潮鳴り (祥伝社文庫)

著者 :
  • 祥伝社
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感想 : 40
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  • Amazon.co.jp ・本 (400ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784396342098

感想・レビュー・書評

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  • 痛快な復讐劇で大変面白かった。
    前作「蜩ノ記」のような心に染みるような感動作ではないが、先の展開を期待しながら清々しい気持ちで読み切れた。シリーズといいながら舞台となる羽根藩が同じだけでどれから読んでもokの続きものでした。

  • 仕事な人生で挫折を経験し、やさぐれた生活をした人が再起を図る勇気をもらえる本。周りの人の信頼、支えのありがたさを改めて感じるきっかけになる。

  • 著者は、出版社によって作品を書き分けているそうで、舞台とする藩についても、角川版には架空の扇野藩を、この祥伝社では、やはり架空の羽根藩を用いている。
    羽根藩シリーズと銘打たれるが、羽根藩が舞台というだけで、一部を除きそれぞれの作品に関連性はなく、登場人物にもつながりはない。
    第一弾の直木賞受賞作『蜩ノ記』は、死を意識した所から始まる「生の美学」であるのに対し、第二弾の本書は、「落ちた花は再び咲かすことはできるのか」をテーマにした再生の物語となっている。
    役目を失敗して、お役御免となった伊吹櫂蔵が主人公。
    彼が弟の切腹をきっかけに、それまでの無頼な暮らしを改め、弟の無念を晴らすべく、真相究明に立ち上がる。
    彼の再生を手助けするのが、大店の元手代で、今は俳諧師の咲庵と、さらに櫂蔵が死を意識したとき、彼を抱いて引き留めた居酒屋の女将お芳。
    彼らの助力により、宿願を果たした櫂蔵は、「ひとはおのれの思いのみに生きるのではなく、人の思いを生きる」のであり、「落ちた花はおのれをいとしんでくれたひとの胸に咲くのだと存じます」と、述懐する。
    題名の「潮鳴り」は、咲庵が吐露する言葉から。
    「潮鳴りが聞こえるでしょう。わたしにはあの響きが、死んだ女房の泣き声に聞こえるのです」
    しかし、宿願を果たした櫂蔵は、潮鳴りはいとしい者の囁きだったかもしれぬ、と考え、いまもお芳が静かに囁き、励ましてくれているのだから、一生潮鳴りを聞いてゆくだろうと、心に誓う。

  • 一旦は落ちるところまで落ちた主人公が弟のために決意する。
    藩で奔走する主人公らの傍ら、家で一生懸命働く女性たち。
    弟の無念や村娘の行く末など、哀しく悔しい話もありながら周囲に認められ支えられて目的を成していく。
    絶望しながらも生き抜く覚悟をもってあがく泥臭い主人公が格好いい。

  • 落ちるところまで落ちた櫂蔵が、弟の自害を契機に、這い上がって行く。
    身寄りなく、客をとって身を立てていたお芳との心の共鳴は、孤独と絶望を感じた者の間でしかわからない世界が広がっていた。
    深みある読み応えのある作品だった。

  • 時代と場所を江戸時代は九州の羽根藩に借りての、失敗人生を再生する物語です。

    ゆえあって(友人が葉室さん好きなので)読みましたけど、そして最後まで読ませられましたが、
    作者や作品が悪いのではなく、同じ作者をもう13冊も読むと飽きて感想はもういいかなと、
    無精を決め込んで、感想と違うことを言おうかな。

    *****

    潮鳴りといえば
    小学一年生の夏休み、海水浴に生まれて初めて連れて行ってもらった時のことを思い出します。
    妹や弟はまだ幼児で、わたしひとり、父が連れっててくれました。

    海岸は当時住んでいた名古屋から近い「富田浜(とみだはま)」というところ。
    (今や、もう浜辺はなく埋め立てられてしまっていると思いますが)

    白い砂、広い海、ざーん、ざーんの波音、人々の喧騒
    海を意識したのが初めてでびっくりして、呆然とした記憶があります。

    よしず張りの小屋も珍しく、そこから見る海のけしきのきれいなこと、
    人々の様子のおもしろいこと、見飽きませんでした。

    ひと泳ぎ、もとい、ひと浸かりして、母が作ってくれたおにぎりを食べてから、
    磯臭い砂のざらざらのござで、昼寝する父のそばで絵を描きました。
    (わたしの祖母がしまっておいたくれた)その時の絵日記が残っています。

    役所勤めの父親、せっかくの日曜日をつぶして長女だけのためにしてくれたこと。
    思い出を作ってくれた、若い父の姿が目に浮かびます。

    そして帰りの混んだ電車のなかで日に焼けた背中を痛く思いながら、
    ぐっすり眠ったしまったことをなつかしみます。

    昭和23年夏、まだまだ戦後の混乱おさまらず、余暇が贅沢だった時代。

  • 面白かった!
    「蜩ノ記」に続く羽根藩シリーズ第2弾となっていますが、羽根藩が舞台と言う事以外は関係ありません!
    池井戸潤のような企業小説の陰謀系の勧善懲悪ストーリ+時代小説の武士の生き様を加えたような印象(笑)
    とはいえ、本質は主人公の再生の物語です。

    ストーリとしては、
    俊英と謳われた豊後羽根藩の伊吹櫂蔵は、役目をしくじりお役御免。漁師小屋で”襤褸蔵(ぼろぞう)”と呼ばれる無頼暮らしをしている中、家督を譲った弟が切腹。遺書から借銀を巡る藩の裏切りが原因と知ることになります。直後、なぜか藩から出仕を促された櫂蔵は、弟の無念を晴らすべく城に上がることに。
    弟の遺志をつごうとしますが、そこには様々な苦難が..
    さらには、藩内にうごめく謀略・陰謀。どう立ち向かっていくか..
    といった展開。
    そして、櫂蔵を支える女お芳。そのお芳に厳しくあたる義母の染子のストーリも素晴らしい!

    「ひとはおのれの思いにのみ生きるのではなく、ひとの思いをも生きるのだと」
    「わが命は、自分をいとおしんでくらたひとのものでもあるのですね」

    ぐっと胸が熱くなる言葉です。

    とってもお勧め!!

  • 落ちた花は二度と咲かないとひとは言う。だが、もう一度、花を咲かせようと櫂蔵は思う。そして、咲いたとすれば、わが胸の奥深くに咲くお芳の花でございます。わたしが生きてる限りは、お芳の花は枯れずに咲き続けることでありましょう。
    そのために生きるのです。ひとはおのれの思いのみ生きるのではなく、ひとの思いも生きるのだと。それゆえ、落ちた花はおのれをいとおしんでくれたひとの胸の中に咲くのだと存じます。
    お芳と弟の新五郎を想い、仇を取るために紛争する櫂蔵。最後は、潮鳴りが、いとおしい者の囁きがきこえる。
    人を想い生きる事は、どんな事があらうが、生き抜かねばならない。そんなふうに感じた小説でした。

  • 羽根藩シリーズの2作目。
    1作目「蜩ノ記」は「隠密の花」がテーマ。
    表舞台ではなく、誰にも評価されぬ、
    それどころか無実の罪にて切腹が決まった中で、
    誠実に清廉に生きる男の姿を描く。
    対して2作目は「落花を咲かす」がテーマ。

    一度落ちた花は、咲くことがない。
    それでも、もう一度咲かそうという物語。
    人生をやり直す、再起を果たすことは可能なのか。
    人は挫折から立ち直ることができるのか。
    堕ちるところまで墜ち、ボロボロとなっても、
    そこから這い上がることが出来る。
    そんな強いメッセージを感じる。

    もちろん簡単ではない。
    自分だけでなく、他者にも認めさせる必要もある。
    信頼を失った者が、それを取り戻すのは至難の業。むしろ周囲は足を引っ張ろうとする。
    引っ張られても仕方ない過去もある。
    それでも変わろうと思えば変われる。
    困難に立ち向かい、
    どんなに笑われようとも自分を貫き続ける。
    そうすれば、ひとつずつ変わっていく。
    いくしか味方になる者も出て来る。

    正直者が報われ、悪は討たれる。
    その陰で犠牲となる者が出る。
    正義の途上で、舞台を去る者もいる。
    その哀しみの上に、花は咲く。
    最後まで諦めなければ、いつか叶う。
    そう信じたい。

  • やはり私は葉室さんの作品に触れると心が熱くなり、涙も出てしまいます。とんでもない悪党がいる一方、主人公とその周りの人たち、その人達が強くもあり弱くもあって人間らしい一方、お互い感化されていく。哀しい話には違いありませんが、希望、明るい希望のある最高の読後感でした。特に、お芳、染子といった女性がまた素晴らしいです。優しくて、そして芯から強くて。。。

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著者プロフィール

1951年、北九州市小倉生まれ。西南学院大学卒業後、地方紙記者などを経て、2005年、「乾山晩愁」で歴史文学賞を受賞しデビュー。07年『銀漢の賦』で松本清張賞を受賞し絶賛を浴びる。09年『いのちなりけり』と『秋月記』で、10年『花や散るらん』で、11年『恋しぐれ』で、それぞれ直木賞候補となり、12年『蜩ノ記』で直木賞を受賞。著書は他に『実朝の首』『橘花抄』『川あかり』『散り椿』『さわらびの譜』『風花帖』『峠しぐれ』『春雷』『蒼天見ゆ』『天翔ける』『青嵐の坂』など。2017年12月、惜しまれつつ逝去。

「2023年 『神剣 人斬り彦斎』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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