潮鳴り

著者 :
  • 祥伝社
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本棚登録 : 368
感想 : 45
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  • Amazon.co.jp ・本 (323ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784396634223

感想・レビュー・書評

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  • 『蜩の記』ですっかり有名になった葉室さんです。
    歴史が好きで時代物を広く読んでいる青年や、コンピュータに詳しい同僚から「『蜩の記』、まだ読んでいないんですよ~。そろそろ読もうとは思っているんですけどね・・・。」と話題に上ること度々。「それを読んだら、『柚子の花咲く』も是非!」とおすすめしているけれど、今一つ話題に上って来ないのが、少々不満の私。
    自分を律し、質素で清冽であるをよしとする厳しい武士の生き様もよいけれど、市井の人との関わりの中で自分の弱さを認め、人の情けにそっと頭を垂れる、その上で立ち向かわねばならないものに背を向けない姿を描く葉室さんの小説の後味は、すがすがしさでいっぱいになる。

    かつては藩校で俊英と謳われ、周りからも一目置かれる存在であった伊吹櫂蔵は、融通の利かなさから商人との酒の席でしくじり、今はお役御免の身となった。朝から酒に溺れ、誰からも顧みられず、襤褸蔵とまで言われる始末。
    ところが、家督を譲った弟が切腹し、残された遺書から藩の不正を知って、再び弟と同じ役に就き、仕事に励む一方、隠された事実を探っていく。

    同期の中で先頭を走り、自負もあった櫂蔵が一つの失敗から、あっという間に転落し、底辺を這いずるように生きている。また、大店で大番頭を務めた男や、身を売り周りから蔑まれながらも生きる女。
    みな、信じるものや大切なものを失い、暮らしも荒んだ中から、新たに信じ守るものを見つけて再生への一歩を踏み出そうとする。
    落ちた花は二度と咲かぬ、という苦い思いを抱きながら、それでも、咲かせる道を探してもがき続ける。

    「落ちた花」になるほど、大きく重要な仕事を与えられてしくじるような経験は今後も私には起こりそうにないけど、小さな失敗をあれこれ重ね、時にはふっと、この先何年仕事やらなきゃならないんだろと溜息混じりに吐き出したり、逃げ出したくなったり、それなりにツライことはある。
    時代小説のような過酷な状況と比較するのも申し訳ないが、苦しい日々を送るときは、精一杯目の前のことをするしかないと、お屋敷で女中として働きながら武家のあれこれを身につける努力をするお芳さんを見ていて思う。

    派手に大輪の華を咲かせることに目は奪われがちだけれど、誠実な働きぶりや思いやりがどこかの誰かに少々役立つような、見過ごしてしまいそうな小さな花をそっと咲かせる。そういうのに、最近とみに弱いなあ。
    絵本の『花咲き山』に抱いた思いが子どもの頃とはずいぶん違ったものになっているように、小さく儚いものに対する思いが、以前よりも増しているように思う。
    まあ、年を取ったということなんでしょうね・・・。

  • 途中まではすごく面白かったけど、後半の五千両の件がいまいち理解できず…。櫂蔵さんやお芳さん、一度落ちぶれた人が再び花を咲かせようと懸命に生きる姿がよかった。

  • 時代小説だからこそ
    伝わりやすい
    感情がある

    時代小説だからこそ
    伝えやすい
    人が人として
    あるべき姿がある

    時代小説だからこそ
    伝えたい
    この世のあるべき姿
    がある

    葉室麟さん
    やはり いいなぁ

  • 最近の中では結構面白かった。お芳は気の毒だった。

  • 沁みたぁ。
    久しぶりに、サクっと読み進められて。
    号泣して。スカっといたしましてぇ、大満足‼︎

    生き抜くことへの覚悟。
    〜死んだらそんな許せない自分を一番簡単に許すことになってしまいます。そう、思うと生きるしかない。〜
    心を互いに通わせる。
    〜女子は昔など脱ぎ捨てて生きるのです。それは武門の覚悟も同じなのですよ。〜

    〜落ちた花がもう一度咲くところ〜

    〜昔のことを忘れられずに、ずっと引きずって生きていくことだと思います。〜

    お芳…咲庵…梟…新五郎…さと…襤褸、櫂蔵!

    潮鳴りを聞き続ける…

  • 「落ちた花は二度と咲かぬ」と言われる中で、落ちた花を咲かせる。想いを寄せる人の中、同じ苦悶を持つ人の中など、色々なところで花を咲かせる。伊吹櫂蔵とお芳とが最後に添い遂げることができなかったことが残念。

  • 落ちた花はもう一度咲くのか?落ちた花だからこそ、次に咲く時には精一杯咲くのであろう。心の花瓶に花一輪。

  • 落ちた花は朽ちるのを待つだけか、再び咲くことは叶わないのか。

    接待をしくじりお役御免とされ、無頼に落ちた男が、藩の為犠牲となった弟の無念を晴らす為、汚辱を背負いながら生き抜く決意を胸に、藩の陰謀に立ち向かっていく!

    落ちた花は、花を愛しく想うものの胸の中にこそ咲くのだ。というくだりに胸が熱くなりました。
    ブラックフィクサー播磨屋がまたもや悪巧み。
    蜩の記ではギャフンと言わせられなかったけど潮鳴りではギャフンギャフン言わせてます!爽快!

    蔑まれようと疎まれようと恥辱にまみれても生きる。生き抜く。蜩とアプローチが真逆ですが、信念を通した人間の生き様が胸熱。

  • 葉室麟さんは、『蜩の記』という作品で直木賞を受賞されています。
    何か惹かれるものがあり、『蜩の記』に続いて読むことになりました。所謂、時代小説なのですが、とっても読みやすく昨夜から読み始め読了したのです。
    心にキラリと輝く宝石のようなものが、この作品から受け取られるのは生きる意味について語られるからでしょうね。
     感動作だと思います。滅多に泣かないおじさんが泣きましたから・・・。
    お薦めです!

  • 2021.03.29

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著者プロフィール

1951年、北九州市小倉生まれ。西南学院大学卒業後、地方紙記者などを経て、2005年、「乾山晩愁」で歴史文学賞を受賞しデビュー。07年『銀漢の賦』で松本清張賞を受賞し絶賛を浴びる。09年『いのちなりけり』と『秋月記』で、10年『花や散るらん』で、11年『恋しぐれ』で、それぞれ直木賞候補となり、12年『蜩ノ記』で直木賞を受賞。著書は他に『実朝の首』『橘花抄』『川あかり』『散り椿』『さわらびの譜』『風花帖』『峠しぐれ』『春雷』『蒼天見ゆ』『天翔ける』『青嵐の坂』など。2017年12月、惜しまれつつ逝去。

「2023年 『神剣 人斬り彦斎』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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