- Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
- / ISBN・EAN: 9784396337599
作品紹介・あらすじ
遺骨の入ったケースを胸に、それぞれに事情を抱える橘裕也と戸村サヤカ、勝田慎二の三人は、ヒマラヤ未踏峰に挑んでいた。彼らをこの挑戦に導いたのは登山家として世界に名を馳せ、その後北八ヶ岳の山小屋主人になった"パウロさん"だった。祈りの峰と名づけた無垢の頂きに、はたして彼らは何を見るのか?圧巻の高所世界に人間の再生を描く、著者渾身の長編山岳小説。
感想・レビュー・書評
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笹本稜平氏の山岳小説。登るのはヒマラヤの6000メートル級だが未踏峰の山。しかし登る人は、プロの登山家ではなく、むしろ素人に近い三人で、コミュニケーション障害や知的障害を抱える。そんな三人が登攀によって、人生の喜びを感じるという、やや精神論的な話である。
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北八ヶ岳での出会いから、ビンティ・チュリでの各ステージ模様までを背景に、濃厚な人間臭さを押し出してくる。鎮魂を秘めながらも四人を結ぶ純真な絆は、四様の未来への希望の頂を目指す。過去の洗い流し~転機・決別~成長への足跡、前半から後半へ架けての人生ドラマのスイッチ切り替えは見事。多くの言葉に胸打たれ、読後は当方に清廉な気持ちと勇気を与えてくれる。
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笹本稜平の警察小説も侮りがたいが、山岳小説はこそ秀逸。
それぞれに事情を抱える三人が、亡くなった山小屋の主人の魂と一緒にヒマラヤ未踏峰を目指す。世間の片隅で小さくなっていた負け犬根性の自分たちの人生を生きなおすために。
山岳小説の白眉『還るべき場所』とともに、この作品も「生きるとは何か」を問いかける。
著者は、登場人物の一人に語らせる。
『幸福は他人から与えられるものじゃない。誰かから盗みとれるものでもない。自分の心の中にもともと火種があるんだよ。幸福になれるかなれないかは、それを自分で燃え立たせられるかどうかで決まるんだ。・・・』
生きることに疑問を感じるひとへ
『つまり、人間て、ただ生きているだけで意味があるんだってということよ』
さらに、著者は呼びかける。
「自分の落ち込んだ苦境を時代のせいにするのは簡単だ。しかしそれでは何も変わらない。時代を変えられないのなら、自分を変えるというやり方もある。自分が変われば世界の見え方も変わってくるはずだ。」
そして、夢を持つこと、希望を抱くこと、未来を信じること、を。 -
若いうちに躓き、人生の岐路に迷う若者3人が亡くなった恩師の遺志をついで未踏峰を目指す。
無謀に思える挑戦を青臭いと笑ってはいけない。人生は常に目標を持ち、チャレンジしなければいけないと勇気を貰えた作品だ。 -
その山の頂に立つことにより、今までよりも少しだけ成長したり強くなった自分になれる気がする。
だから山に向かう。
山にはそう思わせてくれるところがあると私も思っています。
誰も登ったことのない未踏峰ともなれば尚更な気がしますね -
北八ヶ岳に行きたくなった。
山を歩いている時の感覚、自分が自分で無くなり周りの自然と一つになるようなあの不思議な感覚を読みながら思い出していた。
また山に行こう。 -
人生においてそれぞれ負い目を持つ三人が、これまた負い目を持った人生を歩んでいた山小屋の主人との四人で未踏峰登山を計画する。
実際に登る三人が登りながら、幸せとは何かを問いつつ、自分の出来ることを発揮しながら登頂する。
山を知らないけれど、登ったような読み心地だった。 -
ビンティ・チュリ(祈りの峰)僕ら3人が出会った山小屋「ビンティ・ヒュッテ」から名前を取って命名した。未だ名前の無い未踏峰。7000m満たない目立たぬ頂きだが、僕らを残し亡くなったパウロさんと僕らの希望の頂だ。パウロさんと僕らは4人のチーム、必ず彼と共に祈りの峰に辿り着こう。胸にはパウロさんの遺骨と、彼が僕らに残してくれた希望を抱いて・・・。
元敏腕システムエンジニアだった裕也は、万引きにより逮捕され職を追われた。
派遣社員として先の見えない仕事に明け暮れる毎日の中、ふと目にした北八ヶ岳の山小屋の募集に応募する。
山小屋「ビンティ・ヒュッテ」のオーナの蒔本(パウロ=洗礼名)は裕也を即決で雇い入れ暖かく遇した。
パウロは世界的に名の知れたクライマーだったが、現役を退き登山用品店経営を経て、北八ヶ岳で山小屋を経営するに至った。
ビンティ・ヒュッテのスタッフには、卓越した料理の才能が有りながら、アスペルガー症候群であるが故に職場に馴染めずなかったサヤカ。
知的障害はあるが頑強な体と繊細なスケッチ能力を持つ慎二が働いていた。
彼らはパウロの大木のような魅力の下で伸び伸びと仕事を続けていた。
4人は共通の夢を見るようになる。それはエベレストに有る名も無き未踏峰に挑み4人で頂きを踏む事。
具体的に実現する為4人は冬の富士山で訓練を繰り返し着実に実力を伸ばしていった。
山小屋はシーズンオフは働く事が出来ない。3人はそれぞれ違う職場でシーズンインの日を夢見て仕事に勤しんでいた。
そんなある日、山小屋が火事になりパウロは焼死してしまう。
彼らは嘆き悲しんだが、弁護士を通しパウロから3人に遺言が届く。
その遺言にはパウロの生きてきた足跡、そして遺産を彼らに譲り各々の人生に役立てて欲しいという記載が有った。
サヤカは言った「パウロさんを連れてってあげようよ・ビンティ・チュリへ」
分かった。登ろう、ビンティ・チュリに。パウロさんと僕らの夢を実現する為に・・・
この本を山岳小説と読むか、成長小説と読むかで正反対の評価になります。
評判があまりよろしく無い本ではありますが、僕はこの本とても感動しました。
山に夢中でしがみつく事で生きている喜びを全身で感じて、新たな人生の扉を開く原動力にしていく姿を頭に描いて、自分も頑張らなくっちゃと高校生みたいな安直な感想を抱きました。 -
久しぶりにあっという間の2日間で読み終わりました。
パウロさん、裕也、さやか、慎一それぞれに悩みを抱えながらも寄り添い、良い方向へと進んでいった中での、パウロさんの死。その死が3人にもたらしたものはお金だけではなく、かけがえのない繋がり、夢。
この先がきっと明るいものになるであろう終わりに、すごく満足です。 -
2013.9.30読了
ヒマラヤはもちろん、6,720mというのも未知の世界だが、一緒に登っている気分になった。
前半の舞台は北八ヶ岳ということで、実在する山小屋などを思い浮かべて楽しめた。
~登るというただ一つの行為に集中するうちに、余分な思考が消えてゆく。(中略)自分を閉じ込めていたちっぽけな殻が融けていく。生きることを楽しんでいる自分がいる。いまここにいるという、ただそのことから喜びが湧いてくる。~
そこまで大げさな事ではないけれど、
そうそう、そうなんだよね~(*˘︶˘*)