蜩ノ記 (祥伝社文庫)

著者 : 葉室麟
  • 祥伝社 (2013年11月8日発売)
3.94
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  • レビュー :240
  • Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784396338909

蜩ノ記 (祥伝社文庫)の感想・レビュー・書評

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  • 時は、江戸時代。
    前藩主の側室との密通の廉で家譜編纂と10年後の切腹を命じられた秋谷が暮らすのは、九州の山間の村でした。

    そこに遣わされた庄三郎の目を通して感じる清逸な世界観と美しい自然描写に心が洗われました。

    10年後の切腹の命、すなわち余命は10年。
    それも、病で命を落とすのではなく、自らの手で愛する家族のいる世界を後にするのは想像を絶する痛みでしょう。

    その葛藤が書かれているのかと思いきや、主人公は清廉な人柄で、心静かに穏やかに、確固たる信念を持って生きていました。

    限られた生をどのように生きていくか、人間らしく、親らしく、夫らしく生きるとはどういうことか、常に心に抱きながら生きているからか、主人公の人との関わりのなんと深くやさしいことか。
    自分の生き方について改めて考えさせられました。

    ひとは心の目指すところに向かって生きている。
    心の向かうところが志であり、それが果たされるのであれば、命を絶たれることも恐ろしくはない。
    私もいつか、そんな風に思えるんだろうか。

  • 現代の日本のどこにこれだけの思慮と覚悟を持って生きている人がいるだろうか。少なくとも私はただただ、その日一日から逃げるだけの日々である。

    死期を知りつつも己の責務を全うし清く生きる秋谷には尊敬の目しか向けられません。
    時代小説、というと難しいイメージがあって避けていたのだけれど、この本はひたすらに描写が綺麗だった。
    もちろん悲しいことも描かれているけれど、人の潔い心、清い心が素敵だと思った。

    *映画を観ました。絵が素敵でしたが、やはり省かれている部分もあって本の方がいいなと思いました。けれど、映る景色にも役者の中にも静謐さが表れていました。

  • 葉室麟の時代小説で第146回直木賞受賞作。

    直木賞受賞にふさわしい優れた小説という印象を持った。
    良く練られたストーリー、読者の興味を掻き立てるシチュエーション、魅力的な登場人物、そしておそらく葉室さんの得意とする読者の心に染入る様な美しい風景描写。
    物語の初めから終わりまで、本当に良く作り上げられていて、ある種の芸術品の様な美しい作品だと感じた。

    職場で友人との喧嘩から刃傷沙汰を起こしてしまった檀野庄三郎は、切腹を赦免される代わりに向山村に幽閉され家譜編纂を命じられている戸田秋谷の監視を命じられる。
    戸田秋谷は七年前に前藩主の側室との密通の容疑がかけられており、10年後の切腹が命ぜられていた。
    庄三郎は、戸田家の人々と一緒に過ごすことで秋谷の人柄を知り、彼の罪に疑問を持ちはじめ真相を調査する。
    「蜩ノ記」とは秋谷が日々の出来事を記録している日記の事である。

    この作品は、心に残る台詞が多い。
    庄三郎が真相を調査する過程で人の心の闇に嫌気がさし、遠くの田畑を眺めながら
    「ひとは、稲のようにまともには生きられぬものなのでしょうか」
    と相手に問いかけるシーンは、非常に印象深かった。

    戸田秋谷の犯した罪の真相がこの作品のキーポイントであり、その謎に迫ることは危険を伴う為、緊迫したシーンが続きスリリングな楽しさがある。
    また、庄三郎が戸田家の人々と交流する事で、人を愛おしむ心が彼の心に生じてくる様の描写も美しい。
    それと庄三郎の秋谷の娘 薫に対する恋愛の様子がいかにも不器用で微笑ましかった。

    物語のクライマックスからエンディングも感動的で、この美しい物語にふさわしい。
    ここでは、庄三郎の人間としての成長が如実に出ていて本当に素晴らしいシーンであった。

    非常に完成度の高い良い小説だと思う。
    ただ物語が美しければ美しいほどいかにも作り話という感じがしてしまうので、その部分のバランスさえ良ければ満点だ

  • 「蜩ノ記」
    映画は見ていないが文庫になっていたので読んでみた。
    お家騒動に巻き込まれ10年後の切腹を申しつけられ、その10年間の間に藩の歴史を編纂するように言いつかった戸田秋谷の物語である。
    物語はひょんな弾みで親友に怪我を負わせ、切腹処分の代わりに戸田秋谷の監視役として派遣された檀野庄三郎の話から始まる。
    庄三郎は次第に秋谷の清廉潔白で領民たちを思いやる心に動かされていく。
    お家騒動の原因が次第に解き明かされていく謎解きと、迫る秋谷の切腹、そしてその中での秋谷、庄三郎、その他の登場人物の思いがよく描かれており、引き込まれる。
    秋谷は自分が切腹することについて、やることはやったので思い残すことはないと言うが、慶仙和尚に残された者の思いを汲んで死ぬことをためらう心があることが本当の悟りだと諭される。
    主人公の戸田秋谷が己の意志を貫くあまりにストイックな理想的な武士に描かれすぎているところが少々気になるが、いい作品だと思う。
    映画は役所広司、岡田准一が演じているが一度見て見たい。

  • 珍しく時代小説を読んでみた。
    主命により切腹の日を決められている秋谷は静かに家譜編纂をしながら日々を暮らしている。
    毎日が死へのカウントダウンであり、そもそも切腹しなければならない理由にも理不尽なものがある。
    遺していかなければならない家族もいる。
    無念さは感じないのだろうか?悔しくはないのだろうか?
    読み始めたときにはあまりにも達観しているような秋谷に違和感を感じた。
    取るに足らないような地方の村にも生活をしている人たちがいる。
    年貢をめぐり、さまざまな問題も起きていく。
    侍(搾取する側)と百姓(搾取される側)では立場も違う。
    けれど、少しでも相手のことを思いやる気持ちがあれば…。
    いや、きっと時代背景を考えると侍が百姓を思いやる意識などなかっただろう。
    ならば有能な役人として効率的な仕事をすればいい。
    保身だけを考えるのではなく、百姓からいかに多くの年貢をトラブルなく集めるか。
    そこだけを考えればいいのに、と思ってしまった。
    子供にまで威張り散らすような輩にはプライドがないのだろう。
    彼らの保身に染まった行いは、対比としてより一層秋谷の静謐さを際立たせている。
    すべてを受け入れて静かに真っ直ぐに残された人生を生きていく。
    間近でそんな秋谷の生き方を見守ってきた庄三郎もまた、彼の影響を受け変わっていく。
    秋谷の思いは庄三郎に、そして郁太郎に引き継がれていく。
    終盤の家老が語る秋谷の心境部分はいるだろうか。
    たしかに腑に落ちるものもあり、読み手には親切かもしれない。
    だがとってつけたような説明はそれまでの物語に流れてきた空気とあきらかに違うような気がするのだけれど…。
    時代小説はほとんど読んだことがない。
    だからかもしれないが、物語の世界にどっぷりとつかりながら読むことができた。
    秋谷という人物の凛とした生き方に心洗われるような物語だった。

  • ラジオなどの口コミ、あるいは、映画の評判がよかったので、初めて日本の時代小説を読む。
    最初は、時代小説ならではの語句に少し戸惑ったものの、慣れると、物語の内容に吸い込まれる。
    作品の魅力だろうか。
    登場人物の機微、あるいは、それと重なる自然の描写がきれいだった。
    フィクションなのはもちろんだが、「物語の内容は、現代小説にあるような展開かもしれない。それが江戸時代にかわっただけ」。そういう表現もできるかもしれないが、やはり、人物の心情、生き様…それらを描くには、この内容がぴったりだと思った。
    人間の機微を描く、時代小説が自分にはあっているようだ。
    推理小説のような展開、それと並行してすすむ登場人物の心の有りよう、すべてよかった。
    満足の1冊。

  • この分野ではすでに、藤沢周平が確立してるのに、なぜ書いたのか?
    美しい精神と大きな技量を併せ持つ源吉を簡単に死なせてしまい、周りの、人間の怒りは凄まじいものと察するなのに、家老中根を殴りつけて終わってる。現実は、こんなものかもしれないが、そこは、小説ですよ。戦国時代じゃないんだから、勧善懲悪を見せてほしかったなあ。最後に中根が過去を述懐するシーンは、要らない。あんな盛り下がるシーンないなあ。むしろ郁太郎を主役にすればよかったのに。

  • ☆5.0
    直木賞受賞作ということでかなり期待値高く読み始めましたが、その期待に充分答えてくれる作品でした。

    切腹の日が定められ山村に幽閉されている秋谷と、城内で不祥事を起こし秋谷の監視のため山村に遣わされた庄三郎。
    命の刻限が迫るにもかかわらず武士として自らを律し生きる秋谷を間近に、その切腹を命じられた罪過は誤りだとの確信を持ち、庄三郎は自ら調べ始めるが…。

    文中、源吉と慶仙和尚の言葉が深い。
    その言葉だけを抜き書きしておこうかと思う位に重みのある言葉が並ぶ。

    武士とは、武士の矜恃とはこのようなものかと心に迫る作品。

  • 日本人に産まれて良かったと思うような傑作時代小説。第146回直木賞受賞作も頷ける。これほど心に訴えてくる小説は無い。

    不始末により切腹と引き換えに幽閉中な戸田秋谷の監視を命ぜられた檀野庄三郎…秋谷の元で過ごすうちに庄三郎が行き着いた場所は…

    この時代小説の面白さは、我々に武士としての志と清廉な生き様を示してくれるだけではなく、庄三郎が秋谷が幽閉された理由を解き明かすミステリーの要素も秘めているからではないだろうか。

    あまり時代小説を読まぬ自分でも、驚くほど素晴らしいと思う小説だった。

  • 「――ひとはどうしようもないことで罪に問われることがあるのだ」

    豊後羽根藩にて奥祐筆を務めていたものの、些細なことから城内で刃傷騒ぎを起こした檀野庄三郎。彼は家老の温情で切腹を免れるが、ある密命を帯びて城下を放逐される。
    密命とは、7年前、藩主の側室との不義密通の罪を犯したとして、10年後の切腹と藩主・三浦家の家譜の編纂を命じられ、現在は家老の所領である向山村に幽閉されている戸田秋谷を監視することだった。

    秋谷の切腹までの期日は3年。庄三郎は自分の命が助かるのと引き換えに、戸田秋谷が死ぬのを見届けよ、という過酷な使命を課せられたのだ。
    向山村で秋谷やその家族と寝食を共にし、家譜の編纂を手伝い、秋谷自身の剛直な背を見るうちに、庄三郎は次第に彼の無実を確信するようになる。
    やがて庄三郎は、秋谷が切腹を命じられる原因となった側室襲撃事件の裏に隠された、宇羽根藩家中に渦巻く重大な陰謀に辿り着くが――。
    多くを語らない秋谷の背中は、身分を超えて多くの人々の心を揺さぶるというのに、本人である彼自身は、決して命の期限を動かそうとしない。
    夫として父として家族を、武士として人として、主家や村人たちを守りぬく。限られた命の残りの日々を、疑うことなく誠意を尽くし、逃げることなく生きる姿は晩夏を鳴きつくす蜩の聲にも似て。

    庄三郎が秋谷の元を訪れてからの3年間を、彼の目を通して描かれるが、この物語にはもう一つの視点がある。秋谷の長男・郁太郎である。
    郁太郎には身分を超えた友人がいる。村の子供・源吉だ。この子がおどろくほど人間が出来ている。
    大人たちは重い年貢の取り立てや農作物の不作に不満を漏らすが、源吉は不満を言っている暇などない、と屈託なく笑う。
    呑んだくれて役に立たない父親を責めもせず、母を助け、妹を可愛がる。武士が威張り散らすのを目の当たりにしても、この世のことはみんなお天道様が決めなさる。と達観している。
    源吉の聡明さは郁太郎を何度も助け、その精神を成長させるが、彼には突然の理不尽な死が待っている。
    この源吉の非業の死が、物語の終わりに秋谷の避けられない死の意味を違うものに昇華させる。
    秋谷は無実の罪を負って死ぬのでなはなく、藩と領民のために死ぬのだ。

    忠義と覚悟。生きることの意味と死ぬことの意義を、凄烈に問う歴史小説である。

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