愚者の毒

  • 祥伝社
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感想 : 123
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  • / ISBN・EAN: 9784396342623

感想・レビュー・書評

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  • 『愚者』『毒』そして表紙のカラス。
    薄暗さしか感じない‥‥
    しかし、思いがけずなんともほんわかとした第一章。
    職安でたまたま出会った二人の女性、葉子と希美。二人はお互いに惹かれ合い親友になっていき、発達障害の疑いのある幼い甥の達也を連れた葉子は住み込みの家政婦の仕事に就く。
    この雇い主の理科の教師をしていたという難波先生と達也のやり取りがとても心温まるもので、訳あってここに辿り着いた葉子と達也を取り巻く人たちとのほっこりなお話なのでは?と勘違いしてしまいました。
    第二章からのあまりのトーンの違いに、読むスピードがガクンと落ちてしまった私。しかし、ミスリードに気付かされた途端に「は?どういうこと?」と超特急で読み進めました。
    賢者と愚者、薬と毒。
    どちらに転ぶかはその人次第。
    全てが回収されて無駄のない文章。
    読み応えたっぷりでした。

  •  タイトルの意味、構成内容がとても深く、心をえぐられる日本推理作家協会賞受賞作品でした。
     貧困と犯罪、社会の二極化を扱い、現在パートと過去パートを交互に描く作品は他にもあった気がします。けれども本作は、社会時事を取り込みながら、犯罪ミステリー・社会派寄りのヒューマンドラマとして、絶妙のバランス加減だと感じました。

     「私」という一人称展開で、「私」が誰なのかミスリードに混乱するなど、多くの伏線の張り巡らせ方と回収法も見事ですし、重いけれども先の見えない展開にも引き込まれました。
     3部構成で時代・場所が変遷し、各章題『武蔵野陰影』『筑豊挽歌』『伊豆溟海』も秀逸です。

     宇佐美さんは、貧困と飢餓、そしてそれ以上の絶望を読み手に突き付けます。社会への怒りさえ感じます。人の心に潜む暗い情念、負の側面、心の暗部を巧みに浮き彫りにしながら、読み手を激しく動揺させ、物語へ感情移入させてくれました。

     タイトルでもあり、終末の「愚者の毒」の解釈は人それぞれでしょうが、著者は哀しく弱い立場の者、他から愚かに見える(そうならざるを得なかった)人たちへ救済の光を当てたのだと思います。「愚者の毒」をもってして、"裁き"ではなく"安寧"を与えたのでしょう。

     愚者も毒も二面性があり、賢者と愚者、薬と毒の境界は曖昧です。でも、個人的に愚直な人や行為は好きです。そうなれない自分をさて置き、応援したくなりますもん‥。

  • 初読みの作者さん。フォローしている方々のレビューに惹かれて買ってみた。

    1985年、たまたま上野の職安で出会った葉子と希美。希美の紹介で葉子が深大寺の旧家で住み込みの家政婦として働くことになったのをきっかけに二人が関係を深めていく様が描かれる。
    閑静な武蔵野での出来事の間に挟まれる、2015年、伊豆の高級老人ホームで暮らす女性の述懐の中でさらりと語られる単語に物語の不穏さが増し、何は起きたのかを知りたくて頁を繰る手が進んでいく。
    中盤以降で明かされる真相は、最後の最後まで予断を許さない、小道具の使い方まで含めて手が込んだ作りで、とても良く出来ていると思った。
    ただ、第二章で、昭和の高度成長時代と対比して描かれる、1965年~66年にかけての筑豊の悲惨な生活の描写の濃さが強烈で、ミステリーとしての面白さが霞んでしまった印象も受けたのでした。

  • 第70回日本推理作家協会賞受賞作。

    面白かったです。
    表紙の絵の中学生男女二人の絵がアナログなかんじで、暗い色調なので、なかなか手に取る気になれなかったのですが、読み始めたら一気読みでした。

    2015年の夏、病気で伊豆半島下田にある超高級老人ホームで暮らす、難波葉子が夫の難波由起夫との間に起きたことを少しずつ語り始めます。

    1985年春36歳の香川葉子は職業安定所で生年月日がまったく同じ女性石川希美(きみ)と出会います。
    葉子には借金を苦にして心中した妹夫婦の子どもで甥の達也4歳がいます。達也には障害があり喋ることができません。
    希美は葉子に家政婦の仕事を紹介してくれます。二人の女性の間には友情が生まれます。
    葉子が働き始めた難波家には先生と呼ばれる主人の寛和と妻の佳代子の先夫との間の長男の由起夫がいます。
    由起夫は達也を非常に可愛がってくれ、葉子は由起夫に「達也の父親になってくれませんか」と身分不相応なことを口走ってしまいます。
    そんなある日寛和が不審死を遂げてしまいます。
    そして葉子は難波家の弁護士の加藤に達也は血の繋がりよりも、両親の揃った家庭に養子に出すべきだといわれ悩みだします。
    そんな時、加藤と加藤の秘書だった希美の乗った車が車の転落事故を起こし二人は落命します。

    そして物語の舞台は1965年の筑豊地方へ。
    これ以上先を書くと全部ネタバレになるので書きません。
    私は松本清張の『砂の器』のような話なのかと思いましたが、文庫解説の杉江松恋さんは小池真理子さんの『恋』を挙げられています。

    以上のレビューではどういう話なのかみえないかもしれませんが、勘の良い方ならわかってしまうかもしれません。

    第二章以降は昭和の高度成長期、バブル期などを経て2015年夏まで語られていきますが、全体に伏線が張り巡らされた非常に面白い犯罪小説であることは間違いありません。

  • 2015年夏、一人の女性が介護付老人ホームを終の住処と選び、そこで過去と向かい合う。彼女が向かい合う過去と現在を交錯させながら、犯してきた罪が語られていく。
    一章では、語り部を前触れなく変えてくるので、女性が誰であるのか、混乱して作者の思惑にはまる。
    貧困から逃げる為、罪を犯す。罪を隠すために嘘を重ねる。嘘を貫く為に、再び罪を犯す。彼女はただ一人の友人であるはずの女性さえ、嘘の道具としてしまった。
    1960年代の廃坑集落の社会問題を底に扱い社会派小説として、罪を重ねる犯罪小説として、ヒューマンドラマとして楽しめる作品でした。


    養子に出した、幼児期精神的ストレスから失語症となっていた少年・達也が、成長して生物研究者となり名前を変えて、女性の前に現れる。彼が、自分の犯した罪を「愚者の毒」と表現する。作者が、タイトルにもしたこの意味合いをかなり考えたのだけど、決定打を思いつかなかった。
    「愚者の毒」はヒ素の異名らしい。ヒ素を使うとすぐにバレてしまうから。達也がカラスを可愛がっていた事があるところから、トリックに使って身元をわからせる様にかなあー?単純に、少年期に蓄積された毒の放出の比喩かなー?毒の中でも筑豊の鉱山がらみで、ヒ素の表現と愚者を兼ねて?面白かったからまあいいか。

    • みんみんさん
      途中先生のセリフに賢者が…ってあったよね
      ヒ素は昔は賢者の毒って言ってたらしい_φ(・_・
      奥が深いですな〜!
      途中先生のセリフに賢者が…ってあったよね
      ヒ素は昔は賢者の毒って言ってたらしい_φ(・_・
      奥が深いですな〜!
      2023/04/18
  • っちゅうわけで、みんみん&おびーの腐女子え女子?コンビおすすめの『愚者の毒』です(また余計なこと言う)

    毎回言ってますが、相変わらず驚愕の抽斗の多さですね
    しかも開け方が的確
    今野敏さんなんかもめちゃくちゃ抽斗多いですけど「そこ開けなくていいのに」(また余計なこと言う)

    よっけいな〜ものなど〜なっいっよね〜♪
    (遂に余計こと歌い出す)

    えー、どうしよ
    方言について語るかタイトル『愚者の毒』について語るか
    うーん、ここは飛鳥に敬意を表して愚者の方で!(はい余計)

    いろんな説明すっ飛ばして先生が達也に言ったセリフね
    「『命を奪う毒と命を救う薬との違いはほんのわずかである』ってね。人が普段気にとめもしない両性類、バクテリア、昆虫、植物、爬虫類なんかが護身用に身に付けた毒素が、人間を救う夢の薬に生まれ変わるんですよ。素晴らしいでしょう?小さいから役に立たないなんて思ってはいけません。この世に存在するすべてのものは意味を持って生まれてきてるんですからね」
    「身の内に毒をお持ちなさい。中途半端な賢者にならないで。自分の考えに従って生きる愚者こそ、その毒を有用なものに転じることができるのです。まさに愚者の毒ですよ」

    で、ラストです
    達也が持っている知識や技術(毒)を、先生の言いつけを守って有用なもの(薬)に転じたわけですよね
    だから彼は最後に「愚者の毒」と言ったわけです
    誰にとって有用だったのか?もちろん薬を飲む人にとってです、普通の人にとっては毒だけどその人にとっては薬(救い)だったのではないでしようか
    そしてもっと言えばその毒は達也の手から渡されなければ薬になり得なかったのではないか
    だから最後に彼は現れたのではないか

    そして物語はこんなことを問うているんではないでしょうか
    果たして勇次と希美は中途半端な賢者だったのか、それとも身の内に毒を持った愚者だったのか
    そしてあなたは?

  • 面白かったです!
    貧しく地獄のような場所から逃げる為に父親を殺した少年と少女が過去を捨て、ひっそりと都会に紛れ
    何も望まず人生の共犯者となる。
    そんな二人がまるで過去からの亡霊が近づくかのように、じわじわと追い詰められていく。

    え?白夜行みたい?
    似てますね…途中で気づきましたd( ̄  ̄)
    白夜行はとても面白く読みましたが主人公に共感は
    できなかった。
    こちら共感しまくりで逃げのびろ!と息がキレそうでした。

    この作品は暗いし辛いしで読むのに二日かかってしまったんですが素晴らしい!

    ストーリー、構成、主人公達、関わる人々、ラストまでの展開、結末。
    全てがわたし好みの作品でした♪
    宇佐美まことさん要チェック中です\(//∇//)

    • ゆーき本さん
      宇佐美まことさんの作品
      いつか読んでみたいと思ってます*ˊᵕˋ*
      「白夜行」好きです
      三浦しをんさんの「光」を読んだときも
      「白夜行」に似て...
      宇佐美まことさんの作品
      いつか読んでみたいと思ってます*ˊᵕˋ*
      「白夜行」好きです
      三浦しをんさんの「光」を読んだときも
      「白夜行」に似てるーーーってなりました
      2023/04/07
    • みんみんさん
      宇佐美さん二作目だけどいいよ!
      骨を弔うも良かった〜
      泥臭い感じ?昭和っぽくて好き(^-^)
      宇佐美さん二作目だけどいいよ!
      骨を弔うも良かった〜
      泥臭い感じ?昭和っぽくて好き(^-^)
      2023/04/07
    • みんみんさん
      メロリン不在中に素晴らしい作品と作家掘り当てまくってますよ〜\(//∇//)\
      メロリン不在中に素晴らしい作品と作家掘り当てまくってますよ〜\(//∇//)\
      2023/04/07
  • 身勝手な妹夫婦の負債を背負わされ、孤児となった口のきけない甥の達也と二人途方に暮れていた1985年、上野の職安で出会った希美と葉子。同じ生年月日だった事が縁で友情を深めていく。
    希美の紹介で家政婦として住み込み働く葉子。
    元教師の難波先生と、息子の由起夫との穏やかな生活の中で、いつしか由起夫にひかれて行く葉子。
    美人で頭が良く都会的な希美だが、人には言えない壮絶な過去があった。
    全ての始まりは1965年筑豊の廃坑集落で仕組まれた、陰惨な殺しだった。
    余生を老人ホームで過ごす葉子。その傍らには夫の由紀夫がいた。
    難波先生の不審死をきっかけに過去の因縁が襲いかかる。
    現在と、それぞれの過去が交互に書かれており、希美の過去では苦しくて読む手を止め、でも続きが気になり読み進め、ラストに近づくにつれて伏線回収が凄すぎて、このまま読み終えるのが勿体なくなり数日空けてはチビチヒ読み進め、読み終えて一週間引きずりようやくレビューにたどり着いた。
    早く読みたいのに、読み終えなくない!!そんな一冊にまた出会ってしまった。
    途中、「百夜行」や、「Nのために」がよぎった。
    共通しているのは、逃げ場のない悪環境の中で生まれた罪。そして罪の共有。
    読み終えてから表紙のイラストを改めて見ると二人の表情や輪郭がよりはっきり見え驚いた。

  • 他の方のレビューから興味を持った作品。
    カバーイラストの不穏さがすごい!

    タイトルの「愚者の毒」は作品の中でひとりの登場人物によって語られるもので、理解するのがちょっと難しい内容だった。

    弱い立場にいるもの(愚者)であっても
    己の中に何か武器となるもの(毒)を持て、的な感じかなと理解していた。

    この人物は作中では善人として描かれていて、
    暗く悲惨な宿命をかかえる者たちの中において
    唯一の癒しとなる存在。
    にもかかわらず、
    このことがのちのち与える影響を思うと、
    励ましのつもりで言ったことも
    受け取る側の捉え方によって変わるものであり、
    なんだか皮肉だ。

    最後の伏線回収の章は
    あらかたそうだろうな、と
    わかっていたことの重複となっていて
    ドキドキ感はあまりなく、残念。

    あれこれ起こった現在の事件よりも
    過去の炭鉱爆発や、そこに関わり悲惨な日々を送った人々の描写の方により心をえぐられた。

  • 職安で案内を取り違えられた、葉子と希美。
    生年月日が同じふたりは、次第に心を通わせていく。

    第70回日本推理作家協会賞受賞作。

    おだやかな雇い主と紡がれる、日常。
    少しずつ歩み寄る、障害のある甥と、葉子。

    第一章には、困難を乗り越えてつかみ取った新たな生活に、安らぎと、救いと、明るさがある。
    特に、難波先生と達也の、言葉に限らない心の交流が、すがすがしい。
    第二章では一転、ずーんと重たい展開に。
    そして第三章で、すべてがつながっていく。

    ミステリ的には、早い段階で気づくものが。

    それでも、それぞれのかかえてきたものと、その人生の物語としての力がある。
    やるせない、切ないところもあるけれど、それを含めて読み応えのある作品。

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著者プロフィール

(うさみ・まこと)1957年、愛媛県生まれ。2007年、『るんびにの子供』でデビュー。2017年に『愚者の毒』で第70回日本推理作家協会賞〈長編及び連作短編集部門〉を受賞。2020年、『ボニン浄土』で第23回大藪春彦賞候補に、『展望塔のラプンツェル』で第33回山本周五郎賞候補に選ばれる。2021年『黒鳥の湖』がWOWOWでテレビドラマ化。著書には他に『熟れた月』『骨を弔う』『羊は安らかに草を食み』『子供は怖い夢を見る』『月の光の届く距離』『夢伝い』『ドラゴンズ・タン』などがある。

「2023年 『逆転のバラッド』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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