木暮荘物語 (祥伝社文庫)

著者 :
  • 祥伝社
3.61
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本棚登録 : 4029
レビュー : 431
  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784396340698

作品紹介・あらすじ

小泉今日子さん 「あぁ、私はこの物語がとっても好きだ。」 (「読売新聞」2011年2月6日)

小田急線・世田谷代田駅から徒歩五分、築ウン十年。
ぼろアパートを舞台に贈る〝愛〟と〝つながり〟の物語。

小田急線の急行通過駅・世田谷代田から徒歩五分、築ウン十年、全六室のぼろアパート木暮荘。そこでは老大家木暮と女子大生の光子、サラリーマンの神崎に花屋の店員繭の四人が、平穏な日々を送っていた。だが、一旦愛を求めた時、それぞれが抱える懊悩が痛烈な悲しみとなって滲み出す。それを和らげ癒すのは、安普請ゆえに繋がりはじめる隣人たちのぬくもりだった……。

感想・レビュー・書評

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  • 家族団欒の楽しいひととき。親子揃ってテレビを見ているそんな時に、画面に突然展開する『ベッドシーン』。自分だけなら「おっ」と乗り出してしまう人もいるかもしれないシーンだったとしても、それが家族が横にいるとなると全くの別物です。気まずい空気。引きつる家族。凍りつくお茶の間。早く終わってくれと親も子もそれぞれの気持ちで過ごすある意味拷問のような時間を経験したことは恐らく誰にでもあることだと思います。お茶の間の空気を一変させる破壊力抜群のこれらのシーン。どうして、その番組にそのシーンを入れる必要があったのか。家族団欒の場に放送されることをなんとも思わなかったのか。日常生活の一つの場面であったとしても、ベッドシーンを入れるかどうかの判断は別物です。テレビの場合には『視聴者サービス』という短絡的な視点もあったのかもしれません。一方、必ずしも万人を同時に対象とはしていない小説ではどうでしょう。敢えて『性』の話題、表現を極端なまでに排除した作品があります。一方、それを排除しない作品もあります。後者の場合であっても、作家さんの表現力次第で見え方も随分と変わってきます。敢えて『性』の話題を入れることで描きたかったものがある。『読者サービス』などではない何かがそこにある。そう、この「木暮荘物語」は『性』を前面に押し出した作品です。

    『小田急線の世田谷代田駅から徒歩五分にある木造二階建ての木暮荘』そこには、全部で6つの部屋があり、大家の木暮を含めて三人が暮らしています。彼らと木暮荘に何かしら関係する人々が登場するこの作品。7つの章ごとにそんな彼らに順に視点が切り替わっていく連作短編集となっています。

    第一章の〈シンプリーヘブン〉では、203号室に暮らす坂田繭の視点から物語が展開します。『住むところが見つかるまで、ここにいさせて。だって、俺たちつきあってるだろ?』いきなりかつての恋人・並木が部屋に入ってきてビックリの繭。そこには『布団に全裸であぐらをかき、股間にタオルケットをかけた姿』の現在の恋人・晃生がいたからです。三年前に急に繭に何も言わずいなくなった並木。『並木はいったい、どこでなにをしていたんだろう。どうして急に私のまえからいなくなり、また急にやってきたんだろう』。繭はそんな並木を訝しがりながらも『私が真ん中になって、三人で手をつないで寝てます』という不思議な三人の生活が始まるのでした。かつての彼と今の彼、でも何故か気の合う二人。『もういっそのこと、三人でやっちゃうってのはどうかな』『そんなの、私ばっかり疲れるじゃない』と性的な話題もとても軽く描かれています。

    でもそんな一見弾けているかに見えた第一章の主人公・繭も他の章で他の住人視点に切り替わると、ただの登場人物の一人になり下がります。そして他の住人からは『地味で現実そうな坂田』『地味な感じの務め人』『地味な女にふさわしい、地味な生活』と一気に違う色合いに変わってしまいます。視点が変わることで、見えている世界がごろっと変わる連作短編集の面白いところです。

    そして、この作品の『性』はどんどん過激な表現で前面に出てきます。つづく〈心身〉では70歳を超えた老人の木暮視点。友人の見舞いに病院を訪れた木暮に『俺ァ、もうだめだよ。かあちゃんにセックスを断られた 』と泣きつかれます。そして、これを起点に『遠からず、死が木暮を訪う。そのとき、最後にぜひセックスさせてくれと頼んで断らない相手が、木暮は欲しい』と、セックスのことが頭から離れなくなっていく木暮の苦悩が描かれていきます。また、〈穴〉では、『天井から覗き見る女子大生の生活は、神崎にとっては衝撃以外のなにものでもなかった』と、女子大生の生活を真上の部屋から覗き見する男・神崎が描かれます。他にも『男根状物体』、『不倫』、『ストーキング』など、家族の団欒の場では読むのを躊躇する表現が頻発するのには流石に驚きました。

    ただ、確かに後半に向けて『性』の表現が過激になる一方で、嫌らしさ、下品さというよりは、三浦さんの絶妙な表現具合から、一貫してとてもサバサバとした印象を受けました。しかし、その裏に扱われている内容自体は、老人と性であったり、不妊であったり、命を奪った過去であったりととても重いテーマであり、『性』の表現のある意味の軽さがちょうどいい塩梅に作品が暗く重くなりすぎるのを避けるために使われているようにも感じました。

    木暮荘というアパートは、『古いし、狭いし、使い勝手が悪い。玄関のドアなんて合板で、防犯にすぐれているとはとても言えない』と建物としては『死』を間近にした終わりの見えるボロアパートです。でも、その中に暮らす人々、老若男女の彼らは実に活き活きとした今を生きています。この対比がとても印象に残りました。

    ありえないと思う一方で、代田駅に行けば、木暮荘が、そして彼らの生活が現実にそこにあるかのように感じられる不思議なリアル感。当初、その書名から受ける印象で、ほのぼのとした笑いに満ち溢れた人々の人情溢れる生活風景が描かれる作品かと思いましたが、そこに描かれていたのは、もっと人間味に溢れ、それぞれが抱える悩み、苦しみにしっかりと向き合って生きていこうとする老若男女の『性』と『生』でした。視点の移り変わりによって、単に軽いだけと見えていた人が背負っていたものの重さに驚き、単に軽薄に見えていた人に隠されていた優しさを知る、連作短編集という構成をとても上手く活かした、思った以上に奥の深い作品だと思いました。

    • トミーさん
      さてさてさんのレビューに感動しています。
      さてさてさんのレビューに感動しています。
      2020/04/15
    • さてさてさん
      トミーさん、こんにちは。
      コメントありがとうございました。
      また、よろしくお願いします。
      トミーさん、こんにちは。
      コメントありがとうございました。
      また、よろしくお願いします。
      2020/04/16
  • 面白かったです。
    思わぬ展開に、すこしばかり赤面しながら読了。

    一番好きだったのは#ピース
    友人の赤ちゃんをあずかることになった女子大生のお話。
    赤ちゃんに振り回され、彼女が次第にママになっていくのが微笑ましかったです。
    後は、妙なきっかけでヤクザと知り合いになったトリマーの恋物語も。

    登場人物の人間くささが、妙にせつなかったり、
    どこか人肌のぬくもりのようなものを感じる短編集でした。

    それにしても、人間という生き物は面倒くさい生き物ですね。
    煩悩を抱え悶々としていながら、生半可なプライドが邪魔をして素直になれない。
    それに比べて、ジョンのなんとお気楽なことか。
    あぁ、羨ましい。

    ちなみに、シャンプーされたら毛の色が変わって、柄が出てきたジョン。
    どれだけ汚れてたんだ!(笑)

  • 三浦しをんさんの本は9冊目になる。
    出会いとなったのは【風が強く吹いている】
    それまで三浦さんの本を手にしたことがなかった私が、【風が…】と出会えたのはブクログのおかげ。
    全く知らなかった本だったが、ブクログでの評判がとても良く、読んでみようと思うきっかけとなったから。
    それが2010年のこと。
    それから三浦さんの本は7冊読んだことになる。
    【舟を編む】や【まほろ駅前多田便利軒】なども読んだのだが…
    【風が…】の時のように心に強く吹き込んでくる本とであえず…
    たまたま、古本屋さんに並ぶこの本を手にしたとき、帯にキョンキョンの「あぁ、私はこの物語がとっても好きだ」という書評が目に入った。
    その結果、「これは、読まなくちゃ~」となったわけで~(笑)
    で、読んでみたら、面白かった!
    日曜日の遅い朝、オウボンパン(カフェ)で読み始めたら…
    思わず、吹き出してしまった!!
    本を読みつつ、声を出して笑ったのは久々~(苦笑)
    そこからはもう、面白いと思ったり、ちょっと切ないと思ったり、考えさせられたり、7作の連載短編に気持ちを持ってかれました。

    小田急線・世田谷代田駅から徒歩5分の築ン十年のおんぼろアパート”小暮荘”
    2階建て全6室。
    1階に住むのは大家の小暮老人。
    その隣には3人の彼氏がいる女子大生。
    2階にはフラワーショップで働く女性と女子大生の部屋をのぞき見する男性。
    この4人を取り巻く人々の連載短編小説。

    読み終えて、思うこと。
    小暮荘は建て替えないで~!
    そして、小暮荘物語、カムバ~ック!!

    • けいたんさん
      こんにちは(^-^)/
      毎度コメントしてしまってすみません。

      「風が強く吹いている」のように心に風を吹きこんでくれる作品と書いてあ...
      こんにちは(^-^)/
      毎度コメントしてしまってすみません。

      「風が強く吹いている」のように心に風を吹きこんでくれる作品と書いてあってもう興奮中です!購入決定です。
      キョンキョンの書評は読売新聞の時に読んでいたのですが、とてもいいですよね〜♪

      重松清さんのお勧めもありがとうございました。どの作品も評価が高くて迷ってしまいます。
      azu-azumyさんの書いてくれた順番に読むことにします。

      「ナオミとカナコ」は、もう!と思いながらも放っとけないって感じです。
      「イン・ザ・プール」は本棚で眠っています(笑)もう少ししたら起こしてみます。

      本当にいつもありがとうございます♪
      失礼しました。
      2015/12/17
  • 木造2階建…おんぼろアパート木暮荘に住む4人とそこに関わる人々にまつわるあれこれ。
    1人ひとり、7つのエピソードからなる短編連作。
    元彼に居座られるもなんとなく許してしまう繭と今彼。
    70歳を過ぎて突如として性に目覚めてしまった大家でもある木暮。
    人殺しをしたかもしれない美禰。
    階下の女子大生の部屋を覗き見するサラリーマン神崎。
    彼氏が1号から3号までいる女子大生。
    真夜中に出かける夫に浮気を疑う佐伯さん。
    食べ物から嘘や浮気が分かってしまうニジコ。
    ざっくり見る人間らしさはコメディなんだけど、それぞれの抱える事情は切ない。
    共通のテーマは〝性〟ですが結局〝性〟も人それぞれで正しいとか間違ってるとか言えるはずもない。どうにもならないことだってある。
    ただ自分にしか分からない苦しみや哀しみに折り合いをつけて生きていく。それだけ。
    奇異に思える癖やあれこれも木暮荘の人々だけでなく誰にとってもあり得ることなのかも知れない。
    誰だってみんな自分は〝まとも〟 と思っているからね。
    今年の12冊目。
    2020.4.27

  • 見た目はぼろで安普請だけど、小暮荘の住人とそこに集まる人々には愛がいっぱい詰まっている。
    つながり方は一風変わっているが、笑いあり、涙ありで安らぎをもたらしてくれる、味わい深い物語だ。
    ここで暮らせるのは、人生のほんのひとときかもしれないけど、こんな温かい生活がずっと続いてほしい、とひそかに願ってしまう。

  • 和らげ癒すのは隣人たちのぬくもり、というあらすじを読んで手にとったものの。ぬくもりを感じるまでのネットリとした暗さにギョッとする。
    感想をどう書こうか、とぐるぐるしてしまう。

    築ウン十年の木造ボロアパート小暮荘の7篇。

    花屋で働く繭は、伊藤と穏やかな交際を続けていたが、そこに3年前にふらりといなくなった元彼の並木が転がり込んで。
    大家の小暮老人の突然湧いた性の衝動。
    トリマーの美禰がホームで見つけた卑猥な形のキノコとそれが結ぶ縁。
    花屋兼喫茶店を営む夫妻と変化したコーヒーの味。
    会社員の神崎のストレスの吐口は階下の女子大生の部屋の覗きだった。
    誰にも言えない秘密を抱えた光子。大学の友達が産んだ赤ちゃんを預かることになるが。
    繭に執着する並木と嘘付きの味がわかるフジコ。

    それぞれの想いと生活が小暮荘を中心に、時にかすめて混ざり合う。
    そんなに安らぎを与える場所でもないような。
    でもやっぱり、なんとなく癒されているのかも。

  • 帯に書かれた「あぁ、私はこの物語がとっても好きだ」と言う小泉今日子さんのコメントと、住宅街に建つ古びた二階建て木造アパート「小暮荘物語」の説明から「メゾン一刻」を想像し管理人さんとその住人との仄々とした話と思い読み始めた。
    が、その想像は全く異なっていた。そこに住む人たちは、変な人たち。そしてどれもが性に絡んでいる。今までの三浦しをん先生とは異質のこの作品に「戸惑った」と、言うのが正直な感想。

    アパート1階には70を過ぎているのに女性とセックスがしたいと移ってきた大家の小暮。その隣に住む男性にもルーズな女子大生の光子。女子大生の生活を自分の隣の空き部屋に侵入して覗き見をする会社員の神崎。そして、元彼が押し掛けてきて今彼と3人で暮らすフラワーショップの繭。

    読み終えてどこが面白かったのか振り返った時、自分が三浦しをん先生の作品に性を求めているのではなく、小説としての感動を求めていたのに…と、いう想いが、戸惑った原因だとわかった。
    この作品は何を伝えたかったのかを考えた時、性ではなく生をメッセージとして、人間の子孫繁栄という潜在的意識に「自分の心に真摯に生きていく」と言うことを伝えたかったのかもしれないとも思った。時間をおいてもう一度読んで見て、改めて考えてみたい。

  • 2015.02.02読了。
    今年5冊目。

    キョンキョンの「あぁ、私はこの物語がとっても好きだ。」という感想が帯にあったけど、まさに私もそう思う。
    この物語が大好きだし、続きが読みたい。
    どの話も、どの登場人物も好き。
    バラバラだった住人たちに少しずつ交流ができていき、深い繋がりではないんだけど心地よい関係を築いている。

    それぞれの話も好きだけど、小暮荘の雰囲気も好きなんだよなー。
    庭の感じとか特に。

    そんな感じだからか、全体を通して性についてセックスについて割と生々しい内容にも関わらず、爽やかで明るい印象でどろっとした感じが全くない。
    巻末の感想を読んでてそう言えばそうだなと気付いたくらい。

  • リアルな個性を持った人たちのおかしな繋がりの物語。私が一番不快に感じたのは「黒い飲み物」。心がざわついた。そして深く理解できてしまった。

  • クライシスノベルを読んだ後で、本書を手に取ると、ホッとして、何気ない毎日が愛おしくなってくる。
    おんぼろアパートの住人とその周りの人々。
    こんな人たちがいるアパートに、住んでみるのも一興か。

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著者プロフィール

三浦 しをん(みうら しをん)。
1976年、東京生まれの小説家。出版社の就職活動中、早川書房入社試験の作文を読んだ担当面接者の編集者・村上達朗が執筆の才を見出し、それが執筆活動のきっかけになった。小説家の専業になるまで、外資系出版社の事務、町田駅前の古書店高原書店でアルバイトを経験。
2006年『まほろ駅前多田便利軒』で直木賞受賞。2012年『舟を編む』が本屋大賞に選ばれ、翌年映画化された。2015年『あの家に暮らす四人の女』が織田作之助賞受賞。また、『風が強く吹いている』が第一回ブクログ大賞の文庫部門大賞を、2018年『ののはな通信』が第8回新井賞を受賞している。
Cobalt短編小説賞、太宰治賞、手塚治虫文化賞、R-18文学賞の選考委員を務める。最新刊に、『愛なき世界』。

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