民宿雪国 (祥伝社文庫)

著者 :
  • 祥伝社
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感想 : 63
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  • Amazon.co.jp ・本 (280ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784396338794

感想・レビュー・書評

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  •  文庫帯の「名作掘り起こし小説」のキャッチフレーズ、また表題や表紙絵の雰囲気から、叙情的な物語を予想しましたが、驚きと困惑の小説でした。

     巻末の対談で、(2010年刊行ですが)3社に出版を断られていたとのこと‥。なぜ?
     読了してその理由を感じました。本作には、母性への傾倒、人種差別と性奴隷、LGBT、理不尽な運命に対する絶望感など、多くのテーマ・議論対象を含んでいる気がしたからです。

     本書は、丹生雄武郎という画家の人生の謎を追っていく内容です。世に認められた巨匠にもかかわらず、97歳の生涯を閉じるまで、新潟の寂れた港町の民宿主として過ごしていました。

     ミステリーかホラーかと不安になったり、どう見ても"あの"悪名高い有名人が多く登場したりする驚きと、先が読めない展開に戸惑いも覚えました。
     そして第4章から、画家・丹生の人生の「虚」が暴かれていきます。その「虚」があまりにも大きいためか、架空人物ではなくリアリティーを生んで、逆に存在感が増しているようです。

     自分の物差しや固定観念での解釈が難しい内容で、正論で片付けられない内容に思えました。
     抱え込むテーマが大きくかつ深く、その刺激的な内容に、読了後空恐ろしくなる衝撃作でした。

  • 寝込みたくなる一冊。

    雪国で民宿を営む国民的画家の人生を炙り出すストーリー。

    雪国気分で手にしたら…やられた。まさに雪を甘く見ていたらあれよあれよの猛吹雪にみまわれた気分。

    前半はどんでん返しも楽しめ、ちょっとした面白さを味合わせてくれるし、まさかのあの歴史に残る事件と人物をここでこう絡ませるか…にはちょっと感心するほど。

    が、やがて雪の怖さ、どんどん降り積もる物語の狂気に気づくような世界に。

    ここまで狂気を見せられると恐れ慄き、どんより寝込みたくなる。

    でもスルーできない史実が隠された物語でもある。うーん、複雑。

  • 国民的画家について書かれた物語
    帯の言葉に期待していましたが
    そういう時って大抵・・・
    でもおもしろかったです
    画家は民宿を営んでいるが謎に包まれた人で
    どんな人なのかそれが明らかになるわけだけど
    まぁなんか想像を超えていた感はあるんですが
    帯の言葉が激しすぎたせいか期待以上ではなかったです

  • 帯に惹かれて購入!

    奇妙な構成
    戸惑いを覚えるストーリー
    不安を感じながらも
    読む事を止められない

    正に帯に書いてるとおりの一気読み!

    何が正しくて何が嘘なのか?
    読み手は次々に裏切られる事必至!


    国民的画家、遅れてきた鬼才!?
    丹生雄武郎が亡くなった97歳!
    彼は画家でありながら寂れた民宿【雪国】の主人!?

    その生涯は謎に包まれている・・・

    本書はその彼の過去を探っていく物語。


    懐かしき昭和の出来事と時代を思い出させてくれます!

    もう少し長くても良かったかなぁと思います。

  • ある国民的画家の虚飾で彩られた数奇な人生が、章ごとに視点を変えつつ描かれる。
    突拍子のなさやグロテスクさが入り混じることで、独特の空気が醸成されていて夢中で読めた。
    なんとも奇妙な読後感。

  • 読み始めて「あれ?あらすじに反してグロ系サスペンス?」と思ったら。読み終わってみれば芸術の曖昧さ、価値の作為性や扇動性、商業性、そしていくつかの現代社会問題について容赦なく突きつけてくる「ルポタージュ風小説」でした。

    97歳で生涯を閉じた、国民的画家・丹生雄武郎。
    表舞台に姿を表すことがほとんどなかった彼の人生は謎に満ちていた。
    しかし、過去に彼に救われた奇縁を持つ記者の取材により、丹生の壮絶という言葉程度では大抵表せられない、凄惨かつドス黒い過去が明かされ…。

    私は美術鑑賞が好きで、美術展にもわりと頻繁に足を運びますが、芸術は、作り手の思いとか、そこに作品が存在するとかだけでは不十分で、他者からの評価があり、その評価が広く世間に浸透してこそ「芸術」として認められるようになるという面が確かにあります。
    そして、その「評価」はただ技巧に対してだけ向けられるわけではなく、話題性、希少性、時代背景など、様々なものが添加されています。
    美術展で作品解説を読んでいると、「この絵が○○(著名な先輩画家や権威ある美術院)に認められたことが、✖︎✖︎の画家としての第一歩となった」、「画商の△△が積極的に売り出したことで、✖︎✖︎の名前は世に知られるようになった」的な解説は枚挙にいとまがないどころか、個展であればほぼ確実に存在します。

    生前のゴッホの作品は同時代人には評価されなかったから売れず、食うにも困る貧乏のまま精神を病んで彼は死んだ。
    けれど、後世では影響力がある誰かが評価し、「その『評価』が広く浸透したから」ゴッホは人気画家となり、バブル期にはたった一枚の絵が50億で落札されたりもした。彼が描いた約800枚の作品のうちたった一枚が生前にこの値段で売れたら、一生食うに困らないどころか、左うちわだったのにとも思うけれど…そうはいかなかった。
    (ちなみにその絵を落札したのは日本の某企業で、系列美術館に今でも展示されています。)

    ゴッホと同時代の人と現代人に審美眼の違いがあるわけでは決してないどころか、教養の量という意味では、特定の層が芸術を楽しんでいたゴッホ時代の人の方がむしろ多いぐらいではないかと個人的には思うのですが。

    芸術の価値なんて、それくらい曖昧で、作為的で、もっと悪く言えば、時には偽装的なものなのです。
    本書はそんな芸術の持つ側面を、「偽りの画家の人生」を題材に、ルポタージュという手法、昭和に実際にあった事件をモチーフにした記述などを巧みに用いながら、生々しく描いています。
    ノンフィクションかと錯覚するぐらいに。
    実によく作り込まれています。

    けれど、感情移入ができず、情感的なものが感じられなかったのは残念。
    これは芸術の作為性だけでなく、その他歴史的にも現代社会の課題的にもあまりに多くの要素を盛り込みすぎた挙句展開が二転三転しすぎて食傷気味になった点と、登場人物の描き方には魅力がなかったせいかもしれません。

    作者さんのあとがきというか著名人との対談収録を読んでいると、そんなものは求めない(人物の魅力はあまり考えない)タイプの方かな、とも思えましたが。ご自身が追求している「リアリティおよび課題突きつけ型の文学以外は文学ではない。今の世間に出回ってる娯楽文学には意味がない」的なニュアンスの滲み出る発言をなさってる点がちょっと引っかかったのもあります。
    個人的には時間を楽しませてくれる娯楽文学には課題突きつけ型の文学にない別のよい面があると思っているので。

    本作自体はなかなか面白く読めたのですが、この人の別作品を読もうとは正直思えなかったのは、その視点というか交わらないスタンスのせいかもしれません。

  • 久々に書店のPOPに惹かれて文庫を購入。
    この作家、もちろん初。

    日本画壇の大家にして北陸の鄙びた民宿の主人だった男。
    生涯表舞台に現れず、謎に包まれた数奇な人生を送る画家の実像を、
    あるジャーナリストが追う。高名な画家に隠された秘密とは・・・。

    ・・・という要約内容で果たして正解なのかどうかも解らない。
    最初の章を読んでいる時からなんとなく感じる違和感が、ラストで
    より大きなものになる。そして、読中いたるところでこう思う。
    「なんじゃこりゃ?本当に小説か?」と。

    あからさまに実在する(ないしは、した)人物や団体、メディア等
    が多々登場してくる。それも一部は意味深なイニシャルで。文体も
    地味な私小説風かと思えばとんでもなく突飛。細やかで美しい言葉
    で描写されるのは、徹底した差別と猟奇。読んでいてアタマがクラッ
    とする作品は、本当に久々に読んだ気がする。

    コレ、ちょっと言葉で説明しきれないかも。
    しかし間違い無く映像化出来ない世界だし、万人受けする作品でも
    無い。読んでもらうしか方法が・・・。

    思わず絶句してしまう程の問題作。コレを読んだ日の夢は、相当な
    悪夢だった。覚悟の上、ぜひ!

  • ダークヒーローな物語。奇抜な構成で語られる国民的画家、丹生の物語。その心中に迫る架空のドキュメントは、あえて分かりやすく例えれば、小説版「殺人狂時代」とでも言うべきもの。冒頭の一話を読むだけでも、この小説がただ者ではないことが予感されたが、はたして、次第に厚みを増すその仕掛けに引き込まれずにはいられなかった。
    傑作という称号よりは、奇書という呼び名のほうがふさわしく思える。率直に言って、実に面白かった。

  • 前作は濃いめの味付けに挫折してしまい、恐る恐る挑戦。
    時代を感じる新潟の民宿、という舞台が好みでわくわくする。冒頭(ほんの数ページだけど)はつげ義春が訪ねて来そうな雰囲気。
    性的・暴力的な表現はやはり馴染めないけれど、これも好みの問題で、予想をどんどん裏切られる展開を楽しみました。

  • 新潟の寺泊にある古びた民宿を舞台にした、一人の男の壮絶な人生。
    ではあるのだが、その中身は朝鮮人と日本人のあれこれでエログロ。
    帯の煽り文句の「最高傑作」は、朝鮮人寄りの感性の持ち主に対しては、という意味でしかない

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著者プロフィール

東京都豊島区雑司ヶ谷生まれ。出版社に勤務したのち、2009年『さらば雑司ヶ谷』で小説家デビュー。11年『民宿雪国』が山本周五郎賞と山田風太郎賞の候補作となり話題に。著書に『日本のセックス』『テロルのすべて』『二十五の瞳』『タモリ論』『ドルフィン・ソングを救え!』などがある。

「2023年 『無法の世界 Dear Mom, Fuck You』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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