春雷 (祥伝社文庫)

著者 :
  • 祥伝社
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感想 : 21
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  • Amazon.co.jp ・本 (375ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784396343484

感想・レビュー・書評

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  • 前作までと違い今作の主人公は最初どのような考えを持って生きているのかよく分からなかった。
    しかし最後になぜそうなったのかが分かり、その苛烈な生き様の目的を知ることが出来る。
    悪人とは何か、善人とはどういう人物なのか。

  • 「蛍草」のようなハッピーエンドものもないではないと思うが、葉室麟の時代小説は切ない。
    羽根藩新参の多門隼人は、御勝手方総元締として苛烈な改革を行っている。農民からは鬼隼人として恐れられ嫌われ、藩の同僚、上役からも足を引っ張られても、藩財政を立て直し藩主を名君と成すために突き進んでいる。そんな中、藩として過去に失敗し断念している黒菱沼干拓の命が下る。
    隼人を助け支え、開拓に協力する人物が現れる一方、藩内では隼人追い落としのため百姓一揆まで策謀される。そして佳境へ。隼人の真の思いは、運命は、、、
    欅屋敷の謎の女性や隼人のもの周りの世話をする出入りの商人の女房おりうも隼人を案じ慕う。この二人の女性の生きざまも切ない。

  • 『潮鳴り』に続き、葉室作品三作目。羽根藩シリーズ。前作よりも主題は難しい。藩主を自分(隼人)の眼で見定める——。悪いことは悪いと謝ることが出来ないなら、まあ人間として駄目だわな…兼清さんよw どんなに短い一生でも何かしら意味があったと思いたい——不器用な生き方しか出来なかった"鬼隼人"に黙祷を…。星四つ。

  • 面白かった!
    羽根藩シリーズ第3弾!
    帯にある通り、「鬼」の生きざまを通して「正義」を問う物語。
    羽根藩って藩主に恵まれないのね。それが共通点な気がしてきました(笑)

    ストーリとしては、
    豊後羽根藩の多門隼人は「覚悟」を秘し、藩主を名君となすため、「鬼」となって、苛烈な改革を断行しています。ついたあだ名は鬼隼人。鬼隼人に対する怨嗟渦巻く中、さらに厳しい黒菱沼干拓の命をうけることに。ひと癖もふた癖もある大庄屋の「人食い」七右衛門と学者の「大蛇」臥雲を召集し、その難工事に着手します。一方で、城中では、反隼人派のさまざまな謀略が..
    そうした中、使命を果たすための隼人の行動には心打たれます。
    本当の「悪人」とは何か?
    そして「正義」とは何か?
    鬼隼人の生き様だけでなく、七右衛門、臥雲の生き様を通して我々読者に問いてきます。

    さらに隼人をそこまで突き動かす「モノ」とは..
    秘めた思いとは..
    そして覚悟..

    とってもお勧め!

  • 単行本で読了。
    羽根藩シリーズ第三作。
    二作目の潮鳴りを読まずになんとなく題名で手に取った作品だったが問題なく読めました。

    鬼隼人と呼ばれた男の生き様。
    序盤は謎めいた感じの主人公の事が少しずつ少しずつ理解出来ていく感じ、そして筋の通った武士の本懐と生き様を他人の目から通して見るような構図。
    葉室麟さんらしさが感じられる1冊。
    途中からは仲間(?)の様な友人の様な千々岩臥雲と七右衛門が登場してからはなにやら楽しそうな描写が増えてきて読み手も楽しくなってくる。

    葉室麟さんらしさ(個人的感想だが)を感じたければ失敗しない1冊。
    いい言葉にも出会えます。

    2021/6

  • 筋を通すとか、矜持とか、読み終わるときにスッキリ胃の腑に落ちる感が凄い。

  • 自分の仕えるお上の正邪を見極めるため、
    あえて鬼となる選択をとった、侍の半生。

    善人と悪人、そして「真の悪人」の定義や
    「政は善人面では出来ない」という多門隼人の思いが
    心に刺さる一冊。

  •  羽根藩もの3作目。前作の「潮鳴り」はちょっと通俗っぽくて意外だったが、これはまずまずこの著者らしさが出ている。鬼とよばれる多聞隼人が、周囲の怨嗟の声をよそに一癖も二癖もある嫌われ者のチームで新田開拓にあたる。その裏には秘められた悲しい過去と大願があったのだが、それが暗愚な主君には聞き届けられないまま無念の最期を遂げる。封建君主制のもとでは平民の子供など虫けらのようなものなのだろうが、もとより人の命の重みに貴賤があるはずがない。人間として正直に生きるだけのことが、鬼と疎まれ乱心と嘲られる不条理。鬼隼人は死すともその遺志は人の心を知る者のもとで脈々と受け継がれてゆく結末の明るさが救いだ。

  • 羽根藩シリーズ第2弾。
    続編ともいうべき『秋霜』を先に読んでしまった。
    そのため、鬼隼人とも称される主人公の最期がわかったまま読み進めることになった。
    それでも、主人公の覚悟を秘した行動に最後まで引き付けられた。
    「世のためひとのために尽くした者は、それだけで満足するしかない。この世で、ひとに褒められ栄耀栄華を誇るのは、さようなものを欲してあがいた者だけだ。ひとに褒められるよりも尽くすことを選んだ者には、何も回ってこない・・・」
    そんな思いと覚悟を持った者は、現代に果たしているだろうか。違和感なく描けるのが時代小説であり、だからこそ我々は時代小説に惹かれるのだろう。

  • 豊後の羽根藩では、財政窮乏、藩の借銀が膨大な額となり返済に苦しんでいた。名君との聞こえもある藩主兼清のもとに、備後浪人の多聞隼人が召し抱えられ、鬼隼人と称されて、苛烈な改革を断行していった。
    悪とは何か。正義とは。
    おのれの正しさを言い立て、他人を謗り、正すのが正義なのか。それは何も作ろうとはしない。何かをなそうとする者の足を引っ張って快とするものだ。この世に何も作りだそうとはしない。
    今の政治家に聞かせてあげたい。

  • シンプルな生活、シンプルな思考。今の時代に必要なこと。潔い。

  • 羽根藩シリーズの第3弾。
    シリーズといっても舞台になる藩が同じなだけで、それぞれの巻に話の繋がりは(たぶん)全くなく、時系列的な関係も分からない。シリーズとして唯一の共通点は主人公が気高いこと。気高さの表し方はそれぞれ異なるものの、根底にある印象が同じだという他に類を見ない構成です。今回は真の目的を果たすためには憎まれ役も厭わない男たちの話でした。
    真似はできないけど格好いい。

  • 葉室麟さんの著作を読むたびに背筋が伸びる気がします。
    羽根藩シリーズ三作目、主人公は亡くなってしまうけれど、生きた軌跡はずっと引き継がれる。

  • 3.5ぐらいの感じ。羽根藩シリーズの中では少し毛色が違う。いつもは理不尽さの中で個人が葛藤したり、がんばったりという話だが、その理不尽さが後にならないと分からない構成になっているので、何となく1人の武士の活躍の話なのかなと思えた。もちろん葉室麟の書く話なので、とても面白いし、全体としてのテーストも変わらないので面白かった。特に主人公に協力する個性的な面々は面白い。水滸伝的な雰囲気があって、個人的には楽しめた。

  • 鬼隼人こと御勝手方総元締の多聞隼人は、苛斂誅求な差配で民百姓から恨まれる存在だが、密かな志と鉄の意志を持っていた。

    自らの働きを一切アピールせず、評判を気にせず誤解され恨まれつつ淡々となすべき事をなす、隼人の強い生き方、カッコいい。

    隼人の「名君の名などいらざるものだ。大切なのは、日々を生きる人々の命だ。そのことを証すことが、ふたりの子供の供養だとわしは思った」という言葉が本作の肝だが、むしろ臥雲の「たとえおのれが苦しくとも、子や孫を楽にするために生きようと、なぜ思わぬ」、「ひとは目の前の苦しさから逃れることはできぬ生き物ということか」という言葉が、領民(=大衆)の性癖を端的に描いていて印象に残った。

  • 2022.4.17 読了
     新しい藩主のお国入りで馬捌きの不味さから娘を殺され、妻も流産するという酷い仕打ちを呑み込んだ交換条件として仕官し、15年後に恨みを晴らす展開。豊後羽根藩シリーズは長年の隠忍自重の後に・・・というストーリーが多い。
     今回は上意討ちで華々しく散ることと引き換えに藩主を隠居に追い込む。

  • 内容(「BOOK」データベースより)

    “鬼隼人”許すまじ―怨嗟渦巻く豊後・羽根藩。新参の多聞隼人が“覚悟”を秘し、藩主・三浦兼清を名君と成すため、苛烈な改革を断行していた。そんな中、一揆を招きかねない黒菱沼干拓の命を、家老就任を条件に隼人は受諾。大庄屋の“人食い”七右衛門、学者の“大蛇”臥雲を招集、難工事に着手する。だが城中では、反隼人派の策謀が…。著者畢生の羽根藩シリーズ第三弾!

    平成29年12月1日~6日

  • 不可思議な大願

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著者プロフィール

1951年、北九州市小倉生まれ。西南学院大学卒業後、地方紙記者などを経て、2005年、「乾山晩愁」で歴史文学賞を受賞しデビュー。07年『銀漢の賦』で松本清張賞を受賞し絶賛を浴びる。09年『いのちなりけり』と『秋月記』で、10年『花や散るらん』で、11年『恋しぐれ』で、それぞれ直木賞候補となり、12年『蜩ノ記』で直木賞を受賞。著書は他に『実朝の首』『橘花抄』『川あかり』『散り椿』『さわらびの譜』『風花帖』『峠しぐれ』『春雷』『蒼天見ゆ』『天翔ける』『青嵐の坂』など。2017年12月、惜しまれつつ逝去。

「2023年 『神剣 人斬り彦斎』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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