蜩ノ記

著者 : 葉室麟
  • 祥伝社 (2011年10月26日発売)
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  • Amazon.co.jp ・本 (327ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784396633738

作品紹介

豊後・羽根藩の奥祐筆・檀野庄三郎は、城内で刃傷沙汰に及んだ末、からくも切腹を免れ、家老により向山村に幽閉中の元郡奉行・戸田秋谷の元へ遣わされる。秋谷は七年前、前藩主の側室と不義密通を犯した廉で、家譜編纂と十年後の切腹を命じられていた。庄三郎には編纂補助と監視、七年前の事件の真相探求の命が課される。だが、向山村に入った庄三郎は秋谷の清廉さに触れ、その無実を信じるようになり…。命を区切られた男の気高く凄絶な覚悟を穏やかな山間の風景の中に謳い上げる、感涙の時代小説。

蜩ノ記の感想・レビュー・書評

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  • 豊後・羽根藩の祐筆であった檀野庄三郎は、些細なことで同輩の水上信吾と城内で刃傷沙汰に及び、かろうじて切腹は免れるも、その処分として、向山村に遣わされることになる。
    その際、庄三郎は、家老の中根兵右衛門から、向山村に幽閉中の元郡奉行・戸田秋谷の元で、秋谷の編纂している家譜の清書をすること、および秋谷の行動を見張ることを命じられる。
    秋谷は7年前、前藩主の側室と不義密通を犯したとして、家譜編纂と10年後の切腹をすることが課せられていた。
    しかし、向山村で秋谷と共に生活するようになった庄三郎は、秋谷の清廉さに触れ、7年前の事件の真相に迫ることになる。

    直木賞を受賞されたころから、虫と魚を間違って、ずっと「タイ(鯛)ノ記」と思ってました。
    さて読もうと表紙をよくみてびっくり、ヒグラシ(蜩)じゃないのー。
    図書館の返却棚の前で、あ、タイノキ読みたかったやつだー!と喜んだ私に、優しく微笑んでくれた司書さんは、何を思っていたのでしょうか。。ぎゃー恥ずかしい。
    「蜩ノ記」は、作中で、3年後に切腹をすることが決まっている秋谷が、毎日のことを書きつづった日記。
    「蜩とは?」と由来を聞かれ、秋谷はこのように答える。

    “「夏がくるとこのあたりはよく蜩が鳴きます。とくに秋の気配が近づくと、夏が終わるのを哀しむかのような鳴き声に聞こえます。それがしも、来る日一日を懸命に生きる身の上でござれば、日暮らしの意味合いを籠めて名付けました。」”

    そんな気持ちの籠った名前だったとは。もういっか、タイノキで、なんて思ってしまって、秋谷さまごめんなさい。。

    さて、そんなヒグラシノキ、硬派なものが多い時代物の中でも、もう硬派すぎて、真の武士ってかっこいい…とふるふるしてしまう。
    不忠など何もなく、命を狙われた側室のお由の方を助けただけ。でも秋谷は前藩主に対して言い訳をしないどころか、汚名を晴らすために真実を明かすこともしないのだ。

    “「疑いは、疑う心があって生じるものだ。弁明しても心を変えることはできぬ。心を変えることができるのは、心をもってだけだ。」”

    秋谷は、無実の罪に陥れた相手を恨むでも自らの運命や境遇を嘆くでもなく、ただ粛々と家譜編纂を進め、家族と穏やかに切腹までの日々を生きていく。
    死を前にして静謐な秋谷の心。何とか秋谷を救いたいと思う庄三郎だけれど、志を果たすことができれば死ぬのは恐ろしくない、という秋谷の確固たる意志の前にはなす術もなく。
    秋谷の愚直なまでに芯の通った生き方たるや。。あまりに清廉すぎて、うまく言い表す言葉が思い浮かばない。

    彼の生きた証は、編纂した御家の家譜に。そして、息子・郁太郎へと引き継がれていく…。

  • 些細なきっかけから城内で刃傷沙汰を引き起こしてしまった庄三郎。命を救ってやる代わりに、と命じられたのは三年後に切腹が迫っている戸田秋谷の見張りだった…

    村人から厚い信頼を寄せられる郡奉行であり、また妻子に恵まれながら、女のために事を起こし、限られた命を生きる戸田。彼の人柄に触れるうち庄三郎はかの事件に疑問を抱き…藩主の家譜編纂という戸田の仕事を手伝いながらその真相に近づいていく…

    武士としての戸田の生き方も潔いが、その子の郁太郎、またその友 源吉の人格が素晴らしい。

    源吉のエピソードはきっと「ベロ出しチョンマ」から来てますね。10歳の子供とは思えない立派さ。斎藤隆介さんの絵本でも悲しかったけど…

    マリモさんが書かれていたように、私も「鯛ノ記」と覚えていました…(笑)蜩と付けた意味が分かれば、これほどぴたりと合うタイトルはないです。

    来年公開の映画も楽しみです。

  • 泣いた泣いた・・・「志」とか「心根の美しさ」とか、「人の正しい振る舞い」とか、そういう清浄なものの大切さがストレートに伝わってきて心が洗われたような読後感を持ちました。

  • 直木賞受賞作。
    十年後に切腹という沙汰を受けた武士のもとへ送られた青年は…

    豊後・羽根藩。
    奥祐筆を勤める青年・壇野庄三郎は、思わぬ事で同僚と諍いになり、相手に怪我をさせてしまう。
    城中での刃傷では切腹になりかねないところ、家老の計らいで向山村に遣わされる。
    幽閉中の元・郡奉行、戸田秋谷の仕事の手伝いをし、実は見張る役目だった。
    秋谷は七年前、前藩主の側室と不義密通を犯し、小姓を切り捨てたという。
    家譜編纂が途中だったのを惜しまれ、それが終わるまでと十年後の切腹を命じられていた。

    秋谷はそんなことをするように見えず、どんな事情があったのか、庄三郎は調べ始める。
    十年後の切腹という不可解な裁断の意味も…
    あるいは、前藩主が生きていれば許す予定であったのか?

    友を傷つけたことを悔いている庄三郎。
    淡々と暮らしている秋谷、覚悟を決めているらしい妻、悲しみをこらえている娘、事情を知り始めた幼い息子。
    こういう事情では家族は別に暮らす方が普通だが、妻は一緒に暮らすことを選んでいた。

    年貢に喘ぐ農民たちの間には一揆の動きもあり、殺人まで起こります。
    かって郡奉行だった秋谷は、村人に信頼されていました。
    今は立場上、表だっては動けないが、一揆を起こせば農民は必ず罪に問われて命がないのを案じて、止めに入るのです。

    秋谷の言動に感銘を受ける庄三郎。
    家譜編纂を手伝ううちに、何かが隠されていることを突き止められるのでは思い始めます。
    そこには、お家相続に絡む秘密が…?

    落ちついた筆致で、登場人物も、出来事も、バランスよく描かれています。
    色々な事情を腹に飲み込んで死に赴く秋谷。
    本当にどうしても避けられないことだったのかと現代の感覚では思いますが。
    家老とも一度は対決し、後のことも道筋を付けて、それなりに納得していたのだろうとは思えます。
    静謐な印象が残り、救いもある後味で、お見事でした。

  • きのう直木賞が発表されましたが(朝井リョウくんすごいなー)、ちょうど1年前の受賞作です。

    家譜編纂をして切腹までの余命を過ごす秋谷と、彼を見張り死を見届けるよう命じられた庄三郎の交流を軸に、村の人たち、藩のお役人たちをめぐるミステリー要素もあって、淡々と赴きある文章ながら飽きずにおもしろく読めました。
    そういう時代だったといえばそれまでなのかもしれないけど、家族それぞれの生き方が潔くかっこいい。

    松吟尼や織江のラストのとこ切ない。
    武士の生き様やら男意気を描いていても、も少し女性の思いも書いて欲しかったな。

  • 諄く感想を述べる必要がない本。

    気丈に生き、人のために生きる姿。武士としてだけではなく人間として素晴らしい生き方だと思う。

    とある禅師が修行はどこででも出来ると説いたという。なにも厳しい修行をつまなくても人は悟りを開くことができると…

    悟りをひらくことで見えてくることが沢山ある。それは人のために命を惜しむことなく差し出せるくらいのところまで達することが出来るのかも知れない。

    背景描写、心情がとにかく綺麗に描かれている。読み終わり本を閉じたときに妙に清々しい気持ちになるのはなぜだろう。

  • 自分の立場を恨んだり甘んじることなく、世のため人のために懸命に生きていた人々の生き様が心に染みた。志とは生き方そのものなのだと思う。

  • 上質な時代小説。少し説明が入り組んでいるような気もした。

  • 直木賞受賞作ということで手にしました。
    主人公の戸田秋谷は10年後の切腹を命じられる。
    最期の時を決められた人はどのような心持でその時を迎えるのか・・・
    自分の信ずるもの、大切なもの、守らねばならないもの。
    生き方、生き様、死への覚悟、そして最期の時。
    秋谷という人の思いの深さ、潔さが心に響く。

  • よい。
    藤沢周平ぽい。

    これほど清廉な死を描いた小説もめずらしい。
    「生きることは死ぬことと見つけたり」でなく、「死ぬこととは生きることと見つけたり」という感じ。

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