- Amazon.co.jp ・本 (248ページ)
- / ISBN・EAN: 9784396615659
感想・レビュー・書評
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田中角栄の時代
著:山本 七平
今太閤と呼ばれた、田中角栄、晩節を汚し、いろいろあったが、一時代を席巻した彼は嫌いではない
人間らしい宰相といえば、まず、田中角栄が頭に浮かぶのは何故であろう
・現実に生活している人は、「夢を食って」生きているのではない
・だがそれをもはや社会党に期待できない。というのは、この雪国には、農地は解放されても「今日食う飯」の問題が山積している。
その問題の解決はもう彼らが語る「未来の夢」の中にはない。
・理屈をこねるより、きょう食う飯が先決だ
・出稼ぎは単に、家族と別れて働くことの悲しみがあるだけではない。最大の働き手のいない留守宅に襲いかかる雪崩が留守を守る妻と子を全滅させることもありえる。
またたとえそういう悲劇がなくても、放置しておけば、家を押しつぶす屋根の雪下ろしは、留守の妻子の重労働として残される
・角栄が出現するまでは、自分たちの苦しみを打開すべくどれだけ運動しようと、陳情しようと、代議士を後援しようとすべて無駄であり、いわば地力に青の洞門を掘り抜く以外に生きるすべはない。
ここにあるとき、一人の男があらわれ、「よっしゃ」の一言で、あっという間にトンネルを掘り抜いたらどうであろうか。
その男が代議士であったら、全村こぞって投票するであろう。
もし彼が汚職でマスコミに徹底的に叩かれても、そんなことは無関係であろう。
そしてそのことは、その男の名が田中角栄であろうとあるまいと無関係である。
・新潟三区の人間は政治意識が低いから、ロッキード事件の刑事被告人を22万票の最高点で当選させたのだという言葉がある。
ただ、令和の時代になって、田中角栄がどんな政治家で、何をやった人であるのかは、もう、ただ忘れ去られていくだけなのだ。
気になったのは以下です。
・選挙民の望むことを成就してしまえば、その者は不用になって捨てられる。
「午後三時の太陽」それは実は、田中角栄が自らを評した言葉である。
・そして、またこういう陳情にくる町村長へ気くばりも忘れなかった
田中は町村長が運動費をもってくるとその場で封を切った。
確かに全額受け取った。でもアンタも足代や宿賃がかかるだろう。と言って一割返すんだよ。これで町村長は参ってしまう。
・田中なら何とかしてくれる という期待のもとにカネを集めてもって来たことは明らかである
・彼には、「自分こそ法律を知っている」という自信があるが、これは村の倫理のため、いかに法網をすり抜けるかを探究した結果であろう。
彼はこのようにして「地盤」をつくっていった。
・田中は決してだれかの「地盤」を譲ってもらったのではない。彼は「時世の変化」によって生じた政治的空白に食い込んでいった。
・何度も記したように、田中角栄は「発想の人」ではない。
松岡・岡田の系列にある発想を非常に単純に図式化して「決断と実行」に移したにすぎない
・陳情は普通それが通れば万々歳、握りつぶされるか、削られるかが普通である。ところが彼はこの方が合理的と思えば、陳情以上のことを逆提案する。
相手はそれに驚き、それに吞み込まれ、心服してしまう
・「権力とは何か」、権力はその発動を要請する者がおり、その要請に応じ、それを実行しうる者に集中していく。
この原則はヒットラーであろうと、ルーズベルトであろうと、田中角栄であろうと変わりはしない。
・悪評紛々たる、日本列島改造論だが、これが政権をとるまでの田中のイメージを大きく盛り上げたことは否定できな。
選挙に強く、子分をある程度持ち、政府・与党を動かす力をもっていても、首相にしたいとは考えない。
指導者は、それにふさわしい理念と哲学をもつべきだと直感的に考えている
この国民の直観はごく健全な常識で、総理は、政治家(ステイツマン)であっても、政略家(ポリティシャン)では困るということであろう
・純然たる政策家はプラン・メーカー、もしくは、ブレーンにしかなり得ないから問題はないが、純然たる政略家は、政治家としてその位置を保持できるから問題を生じる
いわば政策はゼロでも、統治システムにおける最高の地位に達する必要な能力を持ち、
それを維持する仕方を心得ている人物はすくなくとも、政界という業界の中で、一定の勢力を保持し、
それによって有形・無形の各種の地位(ステイタス)を獲得して影響力を行使しうるからである
・首相であり、与党の総裁である者の心構え一つによって、政治の方向は非常に違ってくる
たとえば、いまもっとも重要な当面の課題となっている議会政治の立て直しについても、池田氏がどういう態度をとるかが、大きな影響力を持つだろう
・もし田中角栄が真の政治家なら、「その知識の広さと洞察力の深さによって、自分が生きている社会の要求をはっきり正確に感じ取った」はずである
確かに彼は何かを感じとったが、その対策は政策的というより、政略的であった。
これが一郷里の尺度を当てはめ直した上で、それを全国規模で考え直すという二段構えの発想というわけであろう
田中角栄が自らの選挙区にどれだけつぎ込もうとも、無雪道路をつくろうと、新幹線をひいてこようと、日本国の予算の総額から見れば、他の犠牲で吸収しうる額であろう
しかし、それを全国に拡大するとなれば、問題は別である。いわば、自己の選挙区への政略的な対策をそのまま「二段構えの思考法」とやらで日本国全体の政策として拡大されたら、それこそインフラ必至であろう。
目次
初版時の著者まえがき
Ⅰ 角栄の御時世
第1章 午後三時の太陽
第2章 角栄が「家康」に見えた日
第3章 「暖国政治」への挑戦者
第4章 「角栄」を育てた雪国の黒衣たち
第5章 ナショナル・リーダーの落第生
Ⅱ 早すぎた新聞の弔辞
今後に残された問題―あとがきに代えて
ISBN:9784396615659
出版社:祥伝社
判型:4-6
ページ数:248ページ
定価:1250円(本体)
発売日:2016年07月10日初版第1刷詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
p62 村上 内藤藩 三面川の鮭漁を藩営とし、その収益を武士の師弟の教育費とした 鮭の子
終戦まで士族の子孫は鮭漁の収益で学費免除となったが、農工商はその特権がなかった
p124 大竹貫一、岡村貢 郷土のために尽くして井戸塀になった
角栄の風土、大いなる影法師 -
とても一つの策しか考えている人には見えません。