古事記と日本人: 神話から読みとく日本人のメンタリティ (NON SELECT)

著者 :
  • 祥伝社
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感想 : 4
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  • Amazon.co.jp ・本 (283ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784396500832

感想・レビュー・書評

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  • 以前、日本人論に関する書籍をいろいろと読み漁っていた際に本書を購入したのだが、新型コロナ禍で外出自粛となった時期に、竹田恒泰氏の著書である『現代語古事記』をDVDとともに読み、日本の神話を学びなおしたうえで、今一度本書を再読してみた。
    一連のコロナ騒動がきっかけで、日本においても働き方だけでなく、学び方や生き方までもが再考されるようになった今、これをきっかけに日本人の特性や"日本人らしさ"というものを見つめ直したかったのかもしれない。

    本書は、著者である故渡部昇一氏が昭和51(1976)年に『神話からの贈物』という題で刊行したものを改題・編集し、四半世紀以上経った平成16(2004)年に新装版として刊行されたものである。
    改題後は『古事記と日本人 -神話からよみとく日本人のメンタリティ-』とされ、「古事記」という言葉を前面に出したものとなっており、かつ副題付きのためどのようなテーマの本なのかが直感的に分かりやすい。

    内容は、タイトルや目次にあるように、古事記でよく知られている神話を基に日本人論を展開していく構成となっている。
    いわゆる高度経済成長期に著されているが、この時代においても日本神話を題材とした書籍はタブー視されていたというのであるから、敗戦という経験が日本の成り立ちや建国について考えることに蓋をしたということが改めてわかる。

    また、本書を書くうえでの原動力となったもののひとつに、欧米からの流れで1970年代に日本でも生じた「ウーマンリブ(女性解放)運動」があったであろうということも、本書が単なる"欧米との比較文化論的日本人論"に終始しない特徴であるといえる。
    というのも、副題に"日本人のメンタリティ"という表現が使われているため、本書の大部分が日本人特有の精神性やエートスについて考察されているかと思いきや、古事記で描かれている男神と女神のトラブルや女神が活躍するエピソードを題材とした、"日本社会における性役割"についての論考にも多くの紙面が割かれているからである。

    以上のことから本書は、日本人や日本社会における「神話の理解や建国の精神の希薄化」および「女性の役割(Gender Role)の変化とウーマンリブ運動がもたらす社会的リスク」という2つの問題点について、古事記という我が国最古の国史を通して警鐘を鳴らし、読者にこれらの問題に関して再考を促しているのだといえるのではないだろうか。

    原著が書かれたのが日本社会に(良きにせよ悪しきにせよ)勢いがある時代であり、かつ著者が働き盛りの40代半ば過ぎであることからか、日本神話に理解のない著名な歴史学者を容赦なく批判しているが、2020年になった現時点においても著者が提示した問題点は色褪せることなく、そして解決されることもなく生き続けている。殊に結婚に関しては、新型コロナ禍によって、晩婚化や少子化問題に加えて「夫婦生活における在宅勤務のあり方」といった新たな課題を生み出している。

    保守派の著者は古事記の神話を基に、ウーマンリブ運動の発信地となった当時の欧米先進国の状況と比較しながら、日本の家庭における女性(=母親)の地位の高さと「男は(外で)仕事、女は家庭(を守り盛り上げる)」という日本の家庭観の合理性を支持している。
    しかしながら著者の想いとは裏腹に、昭和の後半から平成にかけては女性の社会進出と活躍が目覚ましい時代であった。時は平成を越えて令和となった現在、40年以上前に述べられた主張など時代錯誤だと感じる読者は少なくないであろう。ただその一方で、そのように感じるのは、たかだかここ数十年の間に形成された常識や価値観に依るものなのかもしれないとも思えてくる。

    新型コロナ禍によりNew Normal(新しい日常)が謳われ始めた今だからこそ、編纂から1300年余りの時を経た古事記に記された「日本人の思考・行動様式」や「日本神話の真価」を再考し後の世代に伝えていかねばならないと、本書を再読して改めて感じた次第である。

  • 民族の継承者は神話の時代から女だということ。「仏法を信じて神道を尊ぶ」は昔からだということはわかった。祖先たちが伝えたいことが今残っている「古事記」「日本書紀」なのだから、一度きちんと読んでみたいと思うのだが。。

  • 初版昭和51年発行 剣によって立つ者は剣によって滅ぶ われわれが今、何よりも必要とするのは「喜びの原理」の復権である。つまり、主婦の仕事を家事労働としか見れない心の貧しさからの開放である まことに日本は「言霊のさきはふ国」である 

  • 古事記はまぐわいから始まるおおらかすぎる神話だ(まあだいたい神話っておおらかだけど)と思っていたが、そこから日本人の男女のあり方と、ユダヤ・キリスト教徒との違いや類似などが読み取れるのが面白い。男女の身体の違いや精神性を理解した上での男女同権まで読み取れる。男女の身体の違いを踏まえているから、へたなフェミニズムよりも進んでいる。

    国産みの、男性が先にやらないとダメというのも、男性の微妙な性心理の為というのが、なるほど!な話で、日本女性の上手く男性を立てる関係性の基本はここから暗示というか教示されているという。

    まだ読み始めだが、続きが楽しみである。

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著者プロフィール

上智大学名誉教授。英語学、言語学専攻。1930年、山形県鶴岡市生まれ。1955年、上智大学大学院修士課程修了後、ドイツ・ミュンスター大学、イギリス・オックスフォード大学へ留学。ミュンスター大学における学位論文「英文法史」で発生期の英文法に関する研究を発表。ミュンスター大学より、1958年に哲学博士号(Dr.Phil.)、1994年に名誉哲学博士号(Dr.Phil.h.c.)を授与される。文明、歴史批評の分野でも幅広い活動を行ない、ベストセラーとなった『知的生活の技術』をはじめ、『日本そして日本人』『日本史から見た日本人』『アメリカ史の真実(監修)』など多数の著作、監修がある。2017年4月、逝去。

「2022年 『60歳からの人生を楽しむ技術〈新装版〉』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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