潮鳴り (祥伝社文庫)

著者 :
  • 祥伝社
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本棚登録 : 493
感想 : 33
  • Amazon.co.jp ・本 (400ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784396342098

感想・レビュー・書評

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  • 痛快な復讐劇で大変面白かった。
    前作「蜩ノ記」のような心に染みるような感動作ではないが、先の展開を期待しながら清々しい気持ちで読み切れた。シリーズといいながら舞台となる羽根藩が同じだけでどれから読んでもokの続きものでした。

  • 時代と場所を江戸時代は九州の羽根藩に借りての、失敗人生を再生する物語です。

    ゆえあって(友人が葉室さん好きなので)読みましたけど、そして最後まで読ませられましたが、
    作者や作品が悪いのではなく、同じ作者をもう13冊も読むと飽きて感想はもういいかなと、
    無精を決め込んで、感想と違うことを言おうかな。

    *****

    潮鳴りといえば
    小学一年生の夏休み、海水浴に生まれて初めて連れて行ってもらった時のことを思い出します。
    妹や弟はまだ幼児で、わたしひとり、父が連れっててくれました。

    海岸は当時住んでいた名古屋から近い「富田浜(とみだはま)」というところ。
    (今や、もう浜辺はなく埋め立てられてしまっていると思いますが)

    白い砂、広い海、ざーん、ざーんの波音、人々の喧騒
    海を意識したのが初めてでびっくりして、呆然とした記憶があります。

    よしず張りの小屋も珍しく、そこから見る海のけしきのきれいなこと、
    人々の様子のおもしろいこと、見飽きませんでした。

    ひと泳ぎ、もとい、ひと浸かりして、母が作ってくれたおにぎりを食べてから、
    磯臭い砂のざらざらのござで、昼寝する父のそばで絵を描きました。
    (わたしの祖母がしまっておいたくれた)その時の絵日記が残っています。

    役所勤めの父親、せっかくの日曜日をつぶして長女だけのためにしてくれたこと。
    思い出を作ってくれた、若い父の姿が目に浮かびます。

    そして帰りの混んだ電車のなかで日に焼けた背中を痛く思いながら、
    ぐっすり眠ったしまったことをなつかしみます。

    昭和23年夏、まだまだ戦後の混乱おさまらず、余暇が贅沢だった時代。

  • 面白かった!
    「蜩ノ記」に続く羽根藩シリーズ第2弾となっていますが、羽根藩が舞台と言う事以外は関係ありません!
    池井戸潤のような企業小説の陰謀系の勧善懲悪ストーリ+時代小説の武士の生き様を加えたような印象(笑)
    とはいえ、本質は主人公の再生の物語です。

    ストーリとしては、
    俊英と謳われた豊後羽根藩の伊吹櫂蔵は、役目をしくじりお役御免。漁師小屋で”襤褸蔵(ぼろぞう)”と呼ばれる無頼暮らしをしている中、家督を譲った弟が切腹。遺書から借銀を巡る藩の裏切りが原因と知ることになります。直後、なぜか藩から出仕を促された櫂蔵は、弟の無念を晴らすべく城に上がることに。
    弟の遺志をつごうとしますが、そこには様々な苦難が..
    さらには、藩内にうごめく謀略・陰謀。どう立ち向かっていくか..
    といった展開。
    そして、櫂蔵を支える女お芳。そのお芳に厳しくあたる義母の染子のストーリも素晴らしい!

    「ひとはおのれの思いにのみ生きるのではなく、ひとの思いをも生きるのだと」
    「わが命は、自分をいとおしんでくらたひとのものでもあるのですね」

    ぐっと胸が熱くなる言葉です。

    とってもお勧め!!

  • 落ちるところまで落ちた櫂蔵が、弟の自害を契機に、這い上がって行く。
    身寄りなく、客をとって身を立てていたお芳との心の共鳴は、孤独と絶望を感じた者の間でしかわからない世界が広がっていた。
    深みある読み応えのある作品だった。

  • 蜩ノ記から読んで感動して、乾山晩秋というデビュー作を含む短編集を読んだ時は、淡々とした抑制の効いた文章で驚きました。その短編集でも、後半に向かって、少しポップな感じ?になって行くのですが、作風にそういう濃淡があるような気がします。そういう意味では、本作はかなりポップよりな、時代小説ではあっても2010年代に書かれただけあるなという感じ。えっ、そんなことになってしまうの?と悲しくて泣けましたし、いい話だったけど、最後にまさかそんな水戸黄門の印籠みたいなまとめになるとは思いませんでした。

  • 九州豊後の羽根藩士である伊吹櫂蔵は、勘定方として出仕していたおり、酒席での失態から身を持ち崩し、転落の人生を送っている。長男であったが継母である染子にも疎んじられ、染子の実子である弟の新五郎に家督を譲ることとなった。新田開発奉行並として凛々しく出世した腹違いの弟新五郎と比べ、櫂蔵は襤褸蔵(ぼろぞう)と呼ばれる有り様。お芳という訳ありの女性が営む飲み屋で酒に溺れ、時にそのお芳と肌を合わせ、博打ですったあげく海辺の漁師小屋に寝泊まりしている。そんな矢先、弟の新五郎が櫂蔵の元を訪ねたあと、切腹をして果てたと知らされる。さらには櫂蔵のもとに勘定奉行が現れ、新五郎の職であった新田開発奉行並を継げと命じられる。弟の無念を晴らすため、櫂蔵は新五郎の職につくが……。
     櫂蔵が新五郎の無念を晴らしていく物語の中で、周囲の人々の裏のエピソードひとつひとつが謎を解く上での鍵になり、次々と扉が開いていく様が心地よく、どんどん読み進んでしまう。
    「懸命に生きることは無様でござるか」
    「落ちた花は二度と咲かぬと誰もが申します。されど、それがしは、ひとたび落ちた花をもう一度咲かせたいのでございます。(中略)二度目に咲く花は、きっと美しかろうと存じます。最初の花はその美しさも知らず漫然と咲きますが、二度目の花は苦しみや悲しみを乗り越え、かくありたいと願って咲くからでございます」
     櫂蔵の生き様はこのふたつの言葉に尽きる。
     お芳は今生で咲くことはかなわなかったが、櫂蔵や染子の胸に永遠に咲く花となった。
     この継母染子の存在、後半の素性が明らかになって物語を動かしていく様が痛快。
     悲しみがひたひたと打ち寄せる物語の中で、人々の信念、死ぬよりもつらい生き続けることを選んだ櫂蔵たちの姿が胸を打った。

  • 羽根藩シリーズ第2作目。

  • 羽根藩シリーズ第2弾、第1作「蜩ノ記」の方が良かったかな?
    でも硬質な文章は嫌いではない。

  • 羽根藩シリーズの2作目。
    1作目「蜩ノ記」は「隠密の花」がテーマ。
    表舞台ではなく、誰にも評価されぬ、
    それどころか無実の罪にて切腹が決まった中で、
    誠実に清廉に生きる男の姿を描く。
    対して2作目は「落花を咲かす」がテーマ。

    一度落ちた花は、咲くことがない。
    それでも、もう一度咲かそうという物語。
    人生をやり直す、再起を果たすことは可能なのか。
    人は挫折から立ち直ることができるのか。
    堕ちるところまで墜ち、ボロボロとなっても、
    そこから這い上がることが出来る。
    そんな強いメッセージを感じる。

    もちろん簡単ではない。
    自分だけでなく、他者にも認めさせる必要もある。
    信頼を失った者が、それを取り戻すのは至難の業。むしろ周囲は足を引っ張ろうとする。
    引っ張られても仕方ない過去もある。
    それでも変わろうと思えば変われる。
    困難に立ち向かい、
    どんなに笑われようとも自分を貫き続ける。
    そうすれば、ひとつずつ変わっていく。
    いくしか味方になる者も出て来る。

    正直者が報われ、悪は討たれる。
    その陰で犠牲となる者が出る。
    正義の途上で、舞台を去る者もいる。
    その哀しみの上に、花は咲く。
    最後まで諦めなければ、いつか叶う。
    そう信じたい。

  • 一度失敗を犯した者が再び花開くことが可能なのか、という命題がテーマになった作品。
    無駄なプライドを捨てて、自分に正直に、かつ自分のことをきちんと見てくれる人の想いに報いるべく生きることの価値を一貫して綴られています。
    やもすれば青臭い理想論になってしまうところですが、葉室氏の巧みな人物描写とストーリー構成で、力強い感動的な読後感を味わうことができました。

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著者プロフィール

1951年、北九州市小倉生まれ。西南学院大学卒業後、地方紙記者などを経て、2005年、「乾山晩愁」で歴史文学賞を受賞しデビュー。07年『銀漢の賦』で松本清張賞を受賞し絶賛を浴びる。09年『いのちなりけり』と『秋月記』で、10年『花や散るらん』で、11年『恋しぐれ』で、それぞれ直木賞候補となり、12年『蜩ノ記』で直木賞を受賞。著書は他に『実朝の首』『橘花抄』『川あかり』『散り椿』『さわらびの譜』『風花帖』『峠しぐれ』『春雷』『蒼天見ゆ』『天翔ける』『青嵐の坂』など。2017年12月、惜しまれつつ逝去。

「2023年 『月神』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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