来ない自分を晒すことはプライドが許さなかったんだと思った。立川談志の生き様を見て、憧れを抱いたし彼が人生を賭けた落語ってどんなものかと興味が湧いた。見たい、聴きたいと思うけどそれ以外にも楽しいことは溢れててずっと後回しになってた落語。
    素人OLが友人から誘われた寄席の発表会を見に行ったことを発端に落語にのめり込んでいく話。趣味は作るものじゃなくて衝動なんだと思った。

    興味がなければ通り過ぎるだけの道筋で、あるときひょいと覗き込んだら、待ってましたと声が掛かる。こっちへお入り。

    寄席に行ってみたいなあ。

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